「ふんっ、やはりその程度か」
マルセイユは前方からヘッドオンを仕掛けた小型ネウロイをロールで躱し、身体を捻りこむ。小型ネウロイの後方に着いて、MG34の引き金を引いた。
アイスキャンディーの如き曳光弾がネウロイに命中し、コップのような頭部が割れる。
それと同時に残った部分も弾けて白い破片となる。
彼女はニヤリと微笑を浮かべ、後方から襲い掛かるネウロイに対し急降下する。
それに釣られたネウロイ二体がマルセイユに追従し、放たれたネオンライトに酷似した光線を彼女は左右に振って躱す。
ネウロイも彼女を追従するのは得策ではないと察したか、それとも単に飽きたのかは定かではないが前の高度を取り戻そうと上昇を始める。
それを確認した彼女はインメルマンターンというUターンを行う。この機動の利点は速度を失う代わりに高度を得られるということだ。
今度はこちらがネウロイを追従する。
これにはネウロイも群れていたら撃破されると直感したのか、それぞれ左右にバラけようとする。
だが彼女は回避行動を見据えてか片方のネウロイに機関銃を短射した。
命中した一体は、体の安定感を保つ機関がやられたのか左に激しく寄り、彼女を共に追従し隣を飛翔していたネウロイに激突して白く爆ぜた。
破片が飛び散る空間を魔法障壁を張り通過、次の敵へと銃先を向ける。
「今回はまあ多いか」
この場にいるネウロイの頭数は約三十体、しかも適当に数えただけなのでこの数よりも多い。それに今日はアフリカにしては珍しく雲が掛かり、雨は降らなくてもやや暗い。
雲という存在自体がネウロイが隠れて奇襲を行える絶好のモノなので、現時点でマルセイユは劣勢に立たされているとも言えよう。
「弾は大量、銃身も予備がある。今回もスコアを伸ばしてやる」
自身のライバルでもあるハルトマンの顔を思い浮かべ、敵に再突撃を始める。
ヘッドオンには少量の弾を放つことで節約をする。放たれた僅かな弾は的確に致命的な部位や機関を破壊、ネウロイ同士の衝突という二次被害を
彼女はある固有魔法を所持している。
偏差射撃、と呼称されるモノで固有魔法の中で強力な能力と言われる。
未来視・三次元空間把握・魔弾の三つの魔法を組み合わせた能力で隙が無い。
未来視で敵の攻撃や移動先を予知し、三次元空間把握で敵の大まかな位置を把握、魔弾で弾を強化して威力を上げて撃つのが一連の流れだ。
この能力を駆使して彼女はカールスラントの五強に選抜される程の実力者となったのだ。
また能力だけに固執するのではなく日々の訓練やらの成果もあったりする。
「この調子じゃ私は墜とせないぞ!」
彼女の存在を強く主張するかのように大声で叫ぶ。
刺激されたネウロイが続々と背後に迫り光線や銃弾を飛ばすも難なく避け、魔導エンジンを出力させる魔法力を敢えて絞り込み、減速しつつ右へとバレルロールをする。
当然、ネウロイの方が速度が速いため彼女を追い越す。ネウロイたちは慌てて右へと急旋回をして躱そうとするも呆気なく破壊されてしまった。
先の減速による反動で速度が落ちたマルセイユを狙い、一体のネウロイが横腹を刺そうと乱射するも魔法障壁を張って防御、直角に急降下する。
重力にユニットや身体が悲鳴を上げながらも態勢を強引に立て直す。
お蔭で高度を減らした分、速度を得ることができた。
「まだだ。まだこれではハルトマンには勝てない…!」
上空で彼女を見失ったのか悠々と飛ぶネウロイを発見、即墜とすために上昇を始める。
辺りを確認しても近距離には敵を視認できず、今が好機であると彼女は感じた。
下方から突き上げるようにネウロイを撃ち破壊、失速寸前になった彼女は重力に導かれて下へと落下する。
しかし、彼女の腹を目掛けて高速で飛翔するネウロイを補足した。
規格外れのネウロイが現れてやや慌てるつつも対処するために機関銃を向けた。
銃先とネウロイの距離が急激に縮まっていき、ネウロイが辿り着くよりも先に彼女が引き金を引く。
ところがネウロイは奇怪な形状にひびが入る程まで無理やり右に避け、放たれた弾丸に命中することはなかった。
「なっ!?」
普段通りに対処しようと短射したのが返って仇となり、とうとう懐へと入り込まれてしまう。
咄嗟に強力な魔法力を流して魔法障壁を張る。
ネウロイが勢いよく衝突することで白い破片が眼前で広がるが、それと同時に魔法障壁も砕け散る。それに加えて、衝撃までもが相殺できるわけでもなく後方へと吹き飛ばされる。
「ぐああああッ!!」
体勢を高度を下げることでようやく立て直すもネウロイが接近し、銃撃を浴びせる。
衝突のせいでユニットの機関が破壊され、最低限の動きで躱したり魔法障壁を最小限に張ることで対処するも、乙女の頬や脚に擦り傷を増やしていく。
