荒野では大量の戦車が先頭になり前進し、その後を連ねるように兵員を輸送するトラックや野戦砲、最後尾には物資を積んだトラックや装甲車に司令部となる大型の車両が一台、そして護衛のつけた少数の戦車が走り抜ける。
前方の戦車は傘のように広がり、索敵範囲を広げると同時に味方をを覆うような構成となる。
その戦車の種類は、度々戦線で使われてきたマチルダの代わりに本土から持ち込まれたクルセーダー巡行戦車だ。何故、今まで用いられてきたマチルダ歩兵戦車ではなくクルセーダーが選ばれたのかは二つの理由があった。
一つ目は速度である。リベリオンのシャーマン戦車やカールスラントの四号戦車は不整地でも時速三十キロは出せるのだが、マチルダは整地の状態で時速二十四キロ台しか出せない。主な原因としてはこの戦車ができた時の戦車運用にある。
マチルダという戦車は当時の歩兵を援助するという運用を元に作られた兵器なため、速度の心配は必要なかったのだ。
しかし、時代は変わり今は機動力が売りの機甲戦が主流となった。本作戦は速さが命なので他国の軍隊に追従できなければ作戦は瓦解する。
二つ目は砲弾である。マチルダは砲の威力不足により小型陸戦ネウロイに効果的な榴弾が撃てないのだ。ロンメル将軍曰く、「歩兵戦車のくせに敵歩兵に撃つべき榴弾が用意されていないのは何故だろうか実に興味深いものだ」と皮肉で言われたこともある。
マチルダにも一応二ポンド砲から三ポンド砲に換装した種類もあるのだが、それだと一つ目の速度の問題が解決しない。
だからブリタニア軍はマチルダからクルセーダーを作戦で用いることにしたのだ。
一応、今まで使用されたマチルダはブリタニア軍の予備機体として残留か本土に送られたり、補給を維持する役目を負ったロマーニャ王国が受領した。
車両が土煙を起こしていく地上を優雅に眺める一人の男が存在した。
飛行帽を被っているとはいえ金髪の触覚が三本ひょっこりと出て、西欧ならではの緑色の瞳をした男だ。
彼はウェストランド ライサンダーという開戦時から使用されてきた偵察機を用いて空を飛翔していた。
「改めて見るとこりゃあすごい。マチルダじゃないから滅茶苦茶に進軍が速い」
エンジンが轟いているので操縦席は煩いものもヒューと口笛を吹いた。
「しかしまあ、退院したらこんな戦場に送られるなんてねぇ」
彼は自身の左脚を眺めて撫でた。本来、脚の触感というのは柔らかいというのが世間一般の常識だろう。だが、彼の脚は指をめり込ませても一切沈むことはない。彼がノックをすると服越しに高い金属音が鳴る。
「ったく、パ・ド・カレーで撃墜されても脚一本を犠牲にギリギリ助かったのに、今回は運が味方してくれないとは」
と、彼は自虐風に呟く。
彼の名前はステック・セラック。階級は曹長に昇級した。
三年間彼は軍曹であったが、パ・ド・カレーの際にネウロイの巣を報告し形はどうあれ生還したという成果を出したからである。
それに航空ネウロイによりベテランパイロットの数も減り、各国は徴兵でパイロットを募った。その結果、空軍は人員補充に成功するが未熟な者ばかりで構成された飛行隊は軟弱であった。なので戦前からの熟練パイロットの価値はダイヤモンドに勝るほどに上昇し、その一人であるステックを手放したくはなかったのである。
ブリタニア軍は彼を曹長に昇級させた後、殊勲飛行十字章を受け賜ると義足のエースとしておおいに祭り上げた。
彼自身当初は慣れない人気に困惑していたが、現在ではもう慣れた様子である。
彼が脚を失った経緯としては、ハリケーンが爆発する瀬戸際に脱出したが、爆発時に生じた金属片が脚に深く刺さり、パラシュートを開きながら気絶。海で二日間遭難して傷が悪化。そして漁船が偶然にも救助し、病院に運ばれたが脚は傷を中心に壊死がつま先まで始まっていたので脚を切断した。
最初こそは歩くのには慣れず、毎夜幻肢痛が襲うも時期に痛みも消えて慣れていった。
リハビリをこなし退院後、楽な仕事がいいだろうと上司の気遣いでこの偵察機のパイロットになったのだ。
世間的にもエースが戦いに赴かないのはおかしいという世論もあったので、数週間だけ偵察機のパイロットとしてアフリカに赴いたのだが、まさかこの作戦が発動されるとは思わなかった。不運な男である。
空は若干雲がある程度なので索敵が容易だ。ため息を吐いて辺りを見渡していると、遠くの空に点々と黒粒が存在しているのを視認した。
首に掛けていた双眼鏡を手に、操縦桿を股に挟む。やや機体が揺れる。
「……うん、ネウロイだわ」
双眼鏡には小型ネウロイの姿が二十体程度映る。
誰が見ても明らかに嫌気で満ちた表情を浮かべると、無線機のスイッチを押して地上にあるブリタニア軍司令部に語り掛ける。
「ステック機航空ネウロイ発見。種類は小型で数は二十。至急ウィッチの支援要請を頼む」
『了解。ただちにウィッチを寄こします』
スイッチを切り、彼を乗せた偵察機は航空ネウロイに捕捉される前に逃げようと機体を旋回させようとした。すると地平線の向こうから小さく土煙が舞っているのを確認したため、旋回を止めて再度双眼鏡で確認した。
