人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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ライーサって可愛いのにアニメに出てるのはOVAしかない、何故だ。


露見

 

暗闇が荒野を支配し、唯一その支配から逃れることができた三日月と天上の星々は抗うかのように煌いている。

僅かながらの光が大地を照らすが喧騒とした市街とまではいかない。それどころか過疎化が進んでいる村よりも暗い。

誰一人いない荒野ではそれが普通、むしろそうでない方が異例なのだ。

 

けれども、今夜に至っては異例に当てはまった。

何故なら二人の少女と一体の人狼が此処に居たからである。

 

人狼はこの地域の地図とにらめっこをしていた。

初めての地域だったので場所が特定できないのだ。人狼は悩んだ様子を見せ、必死に考えたが遂に投げ出した。

帽子越しに頭を掻いて地図を折りたたんでクレーターの底に投げつける。その光景にマルセイユとライーサは人狼の本質を垣間見ていた。

 

マルセイユは一見、人狼は無口で不愛想な人物だと思っていたのだが、この行為を通して自分と似ている点があると感じた。

実際に彼女は勉学において難題にぶつかると投げてさっさと次の問題に移行するか、他の人に解かさせていた。

もっとも人狼は難題を他の人に解かすという選択肢はないのだが、次の問題に移行するという点は彼女と似通っていた。

 

一方でライーサは、超人ではない人間だと感じていた。

全てを超人並みにこなす人狼と凡才の自分では全てが違うと勝手に判断していたのだ。しかし本当は、人狼にとって得意な分野が戦闘なだけで、それ以外はあながち普通か苦手なのかもしれないと。

現に人狼は地図で居場所が理解できないので地図を投げるという行為に至ったわけだ。

つまりそれは地図を読み取るのが苦手ともいえよう。

 

彼女は人狼の地図を拾い、現在地を探る。

地図にはクレーターの情報は一切書かれてはいない、手で木目のように表された起伏の線をなぞっていく。

大まかに見当を二つつけ、クレーターの中から小さな頭を出して周囲はどういう地形なのかを確認する。

暗闇が荒野を大規模に支配するも魔法力を目に集めることで多少の視野を手に入れる。

辺りの確認を終えた彼女は人狼から赤鉛筆を借りて丸をつける。

 

「ハインツ大尉、今はどうやら此処ですね」

「…」

 

人狼は開かれ丸の書かれた地図を眺める。

前線から五十キロも離れているようで基地からは八十キロもある。それに昼間は夜間の冷えた大地を灼熱の大地へと変える。

水も食料も僅かな人狼たちには厳しい状況だ。

 

「……こうなれば救援を待つか」

「うーん、無作為に歩くよりかは体力を温存した方がいいかな」

 

二人は体力を温存する傾向であり、待機して救助を待つという案に出た。

徒歩でぶっ通せば半日で近くの前線にはたどり着くだろう。しかしお世辞にも身を照り付けるような暑さの中歩くにはいささか厳しい。

それならネウロイをやり過ごせるだろうクレーターに身を隠し、救助を待った方がいいだろう。

 

 

待機という考えを思い浮かべていた時である。

腹にくるような重低音が聴こえ、二人は思わず耳を塞いだ。何事かと人狼たちはクレーターの外を確認する。

無論、ここには人間が存在しない。それなら考えられるのは一つ。

二人は麗しい顔を蒼白させ、絶望を纏わせながら呟くのだ。

 

「ネ、ネウロイ……ッ!?」

「ど、どうしてこんな時に……」

 

四本の脚で大地を踏みしめる中型のネウロイ一体に小型が三体が頭部から生えている砲を味方の陣地に向かって撃ち込みまくっていた。

欧州でもこのような形状のネウロイは見たことがあったが、問題はそこではなくどう対処するのかという点だ。

クレーターの中で息を潜めればやり過ごせるかもしれないが、そのネウロイ群は自分らに向かっているのだ。進路の関係上、見つかる可能性が高い。

 