もう機関銃を引く余裕すらもない。
ある一本の光線が片方のユニットのプロペラを捥ぎ取るように消失させると小さく爆発。
残されたユニットも爆発で故障したのかプロペラは回らず白煙を上げるばかり、しまいには彼女も爆破時の影響で意識を失ってしまった。
一切の供給を断たれたユニットは空を飛翔することもできずに、彼女の頭部を下に落下を始める。
それはまるでバトミントンのシャトルが落ちるようであった。
「ハンナ!」
後から飛行場から出撃したライーサが武器を放り投げ、墜落して空に白煙を伸ばす彼女を抱き締める。
落下エネルギーは相当なモノで彼女のユニットでは力不足、それに魔法障壁を地表で張っても衝撃までも消せるわけではない。身体が無事でも臓器やらの器官が破損するのは目に見える。
それでもライーサは彼女を救いたかった。
例えそれが無謀や愚策だと罵られても。
精一杯ユニットに魔法力を流し込み上昇を行うが一向に上がる気配を見せないでいる。
時間経過とともに少女の腕力ではマルセイユを持ち上げるのがキツくなる。
加速でユニットの装甲が捲れ始めた頃に、ライーサは最善の策を思い浮かんだ。
「あぁ…そうだ。……私が下敷きになれば確率を上げれる」
まさにそれは狂気の沙汰とは思えないモノであった。
確かに確率を上げることができるとはいえ、僅かにしか上げることはかなわない。
高確率でどちらも死ぬ。
それでも彼女はこの策を行えば自分を犠牲にマルセイユは助かるという結論に至った。
より一層強く抱き締め、絶対に空中で離れないようにする。
アフリカの辺境で勇ましくも気高く戦うマルセイユを常に見ていたライーサは当然彼女の重要性を知っていた。
彼女はアフリカにとって欠かせない存在で各国の兵士たちに勇気を与えてくれる。まさに孤独に光輝く一等星の如き存在。現にライーサも勇気を貰った一人であった。
彼女を救うためには犠牲を厭わない。
多くの司令官が聞けば愚かだと指摘するが、マルセイユにはそれほどの価値があった。
弾丸の如く風を切り裂き、徐々に意識が朦朧とするライーサにゆっくりと走馬燈が脳裏を巡る。
楽しかったことや悲しかったこと、全ての籠ったフィルムは右から左へと流れていき、最後を飾るように今の状況が映し出される。
「これでお終い……」
ライーサは自身の運命を受け入れるように目を瞑り意識手放した。
二人はそのまま落下し、地表まで千メートルを切る。
ネウロイは彼女に対し追撃をしなくても勝手に死ぬと見定めたのか、もう手出しはしていない。
あと数秒程で地面に鮮血で彩られた花が二輪咲かせるであろう。
彼女たちの落下地点を予測した人狼が横から受け止めるように飛来、ライーサのユニットとは違い特注のbf110の馬力は二人分の体重を持ち上げることに成功する。
双発戦闘機の利点の一つ、搭載量である。
二基の魔導エンジンで搭載できる重さは爆弾だけで一トンを超えるため少女二人程度なら造作でもない。
人狼はガッチリと長く太い腕で彼女らを包み込み、地表すれすれまで速度を落として飛行する。
ちょうど直径五メートルの大きなクレーターが空いていたのを発見し、穴の中で優しく彼女らを降ろした。
現在、人狼の武装は拳銃二丁と集束手榴弾三つに後部銃座の機関銃だけ、この武装でネウロイに戦いを挑むのは言語道断、呆気なくやられてしまう。
それに負傷した彼女らの応急処置をしなければならない。
ユニットを脱ぎ捨てて懐に入れた応急処置用の救急箱を取り出す。
ライーサを診てみると被弾した様子もなくただ気を失っただけで、じきに目を覚ますだろう。
問題なのはマルセイユで頬や額からは出血していた。
爆発の際にユニットの破片で切ってしまったのだろう。
人狼は包帯と消毒液を取りだし、短く千切った包帯に消毒液を染み込ませて彼女の傷に当てる。
傷に染みて痛みが走ったのか気を失いながらも苦痛の表情を浮かべていた。
その後は包帯を頭に丁寧に巻いて、絆創膏を頬に貼る。
呼吸音や心拍は何事も問題はなく、骨折などの類は見られなかった。
生きている二人に安堵したのか人狼もゆっくりと腰を降ろした。
ふと人狼が上を見上げると、ネウロイは勝利の凱旋をしているのかグルグルと回りながら飛行していた。
明るいうちに行動するのは危険だと判断し、夜になってから行動をしようと決め、人狼は二人にコートを覆い被せた。
救急箱
その置かれている場所・使う人によってその内容物・適用される外傷や疾患の種類や程度に差があるが、いずれにせよ急を要する外傷や疾患への初期対処を目的としたものである。
オーストリアでは全ての車両に取り付けることを義務付けられている。
ちなみに人狼の救急箱にはモルヒネとそれを注入するための注射器がある。