「おいおいおい、全然ネウロイのやつらいないな」
「んだなぁ。あの砲撃でバラバラになったのか?」
廃墟と化した市街地をブリタニアの歩兵一個歩兵小隊と戦車小隊が残敵を掃討するために一メートル、また一メートルと奥へ進んでいく。
各国の自走砲及び野戦砲の影響でどの建物も損傷しており、無傷の建物を探すのが難しい程だ。魔法力を持たない兵士たちは暑苦しいガスマスクを着けているので苛立ちといつネウロイが襲い掛かってくるかわからない恐怖を覚えながら進軍を続ける。
「暑いしなんだこの戦場は。息をするだけでもつらいぜ」
「外すんじゃねえぞ。死ぬからな」
「わかってるって……ッ!?」
歩兵たちが愚痴を零しながら進んでいると突然、前方の塀の壁が激しく崩壊して土煙が発生する。すぐさま小銃を構えて射撃の構えをして臨戦態勢を取る歩兵小隊一同。戦車小隊も異様な雰囲気を感じ取ったのか砲身を音の鳴った方へ向ける。
緊迫とした空気が張り詰め、兵士たちは息を呑んだ。
「……ただの偶然か」
「ちっ。驚かせやがって」
土煙が晴れるとそこには何も存在していなかった。安堵した兵士たちは舌打ちを打ち小銃を下ろした。だがしかし、一発の味方の銃声が辺りに響き渡る。
歩兵たちは引き金を引いた味方に目を向ける。引き金を引いたと思われる新兵は恐慌した様子で小道の方に銃口を向けていた。銃口の先には何もいない。ため息を吐いた古参兵の一人が新兵に振り返る。
「どうしたロック一等兵」
「い、今そこにデカいサソリが……ッ!」
「サソリだぁ? そんなもんいるわけない。第一ネウロイの撒く毒ガスはどんな生物でも殺してしまうのだ」
「そ、それでも私は!」
「ダーウィンの言っていた進化論がここでも通用するとでも? そんなもんは―――――」
「あっ」
新兵に半ば説教紛いのことを言う古参兵の頭が吹き飛び、その後の言葉を紡ぐことができなくなった。吹き飛んだ頭部はぐしゃりと鈍重な音を鳴らし、内部から脳みその一部や血液が地面に撒かれた。額には風穴が空いている。
「戦車の背後からだ!」
「敵だッ!!」
戦車の背後から撃たれたことを察した古参兵たちはすぐさま近くの障害物に体を隠す。新兵は何が起きたのか理解できずに硬直している。三輌の戦車は砲塔を背後に回そうとするも、それよりも速く直径三センチ程度の数本光線が全車輌の砲塔部を沈黙させた。砲塔部の回転は停止し、前方のハッチから生き残った戦車兵が拳銃だけの武装で飛び出して近場の障害物へ身を潜めた。人員の問題で戦車の戦闘が不可能になったのだろう。
「ど、どうしよう」
「取りあえず身を隠さなくては!」
「いやもっと遠くに逃げよう!」
「おいお前ら勝手に行くな!」
気を取り戻した新兵たちは蜘蛛の子を散らすが如く市街地に散っていく。古参兵や上官たちは彼らを必死に呼び止めるが遠くに逃げて行ってしまった者が十人中四人。六人は古参兵の元へ滑り込むように隠れることができたが、その後遠くに逃げた四人の悲痛な悲鳴が小さくも聞こえた。
「ちくしょう! 軽機関銃をセットしてもどれぐらい倒せるか!」
「グレッグ上等兵殿、この手榴弾でも撃破は可能ですか?」
「無茶を言うな新兵! 俺らが支給されている手榴弾はな、自害用だ!」
「そ、そうですか……」
「でもな、うちらの潜んでいるところにはいないが別の所に迫撃砲を持つやつがいる。そいつに期待するしかないな」
ブリタニアの小隊には二インチ迫撃砲が配備されており、威力の方も申し分ない。戦車の天板を狙えば撃破も可能だ。噂をしていると都合よくポンポンと音を鳴らして戦車の残骸の後方目掛けて撃ちこんでいた。姿を視認できなくても大まかな損害さえ与えればいいと考えたのだろう。三発目を打ちこんでいると耳を塞ぎたくなる金切り声が上がる。命中したのだろう。
すると迫撃砲の存在を脅威と察したのか、戦車をよじ登りついにネウロイが姿を見せる。
「うわっ!? デカいサソリ!」
「サソリ型のネウロイか、まったく嫌なものだな!」
驚愕する新兵を置いて古参兵は次々と射撃を始める。弾倉を鶏の鶏冠のように刺したブレン軽機関銃は全長一メートルのサソリ型ネウロイの装甲を削っていく。それに続いて小銃が放たれる。見る見るうちにネウロイの装甲を削り見事に爆ぜる。音につられて三体のサソリ型ネウロイが迫るも同様に対処した。
「はははっ! なんだこいつら装甲が薄いぞ!」
