人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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狙撃

対戦車砲の砲撃によって対奇形陸戦ネウロイとの戦闘が始まる。対戦車砲は胴体を集中して攻撃を開始、歩兵たちもライフルやら機関銃を用いて攻撃する。攻撃は全て胴体へと向けられた。

一方、触手に一定の損傷を負わせれば地中へと戻っていったことを把握しており、ある程度の損傷を与えたら撃破までは至らずとも逃げ出すと踏み、ジェネフたちとルーデルは触手に攻撃を掛ける。

 

「何であのウィッチと戦車らは何故胴体ではなく触手を攻撃するんでしょう?」

「おそらくは触手に対して解決策を持っているかもしれない、俺らも狙撃することにしよう」

「わかりました!」

 

マルセル上等兵は照準器の無い対戦車ライフルで狙いをは定める。距離はおおよそ四百メートル、決定打には到底なりえない。だから彼は戦車隊の援護に回ることにした。たかが十三ミリ程度の銃口で何ができるのかは一番理解していた。いかに無意味であってもやることに意味が存在したのだ。

 

「風なし、いつでも」

 

観測手が風向きを答える。無風で狙撃には持って来いである。大きな巨体を揺らす触手に狙いを定め、引き金を引き絞る。銃口からは鉛玉が射出され、高速で目標へと向かい、見事に命中を果たした。観測手が命中した結果を述べる。

 

「敵に損傷を与えることができましたが微力、再度攻撃を」

「わかっているがこれは無理があるかもしれないな」

「流石に尻尾巻いては帰れませんしね……」

「ならば核を的確に撃ち抜く、核が露出した時が出番というわけだ」

「それまでどうします?」

「決まっている。雑魚を喰らう」

「了解しました!」

 

忘れられているかもしれないが未だ小型ネウロイや中型ネウロイは存在している。触手が暴れるたびに敵側の戦力も擦り減るがまだ生き残りもいる。それが果敢にも対戦車砲や機関銃の元へと辿り着いた場合、確実に戦力は落ちていき、あの化物を殺しきれなくなるだろう。それを抑えるために狙撃手であるマルセルは小型たちの殲滅を担わなければならなかった。

 

「弾は幾つだ?」

「えーと、三十発です」

「ちょいとばかし足りないな、仕方ない。ライフルを塹壕から持って来い」

「はいっ!?」

「安心しろ、それまでの障害は排除してやろう」

「……わかりましたよ! やればいいんでしょやれば!!」

「有言実行だ。早く行け」

 

小屋の屋根から飛び降りてすたこらと塹壕へと戻る観測手、ネウロイ群との距離が遠く離れている此処なら瘴気の心配はないと思ったマルセルはガスマスクを外して汗をハンカチで拭う。綺麗なブロンドをした髪が風に吹かれてなびく。

 

「マスク着用だと狙撃はしずらい、だから瘴気の影響を恐れずに狙撃をした方がいいな」

 

ポケットからグチャグチャの煙草の箱を取り出してから一度一服すると、すぐさま激しくむせ込んだ。涙目になりながら口から紫煙を吐き出した。深呼吸して中の紫煙を吐き捨てると、照準器でライフルを取りに行った観測手を確認する。

 

「煙草は眠気覚ましにはちょうどいい、狙撃を始めるか」

 

双眼鏡からは彼へと狙いを定めるネウロイの姿が存在していた。独りで風向きを調べてから引き金を引く。一発の銃弾が二百メートル以上先の小型ネウロイに当たり砕け散る。

 

「ひえっ!?」

 

目の前に居たネウロイが唐突に砕け散るのに腰を抜かした観測手だったが、塹壕内のライフルを一挺とポケット沢山には入れた弾丸を持って小屋へと戻る。脱兎の如き逃げ足は向かってくる銃弾や砲撃を躱して彼の元へと無事戻ってこれた。

 

「はーはー!!」

「流石だ。どれ、本業を始めるとするか」

「何故私のもとに砲弾やらが飛ぶんですか!」

「飛ぶ砲弾やら落とせることはできない、そういうのは魔女にやらせとけ」

 

ライフルを手渡し即弾を込めるマルセル、双眼鏡を片手に観測手は状況を把握する。覗いた先には触手に向かって乱射をする機関銃手や一本の触手に潰される憐れな兵士、未知なる恐怖に自嘲の念を込めた笑顔を浮かべる兵士と十人十色である。しかし、人類側も奮闘しており戦車隊が放つ砲弾は触手に損傷を与えていき、ウィッチによる航空攻撃で破片が宙を舞う。

 

「す、すごい……!」

「そうだな、では俺らも追従しなくては」

 

あらかじめ持ってきて私用の照準器を取り付ける。カールスラントの照準器は精度がよく、精密な射撃ができるという評判であった。対戦車ライフルとは違い威力が弱いため一撃で屠ることはできないだろう。だがそれでも小型なら何とか相手取れること、小型の脚部を狙いを定め発射する。

 

「お見事」

「次弾装填、連撃を掛ける」

「にしてもマスク外しても大丈夫ですか?」

「大丈夫ではないのなら俺は死んでいる」

「そ、そうですよね」

 

再度脚部を失ったネウロイに攻撃、一脚ずつ破壊してダルマ状態に、必死に暴れるネウロイだが無慈悲な狙撃によって白い結晶となり崩れ落ちた。

 

