人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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一発

突如として現れた人狼、人狼は脚部に履いたユニットを駆けてタコ型に攻撃を加えていく。武装としては申し分ない二十ミリのMGFF機関砲を携え、厚い装甲を砕き、確実に損害を与えていった。

怪鳥の如き断絶魔をあげるタコ型、しかし抵抗として回復し終えた八本の触手を振り回し、太い光線を空へと揚げる。それでも戦闘の天才の片鱗を見せつけるように、感覚で避けて防ぎきれなかった場合には、魔法障壁を光線に見合うサイズで防ぎきる。

 

「ハインツ中尉ならあの化物を…!」

「違うぜ嬢ちゃん、ありゃあちょいとばかし押されている」

「そうだ。元よりアイツは卓越した戦闘のプロではあるが、空戦技術としては一般のウィッチ程度」

 

アーデルハイトから吐かれた希望的観測にジェネフとルーデルは否定する。むしろ彼女の思っていたことと異なる劣勢だと判断していた。それに疑問を抱いた彼女は二人に訊く。

 

「だけど苛烈な攻撃を躱していくのはどうしてでしょう?」

「恐らくは勘だな」

「だな、ハインツは阿保みたいに鋭いからな。まるで野生動物だ」

「では勘だけを用いてあんな回避を!?」

「もしも、もしもアイツが空戦の天才なら一度も魔法障壁を張らずの機動が可能であろう」

「けど実際はどうだ。アイツは空に関してはまったくの凡人、下手すりゃあ以下だぜ」

「見ていてひやひやする場合が多いな、現に今だが」

 

彼女に指摘され、改めて人狼の戦い方を見ると空戦技術を纏って初陣のピスパニア戦役に赴いた自分の姿が徐々に重なっていく。確かに機動は訓練生レベルの出来かつ、戦いの動力源であるユニットを完全には使いこなせてはいない。

人狼がそう見えるのは勘によるモノだということを彼女は実感した。

隣に居たジェネフは頭を掻きながら小言を吐き捨てる。

 

「何であんな色物を空へ飛ばすんだろうな、陸上で戦った方が性に合うぜ」

「だが私は航空ウィッチを選んでもらって感謝している。なんせ弟と飛べるからな」

「勝手に弟にしてんじゃねーよ」

 

 

場外の観戦者の声も聞こえるはずもなく、人狼はただひたすらに攻撃を仕掛けてこなしていった。二十ミリの弾丸を乱雑に当てて触手や胴体にダメージを蓄積させていくが、引き金を引こうとするも二挺から弾が射出されない。

 

弾切れである。

 

一挺の機関砲を口で加え、即座に装填させるために腰から弾倉を取り出して手に持ったもう一つの機関砲に再装填しようとした。

 

「!? マズい!!」

「避けろハインツッ!」

「逃げて!」

 

触手から放たれた光線が今に人狼を消そうと伸びていく、すぐに魔力障壁を張ろうと魔力を絞り出すが、その際に若干羽の回転数が落ちる。俗にいう魔力切れ、人狼には魔力が一般のウィッチ程度しか持ちえず、長い時間ユニットを扱いのと魔力障壁により枯渇する手前であった。

仕方なしに少しでも体を軽くして回避に努めようと、口にした機関砲や握っていた機関砲を離す。二挺が地面に吸い込まれていく中、人狼も地面に吸い込まれるように急降下して避ける。

 

だが、それを狙っていたかのように前方から一本の光線が人狼の元へと突き進む。もしも光線が当たれば確実に存在自体を消滅させられる。今、霧へ姿を変えたところでその霧全体がすっぽりと光線の中に収まってしまう。単独では解決するのができない、要するに詰み。

半ば諦めて己の死を受け止めようと目を閉じる人狼であった。

 

 

 

しかし此処はルール無用の戦場(ステージ)だということを忘れてはならない。

 

 

突然としてユニットが爆散し、それが光線に身体が包まれても身体の一部が出る推進力へと変化した。左腕を目いっぱい伸ばした後に光線が身体を包み込んだ。光線内部は熱いという感情を抱く前に意識が途切れる。場外からはルーデルたちの悲鳴や絶叫が鳴り響いた。

 

一部だけ消滅から逃れることができた左腕は、地面から二十メートルを切ったところで霧化、十メートルのところで霧が身体を構築可能なほどに増量、そして約五メートル地点で身体を構成させていき、全貌が露わとなる。

上半身が半裸の状態で着地を決め、交戦状態へ移行した。

 

「な、何だ今のは!! 一体、何が起きたァ!?」

「た、確かに身体は飲み込まれたはずじゃ……」

「……死んだと錯覚したのに復活を遂げるとは、姉を驚かす悪い弟め」

 

ジェネフとアーデルハイトは驚愕の表情を浮かべ、またルーデルは涙目ながらも呆れたような笑みを浮かべる。

勿論、その現象に至ったまでの経路が存在する。偶然的にユニットが壊れた、という訳でもなく故意に行われたモノだった。

 

