人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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救済

「くそっ! 停止!」

「はいッ!」

 

車長であるジェネフは自機を操るエドガーに指示を送る。彼はジェネフの言葉通りに一時緊急停車をさせると、眼前に赤く輝く光線が通過する。その先にあった木々や簡易トーチカが消滅し、威力を表す。

前線では戦車隊がタコ型のネウロイに向けて中隊規模の砲撃を一本の触手に直撃させることとした。各一本ずつの触手を攻撃すると時間が掛かる上に決定打には到底及ばない。

だが、一点に集中して集中砲火を喰らわすことで一本一本着実に減らしていくという算段だ。これを俗にいう一点集中ドクトリンである。

 

「よしっ! 損傷が蓄積している。あと少しで一本破壊だ! テメエら気張れ!」

『『『『『了解!』』』』』

 

各車輌の激励し、士気を高める。無線機を投げ捨て砲塔を回頭、機銃による攻撃へと移る。幾ら多く弾薬を持っていたとしても節約を心掛けなければ長期戦は難しいものとなるからだ。有効打とは思えないがバチバチと弾は触手の装甲に弾けて、地道に損傷を与えていく。

 

「車長、この調子なら…!」

「確かにいける。だがな、俺らは規格外の化物に挑むわけ、そうやすやすとやられるタマじゃない」

「そんじょそこらの雑魚とは勝手が違いますよね」

「まあそうなる。あー、ちくしょう煙草吸いてぇ……」

「今は吸わないでくださいね、瘴気で戦場は満ちているんですから」

「わかってる。それに今煙草を吸っちまったら一生煙草吸えなくなりそうだ」

 

軽く冗談を交わすも、内容としては重々しいもので現在の戦況の壮絶さが無意識に表れ、常に気が抜けない状況では一瞬の油断が死を招くことを示していた。マスク内では緊張の影響でで汗が吹き出し、大変気持ち悪い。呼吸をするたびに息が詰まりそうなほど切羽詰まった状況ではむしろ息をしないほうが楽な風に思えた。

 

 

「装填急げェー!」

「完了しました!」

「狙いは塹壕内の友軍を襲っているあの触手だ! 撃て!」

「発射!」

 

対戦車砲や旧式となり、お蔵入りになった野砲が火を噴く。砲弾は放射状に飛来し何発も命中し、外した砲弾は小型や中型を地面と一緒に耕した。装填手が重い砲弾を運び、装填し発射。相次いで漆黒の触手へと砲撃されていく。

戦車隊が集中攻撃した触手が力を無くして地面に伏して、本体は悲痛な叫び声をあげる。

 

『やったぜ!』

『一本落とした!』

 

無線からは歓喜の声が鳴り響く、自惚れた彼らをジェネフは一喝する。

 

「馬鹿野郎お前ら! まだ敵は生きているんだ、たかが腕一本落とした程度で図に乗るな!!」

『し、失礼しました!』

「ならば砲兵隊がしつこく攻撃している方を支援、弾は節約しろよ早漏共!」

 

無線機を乱暴に切り、再度視界を触手に移すジェネフ。しかし、彼も嬉しさを堪えきれずにガスマスク内部で口角を上げていた。口に汗が入るも気にしなかった。

 

一方で塹壕内部は地獄と化していた。幾ら撃っても撃っても殺しきれない小型や中型ネウロイは塹壕内に侵入、眼前のネウロイに気を取られた兵士に向かって銃弾を飛ばす。白兵戦を行うも、まだ実戦経験の無い新兵たちは無残にも脚で胴体切り裂かれ、頭をザクロの身の如く割っていく。

古参兵を中心にスコップとライフル片手に白兵戦を繰り広げるも何度倒しても次の個体がやってくる。地雷原の方も踏まれたことで爆発したり、砲弾や銃弾によって爆発したため埋めた地雷の数は少なくなっていった。

そのため、地雷原を切り抜けたネウロイたちは砲兵や塹壕内の兵士を無残にも殺戮していったのだ。

 

「止まれ止まれ止まれ!!」

 

憐れにも半泣きで機銃手が群れながらこちらに突進してくるネウロイへ向けて機関銃を撃ちかますも一向に止める余韻を見せつけず、ついには塹壕内に侵入した。

 

「あ、ああああああ!!」

 

尻もちをつき、身体が硬直して動けない。それはまさしく蛇に睨まれた蛙のようで、目からは無数の涙が零れ落ち、泥まみれになった顔に道を作る。必死に逃げようと這いつくばるが無慈悲にも太股に鋭利な足先が突き刺さる。

 

「ひぎッ!?」

 

余りの痛みで悶絶し、思わず失禁してしまう。彼を刺したネウロイは赤い斑点を美しく光らせながら次々と彼の身体を刺して、まるで幼子がバッタの脚をもぎ取るように弄ぶ。

 

