人狼が正面玄関で騒動を起こし、暫く経った時、ある男性が正面玄関に向かうため階段を下りていた。途中でそれを制止するかのようにもう一人の男性も傍にいた。
「いけませんランデル閣下! 危ないですよ!」
「案ずることはない。安心しろダロン大佐」
「そんなこと言っても正体不明の化け物なんですよ! 非常に危険です」
「だから私は興味が湧いたのだよダロン大佐よ」
「駄目ですって!」
ランデル閣下と呼ばれた初老を超え、白髪のほうがやや多い黒髪の男性を頑張って制止させようとダロン大佐という栗毛色でやや小太りの男性が必死になっていた。
まあここの施設で一番階級の高い人物なので当然の行いだろう。
「にしても見たか、戦車を持ち上げる姿を!」
「見ました! だからこそ危険なんです!」
「あれは凄い馬鹿力だ!素晴らしいとは思わんかね!!」
「確かにあれは凄いですけど、閣下が赴く必要はありません!」
「ぐひひっ、まったく彼は素晴らしいよなァ!!」
「話を聞いてください!」
ランデル閣下に制止を促すように問うダロン大佐、しかし大佐の言葉を無視して下へと下りていく
「何故あんな化け物に興味があるんですか! うちのⅢ号戦車はまだ試作機の段階なのに無理やり強奪しましたよね。閣下は化け物に何を思ってるんですか!!」
大佐から放たれた言葉に閣下はピタリと止まった。
ようやく止まってくれたと安堵し、大佐の顔が緩んだ。
いきなり閣下はこちらを振り返った。そして、大佐に鋭い悪寒がはしる。
笑っていた。
しかも満面の笑みであり、例えるのならば、子供に欲しがっていた新しい玩具を買ってもらったかのような笑みだ。
「なあ大佐、君は戦争は好きかい?」
「…へっ?」
唐突な質問に大佐は意図がわからずに間の抜けた声をあげる。大佐は数秒間を置いたあと答える。
「いいえ、無作為に人が死ぬのは嫌です」
「そうかそうか、そういう考えもあるよな。ならば答えよ、貴官は何故軍に入った?」
「そ、祖国のために尽くしたいからです!」
「なるほど。…ちなみに君と私の考えは真逆だな、私は戦争が大大大好きだ!」
「なっ!?」
あまりの失言に大佐は驚いた。驚きすぎて卒倒しそうなほどに。目を見開きながら閣下は依然と口を曝したてる。
「何故私が軍に入るのかというと私は娯楽に飢えていた。そしてあの大戦を受け私は思った。あぁ戦場とはとても面白い所なのだとッ!当時は私は当時少佐で大隊を指揮していた。あの黒い化け物共は我らに恐れを知らずに弾丸や赤き光線を出して、私の大隊を消耗させていった。いやぁ、あれほど面白い場所など私は知らない」
「か、閣下もうやめてください。あ、頭がおかしくなりそうです」
「学校を出て間もない若き新兵たちが無謀と勇気をはき違え死ぬざまはまるで扶桑で見た桜のようだ。そして黒い化け物めがけて遠くから砲兵が高射砲を撃つ、その弾頭がネウロイにぶつかり爆ぜる瞬間はとても気分爽快で何でもやってのけそうな気持ちになった。新しい兵器がどんどん投入された。どうやって奴らに決定的な攻撃を仕掛ければ良いのかを考える時はそうっ、まるで! 子供の時に行ったピクニックを彷彿させた!!」
「もう…もうやめてください……!」
「あの戦争が終わってしまったら一気に私の人生はつまらなくなってしまった。戦車や兵器を眺めるのは楽しい、だがあの狂気あふれる戦争には断然劣る。しかし、喜ばしいことにこのカールスラントという国は! 戦争をするために備蓄をし始めた! それはあの黒い化け物共が再来したのだ! どうだね、またあの愉しい大戦争が繰り広げられるぞ!!」
「閣下ァ!!」
あの大戦を楽しかったと評価した閣下に怒りを覚えた大佐は、狂気に満ち溢れた閣下を殴ろうとする。だが拳は皺が増えてきた閣下の顔に当たることはなく、当たる寸前の距離で止まった。閣下はそれに動じずにじろりと大佐を見る。
「なあ大佐、君もあの戦争を生き抜いたんだろ? 楽しくて興奮するのもわかる。ちなみに私は最低限祖国に報いようとはする。だけどね、祖国というものに命を懸けて尽くそうとは思ってもいない、皆無だ。私は自分が好きな戦争をする、肝に銘じておけ」
「……はい」
大佐はゆっくりと拳を下した。
「そのために私は彼を、あの黒い化け物と匹敵する彼を兵器として手に入れる。さすれば祖国のために尽くせるし私の好きな戦争の準備にもなる。どうだ、一石二鳥だろ?」
「…」
「沈黙は賛同の意味だと言うだろう、さあ急いで彼を確保だ。行くぞ大佐」
「……了解しました」
二人はそのまま階段を下っていく。
「さてさて、此処があの化け物を覗ける場所だな」
閣下はバリケードでライフルを構えていた兵士に声を掛けた。兵士は銃を構えるのを止めて敬礼をしようとする。
