人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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お久しぶりです。
決してスランプとかなったわけでもないしやる気が無くなったわけでもありません。
繰り返しますが決してないです。
再三ですがないです。


花弁

 

マルセイユは夢を見ていた。

野原で彼女の両親ともいえる人物らと弁当を広げピクニックをしている夢だ。

何年も昔の過去を振り返るようなものなのでこれは夢だと気づいた。

野原には白や黄色と色彩豊かな花が所々咲き、快晴の天気が花々を祝福している。そんな風にも思えた。

 

「おはようハンナ」

「さあ、ランチにしましょう」

「うん」

 

手元にあるバケットから母親はサンドイッチを取り出して彼女に渡す。

彼女はそれを頬ばった。懐かしの味で、かれこれ二年は食してはいなかった。

一噛み一噛み、味と思い出を思い出しながらサンドイッチを食べる。

 

「やっぱり母さんの作るサンドイッチは最高だよ」

「あらあら嬉しいわ」

「ははっ、ハンナ口元にパン屑が」

 

熱心に食していると彼女の父親は笑みを浮かべながら口元に付いたパン屑を拭いた。

春の暖かさにも負けないほどのモノがそこにはあった。

 

 

「ライーサにも食べさせてやったらどうなるんだろう」

 

不意に溢した一言に両親はピクリと肩を揺らし、沈黙する。

唐突に反応が無くなったのに気づいた彼女はゆっくりと顔を上げて両親を伺う。

二人の顔は先程と同様の明るい表情とはいえず、むしろ真逆のモノで、目元が暗くよく見えない。

不思議に思った彼女は二人に訊いた。

 

「どうしたの父さん母さん」

「……」

「……」

 

二人は何も答えずただただ沈黙を続ける。

首を傾け何ともいえない奇妙さに疑問を持ちながらも再びサンドイッチに視線を投げる。

だが思い出の一品はその手には収まってはおらず、硬く味がないKパンに変わっていた。

 

「えっ」

 

驚きの表情を浮かべつつバケットに目を向ける。中身はKパンや乾パン、さらにはおが屑入りパンへと変わっており激しく困惑した。

「何かがおかしい」と感じた彼女は辺りを見渡すと晴天の空が黒々とした曇天へと変わり、野原に咲いていた花々は花びらの色に合った火炎を伸ばす。

鼻からツンと硝煙や火薬の臭いが突き刺さる。

 

「な、何だこれ……ッ!?」

 

「これは夢だわ」

「あぁ、確かに夢だ」

「けど夢は現実を反映する」

「だからこういうことにもなる」

 

無表情で両親は交互に彼女へ向けて告げる。

その姿は不気味そのもので顔には血色がない、言葉の通りに血液が通っていないのだろう。

 

動揺を隠しきれない彼女はパンをシートの上へと落とす。するとパンは小さな爆発を起こして、シートにクレーターを作りだす。

爆心地を注視すると、見るも無残な姿になったキューピー人形が横たわり、人工の瞳と彼女の瞳が合うとケラケラと嗤い出した。

 

「あ、ああああああああ!!」

 

彼女は素足のまま途方に広い野原を駆ける。

精神的にやられてしまった彼女は無我夢中で走り廻る。

いくらエースと称されても齢十五の少女だ無理もない、むしろ吐き出さなかっただけましだあろう。

 

ようやく息を切らしながらその場でへたり込んだ。

地面には大量の赤い花がその場だけ咲き乱れ、何故だか落ち着く。独りではないような気持ちにさせてくれるのだ。

小休憩をして体力を回復させ、再度走ろうと立ち上がると赤には合わないクリーム色の布を見つけた。

 

先の前例を経験済みだったため、起きうる事象に極度に構えつつ布を拾うと、鷲のマークとラウンデルが縫われている。

 

「そうだ、そうだった―――――」

 

彼女は咄嗟にこれが何なのかを察知してしまった。

この布は何十回もペアを組んで飛んでいたライーサの帽子の一部だと。

冷や汗を無数に垂れて息が苦しくなる。また動機も速くなり落ち着かない、視界も暗転してきた。

ゆっくりと視界を戻す。

 

 

赤い、紅い花畑の上で二人の少女が折り重なって倒れていた。

一人はライーサで、頬からは花弁が乗せられている。

もう一人はマルセイユ本人だった。

一見して何も知らない人が見れば、美しいやら綺麗だと賛美の言葉を送るであろうが、この事象はマルセイユにとって衝撃的なモノで残酷で非情なモノである。

 

立ち続けることもできなくなった彼女は膝から地面に崩れて、空を見つめる。

頭上には鳥ではなくネウロイが八の字に飛行を行い、彼女に対し嘲笑っている印象を植え付けた。

 

「わ、私は……私はなんて……」

 

「君が悪いのさ、ハンナ」

「そうよ、貴女が悪いの」

 

いつの間にか両親が背後に立ち彼女に指を指す。奥から人々が集まり皆も彼女に対し例外なく指を指す。

一本、三本、六本と数は増していき、次第に彼女を中心に円陣が組まれる。

中には見知っている人物も混じって指を指す。

 

「うん、貴女が悪いです」

「貴女が悪いのよハンナ」

「マルセイユ大尉が悪い」

 

人々から非難を浴びせられ彼女は頭を抱えて丸くなる。

それでも衰えることなく心無い一言が彼女を深く深く突き刺して、言葉という見えない鉄柱で串刺しにしていく。

 

