人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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マルセイユ視点と三人称視点があります。


傷心

 

私はある列車に居た。

ガタンゴトンと車内は揺れて立っているのが難しい時もあった。車内にはスーツを着た大人や学生服を着慣れてはいない学生が読書、または談笑をしたりしている。

混んではいないものもやや見渡しづらい。

 

けれども「マルセイユこっちだ」と奥の方から聞こえる声に導かれて私は人込みを掻き分けて進む。

すると眼前には私の両親の姿があった。二人は向かい合う席に座りこっちに来いと手招いている。二人の容姿は軍に入ったときと変わっていないことに気づいた。

私は母親の隣に腰を下ろした。車窓から見える光景は何処かの田舎風景で、じゃがいも畑とトウモロコシ畑が広がっている。

 

「マルセイユ、最近はどうだい?」

「何ともないとは言えないけど楽しいよ」

 

確かに大尉が来てからはより楽しくなったと思える。

元来、ケイが来た際もそうだったのだがこの基地には娯楽が少ない。だからこそ微々たる変化で楽しいと思えるのかもしれない。

 

にしてもいつに経っても大尉は喋らない、舌が付いていないのではというぐらいに。

だが悪い奴ではない。

この前は無謀かつ躍起になっていた自分のせいで墜落し、しまいには僚機のライーサまでも巻きこんでしまった。

自分は少なからず負傷をしていたため無理に歩くこともできず、しかも微小の救援物資しか持ち合わせていなかったため、二人での脱出は難しかった。

しかし、大尉自身が極秘にしていたと思える能力を発動してくれたので私は今でも飛び回れると思っている。

 

私は軍や個人の範囲に触れない程度に両親に話した。

二人は笑いながら相槌を打ちながら私の話を静かに聞いてくれた。

 

 

私が話し終えた時に当然列車が止まる。

車窓を見ると駅なのだろうか、ホームの大半がレンガでできている小ぢんまりとしたプラットホームだ。

いつの間にか開けられていた扉から人々は次々と降車していき、外へと続く改札へと進んでいく。

すると両親も腰を上げて列車から降りようとした。

私は母さんの手を掴んでそれを止める。

 

「待って」

「ごめんなマルセイユ、君はこの列車に乗り続けなさい」

「えぇ。貴方はアフリカの星なのよ」

「……違う、いや私は星だ。だけど別れたくはない」

「別に今生の別れではないだろう」

「そうよ、またいつか逢えるわ」

 

そう告げると私の手を優しく丁寧に解いてしまう。二人は列車の床を響かせるように降り去ってしまった。

何故だが呪詛に体を拘束されたかのように身動きが取れない。どうにかして動きたいために魔法力を発動させようと画策するも魔法力自体が発動できない。

空の燃料タンクで空を飛ぶような感覚だ。

 

とうとう空気が抜けるような音を立てて扉が閉まってしまう。

閉まった途端に体の自由が利いて扉の元へ移動して強引に開けようとするも頑強に占められているため開くことはない。

ならば車窓からと力を込めるもこれも駄目だった。

 

列車はガタンと大きく揺れると、二人を左へと流していく。列車が動いているのだ。

必死に私は追いかけるように車内を走る。両と両を隔てている扉を勢いよく開けた。

だが、私の健闘空しく二人との距離は十メートル二十メートルと離れていってしまったのだ。

私は力を使いすぎたのか不思議と脱力感に苛まれて近くの座席に横たわりそのまま目を閉じた。

その姿は赤子のような有様だったと感じている。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……やはり夢か」

 

私は見慣れたテントの中で目を覚ました。

あくびをしながら眠気で目をこすると濡れている感触があった。きっと私は泣いていたのだろう、滅多に使用しない鏡に視線を移すと両頬からそれぞれ一筋の跡が残っている。

基地の皆にバレないよう羽織った軍服の裾で涙の跡を拭く。

証拠隠滅した私は普段と変わらない態度を取るように布の扉を勢いよく開ける。

開けるといなや太陽の突き刺すような日差しが目をより覚醒させた。

 

ちょうどこの時間帯とあってか、基地の皆は朝食と食べるために配膳を受け取る列に並んでいた。

いくら階級が上だからといって職権乱用はしない。此処アフリカには基本的に階級による差別はない。何故なら皆が協調し合えるから此処の基地は成り立っているのだから。

 

「よお、元気かマルセイユの嬢ちゃん」

「……えーとジェネンコフ大尉、おはよう」

「あぁん!? ジェネフだ!」

 

背後から数日前に基地に就いたジェネフという男に声を掛けられた。

近づいてみればわかるのだがかなり煙草臭い、被っている制帽にも臭いがこびり付いているのだろう。まあ私は嫌煙家ではない、むしろその逆だから気にはしないが。

そういやこの前、一緒に酒と煙草を飲み交わして交友を深めたな。酔っていたから忘れていた。

 

