人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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壊滅

「……壊滅ゥ!?」

 

司令部である車輛からロンメル将軍の怒声とも受け取れる驚嘆した声が聞こえた。あまりの大声で顔を顰める無線手に操縦手。だが、単に声が大きかったからといった問題ではなく別の要因で彼らは顔を顰めたのだ。

 

今から数分前に突如として陸戦ネウロイがリベリオンの師団へと向かい、これを殲滅するも一瞬にして二個戦車中隊と一個歩兵中隊が壊滅したのだというのだ。

しかも、撃破された地にはたくさんの黒槍が突き刺さっていたのだという。確実にロンメルたちが危惧していたネウロイによる攻撃だろう。

こうも早く相手側が手を打ってくると予想できなかったロンメルは受話器を壊れんばかりに握りしめた。

 

『あぁ。うちのパットンガールは幸運にも配置していたところには槍が降らなくてな、無傷だ』

「それはなによりだ」

『だが部隊の再編成、または戦死者を回収するのに時間がかかる。一旦、リベリオン師団は離脱する』

「待てパットン! そうしたら旅団とブリタニアで槍の主へ挑めというのか!」

『……そうなるな』

 

リベリオンは工業力が高く、物量の面ではどの国よりも優っていた。リベリオンの師団に配属されている兵士は旅団を除いては変わらないものも、自走砲や戦車などといった車輛ではリベリオンが数を有していた。

エジプトに到着したら都市を一度砲撃して都市部に潜むネウロイをある程度殲滅する予定があり、リベリオンの数による火力が重要視されていた。

しかし、自走砲こそ被害はないものも戦車は大打撃を受けて部隊の再編成で一旦離脱されては、その砲撃は中途半端なモノになってしまう。

 

「ならお前の自走砲と兵員を寄越せ!」

『申し訳ないがそれはできない』

「何故だ!」

『こっちも合衆国の威厳を背負っている立場なのだ。俺が戦死して指揮権を失ったらの場合ならまだいいが、俺はまだ死んでいない。そして、他国に自軍の指揮権を委ねたと合衆国の民衆に知られたら一国の軍隊としての面子を失うこととなる』

 

実質、ネウロイを倒すために幾多の国が参戦している。もちろんリベリオン合衆国もその一員なのだが、リベリオンの特徴は物量作戦。大量の機械などを用いて戦闘をするため膨大な人員が必要不可欠なのだ。しかもただ前線で戦うだけではなく、後方で物資を輸送する人員にも割かなければならないのだ。

現在、リベリオンでは戦時体制に移行し徴兵制を取っているが、それ以前のリベリオンは良くも悪くもモンロー主義を貫いていた。補足としてモンロー主義とは他国に介入することを避ける主義である。

 

マスコミの力や国家規模の陰謀が働いた末にどうにか戦時体制に移行してネウロイとの戦いに参戦したのだが、民衆にもしも他国に自国の軍隊の指揮権を委ねたと知られたら民衆たちは不信感を募らせるだろう。

このことをパットン将軍は避けたかったのである。

 

「確かにその通りだ。だがそれは今回勝てばうやむやにできる案件だろう!」

『……そうかもしれんな』

「だったら早く指揮権を俺に委ねろ!」

『そして俺は考えた』

「何をだ!」

 

無線機越しに何か意味ありげな沈黙をするパットンにロンメルはその何かを問う。するとパットンは覚悟を決めたのか重々しく口を開いた。

 

俺が戦死すれば解決するんだよ(・・・・・・・・・・・・・・)

「……何をしようというのだパットン!」

 

さも当然のことを言ったパットンに対しロンメルは苛立ちを募らせる。しかし、真意に気付いたのかロンメルは目を見開いて息を呑んだ。

 

『つまり……こういうことだ(・・・・・・・)

「やめろパットン!!」

 

何かしらの金属音が小さく聴こえたと思うと耳をつんざくような音がロンメルの鼓膜を襲った。軍人なら誰しもが聴いたことのある音、つまり銃声だ。自殺という愚かとも捉えられる行動により、彼は一層怒りを募らせると同時に喪失感が胸を覆う。

 

『……代わりまして副官です。あなたに我が国の軍隊の指揮権を委ねます』

「わかった……」

 

パットンに代わって若干声がパットンより高い副官が相手になった。彼は淡々と会議で決めた約束事を述べる。ロンメルはパットンが自殺したという事実を受け止めきれず、張りのない声で了承する。

ロンメルは副官に対し、自走砲と生き残った歩兵部隊を当初の予定通りエジプトへ向かわせるように指示を送る。

 

「大馬鹿野郎が」

 

今は亡き憎ましい相手に小さくも悲しそうに罵倒を浴びせた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「おいおいおい、見えてきたぜ市街地がよ」

「車長、あまりはしゃぎ過ぎないでくださいね」

「わかってるって」

 

