人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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バルクホルンが一年ぶりの登場をします。君遅くない?


再会

連合軍第501統合戦闘航空団。別名ストライクウィッチーズ

この航空隊が滞在するのはブリタニア本島の離れにある島。古城を改築して滑走路や倉庫が作られた。建築当時の雰囲気が石レンガや壁に飾られている絵画が醸し出す。

そして、談話室にて少女三人が談笑していた。

 

「あー、エイラのサルミアッキ美味しくなかった」

「わかるぞハルトマン。私もあの味はどうにも舌が受け付けん。栄養重視のレーションよりも不味い」

「そうかしら? 私はいけるけど」

「いやそれはミーナの舌がおかしい」

 

その三人というのはハルトマン、バルクホルン、ミーナといった過去に人狼と一緒に味方地上部隊を援護したことがあるエースたちだった。ハルトマンは撃墜数を着実に伸ばすエースとして名を馳せて、バルクホルンもハルトマンに次ぐ撃墜数を誇る。ミーナは撃墜数は二人には劣るものも、連合軍第501統合戦闘航空団の隊長として指揮に優れており階級は中佐である。

 

「そうだハルトマン。貴様の部屋をどうにかしろ。カールスラント軍人として恥ずかしくないのか」

「はいはーい。あとでやっときますよーだ」

 

ハルトマンはバルクホルンの注意を面倒くさそうに受け流した。彼女の部屋はひどく潔癖とは離れた次元の住人で、ガラクタや雑誌に食いかけのチョコレートといった具合に

散らかっているのだ。しかも、床に散らばるだけでは飽き足らず、山のように積もっているところもある。バルクホルンが以前に、あまりにハルトマンが起床しないということで彼女の部屋に訪問すると、ガラクタの山が崩れて足だけが突出した状態の彼女を見つけたのだ。それ以降からハルトマンに対する整理の目は厳しい。

 

「チース、バルクホルン。何話してるんだ?」

「……貴様はいつも能天気だなリベリアン」

 

扉から勢いよく扉を開けてきた少女に対しバルクホルンは視線を向けて呟いた。その少女は胸が大きく身長も高くて、まるでグラビア雑誌のモデルのようなであった。当然彼女は地味なリベリオン空軍の制服を着ているのだが、それでも彼女の体の線は隠せないでいた。

 

「シャーリー聞いてよ。私の部屋が汚いって言うんだ」

「あー。私もそう思うな」

「ひどいっ!!」

「ったく、私のように最低限の暮らしができればいいんだ。第一ここは戦場なのだから―――」

「始まったよ。戦中だからこそ私的な空間は自由に扱いたいんだよ」

「あまりに者が無さすぎるのもどうかと思うけどな」

「あのな、今日着任するハインツだって私の意見に同意するぞ」

 

本日、この第501統合戦闘航空団に人狼が着任する予定である。定期的に送られる電文で人狼が無事に護送がされていることが確認できている。

 

「またハインツ大尉だよ。一度写真とかで見たことあるけど私のタイプじゃなかったな」

「はっ、言っていろリベリオン。面識のあるミーナとハルトマンはどう思う」

「私は悪い人じゃないと思うわ。他人を気遣えるほど戦闘では余力を見せているし」

「それには同意だね。けど初対面の人には第一印象は悪そう」

「……それはわかる。初対面の時、周りの人とは違ったオーラを醸し出すから緊張してしまった」

「……あら、ハインツ大尉のお話ですの?」

「ぺりーヌか」

 

眼鏡を掛けて長く艶のある金髪を揺らしながらこちらに歩む少女は空いていた席に淑女らしく座り、手にしていた本を膝に置いた。

彼女はブリタニア島にて自由ガリア軍に志願してウィッチになったガリア人であった。

 

「ハインツ大尉は極めて卓越した戦闘技量を持ち、坂本少佐に匹敵するほど素晴らしい人物だと私は考えていますわ」

「そういえばペリーヌさんはパ・ド・カレーでブリタニア本島に避難したのでしたっけ」

「その通りです。ハインツ大尉は私らを輸送船を送り届けるために無数のネウロイと戦ってくれたのだから、私が今生きているです」

 

ペリーヌは胸に手を当てて目を閉じて回想に浸る。パ・ド・カレー最後の輸送船が出港した頃には市内へのネウロイの侵入が始まっており、輸送船が安全な場所まで行く間、人狼やジェネフを代表に兵士たちは時間を稼いでいた。

大型ネウロイのタコ型がパ・ド・カレーに出現した時には、輸送船はブリタニア海軍の駆逐艦や護衛艦と合流して遠ざかることができたのだ。

 

「まあ規格外の英雄がうちに来るんだ。これを機に大規模作戦実施してネウロイの巣を叩きたいな」

「そうですわね。早く私の祖国を奪還しないと」

「……そろそろハインツ大尉を乗せた輸送機が着く時間帯ね。トゥルーデ、迎えに行ってあげたら?」

「あぁ、そうするよミーナ」

 

バルクホルンはソファーから起立して留守番していた子が親を出迎えるように走って滑走路へと向かっていった。喜々として走り去った彼女にシャーリーとハルトマンはニヤリと笑い、両者顔を合わせた。

 

