人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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これからも精進していきたいと思いますので温かい目で見据えてください。


中隊

たった一本だけの矢に新たな矢が追加された。バルクホルン、ハルトマン、ミーナである。この三人は一見するとただの町娘を彷彿とさせる姿ではあるが第52戦闘航空部隊、簡単に言ってしまえば精鋭部たちに所属していたエースたちである。

並外れた空戦技術は人狼を軽く凌駕する実力の持ち主で幾多のネウロイたちを身体には不釣りあいの機関銃で撃ち破ってきた。

 

「……」

「ねーハインツ中尉、今まで何処で何をしてたのさ?」

「……」

「教えてくれてもいいじゃん、同郷のよしみでさ」

「こらハルトマン! ハインツを困らせるようなことをするな!」

「えー、だって謎が多いんだもん。戦歴なんてヒスパニア戦役を除けばほぼすべてに従軍しているんだよ。不思議がらない理由がないよ」

「だとしてもだ。すまないなハインツ」

「……」

 

しかしエースという風格にも似合わない彼女、特にエーリカ・ハルトマンは妹のウルスラとは違い、おとなしくしようとすることを一切しようとする素振りを見せない。おとなしめなウルスラとは違い口が常に開いている。

人狼は相変わらずの無口を発揮しながら右手に持っていた機関砲を左脇に挟み、懐から一本の煙草とオイルライターを取り出した。口に咥えオイルライターで着火、最近は片手で扱えるオイルライターを使用している。暗雲立ち込める空に一筋の紫煙が伸びる。

 

「にしてもトゥルーデの逢いたかったエースさんは緊張の色を見せていない立派な勇者様ね、如何せん貴方はお姫様といった部類かしら」

「な、何を言うんだミーナ! 私は姫だという高位に合うような人物じゃないぞ!」

「あら、ハインツ中尉のことは指摘しないのね」

「それも違うんだ!」

 

バルクホルンは顔を赤らめながら異を唱える。戦いの中に余裕があるのもエース特有のものだろう。ミーナのからかいにハルトマンも参戦して煽りだした。

 

「へぇー、部隊の中で一番の堅物のトゥルーデが。へぇー」

「なんだハルトマン、はっきり言わんか!」

「似た者同士ということだよー」

「そこまで私とハインツは似ていない! 喋るし!」

「そこを比べるの?」

 

慌てふためいたバルクホルンは弁解をするが指摘する箇所が彼女らにとって当たり前のであった。

人狼が鼻をひくつかせ、両手の機関砲を僅かに振って何か指示を送り人狼は急上昇する。あまりの唐突な行為に唖然としたが彼女も追従していった。

 

「どうしたハインツ!」

「……」

 

機関砲を向けた先にはネウロイが群れており、その数は十体程で小型ネウロイである。おそらくは空戦権を奪取するためであろう。人狼は出力を最大にして彼女らの編隊から離れ、群れとの距離は徐々に狭まっていき、人狼はその群れに勢いよく突撃した。

 

「ハインツ!」

 

幼馴染の彼女の声すらも聞こえない、突っ込んだ際に二挺の機関砲を短射する。二十ミリは装甲を破り二体のネウロイを墜とした。口に咥えた煙草を捨て再度上昇する。

遅れて人狼を襲おうと追従してきたネウロイの集団に背後から彼女らの攻撃が始まった。

 

「やああああ!!」

「はあああ!!」

「はっ!」

 

流石はエースといった様子で囮になった人狼に向かうネウロイを撃墜させていく。水平飛行に戻し右旋回、まだネウロイは追従しているらしく光線や弾丸が撃たれるも被弾はせず、その態勢のまま急降下を始めた。ネウロイも背後から来る彼女らを排除しようと旋回する。

 

「ハルトマンは私の援護を頼む!」

「任せて!」

 

バルクホルンは目の前で向かい合ったネウロイにバレルロールをしながら機関砲を撃ち込む、ネウロイも負けじと光線を放つも全て魔法障壁によって防御されて無傷であった。そんな中いくら装甲がやや固くても魔法障壁も張れない上にその装甲すらも貫通する威力を持った機関砲には勝てず、ボロ雑巾の如く破られて彼女が通り過ぎた時には白い破片となって地上へと降り注いだ。

 

一方でハルトマンはネウロイとの格闘戦に興じていた。彼女の小柄な身体は相手の弾を躱し、彼女の正確な射撃で撃ち落とした。

 

「エーリカ後ろよ!」

「わかってるよミーナ!」

 

背後についたネウロイに対し、自機の速度を落として絡みだす、この空戦技術をシザーズと言う。相手が速度過剰で彼女の前に躍り出た途端、形勢が逆転して至近距離で機関銃が撃たれ撃墜された。喜びに浸っている場合ではない、次の獲物を探しに奔走する。

ミーナは自らの固有魔法、三次元空間把握能力は感知系魔法の一種で一定範囲内の敵味方の位置を三次元で把握できる能力であった。それを使用して彼女は人狼を捜していた。

 

「何処にいるのよ……!」

 