「あぁ敬礼はしなくていい。彼はどうかな?」
「はい。先ほど投げ飛ばされた兵士を回収しました」
「おおっ、兵士を投げ飛ばすとは! あの華奢な身体でよくやるなァ」
「感心している場合ですか! 閣下、あの化け物をどう止めるべきが考えるべきです」
「いやいやさっきの話を聞いていたか? 彼を兵士として勧誘するのが止める案だろう」
「本気でやるんですか!?」
「左様だ。私は戦争に関しては嘘をつかない主義なのでね」
そう言って閣下はバリケードを超えようと机に身を乗り出した。
その行動を見て、慌てて大佐と先ほどの兵士が止めにかかる。
「マズいですってランデル閣下!」
「無謀です!」
「彼と私は同じだ。彼のことは私が一番知っている」
「ですが!」
「それにほらあれだ。私は昔、黒い化け物に肩を打ち抜かれたことはあったが銃弾には貫かれたことは無い。撃たれたらどういう感触なのか前々から気になっていたことだ。それに機関銃の威力を感じてみたいのもある。あぁ、どちらに転んでも私は愉しめるぞ!」
閣下は差し伸ばしてきた手をパシンと弾く。
ついにバリケードを超えた。ワザと軍靴の踵を鳴らしながら人狼に向かい始める。
人狼は踵を鳴らす音を聞き、こちらに顔を向けた。そして人狼は驚いた。
似ている
人狼は喋ってもいないのにも関わらず閣下の本質を見抜いた。人狼の前世で似たような人物がいる。
少佐
正確にはモンティナ・マックスと呼ばれる男性だ。お世辞には褒められない体型をしており、金髪で眼鏡を掛けていた。少佐の好きな物は閣下と同じ戦争。ただ似ていない点といえば、身体だけだろう。
「やあやあ元気かい、化け物の少年よ」
「…」
閣下が人狼に声を掛ける。後ろのバリケードではライフルや機関銃がいつでも撃てるように構えられていた。
前世の少佐に似ていたため、警戒心が微小ほど薄れた。
「そんなに睨まないでくれ、別に私は君を襲ったりはしないさ。ただお話をしに来たんだ」
「…」
「そうそれはとても簡単なお話、軍人にはなりたくはないかい?」
「…」
遂に人狼が望んでいたことが起きた。
人狼の年齢では正式に歩兵として軍に加入出来ない。ウィッチ募集も年齢だけは当てはまる。
じゃあどうすれば良いのか。それは直接軍事施設を襲い、自分の力を誇示させる。単純なものだ。
ズボンのポケットに仕舞っていたウィッチ募集の紙を見せつける。紙は戦闘のせいで損傷が激しかったが読めるほどの状態だ。
見せつける際に後ろの兵士たちが一瞬撃とうとするが、撃つなと閣下がサインを送っていた。
「ほうほう、ウィッチ志望か。……君まさか女子か?」
「…」
的外れな質問に人狼は僅かに首を横に振る。
「うーむ、魔法力の適正か…。そういや君、自己治癒能力や戦車を持ち上げたりライフルの弾で戦車を爆破させてたね、多分それは魔法力によるものかもしれない。いやっ、きっとそうだ!」
「…」
「人類初のウィッチか! …間違えたな、ウィザードとは私はなんと恵まれているのだろうか! どうだ、私と一緒に戦争を愉しみたくはないかね?」
「……」
閣下は人狼に手を差し伸べた。
「経験から私は戦場が何処で起きるのかが予測できる。きっと愉しめる筈だ。愉しいぞ、後悔はさせない。どうだね、兵士にはならんかね?」
「…」
人狼は差し伸びていた手を握った。交渉成立だ。
「そうかそうか!! ならばすぐに書類を作成しないとな! ささっ、早く家に帰りたまえ、なーに戦車などの破壊した物は弁償しなっくてもいい! 君はそれ以上の価値があるんだからね。二日後、うちの兵士が迎えに来るから荷物をまとめてくれ、そうそうこの事は明日家に手紙を送るから待っていてくれよ」
人狼は閣下の言葉に従い、折れ曲がった正門へと足を進めていった。
その後ろ姿を閣下は歓喜と狂気の入り混じった笑顔で見送っていた。
「ヤバくは無いですかダロン大佐?」
「……それは私がわかることだと思うかね?」
「で、ですよねー」
「はぁ、これからが心配だ……。胃腸薬欲しいわー、ちょっと君は買ってきてくれないか?」
「あっ、はい」
嬉しそうな閣下の後ろ姿を見てダロン大佐は心底呆れ、それと同時に不安が大佐の胸の内を占領していた。
kar98k
出身地はドイツで全体として1898年式の短型騎兵銃たるを示している。
口径は7.92ミリ、装弾数は五発のボルトアクション式のライフルでアメリカやソ連では半自動小銃を実用化に進めていた。しかし、命中精度や安全装置の設計が優れていた。
1937年に生産し、1945年まで生産されて数としては14000丁を超える。
精度の高い銃に四倍等のスコープを付けて遠距離銃としても活躍した。
余談だが某FPSゲームやゲームなどに幅広い範囲で登場している。