一方、旅団ではリベリオンと同様に戦車を前方に配置した戦車二個中隊の丁度真ん中に位置するところにジェネフが居た。彼はガスマスクを被りつつも、キューポラから体を出して双眼鏡で索敵していた。もはや市街地と距離が三キロに差し迫っていた。

事前に知らされていた情報に注意しながら、旅団の戦車大隊は一輌も脱落することなくことが進んでいった。

 

車内では砲手が本来の本業であったエドガーと初めての戦いに緊張した面持ちのジョイルが居た。エドガーに至っては何度も視線を潜り抜けているため慣れていたのだが、ジョイルは緊張してレバーを握っている腕が震えていた。

 

「ジョイル君」

「は、はひぃっ!?」

 

エドガーはしゃがんでから優しい声色でジョイルの肩を叩く。驚いたのかジョイルはびくりと体を震わす。極度の緊張は戦闘に影響を及ぼすのだが、新兵である彼にとってその緊張を解かすのは難しい。そこでエドガーは砲手の定位置に就いた後、彼にとある話をする。

 

「今ではああやって見栄っ張りで傲慢な車長なんだけどね。実は彼ね、初めての戦闘というか演習なんだけど演習弾が初めて自分の戦車に当たった時に腰を抜かして暫く立てなかったらしいよ」

「えっ。あのジェネフ大尉がですか?」

 

どうしても滑稽な姿のジェネフを彼は想像できなかった。エドガーは首を縦に振った後に話を続けた。

 

「しかも演習が終わっても立てなかったから、彼のあだ名が足の折れた案山子って言われててね」

「おう聞こえてんぞエドガー」

 

まさか戦場で今までに付けられて嫌だったあだ名で上位に入る名を聞くとは思わなかったジェネフはげしげしとエドガーの肩を踏みつける。

キョトンとした様子でジョイルをよそに、ジェネフが仕返しといわんばかりに、エドガーの黒歴史を言った。

 

「なあ知ってるかジョイル。このクソ眼鏡はなヒスパニア戦役でネウロイと相対したときにちびったんだぜ。こいつ妻子持ちのくせしてな」

「ちょ、ちょっと車長!」

「お返しだバーカ」

「いいんですか? 貴方の黒歴史だって僕いっぱい知ってるんですからね」

「オオン? そんなら俺だって手前のエッチな小話とか面白エピソードあるからな」

 

思わぬ反撃にエドガーは羞恥心で頬を赤く染めてジェネフの方に視線を向ける。そのやり取りが面白かったのか先程まで緊張していたはずのジョイルはくすくすと笑い声をあげた。そんな彼の様子を見て互いに顔を見合わせたエドガーとジェネフは、してやったりといったように互いの拳をぶつけ合わせた。

 

「まあなんだ。誰にだって童貞や処女があるように初体験があるんだ。気張るのもいいが失敗しない程度、まあ冗談で笑みを浮かべられるぐらいに余裕を持て」

「…わかったッス!」

「車長? 今の表現は未成年に適さないと思うんですけど」

「知るかそんなもん」

 

下卑た笑い声をあげるジェネフとくすりと笑うエドガー、それにつられてジョイルも笑い出した。車内はたちまち笑い声で埋め尽くされて場の雰囲気は明るくなった。

 

しかし、突如として辺りに響き渡る砲撃音によってその雰囲気は打ち壊された。もう市街地に向けて自走砲が砲撃したのだろうか。目の前の都市から土煙と黒煙が上り始め、建物が倒壊していく音も聴こえた。

笑い声はピタリと止んで殺伐とした雰囲気へ変わる。着けている制帽を被り直すジョイルに手袋を嵌め直すエドガーは強者ならではの殺気を飛ばしながら辺りを警戒する。

ジョイルは改めて二人が歴戦の兵士だということを認識した。

 

「全部隊の中隊長に連絡。各中隊ごとに距離を置け」

『『『了解』』』

 

ジェネフは首に手を当てて咽喉マイクを起動させて各中隊の指示を飛ばす。このマイクは新たに開発されたマイクで騒音などを気にせずに連絡することが可能な便利品だ。無論、車内にも無線機は搭載されている。

そして彼は三人の中隊長が了承するのを耳につけたインカムで確認した。

 

「エドガーは司令部に連絡を」

「もうしてあります車長」

「さて、山羊隊がネウロイをぶっ潰すところを他国の野郎共に見せつけてやろうぜ」

 

獰猛な山羊がまだ見ぬ標的に狙いを定め、鋼鉄の群れは恐れずにそのまま進軍を続けていった。

 




二号自走重歩兵砲

ドイツで生まれた戦車。アルケット社が開発し、1941年2月に試作車が完成する。
この車両は、ベース車体として二号戦車B型が用いられており車内に無理やり十五センチの砲を載せることとなった。車体は装甲も薄くてオープン・トップ方式で戦闘する。
機関室を冷やすため外気を直接導入していた。
1942年のアフリカ戦線に配置されて同年のエル・アラメインの戦いで全滅するまで各地を転戦した。
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