制圧
南リベリオンカールスラント領
この土地はかつて帝国の植民地支配の国家方針に則って占領、開拓した土地である。
当時では植民地を得ることは大国として当然であった大国間の流行りがあって、この
領地確保によってリベリオンが生まれることとなる。
そして幾多の原住民との闘争を経て、カールスラントの開拓者は開墾を成し遂げたのだ。現地ではコーヒー、煙草の草、鉱石が産出ができて港町はおおいに栄えた。
港町では教会や市場に学校や役所が置かれており、それは二十世紀に突入しても続いていた。
しかし、ネウロイによる欧州侵攻により大量の難民が飛び地である南アフリカ領に流れ込んできた。本土の国民の大勢がこの土地にやってくるので、食料や家が足りずたちまち暴徒化し、治安が悪化してしまった。
ただちに難民テントの増設と私財を投げ打ってまでの食料購入をカールスラント皇帝が直々に行い、暴動は沈静化する。
だが、元々住んでいた開拓者の子孫たちは本土からの難民に侮辱と軽視といった悪意を込めて見下していた。
ある日、一両の車両が山奥へ続く道路を走行していた。車の車種は何処にでもあるありきたりの車両である。森を切り開いて作られた道路の先には一つの廃坑があった。
五年前までその坑道は実際に採掘ができたので道路はさほど荒れてはおらず、雨季でもないので道もぬかるんではいない。
砂煙を上げて車は行動へ進む。
十分後、坑道の入場門が視認できる辺りで車は停車する。門は固く閉ざされていた。
黒塗りの扉が後部座席から開かれて車内からは二メートルほどの大男が現れた。緑色の軍服に身を包み、一昔前の戦闘帽を被り、腰にはやたら長い銃身の拳銃二丁が取り付けられている。
大男の正体はかつて欧州の各地で戦功をあげて、北アフリカでも活躍した人狼であった。
「…」
ジッと入場門を見つめて、やがて走り出した。
距離はおおよそ三百メートル、人狼は全力疾走で門へと迫る。
入場門付近では何処からか仕入れてきた第一次ネウロイ大戦の機関銃が二挺を中心とした簡易陣地が門の左右に構築されていて、陣地の中では上半身から下半身を漆黒に染めた人たちがトランプで遊んでいた。左陣地に三人、右陣地三人で計六人だ。
「敵襲だー!!」
「う、うわっ!? 此処にも来たか!」
「なんてこった!」
なお、人狼が猛速度で迫るのを認知した彼らは異様なまでに慌てだした。トランプをバラまいて急いで機関銃の射手につく者やその場から逃走しようとして仲間に肩を掴まれる者の姿が人狼の獰猛な赤い瞳に映る。
機関銃の射手らは人狼に照準を合わせて引き金を引いた。人狼に向けて一秒に数発撃ちこまれた。
「…」
人狼はこの攻撃を受けて怯むどころか、速度を次第に上げていく。脚と腹部に被弾しても走りをやめない。額や首に命中してもまだ走り続ける。まさに猪突猛進という言葉を体現化していた。
門への距離が五十メートルとなった頃、人狼は腰から拳銃二丁を取り出しては両陣地の機関銃手らに向けて射撃をする。長い長い銃身から放たれた銃弾はぶれることなく彼らへ目掛けて飛んでいき、二人の脳天と首に命中する。
「ひいいいい!?」
「な、なんだよおおおッ!!」
「やめろおおお!!」
「来るなァー!!」
残された人たちは全員悲鳴を上げて人狼に恐怖した。恐怖のあまり体が硬直してしまい、自由に動けなくなっていた。歯を噛み鳴らして尻目に涙を浮かべる者も存在した。
そんな彼らに向けて人狼は無慈悲に銃撃を始める。引き金を引くことに阿鼻叫喚の声は一つ、また一つと消えていく。人狼が入場門を蹴って中へ侵入する時には、両陣地に生きている者はいなかった。
内部へと侵入した人狼は残弾を確認するとまた走り出した。人狼の目的は坑道であり、それを妨げる人間はただの障害物にしかならなかった。
サーベルや着剣済みのライフルを手にした者が人狼に迫るも、即座に首を落としたり脳みそを散らして無慈悲にも彼らを蹴り殺した。