双眼鏡に映るのは小型と中型で構成された陸戦ネウロイの集団だ。数は土煙から見て三十程度、急いで無線機のスイッチをつけて連絡する。
「陸戦ネウロイも視認! 中型と小型の混成!」
『了解。連絡感謝します』
この報告は各国の司令部に届いた。
『陸戦と航空ネウロイをブリタニア軍方面で視認。ただちに向かってちょうだい』
「わかった。現場に直行する」
マルセイユは加東からの連絡に応じ、相機であるライーサとともにユニットを駆る。後方に主に陸戦ネウロイを殲滅するのに向いた人狼と稲垣が続く。時速四百五十キロという速度で向かう姿は一見、流れ星と見間違える。魔導エンジンを轟かせ五分足らずで現場に到着する。
地上では歩兵と戦車隊が迎撃態勢を整え、後方では砲兵が野戦砲を起こし、もう撃ち始めていた。野戦砲はいつでも撃てるように牽引していたので行動が速かった。
その五キロ先では砲撃の雨を外傷を負いながら突破してきたネウロイと鉛筆の芯ぐらいに航空ネウロイが迫っていた。
「行くぞ! ブリタニア軍を守り抜け!」
「了解!」
「了解!」
「…」
マルセイユがインカムで命じると各々それぞれの役目へ別れた。
マルセイユとライーサは人狼たちを無事突破させるために航空ネウロイに切り込みを行い、その隙を突いて人狼たちが陸戦ネウロイに攻撃を行うのがいつもの戦法だ。
切り込み隊はエンジンの出力を上げて人狼たちと距離を離してからネウロイとヘッドオンする。
赤い光線が放たれるも回避や魔導障壁を張り防御しつつ銃撃を加えて通り抜ける。ここで五体破壊した。ネウロイは彼女たちが通り過ぎると反転し背後につこうとする。何度も何度も光線が飛来するも難なく躱し、逆に仲間撃ちが起こる。
彼女らは素晴らしい連係プレーでネウロイを何体も撃墜していき、スコアと白い破片を増やす一方だ。
人狼と稲垣はマルセイユたちに惹かれている隙を見事突き、高度を下げて速度を増やす。陸戦ネウロイと距離が三キロ、二キロと迫る中、とある航空ネウロイが人狼たちに気づき、光線を浴びせようと急降下してきた。だが人狼は二挺の機関砲を急降下するネウロイに向けて短く引き金を引く。
音が連なる銃声は容易く黒光りする体を破壊すると全身を白い破片へと姿を変えた。
「ハインツ大尉ありがとうございます」
「…」
稲垣は感謝の気持ちを伝え、真下に位置する陸戦ネウロイ目掛け急降下する。高度は八百メートル、数字に表すと高いのだが実際速度の問題で低く感じられる。人狼も彼女に追従するように急降下を行う。
急降下中、機関砲を構える稲垣と人狼は高度百メートル手前で銃撃を始めた。二十ミリよりも倍大きい口径は航空ネウロイより強固な陸戦ネウロイの胴体を貫き確実に損傷させていく。
人狼は小型ネウロイを主体に銃撃を始める。ネウロイの脚が二十ミリの破壊力には耐え切れず捥がれて地面でもがいている。
ボヨールド四十ミリ砲は中型ネウロイを殲滅しMG FF機関砲は小型を殲滅していく。
「おいおい、俺らの戦車の出番ないぜこれ」
「そうだな。これは助かる」
「全くだぜ」
クルセーダー巡行戦車の搭乗員は各々の車長のから伝わる情報に喜び、歩兵たちは安堵していた。常に前方で蹂躙される側の人間たちにとってウィッチの存在は偉大であるのだ。慢心の雰囲気に呑み込まれそうになる中、一発の銃声が辺りを緊張へと引き戻した。
「ぬわぁにをしているのだァッ!! 怠けるのはブレイクタイムだけにしとけェッー!!」
「モ、モントゴメリー将軍!!」
「た、たたた大変申し訳ございませんでしたァー!」
「そんな謝罪文を言えるのならさっさと眼前の敵に集中しないか!」
「は、はい!」
意外にもそれはモントゴメリー将軍本人であった。数々の経験上、ウィッチの参戦後の空気は緩み切ることを認知していたため、モントゴメリーはわざわざ兵士たちに喝をいれるためにやってきたのだ。
なお、部下などに止められていたが、こんな体たらくでは犬猿の仲であるロンメルやパットンに顔向けできないといった理由があった。
「異教徒どもに邪魔される前に何としてでも成功させなくては……!」
モントゴメリーは力強く呟くと自身の拳銃を構えて眼前のネウロイに照準を合わせる。その顔は非常に焦り何かに急ぐ面持ちであった。
その後ネウロイは人狼たちに駆逐されて、ブリタニア軍の消耗はモントゴメリーが放った一発だけであった。
なお、部下からブリタニア国王にこの件が届き、国王から称賛されるもモントゴメリーは酷く叱られたという。彼の行為を全て称賛する者は首相のチャーチルしかいなかったという。
マチルダII歩兵戦車
イギリスで生まれた戦車。ヴィーカース社が1934年に開発した。
搭載された武装は二ポンド砲および同軸機銃と比較的小さめであり、速度も最大時速二十四キロと低速で榴弾が撃てない。これにはロンメルも馬鹿にしていた。
装甲はある方であり、四号戦車の砲も防いだ。
ソ連にレンドリースされるも不評であったが、日本軍の火点潰しにおいて火炎放射使用のマチルダは有効であった。