人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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平手

「いやごめんね、本当にごめん!」

「加東さんそんなに謝らなくても……」

「そ、そうですよ!」

「……」

 

現在、加東の仮住居であるテントで加東がまだ二十歳にも満たない三人に土下座をして謝罪の言葉を連ねる。

そんな彼女に激しく困惑した様子の若き少女らライーサと稲垣、別に何ともなさそうに呆然と彼女を見つめる人狼。

頭を情けなく地面に擦り付ける様はとてもアフリカを指揮する者とは想えない。

 

「うぅ、まさか自分でもこんなにダガが外れるとは思わなかった……」

「ま、まあ加東さんもスッキリしたのでは?」

 

よくよく考えてみれば同情せざるおえないことに気づいた稲垣は苦笑いで彼女を諭す。

実際加東の行ってきたことは全てが激務であり、不良行為を繰り返すマルセイユに優柔不断なロンメル将軍、しまいには問題の火種と化した人狼だ。

ただでさえストレスが溜まっていたのだろう、泥酔中の愚痴で散々聞かされた。

 

「取りあえず皆は先に朝食摂ってきて、私は片付けをしてるから……」

「了解しました。行こうマミ」

「あ、うん」

 

稲垣はライーサの手を引かれてテントから出る。

後から人狼も敬礼をし、ただでさえも酒臭い空間出ようとしたが彼女に呼び止められる。

 

「大尉待ちなさい」

「…」

 

二日酔いで頭痛に顔を顰め、頭を押さえながらも加東は人狼に対し言い放つ。

 

「うちのマルセイユをよろしく頼むわね」

「…」

それはまるで一児の母親が子の同級生に頼み込むような優しい眼差しを向けた。

彼女の言葉を真摯に受け止めた人狼は、二日酔いで数秒後に嘔吐する彼女の無残な姿を一切合切見ることもなく出る。

ついでに情けなく聞こえる嗚咽に人狼は耳を塞ぎ、歩みを早める。

その後加東はしばしの間、禁酒令を自分に勅令した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「…」

 

朝食を摂り終えた人狼は自身が携帯している拳銃をバラシて整備を始めていた。

人狼特注のモーゼルで一番目立つであろう象の鼻の如き銃身からススを掃き取り、弾倉に込められた弾を磨く。別段、狙撃のためというわけでもなくただなんとなくで行っている。

アフリカには娯楽が少ないためかこういう整備しか人狼は時間を潰せない。他には鍛錬や読書だが本は夜に回し、鍛錬は基地を周辺を走り回るとマルセイユから苦情を受け付けるため、室内でできる簡易的なものしかできずにいた。

 

バラシていた拳銃を組み立ててから煙草を口にする。

紫煙が口一杯に広がり、脳を幸福感が刺激し、吐きだしてからもう一度口に運ぶ。三分間それを繰り返して放心していると、聞き覚えのあるサイレンが鳴り響く。

召集を呼び掛けるサインにすぐさまテントを飛び出して司令部であるテントへと駆ける。

 

室内では二日酔いが抜けないままの加東が椅子に脱力して座り、心配そうに顔色を伺う稲垣とライーサ、普段と同じ態度を取るマルセイユだ。

相変わらず人狼が着いたとともに不機嫌になる。

 

「また敵が確認できたわ。場所は味方の前線から南に何十キロも離れたところよ」

「で、編成はいつものでもいいよな」

「いいえ、今回のは陸戦ネウロイではなくて航空ネウロイだけよ」

「じゃあ私とライーサだけで終わりだな」

「……今回は大尉も連れていってもらうわ」

「…何だと?」

 

聞き入れない発言にマルセイユは加東を睨む。そこまで毛嫌いしていた人狼と組むのが嫌だったのだろう。

加東は胃を痛ませながらマルセイユに厳しく指摘する。

 

「あのねマルセイユ、此処は戦場なの。一人が好きにできると思わないでちょうだい」

「そんなのはわかっている。だけど何故コイツを!」

「大尉はこのアフリカの地形や環境を知らない。だから今慣らしておくのが一番だと思ったの」

「それなら哨戒の機会に設ければいいだろう!」

「哨戒でも限度があるわよ。あくまでこの基地を中心に飛ぶわけだし」

「ッ!!」

 

マルセイユは彼女に言い分に虫をかみつぶしたような表情になり、大きく聞こえんばかりの舌打ちを鳴らす。

緊迫した空気の中、気の弱い稲垣は怖気づいている。

気が立っているマルセイユを諭そうとライーサは必死になる。

 