「軍の犬めッ! これでも喰らえ!」
「死にな!」
トンプソンやルイス機関銃で武装した者が人狼に向けて射撃をするのだが、素人の弾道は極めて読みやすいので容易に躱し、人狼はゼロ距離で長い銃身を彼らの腹部に当てて撃つ。二人は後ろに吹き飛ぶとカッと目を見開いて死んでいた。
拳銃を戻し、先程殺害した二人から機関銃二挺と弾を奪うと再度走り出す。
「た、助けてッ!!」
「来ないで!」
「いやあああ!!」
鹵獲した機関銃を用いてすれ違う通行人に対しても引き金を引いた。通行人は漆黒の衣装に身を包んでいたが、血によって黒色に染みを作る。赤黒くなった死体が生産された。死体には女性や子供が含まれているのだが、人狼は躊躇なく引き金を引き続ける。
制止を促したり命乞いの声を無視して引き続けた。
人狼の進撃をなんとか止めようと目の前からトラックが計二台迫る。無論、運転手がハンドルを握り、助手席からはライフルで乱発する者がいた。
「ここから先は行かせねえええッ!!」
「うおおおおおおッ!!」
人狼は冷静に二人の運転手へ銃口を向けて引き金を引く。フロントガラスに蜘蛛の巣状のひびが入り、運転手の鮮血で蜘蛛の巣が赤く染められた。隣でライフルを撃っていた者は急いでハンドルを握って進行方向を調整している。
今度は人狼は車両のタイヤを撃つ。その際に、あえて車両の互いに面するタイヤを撃つことによって、二両はバランスを崩して二台が横腹を合わせて衝突する。
「離れろ!」
「お前が離れろよッ!」
口論をする両車両に向けて人狼は魔法力を込めた一撃を撃つ。魔法力を込めた一撃は強力で、貫通した後に内部で爆裂した。おそらくは内部のガソリンにまで銃弾が貫通して着火したのだろう。
片方のトラックが爆発したので、もう片方のトラックは爆風と熱風に押されて横倒しに転倒した。中に居た運転手も爆風と熱風に身をやられて生きてはいないだろう。仮に生きていても大きな障害を抱えることになる。
轟々と燃え盛るトラックを通過して人狼は進む。
そんな調子で数分走り続けると坑道の入り口を視認できた。
入り口を塞ぐように荷物が置かれ、二百人規模の人間がそこを死守しようと武器を持って待機していた。中には武器というにはあまりに粗末な木の棒や食事用のナイフを持つ者や、拳銃を持つ者もいた。そして、二百人規模の集団の中には十代の少年少女やそれ以下の子供が居た。
人狼は密集して待機している彼らに向けて、魔法力の込めた射撃をする。普通の弾とは断然違うので、生身の人間がこの銃弾を受けると過貫通を起こして突き進むのだ。
とある実験で魔法力を込めた一撃はどのくらい貫通するのかを検証した。それによると魔法力の質に問わず、余裕で人を五人も貫通することが判明した。
過貫通で飛び出した銃弾は新たに過貫通を起こして、また過貫通を起こす。焼き鳥の串の如く、銃弾は彼らを貫いていく。銃弾は性別や年齢も区別することなく貫いた。
「…」
銃弾が引き金を引くが弾切れで弾はでない。装填するにも時間がもったいない。なので人狼は彼らに向けて機関銃を投擲し、素手のままで集団に突っ込んだ。
今が好機とばかりに彼らは人狼を取り囲んでは武器を構えて迫るが、人間と人狼とでは体格も能力も違う。
人狼が一息深呼吸すると、迫ってきた者に対して徒手空拳を喰らわす。人狼の一撃は人間の頭蓋骨をクッキーのように砕き、頭部を吹き飛ばす。人狼の横腹を薙ぐような蹴りは胴体を引き千切り、臓物を簡単に散らすことができた。
人々は後悔した。
人狼が接近したのはこちら側の好機などではなく、
踵を返してその場から逃走を図ろうとする者には拾ったナイフを投擲して殺害、人狼と一緒に自爆を試みようとする女性に対しても爆弾の導火線をその女性の血液で消火させて防いでいた。人狼は常に血を舞わせて戦闘を行っていた。
