人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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本性

 

「…」

 

猛攻を加えていた人狼は一旦、攻めの手を緩め、腕を地面に着かせる。四つん這いとなった人狼を遠目から見たジェネフたちは怪訝そうな表情であった。

 

「どうしたんだアイツ」

「実はかなりの怪我を与えられていたのでは!?」

「大尉落ち着いてください、私たちから見ても彼らは攻撃を全て躱していました。その心配はないかと」

「なら何故だ?」

「地面に何か落としたのか?」

 

様々な憶測が飛び交う中、毒ガス弾がガスを出すように人狼から漂い始める。人狼の能力をあらかじめ認知していた三人はそれが霧という結論に至った。みるみるうちに霧が周囲に漂い、包んだ。

これが好機と言わんばかりのタコ型の攻撃が霧を破り去った。千切れ千切れに吹き飛ぶ霧、その中には人狼の姿はおらず、空を切る。

 

 

だが、攻撃した触手の上に居た一匹の猛獣、大きさはとしては同種の既定の大きさを軽く超え、銀色の体毛を(なび)かせる。無論正体は狼、異変に気付いたタコ型はすぐさま振るい落そうと触手をがむしゃらに振るうが、そんなのお構いなしに狼は胴体へと駆ける。

 

重力を無視するかのような跳躍、かなりの知能を持つ頭脳による判断が攻撃を的確かつ

繊細に避けていき、僅か五秒で胴体の元へとたどり着く。黒々とした装甲、そこに全身全霊を乗せた体当たりは装甲に亀裂を走らせ、ガラスの如く割れていく。本性を曝け出した人狼の攻撃には一切の制御が掛からない、なので一発の攻撃でここまでの損失を与えることができたのだ。

 

怪鳥のような悲鳴をあげるタコ型、それでも満足できない人狼は高くへと跳躍、己に備えられていた爪で表面を切り裂いて内部を露出させ核を探す。一度だけ触手に束縛されるも、強引に解除させて攻撃を再開する。

タコ型も必死の抵抗を続ける。敢えて自分の攻撃を喰らっても人狼の攻撃を止めた方がいいと判断、何発かの攻撃を自分で受けて損害を蓄積させ、肝心な人狼には攻撃が当たらない。

 

「な、何なんだ…!」

「あの狼は一体……」

「と、ともかくこちらが優勢だ! 早くやっちまえ!」

「そうだ倒してしまえ!」

「頑張れー!」

 

応援を背に受け人狼は蹂躙を始める。地面へと降り立つと否や触手を口に加え、犬が玩具で遊ぶように振り回す。何十トンもの体積を地面へ叩きつけられ、一発一発を受けるために衰弱を始める。あちらこちらで傷を回復させようと構築を始めるが修復する方よりも受ける方が数を上回り、間に合わない。

 

地面を強く踏み込むと地面が多少抉られ、天高くにタコ型を放り投げる。地が無いと動けない陸戦ネウロイに当たるタコ型は高々と上げられて、今、最高点へと至る。そこに後からその最高点へと合わせ跳躍した人狼の姿が待ち伏せており、後ろ蹴りが炸裂した。重力と押す力による落下時の速度はかなりのもので、撃墜した際、周囲に地響きを鳴らす。

 

後ろ蹴りを喰らわせた人狼は、タコ型が踏み台となりより高くに、最高点へと至った人狼は縦運動で回転を始め、落下していく。速く縦回転する物体は地面に伏して悶えるタコ型を軽々しく貫いた。

けたたましい絶叫を響かせるのをよそに、人狼は体内を荒す。臓物などの仕組みが見られない存在には効果が望めない。だが荒らしていくと分かるように効果的であることが判明した。

 

絶えずに荒らし回ると、暗黒に包まれた空間を照らす赤い発光物を見つける。これがネウロイを動かす動力源である核、これを壊せば全てが終わる。爪や牙といった方法で攻撃を喰らわせた。

これ以上損傷を蓄えられない核は無様に壊れ果てる。体は崩壊を始めると共にあの耳をつんざく声がピタリと止んで、辺りは静寂に包まれた。

 

 

荒れ果てた大地には戦車の残骸、原形を留めない死体、塹壕跡地、そしてタコ型ネウロイの死という事実だけが残留した。

 