先程の急降下以降、人狼の姿が一切見えないのだ。それどころか無線すらも応答しないためもしや撃墜されてしまったのではと危機感を覚え、冷や汗が垂れる。彼女はバルクホルンの心情を深く知っていた。故郷も家族も失いに喪った彼女を支える存在がハインツであった。もしもその支えが消えてしまえば彼女はもう立ち直れないだろう。

そんなことにはさせないと彼女は必死に捜す。

 

「ミーナ避けろ!」

「えっ」

 

感知するのに必死で注意を疎かにしていた彼女のもとに一体のネウロイが接近していた。魔法障壁を張ろうがそのネウロイは異常なまでに素早く、高度を運動エネルギーに変換したのもあいまっているため今張ろうものにも間に合わない。救援でバルクホルンやハルトマンが向かうがもう遅い、彼女は目を閉じて死を受け入れた。

 

 

 

はずであった。

 

「……」

 

実は人狼はミーナのすぐそばに存在していた。しかし何故気がつかなかったか、それは人狼が霧化を行い何かを捜す彼女の護衛をしていたからだ。霧化を解いて機関砲の引き金を引いた。すると弾丸はネウロイに収束していき命中した。

この行動に驚きを隠せない彼女らであったが安堵の色も浮かんでいるのも確かであった。

 

「ま、まさか霧に化けていたとは……」

「……」

「よくやったハインツ!」

「すごいよハインツ中尉!」

「……」

 

感謝の声が挙がっても人狼は表情を微塵も変えない。

だが、仮にも此処は戦場、ネウロイは人狼を一番の脅威と認識し、背後から光線を照射した。光線は頭部に命中して左半分が消失してしまう。口の中の歯が露呈している。

 

「……えっ」

「ちゅ、中尉……」

 

ミーナとハルトマンはこの惨状に口を開くしかなかった。そしてバルクホルンは身内の惨状に対し特に敏感であった。ふらりふらりと呼吸が荒くなり心臓の鼓動が痛いほど早くなるのに気づいた。止めようにもどうすることもできない、意識がいつ飛んでもおかしくはなかった。

 

「トゥルーデ落ち着いて!」

「ごめん許して!」

 

ハルトマンは両手で彼女の視線を切った。パニック状態ををこれ以上悪化させないようにである。冷や汗が垂れるミーナは人狼に目をやる、そこには普通なら醜い容貌に変わり果てた人狼の姿があるはずだった。しかしあいにく人狼は化物の類、銀の銃弾が撃ち込まれるまでは死ぬことはない。傷口には目を離した隙に霧が巻かれ、暫くするとその霧が解かれると元の容貌へと治っていた。

驚異的な治癒能力に目を見張るミーナはバルクホルンの目隠しを解くようにハルトマンに告げる。ハルトマンもあまりの出来事に目を擦っていた。

 

「な、なあ。生きてるんだよな、な?」

「……」

 

おぼつかない飛行で人狼に近づいてペタペタと顔を触りだした。手には血に濡れるといった感触は存在せず硬く筋肉質な頬が伝わる。赤く異端な瞳には彼女がよく映り彼女を抱き寄せた。

先程不意を衝いたネウロイが今度はとどめを刺そうと機関銃を乱射して来る。単純な進路で近づくネウロイに人狼は魔法障壁を張りつつ片手で機関砲を撃つ。弾丸と弾丸が交差していきネウロイの右翼に命中する。命中した際に飛行に重要な部位だったらしく動力を失い錐揉み状態のまま墜ちていった。

 

「…今のが最後の一体よ、もう来ないわ」

「ハインツ、もう無事か? どこか痛まないか?」

「……」

 

バルクホルンの応対に首を振って答える。

 

「これが沈黙の狼の由縁、通りで死なずに飛べる訳だよ」

「いくら何でも固有魔法二つ持ちで霧化は感知を避け、治癒能力は強力、戦うのなら恐ろしい相手ね」

「ホントそれ、しかもやけに戦闘慣れしてるし殺し合いは避けたいよ」

 

あまりの強さに二人は飽きれるとともに畏敬の念が浮上した。

 

 

「ハインツ本当に無事なのか、それは本当か?」

「……」

「あぁそうか大丈夫なのか、そうか良かった」

「……」

「ところでな私も強くなったんだ。見てくれたか、お前とまた張り合うために私も軍に入って強くなったんだ。これでまた張り合えるな」

 

バルクホルンの眼には狂気が孕み、瞳の中で大波の如く呻っていた。真摯になっていたハルトマンやミーナですら彼女が狂い始めている事実を知るのは同じ狂気に溺れた人狼しかいなかった。

 




イムコ

オーストリアで生まれたオイルライター、オーストリアの首都ウィーンにあるライター及び金属製品製造メーカーである。1907年に創業された金属ボタンメーカーから1918年にライターを製造し始めた。
第一次世界大戦で帝国政府の依頼に基づき、戦地で兵士が使用するためのライター、イーファを1918年より製造開始した。
なお第二次世界大戦ではドイツを代表するオイルライターへと昇化することとなる。
人狼が作中で扱ったライターはこれである。
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