人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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粉砕

戦闘が始まる一時間が経過した。

戦況はというと人類側が優勢、塹壕は半壊してネウロイが所々に侵入するも白兵戦で撃破、戦線を維持し続けた。銃弾の薬莢が塹壕の底へと落下し、川の砂金のように煌いた。

 

弾薬や兵士が時が経つにつれて消耗していく中、タコ型ネウロイに決定打を与えられないままだが、確かに損害を与えている様子が(うかが)える。対戦車砲はこれまでに十門程度失うも、まだその倍近くは存在する。

戦線の後方では高射砲が天使の太鼓を叩きならす如く鳴り響き、リズムが崩れた音楽を奏でる。奇抜な太鼓から出された砲弾という名の音符は観客席で乱闘騒ぎを起こすネウロイにぶつけていく。砲弾を受けた黒き観客ネウロイは命中してバラバラへ、至近弾でも関係なしに容易くバラバラへ砕け散った。

 

「はははっ! 砲兵は戦場の女神だ。この圧倒的な女神の拳に震えるがいい化物め!」

「早く装填しろ、この馬鹿者が!」

「わかってますって!」

「しかしまあ、砲兵は楽な仕事だ。後方で命の危機に陥る状況が前線組より少ない」

「……おいおい、仮に空から放たれた銃弾一発が弾薬に当たったらお陀仏確定だぜ」

「はははっ、ようやすやすとなるわけが…」

 

後方で砲兵たちは油断しきっていた。命に曝される危険がこうも少ないと自らが戦場に身を置いていることを深く実感できないようである。そんな時である。

 

上空にポツリポツリと飛行する物体、最初は自軍のウィッチや航空機だと思っていた物体はこちらに向かって降下を始める。危機感を覚えながら双眼鏡で覗くと案の定、爆弾を持った小型の航空ネウロイがこちらに攻撃を仕掛けようとしていた。しかも厄介なことに爆弾を搭載している。

 

「マズいぞ! 対空戦車、砲塔を東の向きに回せ!」

「はっ、はい!!」

「撃て撃て!」

「おいっ! 即席の対空トラックも回せ」

「砲兵はその場から急いで待避しろ!」

 

いちようは二十輌ほどの対空戦車に加え、民間のトラックに無理やりMG34機関銃を乗せた対空トラックが十輌がネウロイ十体に火箭を張る。曳光弾が入り混じれ、彼らの必死の抵抗空しく爆弾を次々と落とし、人間では到底真似できない機動で再上昇をして離脱した。

 

投下された爆弾は砲兵たちが受け持つ高射砲へと届いていき、地面に接した瞬間、大きな爆発を巻き起こした。ただでさえも火の取り扱いに注意しなければならない弾薬が爆弾の爆発に巻き込まれて、新たな爆発を起こしていった。

 

「熱い熱い熱い!!」

「身体が焼けてしまう!」

「俺の下半身……」

「衛生兵来てくれ!」

 

余裕溢れる空間は瞬く間に阿鼻叫喚が溢れる空間へと様変わりする。服に燃え移った炎を転がることで消火する者や、下半身が吹き飛び這いずり回る者。だがそんなのはまだマシな方で、身体そのものが爆発で消滅した者が当然のように存在した。

高射砲を指揮する下士官は爆破の影響で片目が薄ら機能していないものもまだ指揮できると判断、ふらつきながらも適切な指示を送る。

 

「衛生兵は直ちに救護者に手当てを、助からない者はその際無視しろ!」

 

この指示は確かに非人道的でありながらも適切なモノであった。当然、反対する者も存在するわけでとある衛生兵部隊を務めるザイス少尉が即座に反論する。

 

「しかし! まだ命あるものを殺すわけには!」

「貴様何ふざけているのか! 死にかける者に手当てを施してみろ、どうせ死ぬのに貴重な医薬品を消費するわけにはいかないのだ!」

「ですが彼らも人間です! せめて最低限の施しをしなくてはなりません!」

「ならばすぐにでも楽にしてやるがいい、その腰に付けた拳銃でな」

「……クソが!」

 

少尉は顔をしかめながら救護者の元へと向かって走り出した。確かに彼の言い分は間違えてはいない、だがそれ以上に指揮官の方が適切であった。僅かな医薬品を瀕死状態に陥った兵士に使わすという贅沢はできず、それならばまだ助かる見込みのある者に使った方が得策なのだ。

周囲からやりとりで残虐無比という印象を植え付けられる指揮官であったが、内心彼も心を痛めていたのだ。自身よりも若い若者たちは呆気ないほど簡単に死んでいく状況を嘆くも、もうこれ以上の犠牲を生まないために決断した苦渋の策であった。握りこぶしからは血が滴り、歯が割れてしまうほどに強く噛みしめる。それしか今の彼にできうることであった。

 

「耐えねば、耐えて此処を護らなければ」

 

決意を映した瞳は前線を捉えていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「風向きは無風、いつでも」

「……撃つ」

 

一方、砲兵部隊とは少し違う後方で狙撃に勤しむマルセルと名前を一向に覚えてもらえない観測手。主な仕事は塹壕内に侵入しようとするネウロイの狙撃や足止めだ。

周囲を度々索敵しながらもマルセルは照準器の中心に捉えたネウロイに損傷を与え、観測手は風向きや目測で対象との距離を測る。完璧な連携でネウロイを射止めた。

 

