人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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これで欧州撤退編は終了で今度はアフリカ編が始まります。
それと巻きで作ったため、長文かつ誤字もあるかもしれませんのでご了承ください。


水面

様々な歴史を紡いだ欧州には少ならからず数医学や物質に数式が生まれ、それは将来の発展の礎となった。

 

時にある者は今は亡き大陸国の錬金術書を何処からか手に入れ、実験をし、結果的には金よりも価値がある白雪のような皿を生み出した。

 

時にある者は天才と称されるほどの能力を得ていた音楽家は、近代音楽の基盤となり未だに聴かれることとなる名曲を生み出した。

 

時ある者は異形の侵略者に対し、新たな戦略を用いて撃退したちまち英雄へと昇華して人類を救済した。

 

 

世界にとって欧州という存在は非常に重要な文明の発展場だったと言えよう。欧州は晴天の星空をも打ち消すほどの明かりを手に入れた。

だが、一世紀の前半期に三度に渡る異形の侵略者によって土地は崩壊していき、ついには欧州の大部分を失うという結果に終わってしまう。

 

人々は悲愴し憤怒や絶望に浸ったが、それに勇敢にも立ち向かい、自らの国を奪取しようとする人間も当然の如く存在した。彼らは歯がゆい想いを募らせつつも武器を揃え、好機を待ちわびていた。

そんな中、陥落したパ・ド・カレーでうごめく影がそこにはあった。

 

 

「畜生、あっちもこっちも敵ばかりだ。何でも俺らは戦車乗りだから大して戦えないからなぁ……」

「愚痴を吐き捨てるな、その口を開けられなくしてやろうか」

「おいおい、ただでさえ右腕負傷してるんだからやめてくれ」

「車長、ハインツが索敵して迂回してくれているのです。泣き言は言わないでくださいね」

「……けっ」

 

建物の陰ではルーデルとアーデルハイト、それに山羊隊のジェネフにエドガーが待機していた。司令室から武器を何挺か拝借して武装、ルーデルとアーデルハイトはMP35を装備、ジェネフは右腕を骨折しているため片手で扱え、慣れていたワルサーP08となった。

エドガーも訓練時から使っていたKar98を用いる。

 

煙草を吸い少しでも恐怖を紛らわせることも瘴気の影響できず、苛立ちが隠せなくなっており、それをエドガーが落ち着けと諭していた。

ルーデルは先程のジェネフとのやり取りとネウロイによって彼女も苛立ち始めていた。彼女はネウロイを倒すのを一種の生きがいとしていたため、このような状況に陥ると無性に腹が立って仕方がないのだ。アーデルハイトはエドガー同様に諭す。似た者同士である。

 

不意に空から何かが落ち、地面に着地をする。すぐさま彼らは銃口を向けて臨戦態勢を取るが正体は人狼であった。人狼の手には相変わらずの腕力でMG30を抱いている。

一同は安堵するとすかさず迂回できる道があるかを訊きただす。

 

「道はあるのか?」

「…」

 

人狼は頷く様子を見ると彼らは武器を下げて軍靴の靴紐を締める。人狼が先導して建物の陰を抜ける。眼前には荒れ果てた建物や死体が散乱しているがそれを避けてネウロイに見つからないように隠密行動を行う。

何故このような残虐な地を平然と歩けるのか。まあ要点だけを話すのなら、戦場に慣れてしまいこれが普通だと錯覚していたのが一番の理由である。

 

 

「…」

「!」

 

人狼が街角の十字路へと至った瞬間に、彼らに向かって待てと示すハンドサインを送る。それに応じて各々は武器を構えつつ、障害物へと散開した。

一人人狼から離れることがなかったルーデルは人狼が街角を凝視している方向へ目を移す。その先には嗜虐の行為だろうか、一人の若い青年がすでに息絶えているのにも関わらず、その四肢を脚で刺して壁に張り付けている小型ネウロイの姿があった。

 

ルーデルは激しく奥歯を噛みしめる。もしもこの場にストライカーユニットが存在すればあの程度は倒せる。だけどそれは仮定の話で今は魔法力を扱えるだけの女子だ。一人果敢に攻めてもネウロイは倒しきれないだろう。己の非力さと残虐行為に浸るネウロイに激怒していた。

 

人狼はMG30の引き金に手を掛け、角から飛び出そうとした。

だがここで予想だにしない出来事が起きる。

 

 

「やめろおおおお!!」

 

