スポーツ物書いたことないから表現が幼稚になってしまいますね。
太陽が南中し、正午を超えて一時を知らせる。この時間帯になると地温が空気を暖めることで気温が一日でもっとも高くなる。しかも今日は今まで以上に暑く、テントの日陰にいたとしても汗が止まらない。
トーナメント戦で進む今大会は、カールスラントチームと旅団チームがぶつかりあうこととなった。
パットン将軍が率いるリベリオンチームは現地の力を見せてやると豪語したのだが、人狼が所属するカールスラントチームに敗北した。
確かにどのチームと比べるとヒットが多かったものも、守りに入ると人狼を主力とした攻めを受け止めきれずに大量得点を入れられていた。一度人狼がバットを振ると確実に当たり、ホームランを叩き出す。人狼が単体なら一点だけ加算されるのだが、野球という競技は塁に人が存在するほど点が加算されるのだ。
それにマルセイユの投球もストレートしか投げない、いや投げられないのだがコントロールも上々で球速も速い。国民的スポーツとして習慣付いたリベリオン兵士をもってもこの球でホームランを狙うのは難しかった。
なお、例えホームランを打ったとしても人狼が持つ驚異の脚力で捕るだけなのだが。
トーナメントはついにカールスラント旅団チームとぶつかった。
「うひゃー、えげつないな先の試合」
「あら怖気づいてしまったの?」
「はっ! 馬鹿言うな。山羊隊の隊長様が投げる球はエース級だぜ。相手に人狼やマルセイユの嬢ちゃんが居ても俺は勝って、加東隊長殿にこれが勝利だと見せつけてやるよ。約束だ」
「はいはい、せいぜい頑張ることね」
テントの下の観戦席ではジェネフがダルそうに立ち上がり、試合に赴こうとする。彼の表情は緊張からか引きつっており、自身が勝てるか半信半疑であった。その様子を加東に見られて揶揄われると、彼は日頃の強気な姿勢を取り戻す。
「どっちのチームも頑張ってほしいですけど、ジェネフ大尉も頑張ってくださいね」
「おうよ!」
ライーサにも激励された彼は一歩また一歩と足を踏み出す。こちらに優位を持てない状況はその足取りを重くするのだが、彼は無理やり動かして進む。彼は臆していると試合も勝負も敗北すると心得ていたつもりだが、どうやらそうでもなかったらしい。
己の弱さを再確認したジェネフは審判の整列という声に導かれてチームごとに列を作る。旅団チームにはジェネフが、カールスラントチームマルセイユが先頭に立ち整列する。
「ふっ、ようやくここまで来たな。ジェネフ大尉」
チームのキャプテンを努めるマルセイユは頬に土汚れを付着しながら男勝りなセリフを吐く。この台詞も相まってか、女性らしい部分を幾つか消せば美男子そのものである。なんとも男らしい。
これにはファンクラブができるのも裏付けよう。
「そうだな。お互いにいい試合にしようではないか」
「だが勝利するのは我々だ」
「おいおい、その台詞はうちのモノだ」
ジェネフとマルセイユは言葉で牽制し合うのに対し、人狼と対面したエドガーは人狼に対しいつものように優しく告げる。
「まあ交友試合だから仲良くやろうかハインツ」
「…」
どうやら人狼もそこまで勝利に執着していない様子で、首を縦に振る。また、ジェネフの戦車の操縦手を務める新兵ジョイルは、無茶というよりかははしゃぎすぎて、熱中症で医務室送りとなった。まだ齢二十にもなっていない少年なのだから仕方がない。
先に攻守を決めるコイントスの結果、旅団側が最初に守り側となる。両チームはそれぞれのポジションに続々と就き始める。
「んじゃまあ、派手にいこうじゃないか」
ジェネフはボールとグローブを合わせるように叩き手首を慣らす。先頭打者に立ったのは誰よりも一番を好むマルセイユであった。彼女もバットを構えていつでも打てるように準備する。
「さあ来い! 私が打ってやる!」
「いくぜ!」
ジェネフは取り敢えず相手の様子を探るためにストレートを投げる。マルセイユと同じほどの球速である。彼女はバットを振るも、空振りしストライクになる。
続いてフォークをジェネフは投球する。打者である彼女は先程と同じストレートだが勘違いしたため、この変化に対応できなかった。打とうとバットを振るも当たる手前に球が下方へと落ちてキャッチャーのグローブへと収まった。
「クソッ!!」
