人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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名前の通り野球をする話です。
今回は前半パートとなっております。


野球

「第一回、チキチキ野球大会ー!」

「Yeah!!」

 

マイクを持ったロンメル将軍が野球大会の宣言をし、リベリオン出身のパットン将軍は大いに盛り上がっている様子で、流暢な母国語を叫ぶことによって興奮を露わにしている。

その一方で、大会のために設営されたと見受けられるテント下で、頭を抱えてゲンナリとしている様子の加東はぽろりと本音を零した。

 

「どうしてこうなった……」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

この大会が開かれる二日前のこと。ロンメルを含める将軍と一部の士官はあることに気づいた。

この以下の者は本部であるテントに集まり、夜に密会を開いた。

 

アフリカの結束率がさして高くない。

 

そのような事実に行きつくまでには、とある事件が関係していた。

南リベリオン大陸からやってきたカールスラントの兵士、おそらくはランデル将軍の旅団所属の者だろう。その者たちが、先に現地に居たロマーニャ兵、もしくはブリタニア兵やリベリオン兵士と口論をしていたところを加東と共に灼熱のテント内で書類作業に勤しんでいた扶桑人士官が目撃した。

慌てて扶桑人士官は止めに入り暴力沙汰にはならずに済んだものも、このことは作戦に響くかもしれない、もしくは作戦が破綻する原因になると危惧した士官は加東を通して将軍たちに伝えられた。

 

いくら部隊内では結束率が高いとしても全体の結束率が普通かそれ以下だと連携を重視する本作戦の失敗する一因になるかもしれない。

一度失敗すればアフリカでの戦力が減るだけではなく、ネウロイに押し潰される可能性だって増加する。それだけはなんとしても避けたかった。

そこでリベリオン出身のパットンがとある提案をした。

 

「ここはいっそのこと野球をするのがいいのではないか?」

 

その提案に賛同する者が過半数になったため、無事野球大会が開催されるのが決まった。その時のパットンは内心ウキウキの様子で、翌朝大量のグローブとボールを何処からか仕入れてきたという。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

後から聞いただけである加東は実質巻き込まれたようなもので、この野球大会自体任意参加ではあるため加東は参加しなかった。否、するはずがない。

天候はいつもと変わらない。ようするに太陽が満遍なく顔を出して熱波と紫外線を振りまいている有様だ。体内から水分が干上がっていくのを体感する。

一応に野球の知識はラジオから流れる甲子園から学び、ある程度実践できる程には知識はあった。

加東はこの炎天下の下で誰が運動なんてしてたまるかといった風に机に顔を付けて傍観していると見知った面子がグローブと硬球を持って現れた。

補足として、この場所は試合を観戦するには適した配置となっている。

 

「よっし! 狙うは優勝だ!」

 

珍しく黒の軍服を脱いで白いシャツだけの状態のマルセイユ、肌は白く焼けてはいないものも、もはや男子である。グローブに拳をパンパンと鳴らして皮を柔らかくしようとしている辺りが手慣れている感満載だ。

まあ確かに勝気な彼女であれば大会に参加せずにはいられないだろう。

 

「…」

 

続いて現れたのはこんなにも暑いのにも関わらず初期からずっと羽織っているアフリカ仕様のコートを着てグローブを嵌めている人狼だ。人狼は地面に書かれた線に導かれるようにセカンドに就いた。ちなみに投球するのはマルセイユで前には彼女が居た。

ベースに着くとやる気が無さそうに構えたりはせずにただ呆然と立っている。

 

「なんだろう。無理やり参加させられた感が凄いわね」

「案外そうでもないみたいですよ」

「あらそうなの」

 

突っ伏している加東の左隣にライーサが座る。

手には水筒を所持しており、此処で観戦するつもりだろう。

 

「確かティナに勧められたり、えーと戦車隊の隊長さんからも勧められて今に至ったらしいですね」

「……あのねぇ。それは半ば強引にやったんじゃ」

「いいやそれはないぜ」

 

また、右隣に煙草と油と火薬の合わさった不思議な臭いが加東の鼻を刺した。ため息を吐いた後、ゆっくりと右に振り向くと悪趣味な眼帯と見栄っ張りのために着用していると思われる制帽が目に映る。

 

「何よジェネフ大尉。貴方も参加しないわけ?」

「まさか、娯楽の少ない戦場では持って来いのイベントだ。後から参戦するぜ」

「で、何で強引にうちのハインツ大尉を参加させたわけじゃないって言えるのよ」

「はっはー、そんなの決まってるだろ。アイツは基本NOと言えない男だからな」

「……やっぱり強引じゃない」

「はははっ! ……アイツを楽しませてやるぐらいには俺も演じてやるさ」

 

唐突に高調した声と変わって先のテントで聞いた声に移った瞬間を目に捉える加東。彼女はこの人物と人狼は戦前からの付き合いであったことを思い出した。

やはり彼にもまだ幼い人狼に対し思うところがあるのだろう、でなければ遊び人を装っている彼がそのような声色を出さない。そのことを加東はこの前の出来事を通して体験していた。

 

「んじゃ、ミーティングが始まるまで相席させてもらうぜお嬢さん(フロイラン)

「どうぞジェネフ大尉。ゆっくり観戦を楽しみましょう」

「そりゃどうも、麗しの乙女」

「別にいいのよ、こんな人相手に丁寧に接しなくても」

「おいおい、そりゃないぜ加東隊長殿」

「そんな軟派に接してくる男はロクでもないのよ。知ってた?」

「ははっー! こう見えて硬派な男なんだけどな俺」

 

 

