人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

46 / 108
ジェネフのモチーフはパンプキン・シザーズの


閃光

「はっはー! やってやったぜこの野郎!」

「やりましたね!」

 

内部の核を粉砕されたタコ型ネウロイは先程散々暴れまわっていたのに対し、今は銅像のように動かずに立ち尽くしてしまった。辺りでは歓喜に浸る者の声で溢れかえり、戦車の無線からも聴こえた。兵士と兵士が抱き付き合い喜びを共有している者もいた。

皆笑顔かつ子供のようにはしゃいでいるのが窺えた。

 

「……これでひとまずは」

「ですねマルセル上等兵!」

「ふっ、生きて帰れたら飯でも奢ってやろう」

「マジですか!? 自分、シチューが食べたいです!」

 

生還した後に飯を奢る者

 

「……これでハインツと肩を並べられることができるな」

 

自称弟である人狼の名前を出し、固く締めた口角を緩める者

 

「お前ら、仇は俺が討ってやったぞ。ヴァルハラから見守ってくれた隊員諸君」

 

仇を討つことを果たした者は天国から見守る今は亡き戦友に向けて呟く者。

各々、形式は違うとしても共通して等しく同じモノであった。

小型や中型のネウロイはピタリと攻勢を止め、身体を反転させて蜘蛛の子を散らすように逃走していく。弾数も少ないため追撃は不可能であるが、皆はかなりの数を減らしたと満足気でもあった。

 

 

そんな時、ある異変に気付いた者がいた。

 

「……おかしい、何故崩れない」

 

その者は空中でホバリングを続けるルーデルであった。

彼女が疑問視したのは、本来ネウロイという異質な存在は核を破壊されたことで崩壊するのが常識だと考えられていた。古代や中世でも昔から一貫して核を破壊されると光の粒となって崩壊すると文書で書き残されていた。

だが今回は違う。核を破壊されたことによる崩壊も起きず、身体を維持し続けている。胸騒ぎを覚えた彼女はインカムに手を伸ばし、一度だけ共闘した山羊の元へと無線を繋げる。

 

『あーこちら山羊隊のジェネフ中尉』

「おい山羊、気づいているか?」

『何をだ。要件を話せ』

「私らは今、核を破壊したはずだ」

『まあそうだな、確かに俺らは核を破壊した。それが?』

「では何故あの巨体が崩壊を起こさない?」

『……たまたま、だと信じたい』

「何が起きるかわからない、お前だけでも離れていろ」

『了解、それとな、さっきから各車輛の無線が繋がらないんだが…』

「何だと!?」

 

 

その時、地面が大きく揺さぶられた。振動により兵士たちは尻もちをつき、必死に立ち上がろうとするも態勢を崩して転ぶ。ジェネフも流石に立つこともできず、砲手の席へとへたり込んだ。

そして、沈黙したと思われたタコ型は再起不能と判断していた触手を器用に動かし始める。すると触手は胴体を地表から浮かせるように持ち上げて停止した。

あまりに突拍子な行動に呆気を取られる兵士たち、気を取り戻した少人数の兵士が再度ライフルなどの火器を照準に捉えかけた際、猛烈な突風が彼らを襲う。

 

「な、何だこの風は!?」

「くそっ! 何故アイツの方へ吸い込まれるんだ!!」

 

だが不思議なことに風はタコ型を中心に吹き、押すような風ではなく吸い込むような風でもあった。木々を激しく揺らす程度で人間は何とか持ちこたえられる風力である。姿勢を低くして地面にへばり付き、風に身体を持っていかれないようにする兵士たち、当然身動きも取れるわけがなかった。

 

「くっ!? 機体が持ってかれる!!」

「ルーデル大尉!」

「アーデルハイトか!」

「今牽引します!」

「すまない、頼むぞ」

 

上空でもその風は力を振るい、彼女の機体を安定を崩してこちら側に吸い込もうとしていた。だが、救援にやって来たアーデルハイトの力を借りて、機体を持っていかれないために、彼女らはさらに上昇していく。

地上では繋がらない無線機を片手に、必死な形相を浮かべながらエドガーに指示を送る。

 

「俺らの車輛のように早く戦車を後退させるんだ! てか、お前ら聴こえているのか!」

「車長! 後ろに塹壕が!」

「そんなの強引に押しきれ! どうせ中に居る奴は避ける!」

「う、うおおおおお!!」

 

後退しつつも塹壕を乗り越え、風でやや後退速度が遅くなりながらも一キロ半離れることができた。しかし、指示を送れずにいた車輛は皆、後退することができず立ち止まってしまっている。繋がらない無線機に必死に呼びかける彼、再度仲間を喪うことを恐れて、冷や汗が滝のように流れ落ちる。

 

 

