人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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大サソリ戦決着です。
あと一話でアフリカ編終了です。


衝突

「左前方に小型が二だ。エドガー」

「了解」

「そして次の角を右折、再度攻撃する」

「了解したッス」

 

エドガーとジョイルは着々とジェネフの命令に従って行動を行い、ジェネフは無線を三号車と四号車に繋ぐ。

 

「いいか。今から俺が仕掛けて囮となる。その間にお前らが攻撃しろ」

『了解しました』

『了解。ですが小官の車輛と四号車は散会しています。それに大隊長の場所さえも不明。連携は可能なのでしょうか?』

「はっ、お前らの位置は把握しているさ。お前らの行動パターンを考えて行動しているし、上空から嬢ちゃんが位置を把握している。連携は可能だ」

『……必ずこなしてみせましょう』

「その意気よし。期待するぜ」

 

彼は無線を切り、くしゃくしゃの地図を凝視して鉛筆でマークを付ける。上空を見上げると稲垣と人狼が何条の光線に追われながらも戦車の位置を把握するついでに、大サソリ型ネウロイに攻撃を仕掛けようとしていた。

 

人狼が大サソリ目掛けて急降下して、両手にした機関砲を撃ち鳴らす。稲垣も人狼に追従して三十ミリの砲弾を飛ばす。大サソリは銃撃を避けようと回避運動を取るも、やはり数発喰らい、重厚感のある奇声を発する。

 

「ハインツ大尉!」

「…」

 

大サソリも負けじと尾の先端から光線を発射して人狼たちを狙うも、稲垣の先頭にいた人狼が彼女ごと魔法障壁で守る。しかし、光線はかなりの熱量、及び威力を持つのか魔法障壁にひびが入っていく。このままでは人狼の魔法障壁は貫通して、背後の彼女にも被害が生まれてしまう。

 

 

「デカい目印助かるぜ」

 

そこにジェネフを乗せた戦車が街角から姿を現して、一時停止してから即座に砲撃。人狼と稲垣の持つ機関砲より口径が大きく異なる砲弾が砂色に染められた砲身から射出された。

今にも貫かんとする砲弾は見事に尾に命中し、尾の先端が揺らぎ光線は狙いから逸れた。好機を見逃した大サソリは怒りを表すかのように咆哮する。

 

「はい撤収。後進しながら先の道順で逃走」

「了解ッス」

 

ギアを動かしてジェネフの戦車は後進し始めると、大サソリは数本の足を動かして彼らを追う。彼らが角を曲がったところに大サソリは正面を向けると突然三発の砲音と共に鋭い衝撃を受けて吹き飛ばされる。

建物の外壁に穴を開けた大サソリの眼前には三輛の戦車が堂々たる存在感を放ち、砲口からは白煙を伸ばしていた。

 

「ビンゴ。三輛による同時攻撃、これには効果がないはずがない」

「お見事です車長」

「……んじゃ、再装填もした。撃て」

 

ジェネフの砲声を皮切りに他の二輛も砲撃を大サソリに集中させた。他の二輛からは気休め程度の機関銃が使われた。

攻撃をしていく度に土煙は徐々に巨大化、あっという間に大サソリがめり込んだ地点はモクモクと覆いかぶされてしまった。ジェネフは攻撃停止の合図を出し、土煙が晴れるのを待った。

 

「す、すごい。流石はパ・ド・カレーの英雄と謳われる隊長、たった三輛でここまで追い込むなんて……」

「…」

 

上空からは稲垣が先の戦闘の進行に驚嘆している様子であった。悲しいことに彼女から見たジェネフの評価としては野球とギターが上手くて陽気な大隊長というお世辞にも素晴らしいとは言い難い人物だったが、これを機に評価が更新された。

一方で人狼は土煙の中に居る大サソリのことを気にかけていた。

 

「これぐらい攻撃できれば――――――」

 

彼女が安堵の色を見せた次の瞬間

 

突如黒い円柱状の砲弾が地上から打ち上げられた。砲弾は高度三百メートルのところで炸裂して中から多量の黒槍が放出された。すぐに稲垣と人狼が二重の魔法障壁を張って防衛に努めるが、魔法力を持たないジェネフたちはその黒槍の脅威を味わった。

 

「建物の中に突っ込めええええッ!!」

 