やり過ごすにしても機関銃は存在しないしユニットも破壊されているので、圧倒的不利である。

一歩一歩近づいてくる恐怖に彼女らはクレーターの隅で涙を浮かべながら口を押さえて、僅かな可能性に賭けることにした。

 

 

しかし、少女だけであったらの話だ。

クレーターの中から飛び出した人狼は携えていた銃身の長いモーゼルを発砲、注意を集めていく。

 

「何をしているんだアイツ! 戻れ!!」

「ハインツ大尉!」

 

自暴自棄になったか、それともとち狂ったのかと少女たちに勘違いされた人狼は彼女らの声を一切無視して発砲を続ける。

魔法力を込めた一発は脚を傷つけたり、装甲を貫通させていた。弾倉に込めた弾丸を全て消費したのを確認すると二つの集束手榴弾を腰から外し中型に投げつける。

 

中型は爆発をもろに喰らい、高温の機械音の悲鳴を辺りにまき散らして嘆いていた。これにより暫く中型は行動できない。小型は三センチほどの砲を人狼に向けて砲撃を行う。

 

「危ない!」

「避けろ!」

 

人狼は飛び跳ね転がったりとして砲弾を躱すが限度があり、腹部に砲弾の破片が突き刺さる。

ライーサが悲鳴を上げるもそんなのは気にせずに距離を詰めて、小型の一体に殴打を喰らわせた。

小型は二メートルほどのけ反り、なんとか持ちこたえるが殴られたところを中心にひびが走っている。脚も産まれたての小鹿の如く震えていて立つのもやっとであった。

しかし、続けて喰らわされる空中での鋭い蹴りはその身体を木っ端微塵に粉砕した。

 

一体の小型ネウロイが空中に滞在している人狼に砲を向け砲弾を放つが人狼は頑強な肘を上から振り下ろすことで砲弾を撃墜させ、真下の地面から土煙を起こす。

土煙の中の人狼を捉えようと右往左往に砲を向けるも、飛び出してきた人狼を補足することはできず、懐に侵入させられた。

 

懐に侵入した人狼は脚を両手で掴み、ありったけの力を込めて持ち上げる。椅子を持つかのように持ち上げた人狼はハンマー投げの要領で振り回し、近くに居た別の小型ネウロイに向かい投げ飛ばす。

二つの漆黒の塊は衝突したと思ったら即座に爆ぜて白い結晶を散らす。

 

「す、すごい……」

「伝説は嘘ではなかったのか……ッ!?」

 

少女二人は目を見開いていた感嘆の声が漏れていた。

そんな中、唐突に人狼は爆音とともに後方へと吹き飛ばされる。少女たちの感嘆の声が短い悲鳴へと変わる。なおこの際、両足が吹き飛ばされた。

顔中から切り傷や破片が刺さり、激しく流血するもすぐに治癒し、両足にも霧が巻かれ始めて三秒後には元通りになった。ついでに突き刺さったままであった腹部の破片も抜いた。

 

頭を振って状況を理解する。

どうやら爆発を喰らわせた中型が復帰したらしい、人狼は指の関節を鳴らし四つん這いになる。

 

霧化の使える今なら――――――

 

人狼の周辺に霧が顕現し、人狼を包むように巻かれ始める。

霧が濃くて中の様子が見えない。それどころか人狼を包む霧が次第に大きくなっている。最初は一メートルほどの高さが五メートル十メートルと移り、少女たちは唖然とした。

何故なら、こんなにも不可思議で奇妙な現象は見たことがないからだ。

 

霧の中心からけたましくも高貴な遠吠えが聴こえる。

マルセイユはクレーターから身を乗り出してその正体を視認しようとしていた。本来なら巻き添えを避けるために制止をさせるのが相棒の務めではあるが、ライーサ自身も目の前の怪奇に視線が向いていた。

 

霧が散り、中から現れたのは巨大な白銀の狼。あの赤い眼光を光らせ、月光が薄く狼の体毛を反射させた。キラキラとレースのように銀色に煌かした。

 