彼女は自分が思った以上に打てずに苛立ちがこみ上げる。戦闘で鍛え上げた観察眼でジェネフはやはり彼女が変化球に慣れていないことに勘づき、次の投球も変化球にしようと決めた。
「さっきのでいいか」
ポツリと呟いたジェネフはキャッチャーに向けて再度フォークを叩きこむ。今までに変化球どころか野球にすら深い関係を持っていない者なら対応できまいと投げた一球は偶然か必然か、カキンという独特な音を立てる。マルセイユは即座に一塁へと駆け出す。
「一塁に行ってやる!」
「ちィ!!」
彼の油断が仇となり、打たれた一球をエドガーが追いかける。あまりに球が低いため、通常の姿勢では捕れないと彼は判断し、腹からスライディングを行う。これによりエドガーのグローブへとギリギリ接地しない高さのところで収まった。
このエドガーの奮闘によりマルセイユはアウトとなる。
「よくやったぞエドガー伍長!」
「流石我らの隊長の搭乗員だ!」
「よっ! 既婚者!」
「う、うおおおおお!!」
外野からは彼を活躍を称える歓声がひっきりなしに飛び交う。稀に馬鹿にするような言葉もあるのだが、彼の耳には自分に得のある声しか聞こえなかった。
これに気分がよくなったのか、彼は大声で叫びグローブを高く掲げることでより活躍をアピールする。
「エドガー伍長もやるじゃない。流石ジェネフ大尉の保護者役ね」
「今の動きも凄かったですけど、一番の驚きはエドガー伍長は既婚者だったことですね」
「そうね、彼からはあまり話をしないけどそうらしいわね」
「一度話を伺ってみようかな」
一方試合はマルセイユの後釜を務める打者二人もジェネフの投球には敵わずストライクによりアウト。これにより攻守が逆転した。
先頭を立つのはエドガー、スライディングのせいで左頬に異常なまでに砂が付着し、一種の迷彩のようになっている。
彼の相手は無論マルセイユ。さっきの球を捕った恨みでもあるのか彼に尋常なほどに圧が掛けられる。思わず気圧されたエドガーは動けずに見過ごし三振でアウトとなる。
「なにしてんだエドガー!」
「けど車長! アレはきついですってええええッ!!」
「大の大人だろお前は! 何故少女に気圧されてるんだよッ!」
「いッ!?」
活を入れるためにジェネフはエドガーの背中を思いっきり叩く。エドガーは短い悲鳴を零し飛び上がった。背中には場所違いな紅葉ができているだろう。
ため息を吐いたジェネフはマルセイユの球の癖を今までの試合観戦で見抜いていたのか、二番手の打者に対マルセイユの忠告する。伊達に戦場で戦い生き延びた兵士ではないのだ。
「いいか。彼女の球は確かに速いしコントロールも良い。だけれどもアイツはストレートを投げる時には普通の球よりもやや上気味に飛ぶから上向きに振れ、いいな?」
「了解しました」
二番手打者がバッターボックスに立ち構える。マルセイユはジェネフと二番手打者が何を話していたかは理解できなかったが、警戒するには越したことはない。警戒心を高めながら彼女は投球する。
打者はジェネフの忠告通りにやや上向きに飛来し、バットを降る。カキンと心地の良い音が響く。
「何だと!?」
驚嘆する彼女をよそに打者は走る。打った球はかなり高くまでに上がり、ホームランをも狙えるほどであった。例え風が吹いて勢いが弱くなっても二塁まではいけるとカールスラントチーム以外の誰もが思った。
そう
「…」
人狼は地面を蹴り上げ高くへと跳び上がるがそれでも球には届かない。今度は手にハメていたグローブを球の軌道を予測して投げつける。球は下から上へと目指して上げられたグローブに命中し遠くへと飛ばそうとする力の向きが衰える。しかしその代わりに球はより高くに上げられた。
人狼が着地して即座に球の落下地点へと移動する。何もハメていない素手、それも片手でボールを鷲掴みにしてアウトにした。
「うっわ、ハインツえげつない……」
「こりゃホームラン飛ばせないですね」
ホームランという夢を諦め地道に塁目指すことに決めた旅団チーム一同。また観客席では加東がゲームバランスが崩壊しそうなことを予見して、ライーサが目を煌かせて興奮していた。
「あー、こりゃハインツ大尉が原因でバランス崩すわねこれ」
「けどけど、今の見ましたか! 凄い捕球の仕方でしたよね!」
「確かに生涯の内に一度しか見れない光景だったわ。さあどうするのかしらあの大隊長さんは……」
