人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

9 / 108
満月

「はえー、なかなか基地の規模としちゃあいいんじゃねえか?」

「そうですね、管制塔にレーダーが備え付けられたらしいですよ」

「レーダーっていうと電波がなんか関係してるんだっけ」

「そうです。カールスラントで初めて配備されましたね」

「ふーん」

 

些細な会話をしながら降りてきた二人、人狼たちが地面に降り立った時、小走りでとある兵士がやって来た。

そして目の前で敬礼をする。

 

「お、お待ちしておりました!」

「…まさかだけど、お前忘れてたな」

「そ、そんなわけありません!」

「いや、忘れてたろお前」

「まあまあ、そんな弄らないであげてください。車長」

「けっ」

 

紫煙を吐き出しながら煙草を足元に投げ捨て、足で踏みつぶした。

煙草の中身が四散する。

 

「えーと、ジェネフ少尉殿とエドガー上等兵殿はあちらの車庫に訓練用の戦車が置かれているのでそこで確認を」

「わかりました」

「にしても、俺らが新人の訓練に付き合わせられるとはね」

「文句は言わないでください、戦車を勝手に出して挙げ句には壊してしまったのですから」

「そ、そうだけどな…」

「ほらっ、行きますよ」

「あ痛たたた!!」

 

エドガー上等兵はジェネフ少尉の耳を引っ張りながら車庫へと向かった。

先ほどの兵士はその二人の後を追いかけていってしまったので、なので人狼は何をすればいいのかを彼に説明されなかった。整備士たちの邪魔にならなさそうな場所で格納庫の壁にもたれかかった。

すると、誰かを探している女性が居た。人狼はまさか自分を探している人だと知らずに傍観していた。

ようやく彼女は人狼の存在に気づいた。

 

「あっ、そこの君。 此処は立ち入り禁止よ」

「…」

「ったく、警備が甘いわね。…もしかして君がハインツ・ヒトラー?」

「…」

「えーと写真は…。どうやら君ね、私の名前はクルマン・アニーサ。階級は中尉」

 

彼女は写真を確認し、彼女が探していた人物と気づいた。

そして要件を述べ始めた。

 

「待たせてごめんね。早速で悪いけど空を飛ぼうか」

「…」

「ほらっ、荷物持ってあげるから行くわよ」

 

彼女は人狼の好意で荷物を持とうとする。

しかし人狼は彼女に荷物を取られないように先に取った。

彼女は怪訝そうな顔を浮かべながらも人狼に基地を案内をする。

 

 

「ウィッチの適性のある男の子って不思議だわ、初めて見たわ」

「…」

「魔法力は普通は女性にしかないからね。てか、ここはウィッチの訓練所じゃないんだけどなぁ」

「…」

「まっ、上層部の命令だからしょうがないか」

 

実のところ、ランデル閣下は最新の設備や機材の充実している基地ところに人狼を訓練させるために、上層部の人間が持っている権力で圧力をかけた。

結果は閣下の思惑通りに人狼はこの基地で訓練を受けることが出来た。

 

「…あなた無口すぎないかしら! 私が話しかけているのだから何か答えなさいよ!」

「…」

「……まったく暖簾に腕押しね」

「…」

 

 

少し歩くと、ウィッチ専用の格納庫にたどり着いた。

大きく頑丈な門を開けるために、彼女はあるパネルに手を付けて魔法力を流す。その際に猫のような獣耳と尻尾が飛び出した。

門は地響きを鳴らしながら開いた。

 

「さーて、あなたはどういうのが合うのかしら」

 

格納庫の電気を付けて中へと入る二人、照明に照らされて数種類のポスターで見た機体が置かれていた。

 

「…」

「あらっ? あなた、もしかしてストライカーユニットを見たことないの?」

「…」

 

その質問に人狼は頷いた。

 

「意外と式典で見せてるけど、見たことない人もいるよね。じゃあ説明するわね、この機体に足を突っ込んで魔法力を流す。そしたら飛べるわ」

「…」

「な、なによその目は!?」

 

あまりにも大雑把な質問だったため、あまり理解はしていなかった。

その眼差しを見たアニーサ中尉は腕を揚げて怒っていた。理不尽である。

人狼は何故彼女が教育係なのか疑問に思った。

 

「兎に角、飛ぶまでに結構な時間使うけどきっと大丈夫よ!」

「…」

「さっさとあなたに合うストライカーユニット探しなさい」

「…」

 

人狼は彼女に言われたとおりに、自分に適合するユニットを探す。

ユニットが支えられている台には機体の名前が書かれている。

 

bf109・He112・bf110・Ju87

 

人狼は悩んだ。

問題はbf109とbf110のどちらかにするかだ。

航続距離に関してはbf110の方が上であるが機動力が劣る。

しかし、自らの性質を持ってすれば、機動力をカバーが可能だと判断してbf110の方に足を突っ込んだ。

入れた途端に、身体を突き抜けて電流が走る感触を感じた。

 

