人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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案外ジョイルのことを覚えていない方が多いと思いますのでちょっとした説明を。
ジョイルは『開幕』という章にて登場した漁船の男の子です。


降下

轟々と輸送機は雲一つない空を飛行する。

ふと下を見下ろすと荒野が地平線の果てまでに広がり、一片の緑は存在しない。

アフリカ戦線は話に聴かれたよりも過酷な土地だということを改めて認識した。

 

そんな大地に一本縦にひび割れた所が存在し、人狼が目を凝らしてみるとそこは味方の塹壕らしく、少し離れたところの小山には防御陣形が布陣されている。

人狼は煙草を吸いながら荒野に何かいないのかを探る。

今日は運がいいのかそれともネウロイどもが大規模作戦を考えているのかは不明であるが陸上ネウロイの影を見つけられない。

 

『ハインツ大尉、そろそろ基地上空となります』

「…」

 

数時間後、固い座席で読書に浸っていた人狼に基地が近いと通達される。

人狼は本を仕舞うと同時にボストンバックを持って扉の前に立つ。

いささか早いと前もって知らされていまい者は嘲笑うだろう。何故ならまだ着陸もしていないのに気が早いと口々にするからだ。

だが、前もって知らされて輸送機の操縦士は息を呑み、緊張した様子で人狼に語りかけてくる。

 

『大尉殿、本当にやるのですか?』

「…」

 

人狼はその質疑に首を縦に振って答える。なお操縦席と扉前に居る人狼のジェスチャーは通じないと思うが。

操縦士は事故っても責任はない、と自分に言い聞かせながら輸送機の扉を開ける。

扉からは猛烈な風が吹き曝し、流石の人狼も片手で扉の縁に捉まり耐える。風が帽子を奪い盗ろうとし、もう一つの手で帽子を押さえる。

下を向くとテントや飛行場がゴマ粒サイズで視認した。

滑走路は荒野の砂がタイヤ痕を残し、模様を描いており芸術的なモノを感じた。

 

人狼はついに輸送機から飛び出し、地上に向けて降下を始める。

耳に風を切り裂く音が聞こえ、それはストライカーユニットを履いている状態とは違った感覚だ。

そもそもユニットを履き飛行する際には風防対策が施されており、極薄の魔法障壁が張られる。この魔法障壁で風を半減させ、従来の飛行が可能となるのだ。

しかし今はユニットすらも着用していない、ユニットは現在輸送機の中で後に降ろす。

 

常に帽子を押さえたままと降下する描写はまさにオズと魔法使いを想わせるだろう。

地上との距離は徐々に近づいていき、三千メートル、二千メートルと縮まるばかりでテントの大きさも比例して大きくなる。

千メートルを超えた辺りで地上に向けて発動する障壁を準備し始める。かなりの高度から落下じみた降下はかなりの落下エネルギーを有する。

普段から使用している厚さのものだと糸もたやすく砕け散るため、何倍もの魔力を抽出して障壁の厚みを上げる。

 

誰もいない空間を狙って降下したため、人にぶつかるという不幸な事故は起きない。

地面に足が接地する手前に構築していた障壁を展開、何十の魔法陣が地面に写されていき、突風と砂埃を巻きあげる。

それによってテントはなびき、周辺にいる兵士たちは目を覆う。

その後、まさか突風を与えた正体がカールスラントで最強を誇るハインツ・ヒトラーだと知り、唖然とした表情で立ち尽くした。

その面子には、アフリカの魔女たちが同席していた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

人狼が降下する前のこと。

昼食を食べ終え、各自休憩をする兵士たち。

その中には、普段アフリカの制空権を始めとし数々の困難を切り抜けた勇ましい魔女が雑多な木箱で作られた長椅子に座り、だらけていた。

上にはテント同様の布の屋根が張られてはいたが、この灼熱の太陽のもとでは一定の効果しか果たさない。

 

「あ、暑い……」

「そうだね、また氷があれば少しは楽になるけど……」

「使い果たしてしまったからね、こうなったら冷蔵庫に入ろうかな」

 