「屋根の瓦が!」

「くそっ、ライフルが…!」

 

後方で狙撃に勤しむ彼らにも暴風は襲い掛かり、小屋の素材をバリバリと削り取っていった。その際に、ガスマスクやライフルが風に攫われてしまう。また、ボーイズ対戦車ライフルの予備弾倉も殆どが奪われてしまって、現状手元にあるのは装填していた分しかない、三発きりだ。

 

 

二分程吸引を続けていたタコ型ネウロイは唐突に吸引を止めると、タコの口の部分に当たる部位が赤く輝き始めた。それは大変眩く、目を細め、腕で顔を覆い隠す者が大半である。

光は徐々により明るく光り続けて、胴体などに描かれた赤い線が通常よりも濃く光りだす。

 

「あ、あれ。風が止んだ」

「今のは一体……」

「と、とにかく銃を構えなければ!」

 

銃を構え始める兵士を尻目にタコ型から赤い紅い球状の謎の物体が産み落とされる。物体は地面に接すると、ただちに眩い閃光を放ちながら周囲を照らして、とてつもない衝撃と轟音を与える。

その波動のように広がる衝撃を受けた兵士の姿は目視できるわけでもなく、赤い閃光の中へと吸い込まれていき、一キロ半まで避難したジェネフ一行も無情にも飲み込んだ。

 

「うがあああああ!?」

「うわあああああああ!?」

 

戦車は衝撃と熱波に押されて、地面に激しく打ち付けられて転がり続ける。十何トンもある車体を軽々しく吹き飛ばすほどの威力に戦車内でも感じる熱波に悶えながら吹き飛ばされ続ける。もしも、重圧な装甲を持ちえない生身の兵士、そして近距離で衝撃を喰らった戦車たちの末路はきっと想像を絶するものだろう。

 

「ぐおっ!?」

「ぐあっ!!」

 

後方でも衝撃は力を振るい、少しばかり前線から距離が離れていたため威力が落ち、閃光は届かなかったがそれでも生身の人間には脅威を及ぼす衝撃が二人を吹き飛ばして砂塵を撒かす。

 

 

体感で一分ほどに感じた攻撃を耐え抜くことができた者は稀有な存在で、横転した戦車は針金で曲げたようグネグネに砲身が歪み、履帯が外れて何処かへ飛んでしまっていた。そこからジェネフが這い出る。

 

「ち、ちくしょうが……」

「うっ、くそが……」

 

左腕でエドガーを引きずり出すも、もう一方の右腕はぶらりとぶら下がったままだ。おそらくは転がり続ける戦車の車内で激しくぶつけ骨折してしまったのだろう。

鋭く刺さる痛覚に堪えながらも外へと脱出し、横転した戦車を壁に立ち上がる。

 

「ふざけるんじゃねえぞ、このタコ野郎!」

 

憎悪を剥き出しに怒鳴り散らす彼、しかし聞こえてはいるのか、はたまた理解しているのかどうかわからないタコ型ネウロイは彼を無視する。拳銃のホルダーに手を伸ばして、拳銃を抜くも射程は足りない。あまりに非力な火器であるも所持していた方が心強く思えた。

 

 

ルーデルとアーデルハイトの両機体は先の衝撃のせいか、ユニットが破損して黒煙を噴き続ける。ふらつきながらも伊達に戦場を駆けた強者、見事な手腕で地上へと不時着して、いつ爆発するかわからないユニットを履き捨てて、唯一の生存者であったジェネフたちに近づいた。

 

「お前ら無事か!」

「あぁ、俺は無事だ。だけどジェネフは気絶してしまった」

「マスクの破損はないようでよかった」

「この戦車も弾が少なく、そして燃料も少なかったから爆発を起こさずに済んだ。運がいいぜ、まったくよ」

 

彼は余裕ぶって笑みを浮かべることができずにいたが声色だけは平然と装っていた。

 

「おい、どうしたその腕は」

「あぁこれか? ちょいと捻っちまっただけだ」

「……」

「イテテテテ!!」

 

ルーデルは彼の右腕の袖を捲り上げると、刺激されたことにより激しい痛覚を突き刺して、堪らず悶絶する。腕は赤く腫れあがり、見るからに骨折だと判断ができた。

 

「完全に折れてるな」

「……へっ、バレたか」

「そんなバレバレの演技してたらわかりますよ、ジェネフ中尉」

「演技の指摘どうも、美人なお嬢さん」

「すまないが私らは治癒魔法は使えない、最低限の処置だけでもするぞ」

「なら頼むぜ」

 

彼女は戦車から一本の鉄パイプを引っこ抜くと彼の腕に当て、腰に付けた応急処置箱から包帯を取り出してグルグルと巻く。一周する度に激痛が走るもそこは耐え忍び、何とか処置することができた。