焦燥を隠さずに、ジェネフは無線機を起動させながら自身の車輛に指示を飛ばす。そのお蔭で彼の車輛は建物を突き破り、気休め程度の屋根を確保した。

だが、咄嗟の指示についていけなかった三号車と四号車は大量の黒槍を上部から受けて、ただでさえ薄い装甲を貫いていく。

 

『助けてくれええええッ!!』

『終わってくれえええ!!』

『痛い痛い痛いッ!!』

『か、母さん……』

 

無線からは車内に居る彼らの絶叫がジェネフの耳を襲った。悲痛感で溢れる悲鳴に彼はガスマスクの中で眉をしかめる。ジェネフの車輛にも黒槍が当たるが、気休め程度の屋根が威力を減少させてくれたため、貫通には至らなかった。

だが、砲身は黒槍が何度も衝突するため凹みがいくつもできてしまい、再度の射撃は不可能であった。

 

黒い雨が止んだ時には被害を受けた二輛は弾薬に引火し炎上、空では人狼が稲垣を庇って背中に数本の黒槍が突き刺さっている。この一度の攻撃で人類側はかなりの被害を被ってしまった。

 

「ハインツさんッ!!」

「…」

 

血を喀血し特に苦しむ様子を見せないで背中に生えた黒槍を抜いていく人狼。手には稲垣を庇うために機関砲や弾倉を捨ててしまい何も無い。あまりの凄惨さに稲垣は小刻みに震え、目には涙が溢れる。

 

瓦礫の中からゆっくりとジェネフの戦車が這い出て、キューポラからジェネフは顔を出した。

 

「車長、射撃は可能でしょうか?」

「無理だ。このまま撃てば暴発する」

「……決定打を与えられなくなりましたか」

「馬鹿野郎。こんなことで諦めるんなら俺の搭乗員じゃない」

「だったらどうしたらいいんですか!!」

 

エドガーの諦念が込められた一言を否定するジェネフ。なら手はあるのか、と逆上するエドガーにジェネフは獅子のような眼差しで彼とジョイルを睨む。

 

「例え角が折れても蹄で戦え。蹄が駄目なら口を使え。俺らが戦場に来たらその命尽きるまで戦わなければならない。どんなに弱音を吐いても戦わなくてはいけない。それが一兵士としての原則事項だ。さあ戦うぞ」

 

ガスマスク越しからでもわかるように彼の瞳には確かな闘志が灯っていた。ギラギラと赤く煌めく(闘志)はまさに灯台、明るく熱い覚悟に感化されたのか、やれやれとジョイルは膝を叩いて立ちあがった。

 

「……わかりました。一兵士として職務を果たしましょう」

「お、俺も!」

「なら結構、俺らがアイツに決定打を与えるぞ!」

「了解!」

「了解ッス!」

 

 

一方で魔法力が不足し飛行が覚束ない様子の人狼を支える稲垣、元々人狼の魔法力は普通で長時間の戦闘には向いていない。まだ太陽は雲に隠れていないため、回復も暫くは見込めない。最悪な状況であった。

今は稲垣が人狼を支えているためなんとか飛行できているが残り数分ほど。これを越せば人狼は地上へと叩きつけられてしまう。

 

「ハインツ大尉の魔法力が弱くなってきてる……何処か安全な場所で降ろさないと……」

「…」

「何処か安全な場所は……」

 

彼女が辺りを見渡すが、此処は戦場のど真ん中でネウロイも無数に息を潜めている。いくら人狼の能力が自己治癒とはいっても、体を日陰に置かない限り回復しない。

狼狽える稲垣の真下から一条の光線が音を立てず高速で迫る。人狼と稲垣はその光線には気づいていない様子であった。この一撃が命中すれば必然的に地面へと落とされてしまう。

 

「危ない稲垣ッ!」

「うわっ!?」

 

しかし、高速で何かがぶつかったことで光線を紙一重で躱すことができた人狼と稲垣。息を漏らす声と長髪の金髪からその正体を即座に看破する。

 

「マルセイユさん!?」

「はぁはぁ、やたら私の中で警鐘が鳴っていると思ったらお前らだったか。間に合ってよかった」

「ハンナたちも無事なの?」

 

後からマルセイユを追うようにライーサが出力を上げて近づいた。流石はマルセイユ専用のユニットである。速度が通常のユニットよりも速い。人狼へとマルセイユとライーサは目を向けると、衝撃的な格好に唖然として口を大きく開けている。まあ、背中やらに黒槍が刺さっていてハリネズミ状態なのだから当然ともいえる。