略帽を被った金髪の少女と黒髪の小さな少女が向かいあい、机に突っ伏している。

天気が快晴という状態は裏返せば雲によって一瞬でも太陽が遮られるといった状況が起きないことを意味する。

彼女たちがアフリカで重要な存在を受け持つ航空ウィッチたちだ。一見して身長が平均よりも低い黒髪の少女稲垣は、その華奢な体系とは裏腹に8.8 cm FlaK高射砲を使用して大型ネウロイを破壊した戦績がある。

 

そのテーブルの隣にはむしゃくしゃと不機嫌そうにチェスの盤面を睨みつけるゴーグルを着けた金髪の少女に相対し、奪った駒を弄ぶ扶桑風の女性がため息を吐く。

ゴーグルの少女は何か打開策を想い浮かんだのか自信満々に一手を指すが、相手の彼女は勝利を確信した表情を浮かべることもせず、詰みであることを宣言する。

 

「チェックメイトよ、マルセイユ」

「ぐああああ!! 何故私は負けたんだあああ!?」

 

後ろに仰け反りやや過剰にリアクションを取るマルセイユ、彼女が負けた理由を淡々と並べる扶桑の女性。

ぐぬぬといった表情でマルセイユは彼女を睨みつけるも決して威圧といった感じではない、負け惜しみに近い何かである。

 

「もう、何で最初にこう一気に攻めちゃうのかしら。防衛のことを忘れるのが敗因ね」

「……私にはケイとあの無駄飯食らいのロンメル将軍だけでうちの参謀は務まる。私はこのクイーンのように駆け撃破するだけだ」

「まあ参謀とかマルセイユには似合わないわね、頭使わないし」

「頭は使うぞ、どこの部位を攻撃すれば倒せるかとか」

「いやま確かに天賦の才だけどね、貴女」

「そうだろうそうだろう!」

 

マルセイユは仮にもエース。それもトップクラスの者で怪我をして除隊する前の私であっても勝てないことは見抜いていたため、彼女に演習を仕掛けなかった。

もっとも、上がりを迎え能力的に戦闘が不向きになったことや、普段から会計などの細かい事務をこなす彼女が仕掛ける余地もない。

そして彼女は仕掛ける側より仕掛けられる側である、主にマルセイユに。

 

頭を使って疲れたのか酒を持ってこようとするマルセイユを加東は見透かし止める。

まだ真昼間でいつネウロイが襲ってもおかしくはない状況で飲酒をさせるのは愚かである。近場の農業で手に入れた絞れたての牛乳で我慢していただきたい。

それに今日はカールスラントのエースがこの場に居合わせるのだ。せめて初対面はふつうにしてもらいたいのだろう。

彼女は不服気味に再度席についてチェスの駒で遊び始める。

 

 

だが唐突にマルセイユが何かを感知し、自身の使い魔である大鷲の翼が頭横から対称に生える。左右の翼は整っており、羽色も美しい。

彼女は険し気な表情へ移り変わり、屋根から出て胸に掛けていたサングラスで空を凝視する。

この奇妙な行動に違和感を覚えたのか、稲垣やライーサ、そして加東が外へと。

 

「どうしたのよ、いきなり」

「何かが、来る」

「はい?」

「まさかネウロイ!?」

「けどライーサさん、警報すらもならないしこの晴天の空では姿を見られずに飛来するのは無理だと思うよ」

「じゃあ何だろう」

「何だろうこの感じ。私らと似て――――――」

 

マルセイユが言い切ろうとした時、突如目の前の空き地から何かが墜落して砂埃や突風を生み出した。

強烈な風と砂塵に思わず目を覆う一行、他の兵士も同様で顔を隠したり、砲弾が飛来したのかと察した兵士は地面に伏せる。

マルセイユは拳銃を抜き、その落下物に対し臨戦態勢を取って銃口を向ける。

 

 