五分もすれば辺りは鮮血で地面が染められて大量の死体が乱立していた。生存者などは存在しない。人狼は全員の致命傷を狙って攻撃をしたのだ。人狼の全身は血によって赤く染色されており、人狼の白髪にも誰のかわからない血が付着していた。
人狼は死体を踏み分けて坑道の入り口へと迫る。
入り口はバリケードで塞がっているとはいっても、容易に突破ができる。人狼は渾身の蹴りをバリケードに放つ。バリケードはいとも容易く破壊されて、破片の一部が坑道へ
飛来した。
土煙の中から人狼が姿を現して、坑道の深部へと歩み始める。
坑道は異様な雰囲気を纏っており、壁には謎の紋様が描かれた旗や落書きが描かれている。落書きの中にはネウロイを賛美する内容が書かれているモノもある。人狼はそのような類を目にすると、瞬時に蹴りで壁を削り取った。
坑道の内部でも機関銃陣地が三重に築かれており、無数の銃弾を飛ばすも先程と同様に拳銃を撃ち鳴らして撃破した。人狼が通過したところには必ず生存者はいなかった。
「やあ、待っていたよ」
最後の機関銃陣地を突破した人狼が目にしたのは、他所よりも広い空間で松明を灯りとして用いている部屋だ。部屋の奥の正面には大きな石造りの椅子に座り、体を漆黒で包んだ男で、顔にはネウロイを意識したと考察できる模様が痛々しく刻まれていた。
椅子の後ろの壁には大きな旗が張り付けられていて、不気味なマークとネウロイを称賛する文言が記載されていた。
「ようこそ。秘密結社黒の先導者へ」
「…」
「私の名前はロゲス・ヴィンターフェルト。秘密結社の教祖だ」
人狼はヴィンターフェルトという自らを宗主と名乗る男に人をも殺すほど殺意で溢れた視線を向ける。そんなこと知ってか知らずかヴィンターフェルトはのうのうと口を開いた。
「そんな怖い顔をするなよ。君の噂は知ってる。だってウチの支部を制圧して回ってるんだ。嫌でもわかる」
「…」
「どうせ君の狙いは私の殺害、及び本部の壊滅だろう」
人狼が此処に来た目的は黒の先導者の本部の壊滅とその教祖であるヴィンターフェルトの殺害だった。これまで人狼を邪魔してきた人たちは黒の先導者の構成員であり、信者だったのだ。
だから統一された衣服であり、人々は教祖を守ろうと武器を所持していたと納得できるだろう。
「いやはや、かつてはパ・ド・カレーの英雄と持て囃されて沈黙の狼と言われた貴殿も地に落ちたものだ」
「…」
「……興味はないのだな。まあいい、貴殿に提案だ」
「…」
つまらなさそうに彼は人狼に話を持ち掛けてきた。
「私の構成員となれ。さすれば女も地位も金も保障して――――」
次の瞬間、彼の額に風穴が空いた。
不思議そうな顔をして彼は額を触り、人狼を侮辱するように嗤ってみせた。
「つれない化物め」
椅子にもたれながら彼は絶命した。
人狼は彼に向けて引き金を引いたのだ。拳銃を収めて人狼は入場門へと踵を返す。
もはや人狼は二年前の人狼ではなく、前世での冷酷さと無常さを取り戻した人狼に変わっていた。すなわち、第二次世界大戦で暴れまわった人狼になったのだ。
人狼の次の任務は久しぶりの航空ユニットを用いてのネウロイ討伐でブリタニア島へと赴く。その先の基地では昔馴染みの少女が三人いるのだが、彼女らを微塵も思ってはいない。
人狼は種族として例外のない
トンプソン・サブマシンガン
アメリカの短機関銃。オート・オードナンス社によって開発されて1919年に試作された。
第一次世界大戦時に、塹壕内の敵を一掃できる短機関銃として開発されている。なお生産されたのは1920年。
トムソン銃、シカゴ・タイプライターといった通称を持つことで知られていて、禁酒法時代のアメリカ合衆国内において警察とギャングの双方に用いられたことで有名になった。1919年から累計170万挺以上が生産される。傑作銃の一つ。
第二次世界大戦でも用いられて、最近ではボスニア紛争でも用いられた。