だがしかし、彼女が予見していたようにワンサイドゲームという形にはならなかった。それは旅団チームであるジェネフが予想以上に大活躍を決めていたからである。いくら人狼の破格ともいえよう運動能力を持っていても、野球は団体競技だ。一人一点しか決められない。
ジェネフは打者が人狼以外の時には全ての球をストライクか敢えてフライを打たせてアウトにさせるといった小細工を行い見事成功させる。すると人狼が打者として立つ頃には塁には誰いない。ジェネフはどうせ全力を込めても打たれてしまうことを察してか適当に投げる。それは当然ホームランになりカールスラントチームに一点加点される。
だけどやられっぱなしのカールスラントチームではない。マルセイユの球は忠告を貰っていたとしても打ちづらく、仮に高く打ったとしても人狼に止められる。
だからこそジェネフはとある作戦を考え付いて、カールスラントチームから点数を獲得していった。
その作戦内容は高く上げても人狼が存在するから捕られてしまう。ならば、人狼を避けてなおかつ低く下げてしまえばいいという内容。
この作戦は功を奏し、地道に一点また一点と稼いでいった。
試合はもう九回表、点差は無しの同点だ。
かなり体力を消費したジェネフは肩で息をし、投球のホームを取る。
「あ、あと九回投げちまえば勝てるんだ……」
体がふら付き、気温と太陽で自分が相当やられてきているのを実感する。心なしか視界がグラついてきた。彼は作戦を考えすぎるあまり水分補給と塩分摂取を怠っていたのだ。そのため重度の熱中症になっていた。だが投手交代をせず、一人の投手として最後までやりきろうとした。
俺は強くて精鋭である戦車隊の大隊長なのだ、と自分を鼓舞し投球を続ける。一人、また一人と打者をアウトにしていく。
「あ、あと一人……」
もしもこの投球で打者をアウトにさせれば勝てる見込みが増える。それに人狼の番ではないため安全だ。
息を切らし、次の打者を待つ。出てきたのは金髪で長髪の少女、同じ投手であり、キャプテンを務めるマルセイユであった。
「散々と好きにやられたが今度こそ勝つ!」
「はっ、鳴いてろよ。鳥が」
もうその頃には彼の体力と共に気力が尽き、具合の方も最悪な方へと悪化している。視界がグラつき視野が狭まる。それに猛烈な吐き気が常に襲い、酷暑とも呼ばれるアフリカで寒気を感じ汗が出ない。息も次第に苦しくなり、マルセイユの返事もままならない。
何故、立っていられるかは勝負で敗けたくないという目的と旅団チームを勝たせ加東に勝利というモノを見せつけようとする一途な想いからであった。
一球目はカーブを見過ごしてストライク、そして二球目はフォークを見過ごしでストライクを取る。
「最後、これが最後なんだ……」
自分に言い聞かせ絞りカスとなった気力と体力を身体の底から呼び起こす。もう何も見えない、瞼は開いているのに何も見えずに真っ暗である。もはや感覚で投げるしか手段は無い。ジェネフは全身全霊の力を込めた投球をキャッチャーに向けて放つ。
何も見えない彼は正確にキャッチャー目掛けて投げることができた。最後の球はストレート、もう細かい動作ができず、それしか投げられない。
これを打たれなければ希望が繋がる、と想いを乗せた球は―――――
心地よくバットが響く音に彼の希望は掻き消され、観客席からはホームランに興奮する歓声が無数に上がる。
そう、マルセイユは見事なまでのホームランを打ってみせた。きっと彼女はリベンジが成功して喜びながら塁を踏み回っているだろう。
「はっはー。やっぱり……俺はどこ…か…ミス…るな……」
とっくのとうに体力と気力が消え失せ、屈強な精神すらも摩耗したジェネフが立っている意味もなく、膝から崩れ地面に伏した。もはや地面の熱すらも感じさせない。
倒れた後に、彼は自分の力を出し切ったのがよほど満足したのか笑みを浮かべながら意識を手放した。
熱中症
本質的には、脱水による体温上昇と、体温上昇に伴う臓器血流低下と多臓器不全で表面的な症状として主なものは、めまい、失神、頭痛、吐き気、強い眠気、気分が悪くなる、体温の異常な上昇、異常な発汗がある。
特にIII度の熱中症においては致死率は30%に至るという統計もあり、特に重症例では脳機能障害や腎臓障害の後遺症を残す場合がある。