「ハインツ大尉、ようこそおいでくださいました」
「…」
人狼はすぐ第501統合戦闘航空団にて隊長を務めるミーナの部屋へと趣き、面会を果たした。彼女の机には人狼の情報が封入されたファイルの他に設備の書類や兵装に関する書類が山のようにはといかないが積まれていた。
「貴方の着任を私やハルトマン、そしてトゥルーデが心待ちにしていました。では、隊に所属しているウィッチたちをブリーフリングルームに集合させています。まずは自己紹介を行ってください」
「…」
人狼は彼女に対して小さく頷いて、ブリーフリングルームに向かおうとする。同行してミーナも人狼の後ろを歩こうとするが、霧化を使われて一瞬にして彼女の背面に回り込んだ。彼女は何故そんなことをするのか理解できなかったが、口には出さずそのまま向かう。
ブリーフリングルームの年季の入った扉を開けると、教会の講堂のように配置された長机と長椅子には八名のウィッチが座っており、軍服もリベリオンやカールスラントにオラーシャ帝国、スオムス、そして亡命政府ガリアのもの存在した。無論、滑走路で遭遇したバルクホルンの姿もあった。
一斉に視線がこちらを向くが人狼は戦闘帽のつばを深くして、自身の視線を向けないようにした。人狼はミーナにつられて最前列の台に立つ。
「皆さん。今日この基地に着任したハインツ・ヒトラー大尉です。言わずと知れた有名人だけど、ハインツ大尉挨拶を」
「…」
「……あのー、ハインツ大尉? 別に話してもいいのよ」
「…」
人狼は沈黙を続ける。彼女は無口は厄介だな、とため息を吐く。
ハインツはミーナの指示を待ちそのまま直立を続ける。彼女自身もこれでは何も起こることはないな、と察して皆に解散の号令を出そうとした時。
「うりゃー!」
奇襲と言わんばかりに背後から忍び寄った褐色肌の少女がこちらに向かって飛びついてきた。両腕を伸ばして人狼の腰を抱こうとした少女に対し、人狼は即座に霧化を行う。
少女が抱き着いたのは虚空であり空しく空振る。その光景を見たウィッチの一同は驚愕の表情を浮かべる。
そして左右に顔を振る少女の背後に人狼が現れ、彼女の頭を鷲掴みにし右腕を掴むと彼女の足元をすくい転倒させた。俗にいう組手だ。
「うぎゃっ!?」
「ハ、ハインツ大尉!?」
「ええっ!?」
少女は必死に人狼の拘束を解こうと魔法力を込めて抵抗するが、人狼相手には意味が無い。そのまま人狼は片手に力を込めて頭部を潰そうとした。
「やめろハインツ!」
「…」
しかし、突如として人狼に向かって勢いよく飛翔する長椅子の破片を避けるために人狼は少女の拘束を解いてから、破片を蹴り飛ばした。
人狼は投擲先の相手を睨みつける。視線の先には同郷のバルクホルンの姿があった。暫しの沈黙が場を制圧し、その沈黙が破られたのは先程まで拘束されていた少女の泣き声であった。
「うわーんッ!!シャーリー!!」
「ほら来いルッキーニ!」
「…」
「ハインツ大尉。先程はルッキーニ少尉の仕業ですが、彼女は決して貴方に危害を加えようとしたわけではありません。なので、どうか拳銃から手をどけてください」
「さもないと私が貴様を撃つぞ!」
「…」
人狼は腰に付けた拳銃を抜こうとしていたが、ミーナとバルクホルンに応じて手を放す。ウィッチたちの視線には様々な感情が含まれていて恐怖や警戒が混在していた。人狼はそれらの感情を受け止めた後に、出口へと歩きだした。
するとその時、けたたましいサイレンが基地内に響き渡る。
『ガリア方面から中型ネウロイが二体接近』
「こんな時にネウロイかよ!」
「ッ! とりあえずシャーリーとルッキーニ以外は出撃よ!」
指定された彼女たち以外は全員バンカーへと向かおうと立ち上がる。人狼も出口の扉を蹴飛ばして一足先にバンカーへ向かった。
格納庫では整備兵が人狼のストライカーユニットを木箱から取り出して、一度解体して点検を行おうとしていた。人狼のストライカーユニットはアフリカ戦線から愛用しているbf110で型も同じであり、他のウィッチのストライカーユニットと比べて旧式であった。そして側面に描かれていたエンブレムは非常に掠れていて、正体が分かりづらい。
「待ってくださいハインツ大尉! まだ試運転をするための燃料しかユニットに積んでいません!」
「…」
「後部機銃の弾薬もありませんけど!」
「…」
それでも人狼は無理やりユニットに脚をはめて魔法力を流し込むとエンジンはどうにか動いた。整備兵は狼狽ながらも近くにあったM1918自動小銃と三つの弾倉を手にし、人狼に渡す。人狼はそれを受け取り、弾倉をポケットに入れてBARの安全装置をオフにする。