「命中、もう今回だけで二十体倒しましたね。流石です」

「ふっ、まだまだいけるぞ俺は」

「しかしまあ減る兆しがしませんね……」

「そんな簡単に壊滅してしまったらナポレオンや第一次の時で絶滅するぞ」

「はははっ、絶滅危惧種とかワシントン条約に指定されますね」

「下手すればこちらがそうなるかもな」

「嫌なこと言わないでくださいよ……」

 

 

 

 

「うおおおおお!一本撃破してやったぜ馬鹿野郎!!」

「あとは六本ですか」

 

その頃、ジェネフ中尉率いる戦車中隊は何とか優勢を維持しながら触手目がけて砲弾を撃ち込んでいた。歴戦の搭乗員の錬度の高さに加えて新型戦車四号戦車の性能は確かなものであり、その結果触手を二本撃破した。

車内の搭乗員の士気はほぼ最高潮に達して、それに感化された塹壕の兵士がカールスラント軍の5cm leGrW36という迫撃砲を撃ち鳴らして中型のネウロイに着弾させていく。

 

『いいやあと五本だ』

「あぁん!?」

 

突如、視界内に収まっていた触手が、急にけたましいまでの絶叫を上げてから力を無くして地面に伏した。

上空を見上げるとルーデル大尉が機関銃を片手で持ちこちらに無線を送っていた。いかんせん魔女は恐ろしいものである。大の大人が何人がかりで動かした戦車が多数存在しても錬度によっては撃破が難しいというものなのに彼女は一人でやり遂げる。彼女の本質も関係しているだろうが生まれ持った能力も恐ろしい。

 

無線を受け取ったジェネフは冷や汗を垂らしながら畏敬の念を込めた笑みを浮かべる。だがそれは面白い話を聞いた際に起きるものではなく、ただ単純に引きつった笑みである。

 

「ったく、なんつう規格外のお嬢さんだ。…いやこんなのお嬢さんじゃないな、いかんせん魔王が合うな」

「私は魔王だからな。だがお前もお前だ、よく障壁のない機械でこれまで戦えていけたのだか不思議に思う」

「けっ、何事も経験よ経験。けどな経験は必要だがお前に度数の高いウォッカを飲ませるべきではないな」

「あいにく悪いがその記憶があやふやでわからないのでな」

「後始末大変だったんだぞ、まったく……」

「けど今の方が大変な状況だ。一気に潰すぞ」

「そんなのわかってる。これまでに死んでいった同胞の仇を討ってやろうぜ」

「了承しつくした!」

「おうよ!」

 

魔王と山羊は空陸から攻撃を再度続ける。

対戦車砲は僅かな数になろうと攻撃をやめない、損傷を与え続けているネウロイ側の脅威を消そうと小型や中型ネウロイが攻め込むも、機関銃による掃射や迫撃砲の攻撃に屈していった。戦車は目の前で脚を折られて動けずにいる小型ネウロイから無数の銃弾を受けながらも、自機の履帯で躊躇なく轢殺する。

 

『こちらもう徹甲弾ありません!』

『こちらもです!』

「ちぃ、長期戦はやはり難しいな。ここは弾薬輸送車が運んでくれた砲弾を後方の集積場で補給させるべきか」

「それが一番かと」

「そうだなエドガー、よし弾薬不足車輌はすぐに後方へ……」

 

彼が指示を仰ごうとしたその時

 

「核だ! 本体の核が確認できたぞ!」

 

何と今まで微少だと思っていた本体の核が分厚い装甲から見事に露呈した。黒光りする装甲とは程遠い大きな紅石のようで前線で守備する約過半数の兵士が赤く光り輝く核に魅了されていた。しかし此処は仮にも戦場、それもより激しさ増す最前線なのだ。すぐに意識を戻し、核に向かって自身が持てる最大戦力で挑んだ。

ライフル、拳銃、狙撃銃、機関銃、対戦車砲、迫撃砲、手榴弾、しまいには手のひらサイズの石といった様々な武器を核に撃ち込んでいく。

 

「いけいけいけいけ! 俺らも便乗して殺してしまえ!!」

『『『『『『了解!』』』』』』

「魔王の神髄を見せてやろう!」

「……やれやれ、狙撃の的がデカいといいな」

「はい、やっつけちゃいましょう!」

 

そこに戦車砲と彼女が操る魔法力込みの機関銃や対戦車ライフルが加勢、より一層攻撃が苛烈になる。

このような攻撃をしていると核は次第にひびが走り、タコ型ネウロイは独特な奇声を発っしりながらも見境なく暴れていく。そのせいか周りで動いていた小型や中型をも巻き込んだ。

 

最終的にはタコ型は最後の最後まで暴れまわり、核が木っ端微塵に粉砕された。

この総攻撃で長きに渡る大戦闘は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

かのように思えた。

 

 




5cm leGrW36

ドイツで生まれた迫撃砲、ラインメタル社で開発されて1936年に採用された。
当時としては歩兵小隊の火力を上げるために配備され、命中力がよかったものも、精密な設計や高価、それに重いといった問題が起きることとなる。
砲弾は対人戦で有効な榴弾を用いた。
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