「まるでコンドームみたいだな!」
「ほれ、俺の弾丸をくらいやがれ!」
ネウロイが撃破されるごとに歓声が上がり士気も上がっていく。初めての戦闘に新兵たちは小銃を抱いて味方の邪魔にならないよう固まっていた。ああも人は凶暴になり、攻撃的になる姿を見ていつか自身も彼らみたいになるのではないかと危惧した。
そんな時、何かが割れる音がした。
「何だろう?」
新兵が視線を向けた先には現在、味方たちが対処しているサソリ型ネウロイと同等の個体がたった五メートル先にいた。そのネウロイの足元には瓶が粉々になっている。
新兵はとっさに小銃を構えて引き金を引く。一発目は命中、前脚に当たる。
「よし!」
新兵は二発目、三発目とネウロイの体に叩きこんでいく。ネウロイは悲鳴も上げず淡々と銃弾を受けていき、とうとう破片となって散った。初撃破した際の興奮と喜びが胸にへばり付いて自然と笑みを浮かべる。
「この調子で僕も――――」
弾を装填する新兵、これで古参兵にどやされずに済むと考えているともう一体ネウロイが現れる。先程のようにネウロイに照準を合わせて銃弾を撃ち込み二体目を撃破する。だがさらに三体目と四体目が同時に現れ、新兵目掛けて突進してきた。
「に、二体は無理だって!!」
突進を腹で受け後ろに倒れこむ新兵、二体のネウロイは尾にある鋭利な針で太股と腹部を刺した。
「うがああああッ!!」
猛烈な激痛と体中の血液が沸騰しているように感じ、悶える新兵。ネウロイ二体は一度打ち込んだら満足したのか、軽機関銃を撃つ古参兵目掛けて接近する。その光景を新兵は惜しみながら眺めていた。
「肌が痛い!!」
手袋を無理やり脱ぐと手の甲が泡のように膨れ上がり、破裂しただれてきている。自身の体がグロテスクなモノへと移り変わる光景に悲鳴を上げる。そして目元が痒くなる。ガスマスクを着用しているので目を擦れない。かといってガスマスクを外したら瘴気のせいで死んでしまう。
だがそれでも新兵は取りたかった。我慢できなくなった新兵はガスマスクを外し、目を掻いた。するとどうだろうか、彼の眼球が溶けていたのである。擦った手の甲には白い液体がついている。目に激痛が走るも擦った際の快感がやめられないのか何度も何度も擦っていく。
気が付いた時にはもう目玉は無くなり頬の肉もただれ、掻いていた手から骨が見えていた。
「……体が痒いよぉ……ママ」
瘴気の影響で喀血した後、新兵は動かなくなった。まだ親元が恋しい青年であった。
一方で、軽機関銃を撃ちまくっていた古参兵も新兵を刺したネウロイの存在に気付いた。軽機関銃を二体のネウロイに向けて撃ち対処するも、さらに奥からぞろぞろと姿を現す大量のサソリ型ネウロイたち。
思わず息を呑む古参兵とは弾倉を入れ替えて再度射撃を始める。
「オラオラオラ! さっさとくたばれゴキブリ野郎が!!」
装甲が薄いため呆気なく撃破されていくネウロイたち。接近してきた一体のネウロイであったが古参兵は足でネウロイの背中を踏みつけて動けなくさせる。尾の針にも意識して躱し、軽機関銃を放つ。今度は飛び跳ねてくるが銃身でネウロイを突き放す。
「そんな原始的な攻撃じゃ俺を殺せは―――――」
慢心して気が緩んだのか胸元に戦車に撃ちこまれた際の太さの光線が胸元を貫いていた。古参兵は喀血して膝を地面に着くと大量のネウロイたちが襲い掛かる。彼も新兵同様に針を刺されて痛みが全身に駆け巡るも、腰のベルトから手榴弾を取りだして安全ピンを引き抜いた。
「俺だけで死ねるかああああ!!」
手榴弾が起爆し小規模の爆発はネウロイを粉砕、もしくは吹き飛ばす。爆風でひっくり返ったネウロイは尾を用いて立て直し、他の兵士の元へと迫る。
そして市街地では多量の群大による蹂躙が今まさに行われようとしていた。
SBML 二インチ迫撃砲
イギリスで生まれた迫撃砲。エキア社が最終的に開発した。
SBMLとはSmooth Bore Muzzle Loadingの略で日本語で滑空砲、前装式を意味している。
最初の二インチ中迫撃砲(マークI)は1918年の塹壕戦で登場したが、1919年には廃止されたが1930年代半ばになって歩兵小隊レベルで運用する軽量迫撃砲の必要性が高まったことにより、新型迫撃砲の試作・評価が行われた。
戦後は改良型の51mm軽迫撃砲L9A1へ移行して1980年代までイギリス軍で装備されていた。