「これが、これがアイツだというのか!? あの狼こそが、ハインツ・ヒトラーだというのか!!」

「固有魔法は自己治癒だけではなかったのですか……ッ!?」

 

唸り声を上げて視線の先のネウロイに威嚇、牙を剥く。

中型ネウロイの方も黙ってはいられなかったのか、七センチの砲を向けて怪鳥の如し奇声を発して威嚇する。

両者とも各々の威嚇が続く中、最初に動いたのは中型ネウロイだった。

急かされたのか、あるいは焦ったのか砲からは四号戦車と同等の砲を放つ。

 

しかし放たれた刹那の瞬間、大きく前に飛び跳ねて躱すことに成功した。前に跳んだ人狼は大きく開かれた口で砲塔を噛み砕いていた。

悲痛ともいえる声が響くも同情の余地はない、跳びついた人狼の重さでバランスを崩したネウロイは大きな土煙を上げて倒れこむ。

続いて鋭い爪で強固な装甲を引っ掻いて傷物にしていく、野生の本能剥き出しの戦闘は図鑑で見た獰猛な肉食獣の狩りの仕方と同じであった。

 

そして、そんな野生にマルセイユとライーサは魅せられていた。

現実とはかけ離れた戦闘スタイルが新鮮で、人間が行うような知的な要素が一切合切ないのだ。息を飲み、自然と目が離せられない。

 

何度も何度も爪で引っ掻いていると、赤く光り輝く核を見つける。人狼はその核に渾身の力を込めて押し潰す。

耐えきれないまでの過負荷を与えられた核はコップが割れるように易々と砕け散る。すると巨体も爆ぜ、幻想的な結晶の山が完成した。

 

 

人狼はその姿でクレーターに避難している彼女らの元へと向かおうとする。

彼女らも人狼がこちらに向かっている意図に気づき、彼女自身からこちらに駆け寄ってきた。

 

「なあ大尉! どうやってその身体になるんだ!? そしてその毛を触らせろ!」

「ハ、ハンナ? 流石に気持ちはわかるけどあまりにそれは無礼じゃ…」

「…」

 

童心に帰ったマルセイユが人狼の身体を興味津々に眺めており、特に銀色の体毛に興味が湧いていた。

そして昨日までの態度とは打って変わって非情に友好的であった。

ライーサはマルセイユに気持ちを抑えろと注意を促すが、彼女自身も触りたいという願望を完全には隠しきれてはいない、好奇心からかそわそしている。

彼女らの願望に応え、人狼は伏せて尻尾で器用に好奇心に沸く少女を背に乗せる。

 

「な、滑らか!」

「もふもふかと思ったら案外違うものだな。まあ尻尾は心地いいから合格点だな」

 

各々感想や評価を述べる彼女らを差し置いて、人狼はむくりと立ちあがる。

 

「ど、どうしましたか?」

「まさか敵か!?」

「……もしかしてハインツ大尉に乗っかって基地に帰ろうと?」

「あーなるほど、よし行け大尉! ハイヨーシルバー!!」

「えっ、ちょっ、キャッ!?」

 

人狼はマルセイユの期待に応えて駆け出した。

四肢を前後に動かし走るので速度は速い、それに巨体なので一歩一歩が大きいのも重なり、時速六十キロで荒野を走り抜ける。

なおまだ本気ではない模様で最高時速は百キロを超える。

 

「あはは!! いいぞいいぞこの調子だ!!」

「進路はそのままでお願いしますね!」

 

歓喜に湧くマルセイユとナビゲーションに努めるライーサ、そして昔話級の狼。

荒野には珍しい面子が荒んだ大地には合わないような声を上げて力強く足跡をつけていく。

月は謎の面子たちを見て、三日月の如き満面の笑みを浮かべてジッと見つめていた。

 




地図

表面の一部あるいは全部の状況を、通常は縮小して、記号化し、平面上に表現したものである。そして文学よりも古いコミュニケーションともいわれる。
現在発見された最古の地図は紀元前六百年のバビロニアのものである。
地図関連で日本の偉人といえば伊能忠敬である。
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