肩を優しく叩かれる。

彼女は恐る恐る顔を向けると、目の前には伏していたはずのライーサがしゃがみ込んでいた。顔の半分は花弁が鱗のようにくっ付いている。

ライーサはニコリと笑みを浮かべて抱きしめる。

 

「ハンナ、ありがとうね」

「ラ、ライーサ……」

 

涙を無数に溢しながらライーサの抱擁に彼女は首元に顔を伏せる。

嗚咽を混じりながら唯一の味方であるライーサに壊れかけていた心は寸でのところで支えられた。

 

 

 

 

「けど私は貴女を許さない」

「ああああああああああああああああ!!」

 

 

耳元でぼそりと呟かれた一言で、瀬戸際を保っていた彼女の心は瞬時に瓦解した。

唯一、助けの手を伸ばされそれを掴んだら、即座に裏切られる。これほど傷つけるものはそうは存在しない。

追いやられたことで精神状態は非情に最悪の状態へとなり下がり、悲鳴と泣き声を合わせた騒音が野原を支配した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あああああああ!!」

 

衝撃的な夢から叫び声を上げながら目を覚ました彼女は辺りを確認することもせず、ひたすらに泣き散らしながら暴れまわる。

その声を聞き驚いたライーサは即座に彼女の元へと駆け寄った。

気が動転して暴れまわる彼女をライーサは必死に抑え込みながら彼女に落ち着きを促すように声をか掛け続ける。

それでも赤子の如く泣きわめく彼女を止められないでいた。

 

「落ち着いてハンナ!」

「ああああ! 嫌だ嫌だ嫌だ!! 早く家に帰ってママのご飯食べてパパと遊ぶんだ!!」

「ハンナッ!!」

 

このままでは止められないと踏み込んだライーサは苦渋の決断を行い、苦虫を噛み潰したような表情で彼女の頬を叩く。ベシッという音がクレーターに響く。

すると彼女は叩かれたことで僅かに冷静さを取り戻したのか大声で泣くことをやめて、おとなしくなる。

それでもすすり声を漏らし嗚咽を鳴らす。

 

「ひっぐえっぐ……ッ!」

「大丈夫大丈夫、安心してね」

「怖い、怖いよぉ……」

「よしよし」

 

彼女は赤子をあやす様に背中をポンポンと叩き落ち着かせる。

次第と息も収まり静かになった。

真っ赤に目を腫らすマルセイユにライーサはハンカチで涙を丁寧に拭き取る。

目元にハンカチを当てた際に、肩を震わせ恐怖の色を見せたマルセイユにライーサは心に大きなトラウマを負ってしまったことを確証する。

 

「……此処は何処なんだ?」

「此処は出撃した所だよ」

「私らはかなりの高度から墜落したはずなのに何故生きているんだ?」

「ん?それは――――」

 

クレーターの外から地面を蹴る音が聴こえ視線を移す二人。

ライーサは当分戦力にならないとマルセイユを後ろに使い魔を出して抵抗できるように身構える。

外は夜なので鮮明には見えないが、こちらをジッと赤い眼光を光らせている生物がこちらを見つめていた。突き刺すような眼光が二人を射貫き、気味の悪さをマルセイユは感じ取り、それがいつの日に見たホラー映画を思い出したマルセイユは短く悲鳴を上げて身体を縮こませる。

 

けれどライーサは安堵した様子で使い魔を戻し、鋭い眼光の生物に言う。

 

「見張りありがとうございます。ハインツ大尉」

「…」

 

その生物というのは人狼で、三日月が背景によく合っていた。

跳んでクレーター内に侵入する。深さといっても二メートル程度で内から外へ出ることは容易く、それと姿を隠すには最適な深さだ。

人狼はマルセイユに近づき、視線が合うようにしゃがみ込む。ただでさえ図体の大きいため、かなり膝を曲げている。

 

目には恐怖に怯えて瞳孔が揺れ、息も荒くなり始めた。

精神的にかなり参っていることを感じた人狼は羽織っていたコートを着せる。コートを脱ぐと褐色肌で筋骨隆々な素肌が露出、ライーサとマルセイユは思わず顔を赤く染めた。

 

「ハ、ハインツ大尉!?」

「な、何で脱ぐんだお前!」

「…」

 

顔を紅潮した様子でマルセイユは抗議、またはライーサは手で顔を覆っているものも指の間からチラチラとその肉体を覗いている。

人狼は不思議に頭を掻いて何が悪いのかと理解できずにいた。

実際、基地の兵士たちは異性かつ乙女の彼女を気遣って上半身を露出するのは避けているため、耐性がなかった。

 

キャーキャーと叫ぶ乙女二人と上半身裸の不審者だけがその地域に存在した。

 




キューピー

言わずと知れた有名な人形。
1909年に米国のイラストレーターのローズ・オニールがキューピッドをモチーフとしたイラストで発表したキャラクターである。
性別は不明。
1925年以降になると材質はセルロイド製が主流になった。第一次世界大戦で疲弊したドイツに代わり日本がセルロイド製品を多く手がけるようになる。

結構色々なアニメキャラがキューピーになっているものがある。(アトムやら忍者ハットリ君やら鬼太郎とか)
日本では三分クッキングの印象が強い。
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