人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

89 / 108
新兵

人狼の朝は早い。

まだ水平線から太陽が半分も昇るころには寝室を出て、拳銃といった軽い武装を身に着けた状態で日々の鍛錬であるランニングを行う。

朝の風はひんやりと冷たく人が少なくて心地が良い、普段から警戒心を高鳴らせている人狼にとって安らかな気分にさせた。人狼が一歩一歩地面を踏み込むたびに異様な二丁の拳銃も喜びを示しているのかカチャカチャ喋り出す。

 

浜辺へと差し掛かった際に、一キロ先のある一か所が太陽光を反射して時折光るのを目にした。点滅する場所や規則性も不規則に変わるこの現象に人狼はその正体を突き止めるために、目を凝らしめた。

 

「…」

 

人狼の視界に映るわ白い軍服を上半身に纏い演武をするかのように扶桑刀を振るう一人の黒髪の少女であった。その演武は華麗とも呼べる半面、少女が行う振りや突きには隙はなくこなしていくうちに魔法力も高まっていることを感知した。

人狼は彼女のことを書類上で確認していた、と思い出して記憶から彼女の素性を突き止めようと探り、数秒のうちに彼女の素性を突き止めた。

 

彼女の名前は坂本美緒、扶桑皇国の軍人で階級は少佐。

彼女の所有する固有魔法は魔眼、感知系魔法の一種で超視力で通常見ることができない領域まで見通すことができる。極めて優れものだ。

戦績も七年前から戦場で活躍しているので人狼よりも古株であり、此処の基地で人狼の上官とも呼べる立場だ。

 

今まで人狼はミーナ以外の隊員とは面として対峙したことはなく、せめて人狼より階級の高い坂本には顔を見知ってもらおうとした。本来なら昨日中に坂本と会合することは可能だったが、人狼は基地に帰投後そそくさと自室に籠り夕食も個人で食していた。

 

行動が決まったのなら人狼は速かった。自慢の脚力を用いて一キロ先の坂本まで走り、地面を踏み込むごとに砂が激しく舞い、足跡が十センチも深くできた。

このいかにも異様に迫りゆく人狼の姿を視認した坂本はすぐさま刀をこちらに構えて臨戦態勢を取る。人狼と彼女の距離は着々と迫っていく。

 

そして坂本の刀の制空権へ人狼が侵入した瞬間、彼女の突きが炸裂した。人狼の胸元目掛けて切っ先は伸び、その速度は卓越したものであった。だが、人狼は姿を霧に変える能力を持っている。アフリカでは気温と太陽の弊害を受けてさほど上手く扱えなかったが、ブリタニアでは違う。

 

体全体を霧化して攻撃を躱し、素早く彼女の背後へと回り込んだ。でも、瞬時に気配に気付いた坂本は左足を軸にして半回転をしながら人狼に斬り込んできた。人狼はその横薙ぎを所持していた左腰の拳銃を半端に抜いて、その異常にも長い銃身で横薙ぎを防ごうとした。

しかし、その判断は間違えていた。なんと銃身は呆気なく切られて胴へと刃が向かう。早々から流血事件を起こす勢いで振られた一閃は、人狼のコートの布地にギリギリ接しないところで止められた。

 

「……流石の運動神経と能力だ。伊達にカールスラントの豪傑だな」

「…」

 

坂本はニヤリと先程の戦闘を満足したかのように笑うと刀を納めた。人狼は階級が上である彼女に対し敬礼する。

変なところで律儀な人狼に坂本も応対して敬礼を返した後に、彼女は自身の名前と階級を述べた。

 

「私の名前は坂本美緒、階級は少佐。もう認知しているだろうが第501統合戦闘航空団の戦闘隊長だ」

「…」

「はっはっは! やはり無口も伊達ではないなハインツ大尉。確かに指示を送る側からしたら厄介者だが、あの戦闘技術ならさほど問題はないだろう」

「…」

 

ポンポンと胸を叩く彼女はいかにも陽気で快活な性格だと人狼は実感した。人狼は戦闘で用いた拳銃を仕舞うのだが、その仕舞う動作を見てとあることに気付いた坂本は額から汗を流し、何かに慌てたような表情を浮かべた。

 

「あっ、あーその拳銃どうしようか。特注品でハインツ大尉の主要武器って書類には書かれていたけど、それ切っちゃたよ私。お願いだから弁償するからミーナには内緒にしてくれないか?」

「…」

 

先程の戦闘のせいで人狼の長い銃身のモーゼルはただのモーゼルへと変貌してしまった。人狼の腰には現在、異様に長いモーゼルと通常サイズへと変更されたモーゼルが差されており、長いモーゼルがより一層異様感を醸し出している。