何ということか、角から最初に飛び出し攻撃を加えようとしたのは現段階の一行の中で

一番の負傷をし、一番貧弱な武器を携えたジェネフだった。

彼は激しい怒りを放出し、ネウロイへと向けて銃弾を放つ。当然、魔法力もなく、銃の威力は低いためネウロイへの表面に与えた損傷は小さい。しかし彼はそんなことお構いなしといった風に全ての弾を打ち切るまで銃撃を続ける。

 

弾を撃ち終えて息を切らす彼を照準に補足したネウロイは内蔵された機関銃を撃ち始める。そのうちの一つが彼へと収束していき、ガスマスクを貫通して眼球に命中した。

 

「ああああああああ!!」

 

貫通されたことによる鋭い痛覚が彼を刺し、けたたましい悲鳴をあげる。すぐさま人狼が彼を引っ張って射線から抜け出す。ルーデルに彼を預けると人狼はネウロイのもとへと駆け抜ける。全ての銃弾を人狼は大きな瓦礫を手に持ち、盾として用いて防御する。至近距離になった瞬間に零距離で機関銃の引き金を引く。

軽快な音を同等の音で紡ぐように発射され、見事ネウロイは撃破される。

 

倒し終えると即座に負傷したジェネフの元へと駆け戻る。

彼はエドガーによる応急処置を受けている最中である。ガスマスクを一時的に取り懸命に包帯を巻く。すぐに包帯は真っ赤な鮮血に染められていった。

意識だけはあるようで脂汗を掻き、虚ろな視線で空を見上げる。

 

「何故そんな無謀な行為をしたんだ! 今のお前は非力だというのに!」

 

ルーデルは彼を糾弾した。彼女は何故あれほどまでに愚かかつ無謀な行為に出たのかを知りたかった。そして溜まった鬱憤を彼にぶちまける。

そんな姿を見たジェネフは哀しげにその原因を呟き始めた。

 

「……俺は、殺されたアイツを知っている。この前街に来た時に出会った奴で名前はクルトと言うんだ。最初に俺の戦車隊のファンとなってくれた青年だった…」

「ただ…ただそれだけでお前はあんな無茶な行為をしたのかッ!」

「馬鹿野郎、俺は昔から短気で口よりも先に手が出ちまう。遅かれ早かれ俺はこんな行為に出たはず、だ。…そ、れに……」

「車長! 喋らないで、今このガスマスクを!」

 

エドガーは予備のガスマスクを彼に装着させ、瘴気による死因を防いだ。だが、止血はしているが早くこの傷を手当しなければ出血多量で死ぬだろう。すぐさまにブリタニア本島に向かわなければならない。

 

「俺は、年長者だ。お前らみたいな若い奴に戦争を任せたくはないしな……」

 

マスク内でニヒルな笑みを浮かべるジェネフ、そしてどう移動するかが問題となる。しかし瀕死の重傷を負った彼を背負うことを自ら名乗りでたのは以外にもルーデルであった。

 

「私は何も動けなかった。実際のところ恐怖で怯えていたのだろう、だけど今は違う。片腕を負傷して的確な対抗手段を持ちえなかったジェネフがこうも決死の行為を犯したのだ。そう考えると私も負けてはいられないと思ったからだ」

「……わかりました。では私が大尉の分まで働くとしましょう」

「頼むぞ」

 

アーデルハイトは二挺のMP35を持ち、エドガーはジェネフの所持品を持つ。

二人の上官は似たもの同士で共に面倒事を起こす問題児だったが、恩情と信頼を与えられていた。少なからず自分が怪我を負い、万事休すとなっても直々の上官である彼らなら助けてくれると思っていた。ならば、今度はこちらが助ける番、熱い奮起の火を眼に灯した。

 

「死なないでくださいね、車長……!」

 

 

迂回ルートで進み続けて三十分が経過した。彼に返事を送っても弱々しく返答するばかりで死は近くへと迫りくるのを深く実感する。

遭遇する少数のネウロイを人狼が蹴散らして、やっとのことで港へ出ることができた。

当然、軍艦は存在するはずもなく、黒く油で汚れた水面には船の残骸らしき物体が浮遊して、何もできない彼らを煽り続けているようにも思えた。

ルーデルは舌打ちをし、激しく怒りを露わにする。

 

「くそっ! やはり船は……!」

「……車長起きてくださいね、車長」

「起きてるぞ……」

「どうしましょうか、救援は来るはずもないですし」

「それにいつアイツらが来ても撃沈されるのが関の山だ」

 