「へぇー、bf110にしたんだ。どうよ、今の電流が走る感じは」

「…」

「…特に影響はないらしいわね。それじゃあ魔法力を流して頂戴」

 

だけど人狼はどう魔法力を流せばいいのかわからなかった。

取りあえず、ライフルに何かを流し込んだ時を思い出しながらユニットに流し込んだ。

人狼とユニットが青く光り、髪の毛がたなびく。

 

「おおっ、やるじゃない。けど、耳や尻尾が無いわね。これじゃあどういう使い魔なのか判断できないわね」

 

人狼の使い魔は自分自身。本来のウィッチなら獣耳と尻尾が現れるが、例外としてごく一部のウィッチに獣耳と尻尾は現れず、髪の毛が一部変わるぐらいだ。

だが人狼は髪の毛が変わることもなければなんの変化も見られなかった。

 

「…多分特殊体質ね、初めて見るわね」

「…」

「まあそんなのはあとにして、訓練を始めるわ」

 

残ったユニットのbf109を履き、体を傾けて前へと進んだ。

 

「体を前に倒せば前進、後ろに倒せば後進よ。そして魔力を込めて上へと飛翔するイメージを浮かべれば勝手に飛ぶわ」

「…」

 

人狼は大雑把な説明を何とか理解しながら格納庫を出る。

確かに彼女の言った通り、前へ重心を傾けると前へ進んだ。太陽と欠けた月が確認出来る。

 

「そうそう、いい感じね。じゃあ魔法力を込めて」

「…」

 

アニーサ中尉は人狼を置いて天空へ急上昇する。

人狼は彼女の真似をして、魔法力という力を全力でユニットに流し込んだ。

すると、ユニットは音を立てて上へと飛翔した。

 

「私についてきなさいな!」

「…」

 

彼女は人狼について来いと指示をする。人狼はその指示に従い飛ぶ。

その時、人狼は飛んでいる最中にあることに気づいた。

 

 

月が近い

 

 

地上で月を眺めている時は地球と月はどのくらいの大きさなのかを考えたり、日本に伝承されていた月でウサギが食べ物を作っているという話や、神話などの神が存在していると聞き、おおいに胸を膨らませていた。

人狼にはちょっとした夢があった。

満月になると人狼に力を与えてくれる月に人狼が月面に降り立ち、そして月に関する話はどれが正しいのかを確かめることだ。

そのくらい人狼は月に興味があった。幼い子供のような夢がこそが、人狼にとってはいつかは叶えたい夢だった。

 

「の、昇りすぎよ! 早く高度を落として!」

 

人狼は彼女の注意を無視をしながら上へ上へと上昇していく。

月は大きさを変えないが、徐々に月に近づいていることが実感する。

 

 

高く高く高く

 

 

ユニットが悲鳴をあげるも無理やり魔法力を流し込み、上昇するのを止めずにいた。

人狼の子供のように煌いた眼が月を映していた。

 

しかし、人狼の履いていたユニットが突如小さな爆発を起こして黒煙を吐く。

ユニットは失速し、地球の重力に導かれて地上へと戻されていく。夢は実現が難しいから夢なのだ。

 

月が離れていく

 

人狼は腕を月に向けて掴もうとする仕草をする。それでも体は下へと墜ちる。

そして、人狼はまた月に近づくのを約束するかのように手を振った。きっと月はその光景を見て嘲笑っていることだろう。

 

 

墜ちる墜ちる墜ちる

 

 

風を切りながら猛スピードで墜ちていく。そのため、院長から貰った規格帽が外れそうになるのを右手で抑えていた。

墜ちている最中にアニーサ中尉が一瞬だが見える。遠目からでもわかるように非常に慌てている様子だった。

普通ウィッチならシールドという障壁を張られるのだが、出し方も知らない人狼は出来ずに墜ちていく。そのため、シールドによる着地は出来ないでいた。

 

地上は近づいていき、格納庫の屋根を突き破り、地面に激しく身体を打ち付けた。

腕や足、頭は離れ、五臓六腑を辺りにまき散らし、辺りを赤く染め上げた。

身体が治癒していく際、生まれて初めて月を間近で見た感動が心から離れずにいた。

 

人狼自身に秘められていた魔法力を大量に消費したため、大きな脱力感に襲われた。

脱力感から逃れるために、睡眠を取ることにした。

 




bf110

ドイツで開発された双発戦闘機で当時の双発戦闘機の波に乗った機体。1937年に正式採用が決まり、駆逐機と呼ばれた。
最高速度545キロで重武装で対地攻撃を得意とする戦闘爆撃機として活躍した。
しかし、戦闘機にはそうもいかず、1940年に起きたバトル・オブ・ブリテンでは惨敗を記録している。双発戦闘機は戦闘機と比べて重量が重すぎたのだ。
なので一撃離脱を基本とした戦闘となった。
シリーズは沢山あり、レーダーも搭載された。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。