 

 

「まったく、エースは危なっかしいな」

 

この現象の立役者となったのはマルセル上等兵である。彼はダラダラと脂汗を掻きながら自身よりも大きい対戦車ライフルを構えていた。再装填しようとコッキングしようとすると口からは鮮血が吐き出され、むせかえる。

 

「ゴホ、ゴホッ!? …そろそろ俺もヴァルハラ行きか」

 

自らを嘲笑をするかのように口角を上げるマルセル、先程の攻撃で無残に崩れた小屋から少し離れた場所で狙撃をした彼だが、横に居た観測手は存在しない。

小屋の瓦礫の中から一本の腕が飛び出しているのがわかる。それはあの観測手の一部で衝撃波を喰らった際に小屋が倒壊、それに巻き込まれてしまったのだ。

 

幸運にもマルセルだけは重傷を負いながらも脱出することに成功した。だけど観測手は彼が声を荒げて確認を取るも返答にも応じない。代わりに腕が飛び出ているだけだった。屈みながら彼の元へと寄り脈を測ると、意識不明の重体でもなく、彼は即死したのだとマルセルは判断した。

 

「血が止まらない。意識も薄れていく……」

 

脇腹に包帯で止血の処置を終えたのにも関わらず、大量の血液が漏れている。倒壊した時に瓦礫の一部が彼の内部に深く刺さったのだ。

やっとのことでコッキングをし終えた時に視界に白みが掛かり、猛烈な眠気が襲う。引き金に力を込めるも一寸も動かない、ただただ時間だけが経過する。

 

何故彼が正確に人狼のユニットを撃ち抜き、間一髪で助けることができたのか。実はマルセルは人狼の霧化を一度だけ見たことがあったのだ。それは戦傷で祖国に送還される前のダリアで戦った際に照準器越しから人狼を覗いた。すると、焼失したはずの腕の断面から霧が巻かれそこから新たな腕が生えた瞬間である。

これを踏まえた上で彼は狙撃をしたのだ。勿論、かなり不利な博打ではあるものも全てのチップを賭けた狙撃は成功を修めた。

 

「やはり、俺の見込みは…正しかった。後は頼む…ぞ……」

 

これ以上引き金を引くことも出来ずに、かくして彼は生涯を終える。

まだ二十六歳と若く将来が有望な天才狙撃手であった。

 

 

人狼は先程の爆破に疑問を浮かべていたがすぐに切り替えて、戦闘を行う。右足を地面に強く踏みしめてから走る。触手は人狼を狙い、鞭のように撓らせる。その攻撃を容易く飛び跳ねて躱すと向かってきた触手一本を蹴る。

装甲はひびが入り二撃目を与えると砕ける。金属音のような絶叫をあげ、上から触手を振り下ろす。人狼はそれを受け止めるが、あまりの負荷で地面にクレーターを作り、タコ型は潰そうと奮起していた。

 

しかし霧化をすることで触手は空を切り、地面にぶつかる。霧化を伏した触手の上で解除して全力の乱打を叩きこむと、みるみるうちにひび割れ完全に動けなくなり、その触手を伝って胴へ接近する。必死に動けなくなった触手ごと他の触手で叩くも、抵抗虚しく自らの部位をより傷つけるだけだった。

 

胴体へとたどり着いた人狼は全身全霊を込めた拳を叩きこむ。しかし、損傷は与えているものも力が足りず、横から触手で殴られ吹き飛ばされる。吹っ飛ばされながらも足を擦って着地に成功、一拍置いてから攻撃を再開した。

 

「なあジェネフ中尉」

「どうしたんだ大尉」

「思ったよりも胴体の装甲が硬い」

「見ればわかる。恐らくは最初の核撃破の際により硬く硬化した」

「ということは魔法力を失ったハインツには勝ち目がないとでも?」

「おいおいそんな奴に見えるか、アーデルハイト。ハインツは隠し玉を持っている」

「だな」

 

力不足が考慮される中、何度も何度も攻撃に移るがどうしても胴だけには確実な損傷が与えられずにいた。

そこで人狼はある考えにでた。

 

 

狼化

 

 

この能力を使わなければ勝利は得れない、きっとまた地中に戻って再び人類の脅威になろう。だが使えば自分も化物の一種だとバレてしまう、後ろには共に戦った四人が残っているからだ。

 

 

 

だからこそ人狼は信じることにした、彼らとの信頼を。

 




ヴィッカース重機関銃

イギリスで生まれた機関銃、1896年にヴィッカース社が開発、1912年にイギリス軍に正式採用されて、第一次世界大戦と第二次世界大戦の両大戦を通じてイギリスで運用された兵器。冷却装置は水冷式である。
百万発で百本の銃身が磨耗して交換しなければならないが、故障が少なかった。また第二次世界大戦の北アフリカではそれが重要になった。
未だに使われている国がある名機関銃でもある。また航空機にも取りつけられた。
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