 

「あ、ありがとうな大尉にお嬢さん」

「お嬢さんと呼ばれるのは心外です。アーデルハイトと呼んでください」

「……しかしマズい状況だな、どう前線から離脱する?」

「車両も吹き飛ばされされて使えないですしね」

「負傷者もいるからな」

 

ルーデルはこちら側に目を向ける。

 

「おいおい、俺は大丈夫だ。だけどエドガーがまだ気絶中だ、それにいつまた撃ってくるかわからないからな」

「ともかく今は待避を重視して……」

「!? 走れッ!!」

「何ッ!?」

 

一度タコ型ネウロイに視線を移した彼は気絶しているエドガーを担ぎ上げて走り始める。彼女らは彼に言われるがまま走り出しながら、タコ型に目を向ける。

すると八本の触手を触手を四方八方に向け、先端部を赤く点滅させていた。嫌というほどにこの攻撃方法を体験していたため、その意味を深く知っていた。

 

今、触手から太く高温な一条の光線がタコ型を中心に線を地表というキャンバスに焼き描かれた。

 

「ぐあああああ!!」

「きゃあああああ!!」

「ぐっ!!」

 

四人衝撃に吹き飛ばされ、地面を転がる。ジェネフは負傷者のエドガーを傷つけないように前から転倒して、右腕を打ち付け、苦悶の表情を浮かべた。彼女らは頬に擦り傷を作りながらもどうにか立ち上がる。

 

「くっ、もうここまでか」

「結局私らは、あのネウロイには勝てないのですか……」

 

空中ではネウロイに脅威を振るったウィッチたちもいざ地上へ降りると奇怪な力を所有する女子に成り下がる。目には絶望が染まり、魔王と揶揄された彼女にもその色が浸食を始めていた。

 

 

だがそんな中、しぶとく絶望に染まることを決して赦さなかった者が存在した。

 

「諦めるんじゃねえぞお前ら!」

「…ですが」

「ですがもあるかこの野郎! お前らは何のために戦う! 国のため国民のため、そして夢半ばに散っていった友のためじゃないのか!!」

 

折れた腕でアーデルハイトの襟を掴む彼女の顔を近づけるジェネフ、当然痛覚はあるわけだが、そんなものは怒りよりも劣るものであった。彼の威圧は魔王と呼ばれる彼女すらも黙らした。

 

「仲間はお前らに希望を託して散っていった。それなのにお前らがこうやすやすと絶望に染まってどうする気だ!」

「……」

「……」

「絶望するならさっさと死ぬかその前に軍に入るな! さっさと家族を作っちまえ! 悪いが俺は最後の瞬間まで絶望を抱かない、むしろ高笑いをしながら死んでやる! 何故ならそれが死んでいった隊員の想いだから!!」

 

彼の想いを彼女らにぶつけ終える。一瞬の間が置くも二人は肩を上下に小さく揺らし、ついには笑い出した。

 

「……ふ、ふははは!」

「くっ、くくく……」

「はははははっ!! そうだ、そうだったな!! 私は家族を作れると思うかアーデルハイト」

「残念ながら無理難題をクリアできる男性の方が少ないかと」

「そうかそうか! 酷いことを言うじゃないか、さしずめギリギリ中尉が条件をクリアできると思うが!」

「はっはー! 冗談はやめてくださいよ、俺は家庭的な女が好きなんです。貴女みたいな豪傑な女性は好みではない、諦めてください」

「そうか、残念だな。まあ私はハインツが居るのでな」

「ハインツも気苦労が堪えませんな!」

 

これといった雑談を終えると身体をタコ型に向け、負傷者のエドガーをそっと横たわらせる。彼女らも自身の拳銃を引き抜き、拳銃を向ける。

 

「さあ行こうか」

「そうですね」

「さあ死にに行こう、これは絶望による死ではないのだから」

 

足先を揃え、突撃を敢行しかけた、その時である。

触手から白い破片が散らばりいくのが確認でき、驚愕の表情を三人は浮かべる。だが目を凝らすとそれは三人にとても印象深い存在であることが一目瞭然であった。

 

「おいおい、お前は毎度こういう時には来るんだな」

 

 

 

 

「そうなんだろ? ハインツ!!」

 

人狼はこちらに顔を向け、自身が弱肉強食の頂点を担う存在であることを彼らに提示した。それは一筋の彼らの希望でもあり、人類の希望でもある存在でもあった。

 




包帯

傷や出血などの箇所に、包帯での圧迫によって出血を止めたり、吸水性の高い綿で血や膿などを吸収させたり、あるいは清潔を保つために当てる保護ガーゼを固定するガーゼ生地の布である。
用途は様々で汎用性があり、古代ギリシャの時から存在する。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。