「痛い痛い痛い痛い!!」

 

喚きまわる彼はもう腹部までに刺されてしまった。もはや逃げる気力を失い大声で悲痛な喚き声しかあげれずにいる。だがそんな時、塹壕の角からこちらを覗く人影がありこちらを覘いていた。彼はそれに気付き声を上げる。

 

「ギャラス助けてッ! 俺何でもするから!」

「じゃ、じゃあさ……」

 

それは博打仲間のギャラスであった。彼とは親交を深め、親友とも呼べる間柄であった。

 

 

 

「俺らのために死んでくれ」

「へっ?」

 

彼からある物が投げ出された。それは兵士である者なら誰もが知っているもので、信頼できるものの一つでもあった。

投げ出されたのは一本の棒に数個の丸い物体が取り付けられたモノ、そう収束手榴弾である。それをギャラスは襲われている親友の元へと投げた。ギャラスは一よりも何百を選んだこととなる。

 

あっけに取られた彼は素っ頓狂な言葉を漏らし、見事に爆ぜた。爆発音とネウロイが出す独特な金属音とともに彼は姿を消した。

ギャラスは親友を自らの手で殺してしまった罪悪感がむせ返り、急いでマスクを外してその場で嘔吐する。吐いても吐いても気持ちは楽にはならない、強引に掻き消そうにも死に際の顔が脳内にフラッシュバックした。喀血する前にマスクを装着して、フラリフラリと数歩歩いた後、小さく(うすくま)る。

 

「もう嫌だ。何でどうしてあんな化物と戦わないといけないんだよ、帰りたい、温かかった家に還りたい」

 

それは叶わない戯言だと知りながらも彼は呟く、弱音を吐くことにより少しでも気を紛らわせようと思ったのだ。彼の瞳には絶望という淀みに塗れ、一片の希望が灯ってはいない。当然、再び銃を持って戦う気力は消し失せた。

 

そんな時である。塹壕を覘き見るように一体のネウロイが顔を出した。汚らしくも彼は喘ぎながら必死に助けを乞いた。

 

「お願いします! どうか見逃してください、どうか、どうか愚かな私を見逃してください!」

 

涙をぼろぼろ零しながら彼は乞う、果たしてそれはネウロイに通じるのかどうかは知らない。だが彼はこの手しか生き延びる方法しか知らずにいた。ネウロイは彼へ近づいて親友を突き刺したのと同種の脚で右頬を傷つけた。頬にはレの様な傷が掻かれ、流出する血液が涙に混じる。

 

 

しかし、とある奇跡が起きた。それは何ということか、ネウロイは彼を殺しはせずにそそくさと去っていった。その行為に唖然とした彼は暫し呆然とする。だが目を覚ました彼はおもむろに立ち上がり、手を天へと伸ばした。

 

 

「……あぁそうか、そうだったのか」

 

彼は笑みを浮かべ、何かを悟ったかのような表情を浮かべてケタケタと不規則かつ気色悪く笑い始めた。瞳には絶望が消え去るも、それは決して純粋な希望と呼べるモノではあり得なかった。

 

「俺は今わかった! そして唯一理解してしまった! ネウロイとは会話が可能、心を込めて神に救済を求めるように言葉を紡げばそれはきっと彼らにも通じるのだ! つまり、

我らが親身に接すれば必ずやあちらも受け応えてくれる!」

 

先程の態度とは打って変わって元気に言葉を発する彼、眼を限界まで開きながら自身の頬の傷を擦り、血のべったりと付着した右手を左頬に擦り付けた。

 

「彼らは神と同意義な存在、それに匹敵するほどの力を保持しているからだ! この荒れ果てた世界を淘汰してくれる存在! 俺はそんな彼らのために信仰を集めなければならない、さて神を傷つける憐れで失礼極まりない戦場から去らなくてはいけない。そしてこの思想を民衆にも伝え、信仰を集わなければ!」

 

ギャランは全ての武器を捨てて、塹壕から飛び出していく。銃弾が飛び交う中、一切止まる仕草を見せずに笑顔で走り去った。

此処に一人の狂信者が誕生した。

 




塹壕

戦争で歩兵が砲撃や銃撃から身を守るために使う穴または溝である。野戦においては南北戦争から使用され始めた。個人用はタコツボという。
第一次大戦では四年間塹壕戦が行われ、塹壕内は劣悪なモノへと変わり果てた。
特に水虫や凍傷は足を切らないといけないほどに脅威があった。
機関銃で武装し突撃を阻止することもでき、爆弾で一挙に死なないように曲がりくねっている。
だが第二次世界大戦では電撃戦の影響で塹壕の価値が薄まるが未だに使われている。
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