人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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合流

「さあ、来いよマルセイユ! 貴様のカードはもう知っている!」

「いい威勢じゃないかジェネフ大尉。私のカードに恐れを為すがいい」

 

両者はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

ポーカーに興じているのだが、感情を隠そうとする気配は皆無で逆に勝気に威張り散らしている。

たった一日の休暇申請を経たマルセイユは以前までの活力を取り戻し、着実に撃墜スコアを伸ばしていった。

前のような悪夢は見なくなり、快適な睡眠を取れたのもあるだろうが一番のモノといえば両親との再会だ。

 

ジェネフが無理やり指揮官である加東に休暇申請を受諾させることに成功した後にもちょっとした出来事が存在した。

 

 

それはジェネフが去ったあと、加東はいかにマルセイユを前線から離脱させずに南リベリオンで暮らす彼女の両親に逢わせるのかを考えた。

思考を巡らしたのか長々と唸り続けたため脳みそがオーバーヒートした。無理難題を押し付けてきたジェネフに愚痴を吐きつつ頭をグシャグシャに掻いた。

すると、長時間思考したのがまるで嘘のように、パッと名案が思い浮かんだ。

 

「だったら両親をこっちに連れてくればいいじゃない!」

 

その後の行動は実に迅速であった。

わざわざ二人の人間を乗せるために輸送艦なんて用意できない。とかいって、物資などを運ぶ輸送船も先日南リベリオンから出航したばかりである。

下手に自国以外の輸送船に乗せたら、それをダシにカールスラントの損失に成りかねない。それに、そもそも外交のカードに用いられる自体マルセイユも好かないからだ。

 

もう一つの損失としては部隊アフリカの貴重な収入源であるマルセイユのプロマイドが他国のカメラマンに撮られ販売されるのを惜しんだ。

独占して売っているため、基地としても痛かったのである。

 

ともなればどうすればいいのか、彼女はある書類を作成し電文を自ら打った。

南リベリアンに届いた電文は対応に応じた電信員が困惑する内容であった。

 

『マルセイユノ リョウシンヲ リョダンニノセロ』

 

電文を受け取った司令部は至急マルセイユの両親をある大隊の輸送艦に乗せた。

その大隊の名前こそ北アフリカ独立混成旅団である。

旅団長はこれを快く容認し、二人を乗せてアフリカへと出航したのだった。

 

 

「では3、2、1――――」

「ふっ、ロイヤルストレートフラッシュ」

「はっはー、ロイヤルストレートフラッシュだ!」

 

ジェネフのカウントダウンに合わせ二人は手札のカードを露呈させる。

しかし、ロイヤルストレートフラッシュというポーカーの役は僅か0.00015%で、それも二人同時である。つまり何がいいたのかというと――――――

 

「ジェネフ大尉! さてはイカサマをしたな!」

「何を言うマルセイユ。お前だってやってるだろ!」

 

両者ともイカサマを行ったのである。

イカサマの種は簡単で、あらかじめ袖などにカードを隠し相手が隙を見せた途端にカードを入れ替えたのだろう。無駄に手先が良い両者である。

二人は椅子から勢いよく立ち上がり、犬歯を見せつけるように睨みつける。

 

唸り声を発しながら山羊と鷲が睨みあっていると、人狼と稲垣が何処からか現れた。二人の口には何故か一枚のせんべいが咥えられており、おそらくは扶桑の整備兵から貰い受けたと推察できる。

この奇妙な光景に稲垣はおどおどとして慌てているが人狼は冷静に二人の間を割って入った。

 

「大尉聞いてくれ。あの眼帯がイカサマをして私の酒を奪おうとしたんだ」

「なあハインツ、あの悪ガキ俺の煙草欲しさに騙そうとしたんだ」

 

両者とも食い違う意見に人狼は若干困惑していた。

いわずとも、両者ともイカサマを行ったのは確実であるからだ。

人狼が入ってもなお、障害物を避けるように両者は頭を動かして睨みあいを続ける。

 

『至急ウィッチとハインツは司令室に来なさい』

 

各所に取り付けられた拡声器から加東の声が響き渡る。

急用だと感じ取ったマルセイユは喧嘩を辞めて、小走りで司令室へと向かった。

人狼と稲垣もそれに追従して司令室へ足を進める。

 

「……そろそろか」

 

一方、一人となったジェネフは立ち上がった際に倒れた椅子を立て直し、腰をおろす。長年愛用していた煙草ではないリベリアン製の煙草を吸うと、舌を出して苦渋の顔を浮かべた。

 

「……不味い、これだからヤンキーは信じられないんだ。やはりカールスラントのやつが至高だ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「では何故集めたのかを説明するわ」

 

加東は咳払いをし、皆の視線を集中させる。

実戦経験がまだ少ない稲垣は重大なことだと背筋を伸ばして息を呑み込み、逆にマルセイユは慣れ切ったのかクシャミをする。

 

「そこまで緊張しなくていいからね。今回は護衛よ」

「護衛ですか?」

「そう。まっ、大雑把に説明すると旅団が此処まで来れるように誘導と護衛ね」

「旅団ならある程度のネウロイなら対応が可能じゃないのか? 私たちがする意味はないと思う」

 

護衛という地味な任務に不満を持つマルセイユ。

それを咎めるように加東はその真実を伝える。

 

「その旅団の旅団長が中将だからよ」

「中将だとッ!?」

「えぇっ!?」

 