「やれやれ、この距離だと威力が弱いな」

「ですがよくもまああの距離を当てれますね……」

「さあな、天性の才能だろうか」

「あっ!? 早く狙撃をして――――――」

 

観測手が捉えたのはネウロイが兵士に覆い被さり、爪を同化させた足で突き刺そうとしていた。だが、彼がそのことを指摘しようとした最中、一発の銃声が彼の言葉を遮った。

 

「もうしている」

 

目を丸くしながらも双眼鏡を再度覗くと覆いかぶさっていたネウロイが横腹を撃ち抜かれ、のたうち回る。その兵士ははいずりながらもネウロイから離れ、スコップや銃剣を着剣した兵士二名が救助と排除をするためネウロイに白兵戦を始める。スコップの先端が頭部に刺さり、銃剣を刺した兵士は脚部を刺し込んだ。

 

「なあ無線機はあるか?」

「あるわけないじゃないですか」

「そうか、なら行ってこい」

「ま、またですかァ!?」

「本部に状況を伝達、援軍を送ってもらう」

「……わ、わかりました。援護頼みます!」

 

こうして無線機で要請するために走り抜ける観測手、一度深呼吸をして照準を合わせる。障害となりえるネウロイを片っ端から狙撃、塹壕内に入り込んだネウロイを足止め。そこに近接武器を所持した兵士が向かい白兵戦、それに合わせて針に糸を入れるような技術でピンポイント狙撃していた。

 

「やれやれ、相手にもならんな」

 

禁煙家である彼は水筒の水を一口飲みながら照準器を覗いて映るネウロイを何度も狙撃する。

表情の乏しい彼は氷のような眼光でネウロイを射止めていた。

 

「そんな兵力に余裕があるとは思えないが、兎に角足掻くこととしよう」

 

彼は苦言を交えた独り言を漏らしつつ、自らを冷たく自嘲した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

所変わって本部、人狼が不時着した際にできた天井の瓦礫を簡単に掃除をし終え、書類作業に没頭するランデル中将にダロン大佐。そしてひっきりなしに電話や無線が掛かる司令室で対応に追われていた。

本来戦闘中、しかも指令室ならば数人の将兵が対応するはずであろう。だがしかし、ランデル中将はその将兵を全てブリタニア本土かヒスパニアの方に待避させた。勿論、自国を護ろうとするガリア将軍は居たものも、口車を回して戦闘という劇場から退場させた。

 

現在この戦闘で大規模な指揮を行っているのはランデル中将ただ一人、ダロン大佐はその補足として努めていた。小隊や中隊、それに大隊などの指揮権は全て彼が担っている。仕事量は多くその老体ではあまりにも過労な作業を喜々として行い、民兵の装備を損傷し多少修復したばかりの銃や倉庫に眠っていた旧式の銃、下手をすれば何処の博物館から拝借してきた骨董品のマスケット銃を引っ張り出してきた。

 

上質なワインを可能な限りモロトフ火炎瓶の如く全て火炎瓶に、銃剣の代わりにバターナイフにフォーク、使えるもの全てを民兵に持たせ武装させた。こんな劣悪な装備を手渡された市民もとい民兵たちは不思議と不服を零すことはなかった。逆に家族や故郷を破壊しつくした化物共に抗えると新しい玩具をプレゼントされた子供の如く喜んでいた。

 

だが当然なことでお粗末もいいところな武装に訓練経験のない民兵たちは戦力としてはせいぜい分間隔の時間稼ぎ、だがそれでもランデルという男は彼らに利用価値があると感じていた。

民兵として徴用をした数を引けば先刻ほど前に輸送船に避難民全て乗せられてブリタニア本土に向かっていった。

これで民間人を動乱の戦場から脱出することができ、最低限の責任は果たし終えた。あとは全兵士(・・・)たちによる拠点防衛だけだ。

 

街におけるゲリラ戦も可能、第一波、それも少数ならば殲滅することができよう。だがそれはあくまで乱入者なしの理論でしか過ぎない。空襲は極小規模ながらも被害を受け、そして何よりもあの()や触手の出現で一気に崩れ去る。例えるのなら盤上の駒を盤台ごとひっくり返すようなものだ。

 

「こちら司令室」

 

手元にあった無線が鳴る。すぐさま出るランデル、そして通話相手の戦況を告げられると彼は目元に影を落として無線を切る。何も応答をしないでだ。

 

「なあ、大佐」

「な、なんですか……」

 

不吉な予感を感じ取った大佐はおどおどとしながら応答する。

そして、彼の口から予想外な思惑が告げられる。

 

 

「敗北が決まったぞ、喜びたまえ」

 

本来ならば絶望の表情を浮かべ言う台詞を彼は満面の笑みを浮かべながら答えた。

 




モロトフ火炎手榴弾

レーニングラードで製造された火炎手榴弾、フィンランド軍が主に使って冬戦争で活躍した。
艦内での白兵戦を想定されており、取り扱いは難しいが市街地戦では効果的であった。
実際に投下された小型焼夷弾を収納するコンテナやそれを投下した爆撃機のことをモロトフのパン籠と呼ばれ、火炎瓶のことを「モロトフ(に捧げる特別製の)カクテル」という皮肉のこもった通称で呼びはじめたという。
スペイン内戦にも登場している。

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