 

「お、おい! 大尉、流石にそれはマズいんじゃないのか!?」

「そそそ、そうですよハインツ大尉! いくら回復力があるとはいっても重傷じゃないですか!!」

「…」

 

なお彼女の心配をよそに人狼は空いている手で拳を握り親指を立てた。まさに大丈夫と言わんばかりのハンドシグナルだ。能天気ともいえるサインにやや引き気味になる少女三人、それに対し人狼は何故そのような反応をするのかわからなかった。

 

「……戦いが終わったら病院行きましょうね、ハインツ大尉」

「…」

「さて、今の状況はどうなんだ稲垣」

「はい、現状況はかなり面倒な事態となりました。地上にて大型サソリ陸戦ネウロイと接敵した戦車大隊長であるジェネフ大尉の中隊と随伴歩兵一個小隊は壊滅しました。そして先の面攻撃にてジェネフ大尉含む三輛は生死不明です」

「……かなり厄介だな。他の戦線ではこちらへ援軍を出せない状態だ。どうにかして私らで倒さないといけないのか」

「困りましたね。航空ネウロイとの戦闘に特化した私たちは、陸戦ネウロイには効果が薄い機関銃。どうにかして外殻を割らないと」

「それもあるし、要ともいえる大尉も負傷。太陽が隠れるまで回復もできない、そして何よりも魔法力が枯渇している」

 

もはや人狼のユニットの出力は落ちて通常時よりも半分程度。十分な機動も速度も出せない。また、陸戦ネウロイに効果的な武装は稲垣の機関砲と人狼が持つ集束手榴弾一つだ。

目標が目の前にいるのにも関わらず何も手出しができない状況に、思わず歯を噛みしめて悔しがる素振りを見せるマルセイユ。ライーサも打つ手はないのかと渋い顔で模索していた。

 

 

そんな状況に一本の無線が入る。

 

『こちらジェネフ大尉。ウィッチの嬢ちゃんたち聞いてるか?』

「なんだジェネフ大尉。やつらに狙われるから無線を止めてもらいたいのだが」

『なら手短に言う。俺らが突破口を開くからそれまで空で踊れ』

「はあッ!? 何を言うんだジェネフ大尉!」

『俺を信じろ』

 

あまりにも突拍子もない発言に困惑と八つ当たりに近い怒りがこみ上げるマルセイユ。たった戦車三輛で大サソリを仕留めることができるはずがなく無謀だと察したが、どこかその言葉が信頼できるような気がした。錯覚なのだろうか、と彼女は考えるも何もしないよりかはした方が得策だと決めて、彼女はため息を吐いて了承した。

 

「……いいだろう。ただし失敗はするな、私らのダンス披露会は高いことを思い知らしてやろう」

『感謝する』

 

彼からの無線が切れる。マルセイユは呆れた顔で人狼たちに告げる。

 

「どうやらジェネフ大尉は私らに踊れと指図してきた。だから私たちは派手に踊るぞ」

「……囮ですか」

「その通り。その代わりに彼らは私らに高いプレゼントをくれるそうだ。奮起しなくちゃな」

「ついでに終わったら高いお菓子でも貰いましょう、ハンナ」

「が、頑張ります!」

「稲垣らはそのまま待機。大尉を支えて踊れるはずじゃない、お前らがジェネフ大尉のプレゼントを受け取れ」

「わかりました」

「では散会!」

 

稲垣と人狼を置いてそれぞれの方角へ飛び出した二人、無線機のスイッチを入れたまま飛んでいるため、ネウロイに探知され地上から多数の光線が彼女らに迫る。しかし、空戦機動で鍛えた回避能力は非常に高く華麗に舞って躱し続ける。時折、普通とは違う太い光線が襲ってくるも難なく躱した。

奇襲でこそ攻撃を受けたものも、用心した彼女たちにとって難題ではなかった。

 

 

「何処かに本命が潜んでいる……。何処なの?」

 

稲垣と人狼は目を平たくして大サソリの捜索に努める。しかし、中々見つからない。大サソリの光線は一度だけ曲がることができるので直線上にいないことが多いのだ。彼女と人狼が必死の捜索に努める中、一本の宛て先不明の無線が届いた。

