人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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演習

「お前ら慎重に扱え、何せ英雄の逸品だ。生半可に扱うと罰が当たるぞ」

「「「了解しました」」」

 

整備兵が人狼のストライカーユニットを木箱から開封する。

そこから分解されたユニットを取り出し、慣れた手つきで組み立てる。

このアフリカ部隊のカールスラントの整備兵は能力的に優れているおり、以前にマルセイユの機体を改造をこなしている。辺境かつ僅かしかない予備の部品で改造が可能だったかは今までの経験を基盤とし、整備兵全員で結論を求めたためである。

 

また組み立ての際に内部構造を覗いて欠陥がないのかを確認、組み立てが終えると表面の塗装や小さな凹凸がないかを手の感覚で探る。

表面に異常が見られないことを確認すると若き新兵がその機体の感想を呟く。

 

「……美しくも、勇ましい」

「そりゃあお前、皇帝陛下から幾つかの勲章を授与したお方だ。超一級を与えなければ国としての面目がないだろ」

 

完成した機体は黒光りし、一見すると普段から使われているであろうbf110そのものだ。

だが、内部構造については高出力の魔導エンジンを始めとする幾つかの機構が違う。

その中で特異性を放ったのはユニット後部から小さく突出する機関銃だ。

例え、飛行機の方のbf110には後部銃座が付いているものもストライカーユニットには付けられない。問題点としては二つ存在する。

 

一つは重量について。当然、機関銃やそれを起動させるための弾薬を載せるので重量は増すため、機動性や速度に安定性が悪くなる。しかしエンジンや本人の魔法力により可能になる場合がある。

だが二つ目の問題でそれは構わない。

 

それは被弾時のことだ。足にただでさえ燃えやすい燃料を積んで飛行するのに追加で弾薬を搭載するのだ。一発でも被弾すると最悪、弾薬が爆発したら燃料がその爆発に助長するのは確実。魔法力があるからといい、近場の爆発を防ぎきるとは到底想えない。

これは道徳上の問題であった。

 

けれど、人狼特有の驚異の自己治癒の能力が問題を解決させた。

開発当初は非難の声が後を絶たなかったが、戦闘に参加するにつれ歓喜へと変わっていった。

 

後部機関銃に通常より半分程度の演習弾を装填する。

ペイント弾ではあるがやはり物資が足りない。節約しなければならなかった。

ちなみに機関銃はドライゼMG13という骨董品である。

 

 

「大尉殿、一度履いてもらえますか? 計測して問題がないかを調べたいので」

「…」

 

人狼は近場の椅子で組み立ての工程を見守りつつも何年も前に購入した狼男の小説を読み進めている。これが何度目かはわからないが、不思議と愛用していた。

それは故郷のカールスラントの物だからということもあるだろう。

人狼は立ち上がり器具で固定されたユニットに足を挿し込み、魔法力を流し込んだ。

 

「す、素晴らしい! かなりの回転数だ!」

「最高速度はきっと本来のF型より上でしょう!」

「こりゃあ整備のし甲斐があるな」

 

興奮気味の整備兵を横目に、マルセイユが近づいてくる。

彼女に気づいた整備兵らは敬礼をしざるおえない。普段はマルセイユに対し友好的に振る舞い、畏敬の念は抱いてはいなかった。

だが今は異なる。

彼女は自身の使い魔に匹敵するだろう眼光でこちらを睨めつけ、敵意を剥き出しにしているからだ。殺気は感じられなくとも灼熱の空気が冷える。

 

「私は先に行く」

「…」

「そして勝つ、絶対にだ」

 

再度、宣戦布告を告げると踵を返して自身のユニットの元へと戻る。

彼女が立ち去った後、整備兵たちは冷や汗を拭い、演習弾が込められた二挺の機関銃を渡す。

五分後、彼女は固定された機具から飛び出して大空へと飛翔する。その姿はまさしく鳥であった。

 

ヘイトの先となった人狼に向けての同情の眼差しを投げかけられる中、人狼は牙を見せる。

今の今まで己を英雄だ救世主だと持ち上げられ、自身に敵意を向けるのは異形の怪物のみとなって物足りなさを覚えていた。

しかし、このアフリカの地で久しぶりに人間である彼女が人狼に敵意を向けたのだ。新鮮かつ好戦性が増すような感覚が胸をときめかせ、目を濃く染める。

戦闘にすべてを賭けた種族は固定機具を外され、空へ向けて飛んだ。

 

 

『ほう、怖気づいて逃げてしまうかと思った』

 

耳からはインカム越しで無線が、そして彼女の声を聴く。彼女は精神的に動揺をかけているのか、あるいは単に自身からきた慢心なのか。

人狼は彼女と向かい合い、互いに威嚇をするかのように睨む。

すると彼女は目の前の大物から放たれる異常なまでの圧に押しつぶされそうにはなるも、意地が張ったのだろか堪えて睨み返す。流石にアフリカの星と呼ばれた人物でもあり、地上でされたモノより鋭利な敵意を感知する。

 

『内容は簡単、ペイント弾で被弾だけだ』

「…」

『ふん、黙りこくってばかり。少しは喋ったらどうだ』

「…」

『……無視か』

『ちょっと貴方たち!』

 