 

「……私らは勝てたのか?」

「そう、みたいですね」

「は、ははははっ……。なんとも呆気ない終わりだ、変な気持ちになる」

「私らが必死こいて戦って敗北したのにこうも蹂躙して終えるとなるとな」

「まあ私たちが勝てたのだけよいとしましょう」

「…そうだな」

 

確かな勝利を受け止められないジェネフたち、そこへ人狼が巨体を揺らしながらゆっくりと迫る。通常なら未知なる生物を前に、武器を取り威嚇。もしくは攻撃をするのが一般的だが、彼らはそれをしなかった。いや、できなかったという表現が正しいだろう。

 

接近して三メートル程、人狼は姿を戻す。霧が風船から空気が漏れるように放出していき、何メートルもある体を二メートル程度へと戻し、いつもの上半身の服以外は元通りになる。

その光景を見た彼らは目を見開き驚いている様子が見て取れたが、その色に恐怖という概念が一切感じられなかった。人狼は向きを反転させて、ネウロイたちが攻めてきた方面へと歩み始める。人間とは圧倒的に違うことを見せつけて敢えて別れを選んだのである。

 

すると後ろからルーデルの声が人狼を呼び止める。

 

「待てハインツ」

「…」

 

その返事に応じるように顔だけをこちらへ向けると、彼女の眼には哀しげな視線で何故去るのかを必死に訴えかけていた。十秒ほど静寂に包まれると彼女の口が開きだした。

 

「よくやったな」

「…」

 

それは決して人狼を咎める言葉でもなければ恐怖に怯えるものではなく、ただただ純粋に賛美する言葉であった。彼女はつらつらと言の葉を紡ぎだす。

 

「別にお前の側面を見たからと言って私らはお前を拒絶しない。勿論お前を畏怖する行為もなしに今まで通りに接するだけだ。だから……」

 

 

 

 

「去らないでくれ」

 

彼女の涙が頬に一筋の線を書く。今まで自らの力を誇っていた姿とは一転、年相応の女性として振る舞っていた。アーデルハイトは歩み寄って人狼の腰を掴んだ。彼女も同様に涙を流しながら、涙声で言う。

 

「貴方は、貴方は何に姿を変えてもハインツ・ヒトラーであることには変わりはないのですよ」

「そうだ。お前が何をしようも弟であることには変わりはない」

「…」

 

必死の静止に戸惑っていた人狼に追撃を掛けるようにジェネフが声をかける。

 

「もう俺とエドガーはたくさん喪失した。家族に一緒に飯を食らい飲んだ戦友や隊員を亡くし、戦車や故郷を無くした。……これ以上、これ以上に失いたくはない。お前だけがあの地平線を超え、荒廃したカールスラントで残ったモノだから」

「……」

 

ガスマスクからでは感じることは出来なかったが彼から哀愁漂う声である。彼も余程の絶望を胸にしていたのが嫌々とわかった。いや、わかってしまった。

今まで兄貴分として慕っていたジェネフは今となってはその片鱗を見せない。絶望に片足を突っ込んだ一人の人間であった。

 

 

人狼は決心をせざる終えなかった。彼を突き放して何処か遠くへ逃げるのも一つの選択肢。もう一つは彼らのために一緒に戦い続ける、この二つだ。

もしも、人狼がこの世界に転移しなければ前者を選んだはずだ。だがこの世界で人の温かさを存分に受けた人狼は後者を選んだ。

 

「…」

 

今度は彼女らの元へと反転、そのまま真っすぐと本部へ進んでいく。彼女らの顔が明るくなるのが見て取れた。壊れた戦車の横で伏したエドガーを背負い、人狼一同は歩み続ける。

 

一歩一歩確かに踏みしめ、希望を見出すために。

 




三脚

元々はカメラなどを固定するために作られたものだが、時代とともに被写体を捉えるものから敵兵を捉えるものへと変わる。
対空砲火をする際に仰角を上げることが可能で、機関銃を固定できる。通常は二脚を塹壕などで用いる。
機能の高いものは35から40kg程度の重さがあり、設営・撤退・移動の際は分解し、2-3名で分担して持ち運ぶ。
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