一同は頭を抱えて考え込む、ドーバー海峡の上空には航空ネウロイが新しく手に入れた空を自由に飛び回っているのに対し、人類側の機体は何処にも存在しない。

例え制空権を再び奪取するとなるとかなりの年数や数が必要となるだろう。空輸による脱出は不可能と定め、海上から脱出するしか手がなくなってしまった。

 

エドガーはどうしたものかと辺りを見渡すと、約二百メートル先に小さな漁船が孤独に浮かんでいるのを視認する。この撤退には民間の漁船も動員されているのであり、別におかしくはない。

 

「あれ、使えるかも……!」

「どうした?」

「あれ、漁船ですよ。故障していなければ動かせます!」

「……けど何故あの場に放棄されているのでしょう?」

「乗員がネウロイに攻撃されて、操縦されないままあそこに流れ着いたとか」

「もしその船を動かせたのなら、僕らは助かることができます!」

「けど実際、簡単にいくものか?」

 

エドガー自身、かなり不安に駆られていた。あの船はエンジンが壊れて放棄された、もしくは船体に損傷を受けて動けなくなったという考えが飛び交う。それに船まで辿り着く間に攻撃を受けたら死ぬ可能性も浮上した。

しかし、現状の状況を打破するにはこれが最適だと判断し、深呼吸をして走りだそうとする。

 

「正気か、不確定要素が多すぎる!!」

「正気ですよ、だけど今やらなければ僕の馬鹿な上官が死んでしまう! 僕がやらなきゃ誰がしますか!!」

「だが…!」

「大尉、彼の言うことは最もです。彼に任せることにしましょう」

「アーデルハイトまで…!」

「私も彼と同じですよ、自分に親しく接してくれた上官を助けようとするためには手段を選ばない。やらせてあげましょう大尉、きっと成し遂げてくれます」

「……わかった。だけど、だけど必ず船を持ってこい!」

「了解しました! この山羊の名に懸けて!!」

 

彼は船へと全速力で駆けだす。山羊の名は決して軽いものではない、しかとて別段重いものでもない。ただジェネフが非公認に呼んでいるだけで書類には試験戦車中隊と書き綴られているだろう。けれども、彼はこの名前を戦前から呼称して、誇らしげにしていた。

それが子供のようだと呆れていた自分にも、いつしか誇らしく感じていた。

彼は全身全霊で走る。例えその脚が砕けても、這いずってゴールへと至ろうとすることだろう。

 

「うおっ!?」

 

途中で建物内から出現したネウロイが彼を殺そうと飛び出すが、遠方から発射された機関銃がネウロイに損傷を与える。撃ったのは人狼、照準をあえて彼に合わせ援護をしていた。彼はこちらを振り向くこともなく船へと走る。

人狼は彼の援護で手が離せない、見計らったネウロイが数体正面からこちらへ接近する。

なお、結果としてはアーデルハイトのMP35で蹴散らして結晶へと変わり果てる。

 

「私も何か仕事をしなければ無能になってしまいます」

「何言ってるんだ。初めての冗談がそれでいいのか?」

「手を焼く上官同士、通じ合うものがあるのです」

「ほほう、あとでみっちり訓練してやろう」

「喜んで」

 

何度も何度も彼へと攻撃の手が伸びるも人狼は排除、援護を切るためにネウロイが迫るがアーデルハイトが防衛に努める。何回も同じ場所で発砲しているのが響いたのか、数も徐々に増加の一途をたどる。

始めは一体や二体ほどだったのが、いつしか倍へと変わり攻め手を緩めない。人狼も援護しようと銃撃するが、一体撃ち漏らし、彼へ手腕を伸ばした。

 

「うあっ!?」

 

しかし間一髪で回避すると、所持していたライフルの銃床で殴り、僅かながらに距離を置いてからの射撃。銃の扱いは元砲手だったため上手く、銃の威力を考え脚を狙った。脚は砕けてバランスを崩し、なんとも苦しそうにもがき始める。

彼らしからぬ中指を立ててから船へと向かう。追撃をしようとネウロイは脚を生半可に治すが人狼の射撃が無残にも砕き去られた。

 

 

「動け、動いてくれ!」

 

漁船へと飛び乗ったエドガーはエンジンを起動させようとレバーを引く。掛かりそうで掛からない音を鳴らし、呼応はしない。汗が首元に垂れて酷く緊張する。いつネウロイがこの船に乗ってもおかしくはないのだ。