目を見開き口をあんぐりと開けて、いかにも仰天している様子だ。

驚きのせいかパクパクと稲垣は声にもならない発声していた。

まあ彼女らが驚くのも無理がない。

なにせ旅団長は基本、少将が担うもので中将という階級が請け負うにはあまりに非常識であるからだ。

 

「でも何故、中将がこの基地にやってくるんですかね?」

「悪いけどそれは守秘義務なの。ごめんなさいね」

 

落ち着きを取り戻したライーサは加東に問う。しかし、加東は彼女の質問に答えることを拒絶した。

テント内に居る人狼たちは、少なからず大きなことが起きると踏んだ。

 

「というわけで明日の早朝、護衛任務が開始されるわ。無事に彼らを此処に連れてきて欲しい」

「「「了解」」」」

「…」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『あーつまらない』

『まあまあ、そんなこと言わないでハンナ』

『そうですよこれも重大な任務ですから』

『…』

『敵なんてそうそう来ないのにどうして護衛なんかしなくちゃならないんだ!』

 

現在、人狼を含めた基地アフリカのメンツは索敵を効率化させるために分散し、ライーサとマルセイユは中高度の北と南に分かれ、稲垣と人狼は低高度の北と南に分かれる。

ネウロイへの対地攻撃が効果的な人狼らは低空にし、空戦技術に優れたマルセイユが中高度に陣取っていた。

 

一本に連なる黒い線は、目を凝らしてみるとモゾモゾと揺れている。蟻の行列の如く見える正体は高度を落としていくたびに鮮明になり、それがトラックと戦車であることが識別できる。独立混成旅団だからか、やけにトラックの数が多い。

 

 

護衛開始から二時間が経過したとき、人狼が目を凝らし、列の最後尾から二キロ先に何やら黒い影が蠢いているのを発見した。

ユニットを轟かせ向かうと影に赤が追加され、地面を這うように進んでいた。

小型の陸戦ネウロイである。

人狼はネウロイ目掛けて急降下を行い、MGFFの弾をバラ撒く。ネウロイは奇声を発することなく容易に撃破された。

 

銃声を聴いた陸地の兵士はトラックの中からいつでも出られるように身構え、戦車は車長がより一層警戒を高めている。

 

『こちら稲垣、敵ネウロイを前方に捕捉しました! 撃ちます』

『私もちょうどその瞬間だ。スコアを伸ばしてやる』

『まだ私は見つかっていないので、引き続き索敵を行います』

『…』

 

辺りを見渡し人狼はネウロイを探す。特に巨大な岩を重点的にだ。

理由としては、何処かの岩陰から列の一部が撃たれると搭載された弾薬や砲弾が引火して誘爆のきっかけを生むからである。

すると案の定、ネウロイが顔を出して頭に生えた砲から砲弾を飛ばした。初弾は列に着弾することはなく、手前に落ちる。

 

第二射を撃たせないためにも人狼はユニットを駆けて接近、頭上から二十ミリの洗礼を浴びさせる。

中高度では、マルセイユとライーサが空で踊っていた。所持する機関銃でネウロイを一体ずつ着々と撃破、撃墜を繰り返す。

ライーサが単独で戦うのは久方ぶりではあるマルセイユの僚機として活躍した経験が報いた。ネウロイたちは彼女らとは踊り切れないと匙を投げるよりも前に撃墜されていく。

 

『ッ!? こちら稲垣、列の前方に陸戦ネウロイの群れが出現! 私だけでは対処が難しいです!』

『…』

 

人狼は稲垣の応援に答え、人狼は急いで対処に向かう。

確かに列の前方では、三十ものネウロイが列めがけて突進を行っている真っ最中であった。ネウロイの全体像としては五メートルで砲を持たない、いわば突進に特化した前時代のネウロイだ。

人狼はネウロイの頭上から銃撃をかますとある一体が足に被弾して転倒、その後ろに走っていたネウロイは将棋倒しに転倒の連鎖を繋げる。

好機と捉えた稲垣は対戦車ライフルを撃ち続け、柔らかい腹部を引き裂いていく。

 

「…」

 

人狼は残りの突進を続けるネウロイに対して、口で銃身を咥えて落とさないようにしてから、集束手榴弾を二本取り出した。

魔法力を限界にまで込めてから手榴弾を投擲した。

直線に飛ぶ二本の手榴弾はネウロイに命中すると大きく爆ぜる。百キロ爆弾二発程の威力はネウロイを消し去るには十分なものであった。

 

再度辺りを見渡すとこれで最後らしい。損害は皆無で、怪我人は一人もいない。

口から機関砲を外し一息吐くと、インカムから不思議なノイズが混じった声が聴こえ始めた。

 

最初はノイズが大半を占めていたので何を伝えたいのかはわからなかったのだが、十秒二十秒と経過するにつれて声は鮮明に聴こえだした。

人狼はその声の主に会ったことがあった。

特徴的な声でもない、別段なまりがあるような声でもない。だが、言葉からでも伝わる雰囲気には覚えがあった。

忘れることができない声だったのだ。

 

 

『久しぶりだなぁ――――ハインツ大尉』

 

声の主はパ・ド・カレー防衛線を指揮したランデル中将、その者であった。

無線越しでも伝わる狂気が人狼の身体中を駆け巡った。

 




プロマイド

写真用印画紙、又はこれを用いた写真のこと。またはマルベル堂などが発行している、タレントなどのコレクション用肖像写真のこと。
浮世絵の人物画もプロマイドと同じ意味合いを持つ。
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