「おいおい、見たかあの顔!」

「うんうん、見たよ。まるで恋する乙女って感じだよね」

「あの堅物でも色恋とかあるんだな!」

「実は二年前にハインツ大尉と他のウィッチが恋仲じゃないかって噂を聞いた時、トゥルーデのやつ慌ててアフリカに飛び立とうとしたんだよね」

「はいはい、あまり彼女を茶化さないで。トゥルーデは旧友との出会いを一日千秋の思いで待ち焦がれてたのよ」

 

ミーナはバルクホルンのことを話し終えた瞬間、彼女の恋人であったクルトのことを彷彿とさせた。クルトと最後に出会い何を話したのかも記憶していて、再び逢えるので想起させるがもう帰ってはこないという現実が甘美な妄想を打ち砕く。

彼女の恋人であったクルトはパ・ド・カレーの守備隊としての任務を果たして戦死した。これは一兵士として尊敬できるが、一恋人としては悲しくつらい出来事であった。

 

「あとはクリスちゃんが目を覚ませばいいのだけど」

 

ミーナは誰にも聞こえないほど小さな小声で呟いて、窓から移る飛行機を眺めた。

 

 

一方、滑走路にてバルクホルンは椅子に座り人狼を乗せた飛行機が来るのを待機した。まだかまだか、と腕を組みながら貧乏ゆすりをして待っていると聞きなれた轟音が聞こえた。

上空を見上げると一機のJu52をスピットファイアの一個小隊が輸送機を護衛している。Ju52は旋回を繰り返して速度と高度を落として、滑走路に機種を向けると車輪を展開させた。車輪が滑走路に接地する瞬間、煙と音を立ててた。Ju52は徐々に速度を落としていき、後輪が接地して無事着陸した。

 

すると一機の隊長格であろうスピットファイアが上空にてエンジン部から黒煙を上げると、瞬時に中のパイロットが機内から脱出してパラシュートを開いた。空に一つの傘が開くと、乗っていたスピットファイアは重力に引かれて地上に叩きつけられた。

 

「今のは事故か? まあいい、今はハインツだ」

 

人狼を出迎えるために彼女は走ってJu52の出入り口へと向かう、彼女が出口まで着いた頃にはすでに開けられており、今か今かと彼女は人狼を待った。

機内から緑色の軍服を身に纏い古びた戦闘帽を被って褐色肌の大男が現れ、バルクホルンの方を一見してから降りる。手には使い古されたボストンバックを握っている。

彼女は人狼へと駆け寄り、声を掛ける。彼女は高揚した心を隠し切れずに上ずった声色であり、なんとも初々しかった。

 

「ひ、久しぶりだなッ! 今まで元気にしていたかッ!?」

「…」

 

人狼は彼女の問いを無視して基地へと足を進める。それでも彼女は人狼を追従して声を掛け続ける。

 

「エジプトではかなり活躍したと報じられていたがどうだった?」

「…」

「ロンドンに美味しいコーヒーが飲める場所を見つけたんだ。後で教えてやろう」

「…」

「そうだ。ハルトマンとミーナもお前に会いたがっていたし、お前のファンも居るから後で話を聞いてやってくれ」

「…」

 

何度も声を掛けるも応えは沈黙。話を聞くような素振りを見せず、人狼はただただ歩む。彼女は人狼が自分を忘れてしまったのではないかと不安になるが、そんなことはないと頭を振りひたすらに声をかけ続ける。それでも人狼は彼女を無視し続けた。

その時、彼女は人狼にとある質問を投げかけてしまった。

 

「なあ、南リベリオンカールスラント領でお前はどうしていた?」

 

その瞬間、彼女の体は宙に舞った。バルクホルンは自分が何をされたのかわからなかったが、一秒後に彼女の背中から鈍痛が伝わり、眼前には人狼が高いところでこちらを見下ろしていた。肺の中の空気が全て抜けて、酸欠状態になってから、ようやく彼女は気付いた。

自分は投げられたのだ(・・・・・・・・・・)と。

 

彼女を投げたのを確認した人狼はそのまま基地へと進んでいく。咳き込みながら人狼の背中を見た彼女は、人狼は四年前にあった当時と大きく変わってしまったのだと理解した。以前までは威圧感を多少感じるがどこかしら人狼の情愛深さを実感していたが、今となっては殺伐とした雰囲気しか感じられない。

獲物に対し警戒心を高めて殺意に満ちた狼そのものであった。

 

「どうしたんだ。ハインツ……」

 

彼女は変わってしまった人狼に対し、悲愴感を覚え嘆くように独り言を漏らした。

この一連の動作を眺めていた古参の整備兵は、悲しみに打ちひしがれた彼女の姿がまさにか弱い少女のように幼く哀れに見えてしまった。

 




スピットファイア

イギリスの戦闘機。スーパーマリン社で開発されて1937年に開発された。
第二次世界大戦時に活躍した名戦闘機で七ミリや二十ミリといった機関銃に機関砲が歴代つけられて、1950年まで使用された。速度も世界トップクラスであった。
バトル・オブ・ブリテンにてイギリスをドイツ空軍から救った救国戦闘機とも呼ばれる。
イギリスの元植民地である国が参戦した中東戦争では、敵味方にわかれてスピットファイア同士が戦う場面も見られた。かつてのライバルBf109の戦後型であるアヴィア S-199との戦闘も発生している

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