 

本来なら弁償の話をするだけで終わるのだが、問題なのはミーナだ。一応これは官品扱いになるので書類を書かねばならない。追加として特注品であるため、代わりの銃身を準備する時間は長くなる。さらに問題発生として人狼の主要武器である拳銃を味方である扶桑軍人が壊したことが露呈すると、扶桑は英雄の武器を傷つけたとしてバッシングを受ける。

 

この面倒くさい問題を持ち掛けてきたらミーナは仕事を増やされて青筋を立てることになるのは必至だった。

 

「…」

 

人狼は首を縦に振り彼女の意見に同意を示す。人狼もその問題点を危惧していたのだ。

同意に安堵した坂本は胸に手をおいてため息を吐いていた。

 

「そうだ。ハインツ大尉、私の烈風斬を見ていくか? 私の必殺技だ」

「…」

「こう海面をズバッーと割ってしまう威力の技で、斬れぬものは大体無い!はっはっは!」

 

人狼は彼女の問いに対し意外にも拒否した。理由としては彼女のもとへ近づく足音が聞こえたからだ。足取りは軽いのでウィッチだと判断するが、今の人狼はあまり人とは関わりたくはなかった。だから人狼はすぐにこの場を去るのが最善と考えたのだ。

 

「そうか、なら仕方ない。戦闘でも見せるからその時に」

「…」

 

第三者と遭遇するのを嫌った人狼は、彼女に短く敬礼をした後に脚に力を込めて来た道を戻っていく。人狼が去ったその一分後に直感した通り昨日着任した宮藤芳香が坂本と遭遇した。その様子を遠方から人狼は一見した後に基地へと向かって走っていった。

 

なお一部始終を見ていたペリーヌは人狼の戦闘技術の高さに再度畏怖しつつも、談笑を楽しむ宮藤に嫉妬の念を抱いていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そして午前十時頃に隊の全てのウィッチがブリーフリングルームに集められた。当然その中には人狼も含まれていた。

 

人狼は皆がそれぞれ座り終えるタイミングを見計らってから入室し、椅子に座るのではなく壁を背にして立ち、皆に威圧するかのように圧を醸し出していた。

室内がひりついた空間になり、元気活発なルッキーニや誰とでもフレンドリーなシャーリーも流石に息が苦しくなった。

その様子を打破するかのようにミーナが両手を叩き、新たな隊員となった宮藤の紹介を始めた。

 

「はい皆さん注目、新ためて今日から仲間になる新人を紹介します。坂本少佐が扶桑皇国から連れてきてくれた宮藤芳香さんです」

「宮藤芳香です。皆さんお願いします」

「階級は軍曹になるので同じ階級のリーネさんが面倒を見てね」

 

同じ階級の隊員の世話を任されたリーネは薄らと歓喜に満ちた声で返事を送る。

ミーナは宮藤に必要な書類や衣類に階級章、認識票を説明している最中に宮藤は何かを見て顔を顰めた。

 

「あの…これは要りません」

 

そう言って宮藤は自身の官品である拳銃をミーナに手渡した。

 

「何かの時には持っといた方がいいわよ」

「使いませんから……」

「そう……」

 

この行為に反応する者は十人十色であった。

ミーナと同様に困惑する者、坂本のように笑う者、ペリーヌのように怒るものもいた。宮藤の態度をいけ好かないペリーヌは彼女に愚痴を吐きながら退室した。

 

では宮藤の態度に人狼はどのような態度を取ったのか。それは疑問であった。

本来なら戦場とは銃器を手にして戦闘するのが当然であり、その銃器を携帯するのを拒否したとならば何故彼女は此処に赴いたのかが人狼にはわからなかった。少なからず新兵として教育を受けていたはずの芳香がこの態度を取るのかわからなかった。

宮藤が他の隊員とじゃれ合うのを傍目に、二重の疑問を浮かべながら人狼は退室しようと足を進める。

 

二重の疑問を抱いた少女は第501統合戦闘航空団、通称ストライクウィッチーズに大きな波紋を広げることとなるが今はまだ誰にも知られていない。

 




日本刀

日本で生まれた刀剣で、一般に日本刀と呼ばれるものは平安時代末期に出現した。
反りがあり刀身の片側に刃がある刀剣のことを指して世界で有名な刀剣類の一つとして現在でも人気である。
なお、ストライクウィッチーズの世界では日本刀ではなく扶桑刀に置き換わっているので間違えないように。あと軍刀とも微妙に違う。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。