居ても立っても居られなくなった彼は、感情のままにエンジンを殴り付ける。するとエンジンは無理やり起床させることに成功して、テンポよく振動するのを実感した。

 

「行くぞ!」

 

漁船は小さいながらも精一杯にスクリューを回して前へ進む。舵も利くようで、彼が立てた仮設が当たっていたらしく、緊張から感じなかった嗅覚には血の臭いがする。木箱の陰に臓器の一部が隠れ、船の側面には血が付着していた。幸いにもエドガーは漁村出身で船舶の取り扱いには慣れていた。

 

 

「船は出た。私らは船が来るまでの間、耐えきれば勝利だ!」

 

ジェネフを背負いながらも自身の拳銃を撃つルーデル、人狼はバナナ型弾倉を新たに代えると射撃を続行する。魔法力入りの機関銃ともなると絶大な威力を与えてくれる。アーデルハイトは器用にも二挺の銃を振り回し弾幕を張る。

 

なかなか前へと進めないが、一歩、また新たに一歩と全身を止めない。数も終結してきて倒されたら後ろから現れ、きりがない。これしか手段は無いために必死に足止めを行う。ジェネフも戦うと擦れた声で言うもルーデルに今度こそ邪魔だ、と断られてしまった。

最初は二百メートルもなかったのに、いつしか百メートルへと進行される。このままでは危ういと感じ取った人狼は機関銃を捨てて突出する。ネウロイの群れへとダイブし、無茶苦茶に場を乱す。千切っては投げ、蹴り飛ばし、振り回しといった行動だ。

正面からでは分が悪いと何体かのネウロイは横から攻め込むがアーデルハイトが阻む。

 

人狼は途中で狼化、牙や爪で切り裂いて進行を停滞させる。鋭利な足が顔を刺しても手は緩めず、逆にそのネウロイを壁に叩きつける。股の間を潜り抜けたネウロイに対し尻尾で弾き飛ばした。

 

 

「みなさん、乗ってください!!」

 

エドガーが舵をする漁船はルーデルの元へと辿り着き、乗るように催促する。ルーデルは渾身の力でジェネフを背負ったまま跳躍すると、船体ギリギリに着地することができた。続いてアーデルハイトが最後の攻撃と横から攻めくるネウロイに銃の弾倉を投擲し、さらには手榴弾をも投げた。

手榴弾が発破すると、先に投げた弾倉に誘爆して威力が増す。爆炎がネウロイを包み込むのを確認した。

 

「ハインツも来い!」

「早くしてください!」

「ハインツ!」

「…」

 

必死に催促をするが人狼は一向に乗ろうとはせず、逆に去れというような仕草を見せる。横からは新たにネウロイが攻め、この漁船も襲撃される恐れが出てきた。エドガーは苦渋の選択を責められることとなる。彼は唇を噛みしめながら船を出すこととした。

 

 

船が陸地から十メートル離れた頃、人狼は狼化したまま攻撃の手を止めて船へと向かう。陸地の瀬戸際で前に跳躍

し、船に跳び移ろうとする。確実に船へ収束をしていく中で、機銃を備えたネウロイが人狼へ射撃を行う。太股や尻尾に命中するも変わることなく船へと進み、着地するギリギリで狼化を解除した。

あまりの速度で着地した人狼は反動を制御することができずに猛烈な勢いで転がり出した。

 

「止まれ!」

「…」

 

背負ったジェネフを降ろしたルーデルが受け止め、海上へ落ちることを阻止し、一同は安堵する。

かくしてルーデル、アーデルハイト、ジェネフ、エドガーは命を落としかけて欧州から脱出することに成功した。

後世に映画化されるほどの脱出劇となった出来事だったが、それは人類が生き残ることができたifの世界かもしれないし、その逆もある。

 

しかし、どうあっても人狼たちの脱出には変わりない真相である。

その日の夕日は燦々と眩しく輝いている風に想えた。

 




MP35

ドイツで生まれた短機関銃、1932年に開発された。
第二次世界大戦中のナチス・ドイツで開発された短機関銃で、ドイツでは国防軍や武装親衛隊、その他の警察組織で広く使用された。
数々の銃会社が生産しており、装弾数は二十四発から三十六発と弾倉で変わる。
特徴的な部分としては、弾倉が銃の横から差し込むことである。
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