だが砂塵の中央から銃声が響く。

放たれた銃弾はまっすぐに彼女の拳銃へと収縮していき、火花を鳴らして彼女の手から手放される。

砂塵が晴れると落下物の正体が露わとなる。

当然、その中心に居たのは沈黙の狼こと人狼であった。

 

「はあっ!?」

「なっ!?」

「えぇ!?」

「ひゃっ!?」

 

各々は驚嘆を隠し切れずに声を漏らす。

声に恐怖などが入り混じる少女もいるが人狼はあえて無視し、向けた拳銃をホルダーに納めて、統合戦闘飛行隊アフリカで責任者のような立ち位置の加東に敬礼を向ける。

階級は同級ではあるが、責任者という立場上彼女のほうが上であるため敬意を払わなければならない。

彼女も敬礼に気付いたのか、彼女も敬礼を返してあらかじめ決めていた詳細を口にする。

 

「よくこの辺境の大地アフリカに来てくれたわね、感謝するわ。輸送機で来るはずだったのになんで降下してきたのかはわからないけどこれからよろしく頼むわね」

「…」

「もう貴方用のテントは準備してるからそこに荷物とか置いて待機してて、後で呼びにいくから」

 

人狼は頷くと大きめなボストンバックを手にそのテントへと向かおうとする。

しかし、敵意の眼差しを持った彼女が人狼を睨みつける。人狼は不思議に思ったのか振り返るとマルセイユが、彼女は唐突に何を思ったか爆弾発言を言い放つ。

 

「お前、私と勝負しろ」

「…」

 

それはまさかの演習の申し込み。

人狼はその申し込みを怪訝そうな顔でまだ火が着火していない煙草を咥えながら見つめる。

彼女は決して人狼に臆することなくまっすぐに人狼を捉えており、隣に居たライーサが止めにかかり、また加東は面倒なことに進展したといった風に手を頭で押さえている。

人狼は彼女の申し込みを無視してテントへと向かおうと足を進めようとする。

 

「喰らえデカブツ!」

「…」

 

しかし前に進もうとするが彼女から飛び蹴りが繰り出され、嫌が応でもそれに対処しなければならない。

ボストンバックで振り向きざまに盾として使用、攻撃を防ぐと空いた手で彼女の頭部を鷲掴みににして持ち上げる。

 

「離せ離せ!」

「…」

 

だが痛覚をそれほど感知しない程度に押さえて、持ち上げたため彼女は焦燥に満ちた顔をしながらも苦痛を漏らしてはいない。彼女は必死に手足をバタつかせて無意味な抵抗を続ける。

 

「やめなさい!」

 

この一連のやり取りに危機感を抱いた加東が間に入り止めに掛かる。

人狼としては敵意などは皆無だったのですんなりと手を放して彼女を開放する。

これで懲りたかと目的のテントに向かう人狼にマルセイユは牙を向けて吠える。

 

「私と空で勝負しろ!」

「…」

 

彼女は加東の制御を振りほどこうとして暴れまわる。

どうやらこれを受諾しない限り、この一連は収まらないらしい。

人狼は渋々といった雰囲気を醸し出しながら片方の手袋を彼女に向けて投げる。

 

ガリアの血筋である彼女はこの動作を知っていた。

これは昔ながらの決闘を受諾、もしくは申す動作で作法としては知っていたがまさか実際にやられるとは思わなかった。

 

「ユニットが届いたらすぐにだ。いいな」

「…」

 

彼女が断る理由もなく決闘の時刻を決めるとその手袋を拾って人狼に投げ返す。

後頭部に当たる前に受け取って着用した。

問題事を起こし続ける彼女に呆れた加東は非常に大きいため息を吐き、今夜の夕食は何だろうかと現実逃避をしていた。

 




土嚢

土砂を詰め袋を縛り積み上げることで、水や土砂の移動を妨げることができる。
昔は麻袋を用いたが今はプラスチック系統。
どこにでもある土で防弾壁を作る土嚢は軍隊の基礎的なモノでスコップと土嚢で陣地を作る技能は兵士が修めるべき基本的なものとされる。
短時間で大規模な野戦築城が可能である。
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