 

『大サソリの場所は井戸のある広場だ。アンタらから見たら東側ですぜ』

「協力感謝します! だけど貴方は誰ですか?」

『ん? あぁ俺か。んじゃ悪運のカラス(・・・・・・)とだけ覚えていてくれ』

 

聞いたことのない単語に思わず疑問符を浮かべる稲垣。だがしかし、そんな余裕は無いとすぐにジェネフに連絡をする。そして、この連絡をした片足のカラスことセラックはできるだけのサポートはしたとほくそ笑んでいた。なお、この支援が後に過大評価されて彼を激戦地へ送る要因となるのはまた別のお話。

 

 

「よしッ! 大サソリの野郎を見つけたぜ!」

「はい。けど機関銃でやるんですか?」

「いいや、武装は何も使わん」

「はっ?」

 

稲垣からの連絡が入り数分後、ジェネフたちはあらゆる障害を突破して広場の入り口を差し迫った。覗き窓からは大サソリが広場の中心でマルセイユとライーサに釣られて懸命に射撃をしていた。いくら撃っても二人は回避するので躍起になっているのだと一目でわかった。大サソリは眼前にぶら下がった猫じゃらしに夢中になる猫のように熱心で、彼らは眼中になかった。

まさに好機である。

 

「じゃあ何で攻撃するんスか!?」

 

そしてジェネフの何も使わないという発言に裏声になって叫ぶジョイルを横目にニヤリとニヒルな笑みを浮かべた。もう戦車は入り口を抜けて、前方百メートルには大サソリが存在している。

 

「体当たりに決まってんだろッ!!」

「えええええッ!?」

「アンタ馬鹿じゃねえの!? 車長死ねッ!!」

「行けえええええ!! スピード上げてぶつかれえええ!!」

「ああもうどうにでもなれッス!!」

 

自棄になってジョイルは速度を最高速にするためにギアを上げる。大胆かつド派手な攻撃方法に思わず罵倒するエドガー、ジェネフはゲラゲラと爆笑をしてどこかしら吹っ切れた様子であった。まあ元々ジェネフは狂っている方ではある。

 

「構えろ!」

 

各々が対ショック態勢をとって衝撃に身構える。数秒後、ジョイルら一行が乗る戦車は見事に大サソリの横腹に衝突する。彼らの体が衝撃で前へ出そうになるが耐える。戦車は速度を下げながらも大サソリを押して前進を続ける。流石の大サソリもこれには対処ができなかったのか、されるがままである。

 

そして目の前に造られた枯れた噴水に大サソリの体は板挟みになるように叩きつけられた。噴水はもったよりも頑丈な建造物だったのか壊れずに、戦車と大サソリはその場で止まる。大サソリの背中の甲殻は板挟みになった衝撃のせいで派手に割れて内部を露出させた。移動しようにも板挟みとなって大サソリは動けない。

内部には紅の核がキラキラと輝きながら回転している。

 

「ハインツ大尉!?」

「…」

 

今が撃破が可能な最後のチャンスだと踏んで稲垣の腕を振り払い落下する人狼。すでにユニットは外されており、身軽になっている。身軽になった人狼は膝を折り曲げて縦回転して蹴りの威力を最大までに上げる。高度三百メートルからの一撃となるとかなりのものになる。

 

幾多の回転を経て人狼の攻撃範囲に入る。甲殻は核を隠そうと回復を始めていたがもう遅い。

人狼は渾身の踵落としを核に目掛けて落とし込んだ。

 

「…」

 

踵は甲殻をも砕いて核に命中する。踵はガラス細工の彫刻を破壊するかのように容易く真っ二つに両断した。二つに分裂した核は瞬時にひびが入ると、大量の白い破片へと姿を変えていった。

 

 

アフリカの熱風が吹いた。

風に乗せられて破片は宙に舞い、空中でパラパラと分解されてしまった。

その光景はまさに人類の勝利を祝うかのような祝福の紙吹雪のようであった。

 




噴水

池や湖などに設けられる水を噴出する装置、またはその噴出される水そのもののことである。広場や庭園、公園の装飾的設備として設けられることが多い。
有名なのはブリュッセルの小便小僧やシンガポールのマーライオン。

あと作品に出た広場の噴水は滅茶苦茶頑丈、多分だけど戦車砲も弾ける。
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