「私も居るし別に二人で飛ぶわけじゃないからね。あとハインツ大尉は優しいし」

「……ライーサ、コイツの手駒にされてるぞ」

「え?」

「……皆だ。皆がコイツに騙されている!! コイツは偶然魔法力を得ていて、偶然飛べて、偶然生き残っただけに過ぎない! こんな過大評価されていた男と組んで―――――」

 

 

 

「マルセイユ、歯を食いしばりなさい」

「え」

 

ゆっくりと椅子から立ち上がった加東は激怒するマルセイユに忠告を促した後、彼女の頬をビンタした。

バチンという音だけがテント内に響き、何が起きたか理解できないマルセイユは放心し、ただ頬だけが赤く染まる。

その光景を見た少女三人は唖然とした表情で、また室内で事務作業に追われていた男衆は音の出所へと振り返り見つめる。

ようやく自分が何をされたか理解できた彼女は、頬を触り、目元に薄く涙を滲ませながら知っているありとあらゆる罵倒を吐き捨てて去ってしまう。

 

「……加東さん」

「気にしないで、あの子にいつかしなきゃと思ってたの」

 

力強く叩いたためか赤く染まる掌をジッと凝視する。

叩いた本人も苦悶な表情を浮かべていた。

それでも今自分がするべきことへ振り返り、人狼たちに命令を下す。

 

「ライーサと大尉はマルセイユと編成して航空ネウロイの迎撃へ」

「…了解」

「…」

「稲垣軍曹は一応この基地周辺を哨戒してもらえるかしら。重いと思うけど機関銃も頼める?」

「わ、わかりました」

「ごめんね皆、場の空気悪くしちゃって」

「い、いえ別に」

「……ならよかったわ。じゃあ皆頼むわね」

 

一同はユニットを起動させるために自身のユニットへと向かうが、突如滑走路からけたましいエンジン音が荒野に響き、代わりに各々のユニットが固定されている所にはマルセイユの姿は見受けられなかった。

近くで控えのMG40を点検していた整備士から聞くともう飛び立った模様だ。

おおよそさっきのエンジン音は彼女だと見当がつくだろう、まあ此処にはウィッチしか存在しないが。

 

「……仕方ありません、いずれマルセイユとは会えるので先に編隊を組みましょう」

「…」

 

ライーサの意見に賛同した人狼は首を縦に振る。

彼女が先に武器を受け取り固定具から発進、続いて人狼も重装備で発進する。

脇目では整備士たちが自分の代わりに出撃をする人狼らに祈祷の意味を込めた笑顔を作り帽を振っているので、人狼も年季の入った祈りが込められた帽子を振り返した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

何故、私がこういう目に会うのだろう。

私は全速力でユニットを駆けて敵の元へと駆ける。

JG52ではエースとして活躍したのだが欧州での戦い以降皆バラバラになってしまい、ライバルであるハルトマンとの決着もついていない。

部隊の再収集がかけられると踏んでいたが、南リベリオン国内で忙しい様子で音沙汰もない。

しまいにはこの辺境の地アフリカに飛ばされてしまった。気に入っているのだが。

 

アイツさえ居なければこのアフリカは楽しく過ごせたのだ。

アイツさえ居なければ私が叩かれる羽目にならずに済んだのだ。

あぁ、今思い出すだけで虫唾が走る。

 

ケイもライーサも皆してアイツに味方して私を追いやる。

おかしくはないか? 私はただ真実を口にしているだけなのに。

 

空戦技術だって練習生程度で射撃も上手いとは言えない、むしろ普通だ。

ただ噂に尾ひれがついただけでピカピカの高性能なユニットを皇帝陛下から貰えるとは、カールスラント軍も末期だな。

全てにおいて私が勝ったのにアイツに踏みにじられるとは屈辱だ。

世界が私の敵でも私はアイツを否定する。

 

下に味方の長い塹壕が見えた。

敵の群れが待ち構えていることは、あと少しで私の鬱憤が捨てられる。あの出来損ないの歪なカップを何個も何個も叩き壊し、破片を荒野に降らそう。恵みの雨ではなく、酸性雨に似た類だけど。

インカムからはライーサの声が聞こえるが切ってしまおう、友の声も今では耳障りなだけだ。

 

 

それでも捨てきれなかったら酒でも飲んで自暴自棄になって加東たちを困らせてやる。

いい仕返しになるだろう。

 

 

「精々、私を楽しませてくれよ。化物」

 

ユニットに魔法力をより多く流し込み、加速させた。

 




ボフォース 40mm機関砲

スウェーデンで生まれた対空機関砲、ボフォース社が開発。
第二次世界大戦で用いられ、各国が用いた。
アメリカで最も使われており、航空機用にも転じたことがある。
1934年から現在でも配備されていたりと何気にスゴイ兵器である。
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