人狼の対応で不機嫌になったマルセイユ、詳細を説明された後に第三者からの声が聴こえる。

その声の持ち主は加東で心配そうに人狼らに語りかける。

 

『貴方たち模擬戦をするのもいいけど、気をつけなさいね』

『わかってる。私は強い、怪我をさせないようにはするさ』

『ならいいけど……』

『開始の合図は再度向かい合いながらすれ違う』

「…」

 

頷くと彼女はすぐさま離れて距離を離す。

人狼も離れ、彼女と向かい合う。彼女の方が先に勢いよくこちらに突っ込む、速度を上げようとしているのだろう。人狼も遅れて魔法力をユニットに注ぐ。

双方のエンジン音が大きくなり、ついに交わり模擬戦が始まる。

 

先手を打ったのはマルセイユの方だった。

彼女はすれ違い、右へと旋回。その際にエンジンの出力をあえて下げることで旋回時の無駄な半径を極力減らすことにより、後ろにつけるようにだ。

一方で人狼は空戦技術に関しては普通程度で二年経過するとそこそこの実力はついたらしく、後ろにつかれないようにと左右に旋回していた。

 

だが空戦、そして格闘戦ではマルセイユが優位に立てた。

彼女は完全に人狼の後ろをとると安易に銃を撃たずに照準を絞って短射する。

即座に人狼は躱し、彼女へと振り返り銃弾を浴びせる。けれど未来を予知していたかのように、躱されてしまう。

人狼はシザーズと呼ばれる空戦技術を行い、マルセイユをわざと追い抜かされようとした。

単調な動きでシザーズを行う人狼に舐められているのかと思ったマルセイユはシザーズが行われている最中にもついていく。イラつきながらも動作に追いつき、嘲笑う。

 

『馬鹿にするのもいい加減にしろ、英雄』

「…」

 

彼女は弾を何度もばら撒くが未だに当たらずにいた。

いくら空戦軌道が雑だからといっても、人狼には能力の他にもう一つだけ、彼女よりも優れた点があった。

それは豊富なまでの戦闘経験、背後からの攻撃などは経験済みであった。そのためか攻撃パターンは読めており、暫くは避けることが可能である。

 

だが、やられるのは人狼の性ではない。

一瞬背後を見るとともに魔力をユニットに流す。しかしエンジンの方ではなく、とある機構にだ。

するとユニットのプロペラの軸から左右それぞれ弾丸が放たれる。

あまりに近接したため紙一重で避けれたがペイント弾が頬を掠めて色を付け、もしもコンマ単位で気づかなかったら彼女の美貌がオレンジ色に染まっていただろう。

エースと自負していた自身に肝を冷やすような経験を与えられた彼女は、英雄と称された人物が狡猾な小技を使ったことに業を煮やし怒涛の攻撃がなされる。

 

『当たれ!』

「…」

 

普段とは打って変わっての態度に、無線越しからは加東とライーサは戸惑っていた。

彼女の怒気に震えた様子の稲垣、これほどまでに彼女が感情を露わにするのを見たことがなかったのだ。

加東はあまりの態度に「これ以上何かをしでかすのでは?」と不安視して、無線で中止を呼びかける。

 

『模擬戦は中止! さっさと戻りなさい!!』

『うるさいぞケイ! 私は英雄の実態に怒っている。勝つまでは続ける!!』

『いいからさっさと―――!』

 

加東が言い終える前にマルセイユの無線が意図的に切られる。

人狼は彼女が言うように荒ぶったままの彼女が事故を起こすのではと危惧し、早期決戦を心に決めた。

その決め手になるのは霧化である。シザーズと同様に抜かされた際に瞬時に背後を取り、機関銃を放とうという作戦だ。

 

 

ここで異常事態が起きた。

何故か霧化ができないのだ。何度も何度も霧化を試みるが一片も身体は霧へと変貌せず、彼女が後ろから詰めてきたが人狼に手札は残されてはいない。

 

人狼はあえなく全身ペイントで塗られ、ユニットのデカールである狼が駆ける姿が染められた。

拍子抜けた行動や姿に呆れたのか、冷たい視線を向けるマルセイユ。そして不機嫌そうに舌打ちを鳴らし基地へと一人戻ってしまう。

 

地上に降りた人狼は、何故霧化ができなかったことが理解できずに首を傾ける後ろ姿は情けなくも思え、兵士たちの士気が下がり、面倒なことになってしまったとより加東の頭を抱えざる負えなかった。

基地の端で独り虚しく、慣れない環境で吸う煙草はあまりにも空虚である。

そんな人狼をマルセイユの相機を務めるライーサが心配そうな眼差しで遠目から見つめていた。

 




ドライゼMG13機関銃

ドイツで生まれた機関銃、1932年に採用された。
ライメタル社製で歩兵が携行運搬可能な空冷式軽機関銃とする開発方針を定めた。
ちなみにヴェルサイユ条約で禁止されていたが何とか隠蔽して開発をしていき、戦車の機銃やJu87の後部銃座に取り付けられ、ポルトガルではあ1960年まで使われた。
給弾式はドラム型やバナナ型と二つある。
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