「…」
ユニットを取り付けていた固定具が外れ、バンカーから飛び出した。ユニットの重量は軽くなっているので速度と上昇力があり、すぐに高度五千メートルへと移る。
人狼は人狼という種族特有の視力で五十キロ先で飛翔する二体の中型ネウロイを見つけた。中型ネウロイの周りには小型ネウロイが護衛をしてはいない。機動力で劣るユニットで小型ネウロイと戦闘をするのは苦難であったため人狼にとって都合がよかった。
ユニットに魔法力を流して急接近を試みる人狼、互いに向かい合っているため接敵は早く、中型ネウロイの光線の射程距離へと至った。
人狼の姿を認知したネウロイは光線を照射して人狼を墜落させようとするが、人狼はそれを紙一重で躱していく。人狼とネウロイの距離が一キロに迫ると、光線を回避しながらすれ違いざまに射撃を行う。しかし魔法力を込めた射撃はネウロイの甲殻を縦一列に傷つけただけで、撃破には至らなかった。
「…」
悲鳴とも捉えられる奇声を発したネウロイは人狼を殺そうと光線を放つ。そのうちの一本が人狼の胴体を貫く。大穴が空いた胴体には人狼がたじろぐはずもなく、瞬時に治癒して攻撃を続行する。
人狼が所持している武器はBARと二丁の拳銃だけだ。強烈な打撃力を与えられる集束手榴弾は所持していないが、撃破するには現在の武装は十分であった。
「…」
人狼はネウロイを追従しながら射撃を開始、ネウロイの後方部分が白い破片となって散って大西洋に降り注ぐ。弾が切れたら新たに弾倉を変えて射撃、切れたら射撃を繰り返す。急いで治癒しようとするネウロイは人狼の妨害のため、さほど回復できない。
後方から穴を広げていくと、人狼は赤く光る核を見つけた。人狼は核を照準に収めて射撃をしようとBARの引き金を引くも、弾は出ない。
銃器として意味を成さないBARを投棄し、自身の拳銃に手を伸ばす。
「…」
手にした二丁のモーゼルで核を破壊するために引き金を引く。
長い銃身から放たれた数発の弾丸は赤く輝く核へと収束していき破壊に成功する。核を破壊されたネウロイは断末魔の声をあげた後に、その全体は破片と化して空中に飛散する。
それでも人狼は残り一体の中型ネウロイを倒さねばならない。人狼はその一体を相手にするために魔法力をユニットに込めるが、徐々に魔導エンジンの出力が下がっているのに気づいた。燃料切れだ。
人狼とネウロイの距離はゆっくりと離されていく、人狼はその後ろ姿を黙って見つめることしかできなかった。
けれど、ネウロイを打倒するものは人狼だけではない。
「はあああああ!!」
「やるよトゥルーデ!」
「もちろんだ!」
ネウロイは前面から多量の破片を飛び散らす。何故なら人狼の後から離陸したウィッチたちが攻撃を始めたからだ。しかも、ネウロイに相対する相手はエースとして名高いバルクホルンとハルトマン。そして後続には他のウィッチたちが攻撃を始めようとしていた。
「ッ! 核が見えたぞ、ハルトマン!」
「まっかせてー! シュトゥルム!」
核を露出させたネウロイにハルトマンは固有魔法を発動させた。大気とエーテルを彼女自身に纏わせて強力な風を発生させた。そして核目掛けて突進、修復しようとする甲殻を無残にも突き破り、核を派手に貫いた。核を貫かれたネウロイは例外なく塵と化して空中に散らばる。
その光景を終始眺めていた人狼はいつのまにかエンジンの出力が完全に止まり、悲しくも滑空状況に至ろうとしていた。
いち早くその状態に気づいたペリーヌとミーナは人狼に接近すると、人狼の両腕を二人は肩で組んで落とさないようにした。
「ったく、ハインツ大尉お願いですからチームで行動してくださいね」
「そ、それと暴れないでくださいまし!」
「…」
人狼は彼女らの申告を聞いているのか聞いていないのかわからないような表情を浮かべて極めて無様な格好で基地へと向かった。人狼もこの状況で暴れるほど愚かではないので終始そのままの体勢であった。
ブローニングM1918自動小銃
アメリカの自動小銃、ブローニング社で1917年に開発された。
アメリカ軍をはじめとする各国軍において、20世紀を通して使われた。
とりわけ軽機関銃の不足が深刻でブローニングはコルトにて新型自動小銃の設計を行っていた。初の実戦投入の評価は良い。
第二次世界大戦において兵士から人気のある銃器ではあったが八キロと重いので苦情が相次いだ。分隊支援火器としては優秀であった。
朝鮮戦争やベトナム戦争でも使われ、1990年代まで使われた逸品である。