彼は壮絶な戦闘を切り抜けたのだろうか、彼は悪趣味な眼帯を付けている。眼帯に羊の顔とか非常にナンセンス過ぎる。

しかも服装はこんな暑苦しいというのに手袋を付けている。いやだけどこれは大尉も一緒か、つまりは大尉も変わり者だということか。

……喋らないから当然とも言えるが。

 

「おいおい、俺はこう見えても一騎当千の隊長なんだぜ?」

「はいはいそうだな」

「もうちょって聞いてくれたっていいんじゃねーのか?」

「あいにく、私が興味あるのはハルトマンと大尉だけだ」

「おお年頃の娘っぷりを見せたか」

 

ジェネフは可笑しな、いや不愉快かつ馬鹿にしている表情を向けているため、無性に腹が立つ。

しかし、蹴るなどといった行為には至れない。

普段なら将軍でも構わずに蹴り飛ばしているのだが、その元気すらも起きないのだ。これもあの夢のせいだろう。

怒りはため息をつく程度に収まった。そんな私を見て彼は何かを想ったのか顎に手をやっている。

 

「あー! 車長ズルいッスよ、また配膳貰おうとして!」

「げっジョイル」

 

確かあの兵士は奴と同じ搭乗員だったはず。

これはいい、私も追い打ちを掛けるとしよう。やられたらやり返す、これが私の礼儀でもある。

 

「おいジェネフ大尉? そういうことはよくないってケイから説明受けなかったか?」

「そんなこと受けてないナー」

「嘘つきめ! 私が数回してるからそういう規定になったんだ!」

「お前もしていたのかよ。てかしょうがないじゃねーよ、此処の飯美味いし美少女が作ってくれるんだぜ?山羊隊の長である俺大歓喜」

「それでもズルいっす!」

 

するとジェネフに関する喧騒を聞いたのか、奥の方から漆黒のオーラを漂わせた奴の搭乗員が向かってきた。眼鏡を掛けた男性で左手の薬指には銀色に輝く指輪がはめられていた。一見、大学生にも見えるのに既婚者とは中々やるな。

 

「さあお説教をしましょうか車長」

「おいおい、飯が美味いから仕方ないぜ。山羊隊は暫く美味い飯にありつけなかったじゃねーか」

「いいから!」

 

確か名前はエドガー兵長といったか、ジェネフの奴が彼に向けて愚痴を零していたな。

彼はジェネフの背広を掴んで列から抜いて、何処かへと連れ去ってしまった。

 

にしてもよくジェネフは大尉という階級につけたな。

あんな身振りでは間抜けと思われて部下からの信頼をなくすというのにな、珍しい奴だ。服装や眼帯から推察するに古参兵なのはわかるが。

しかしまあアイツが口々に言う山羊隊ってなんだ?聞いたこともない、一種の暗号なのか?

 

まあいいや、取りあえずは朝食だ朝食。

最近のケイは禁酒例もどきを出しているせいで酒という楽しみが消えてしまった。ジェネフの奴と供に飲んだ酒が余計に美味く感じ取れたな。

常に飲めないのはつらいがそこは耐えることにしよう。きっと大規模作戦が発動し終えたらいつもと変わらない程に酒をたらふく飲めるんだから。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

アフリカの夜は殺風景ともいえる。

辺り一面の荒野はまるで世界が滅んでしまったようにも感じられる程に。

唯一、人工の照明ともいえるドラム缶炎は辺りを照らすも闇の中へすぐに吸い込まれてしまう。火の子は上へと多少上昇してから消滅する。

 

大量のテントの中では兵士が寝息をたてて寝ている。ウィッチも国籍も関係なしに夢の中へと旅立った。

そんな中、あるテントだけが光を灯している。外部からもわかるように隙間から光が漏れている。

 

中では、実質司令官的立ち位置にある加東圭子が未だ終わらぬ書類仕事に手を焼いていた。周りに兵士はおらず、彼女一人だけ。周りの兵士はというと全員寝てしまった。

代用コーヒーをたまに口にして眠気を覚まし、書類仕事に打ち込んだ。

 

その漏れる光に誘われて接近する影があった。街頭に集まる羽虫や蛾のように軽々とよるのではなく何かを決心したかのように踏みしめて歩み寄る。

軍靴で暗闇を蹴飛ばした影はテントの扉を勢いよく開けた。

加東は思わぬ来訪者に目を丸くしながら、その者の名を紡いだ。

 

「どうしたのかしら――――――」

 

 

 

 

「ジェネフ大尉」

 

そこにはかつて山羊隊と呼ばれる戦車中隊を率いた強者、あるいは英雄が存在した。

 




トウモロコシ

イネ科の一年生植物である。これはよく入試に出るので覚えたほうがいい。
穀物として人間の食料や家畜の飼料となるほか、油にもなったりする。
多日照でやや高温の環境を好む。
1492年にコロンブスが新大陸を見つけた際に持ち帰ったモノの一つ。
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