三人は気さくな会話を楽しんだ後、ついに試合が始まった。

初戦はブリタニア対カールスラントだ。カールスラント側にマルセイユと人狼が所属している。試合が始まっても隣のジェネフが行かないので、きっとランデル将軍の旅団でチームに所属しているのであろう。

 

試合の結果としてはブリタニアの惨敗であった。

ブリタニア兵士たちは日頃から紅茶の国というわけで紳士の国のイメージを払拭するような暴言と罵倒を繰り返して退場した。理由としては野球に触れ合ってきた人口が少なく、慣れていなかったからだ。まだラグビーやサッカーなら勝てたかもしれない。

しかし、暴言を吐き捨てる割には皆の顔はどこか満足気で清々しい表情を浮かべていた。度重なる戦闘での重圧に一時的にも開放されたようにも思える。

補足するとマルセイユと人狼は持ち前の運動神経でホームランやヒットを連発した。

 

 

続いてはロマーニャ対ランデル将軍率いる旅団だ。

試合に赴こうと腰を上げたジェネフは、相変わらず熱と日頃の過労でダレている加東に向かって親指を立てていつものような余裕ぶった笑みを浮かべる。

 

「はっはー! んじゃ勝ってくるぜ」

「はい、頑張ってください」

「作戦に差し支えない程度に遊びなさいねー」

「任せておけよ。優勝してくるわ」

 

軟派な男たちが集まったチームと比較的軟派、もしくは正体不明の旅団チームが開幕の投球を始めた。ロマーニャの兵士たちは少しでも格好をつけてウィッチたちにモテようとして、何処からかくすねた最高級のワックスを付けて参加している。

対して、獰猛に目を光らせる旅団の兵士たち。そして明らかに無理に連れてこられたと思われる常に眼鏡を掛けていてもはやジェネフの世話役となったエドガー伍長と短期間の訓練でまだ半人前の兵士になった青年ジョイルがベースに就いた。

 

一方で肩をグルグルと回して慣している様子のジェネフ。立ち位置的に彼はマルセイユと同じピッチャーとして活躍するつもりだ。加東らが度々彼に視線を投げかけているのに気づくとニッカリと笑みを返す。

ライーサは小さく手を振り応援しているが加東は何もせずにただ傍観していた。

試合が始まると意外にもピッチャーとしての才覚が表れたのかバッターを次々にアウトにしていく。全て三振でアウトにしていき、投球した球の種類もカーブやフォークといった変化球を使い分けている。

これには思わず加東も驚き、旅団側が完全有利とも思える投球に舌を巻いた。

 

今度は旅団側が攻勢につくと、いかにも運動ができなさそうなエドガー以外は基本的にいい線をいった。

ジョイルは二度ストライクした後にヒットを打ち、三塁に居た仲間が戻り一点入り、ジェネフに至っては弟分である人狼に負けじとホームランを叩き出した。

 

この試合の勝敗はジェネフの所属する旅団が勝利した。カッコいいところを披露できずにいたロマーニャの兵士は固めた髪型をグシャグシャにして悔しさを露わにする。

試合後、汗だくの状態で真っ先に加東の方へとジェネフは走り寄ってきた。

 

「見たか今の試合。ざっとこんなもんよな」

「はいすごかったですよ、ジェネフ大尉!」

「おうそうか! で、加東よどうだった今の試合は!」

 

彼は腕を組みいかにも自慢げな風の態度を取る。普段なら軽くあしらうのだが、今回ばかりはかなりの活躍をやってのけたので正直に称賛することにした。

 

「確かに凄かったわよ。特に変化球とかね」

「はっはー! そうかそうか、いやー南リベリオンで練習した甲斐があったぜ」

「……そういえばそっか。リベリオン大陸ならあの強さは納得がいくわね」

 

リベリオンは野球大国である。野球に対しては世界一の腕を持つチームがあり、世界中の野球ファンを新聞の度に熱気に湧かせるのを彼女は思い出した。まあその分、サッカーに関してはお世辞にも強いとは言えないのだが。

しかし隣のライーサはあることに気が付いた。

 

「しかし何でまた南リベリオンで野球何ですか? リベリオンは野球強くて人気でしたが南の方はサッカーが人気だったはずですよね?」

「確かに辻褄が少し合わないかも」

「えっ。そんなの決まっているだろ」

 

ライーサの疑問に対し、ジェネフは単刀直入に答えを述べた。

 

「サッカーはやり過ぎて飽きた」

 

この答えに二人は椅子からズッコケそうになる。カールスラントのサッカーチームは強豪で欧州の人気も高い。なので幼少時からサッカーに触れ合う機会も多く長年親しまれてきたのだが、流石にそればかりだと飽きてきたのでジェネフ主催の野球大会が度々開かれたそうだ。

優勝賞品はチョコレートや酒に煙草と嗜好品が多く、どこも品薄状態のため価値が高い。主催者であるジェネフはその商品の金は自分で出さないといけないのでどうしても勝ちたかった。だからジェネフはエドガー、それに数合わせのマネキンとだけでチームを結成し全ての試合で優勝を捥ぎ取ったのとか。

 

中々に自分勝手な思考に加東は愕然とし、ライーサは苦笑を浮かべざるおえなかった。

 




チョコレート

チョコレートはよく市場に回る固形化されたものが最初にできたのはイギリスである。
カカオの種子を発酵・焙煎したカカオマスを主原料とし、これに砂糖、ココアバター、粉乳などを混ぜて練り固めた食品である。
語源に関しては辞典などでナワトル語のチョコラトルが由来とされているが、アステカがスペインに征服される前にはチョコラトルという用例が無い。

戦時中は嗜好品として高級品となった。
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