人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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悪夢

バルクホルンは夢を見ていた。

四年前のカールスラント撤退戦の中で、眼下はネウロイの光線や銃弾にて炎上する街が存在し、炎は地獄の炎を体現したかのように燃え盛り、人が焼けていく臭いも僅かに漂う。炎はその場に留まり炎上を続けるのではなく、闇雲に火を移していく炎上範囲を広げるのであった。

 

そしてその炎上を起こした原因である中型ネウロイが黒雲を貫いて出現すると、彼女は歯を痛いほど噛みしめて鬼の形相で睨みつける。憤怒と憎悪が異常なまでに湧きあがり今までの疲労を無視して、彼女はネウロイに突貫して機関銃を撃つ。

 

「うああああああ!!」

 

光線がバルクホルンに向かって迫るも魔法力で魔法障壁を展開し防御、彼女の突撃に同伴し僚機が懸命に怒りで我を忘れている彼女の援護を行い、彼女はそのネウロイの核を破壊した。

ネウロイを形成していた漆黒の甲殻が一瞬で白い破片となり、地上へ降り注ぐ中彼女は気まぐれに下を見てしまった。それが悪かったのだ。

 

ちょうどそこにはバルクホルン自身の妹であるクリスが巨大な破片が降り注ぐ街で泣いており、彼女の頭上に破片が落ちた。

 

「クリスッ!!」

 

彼女は夢から覚めて飛び起きて辺りを見渡すも、そこは四年前のカールスラントの戦場ではなくブリタニアに設立された基地内である。あれが夢であったのを認識したバルクホルンは最悪な記憶と生じた感情を無理やり胸の内に秘めてベッドに就くが眠れるはずもない。彼女はただ横になって時間が経過するのをジッとしていた。

 

「なんで今頃あんな夢を……」

 

 

朝になると食堂では新たに入隊した宮藤とリーネが進んで食堂で配膳を行っており、ほとんどのウィッチがそこで朝飯を貰い食していた。しかし、人狼はそこにはおらずキッチンからパンと肉の缶詰が少量消えているので、おそらくは自室で食べていると彼女たちは予想した。

 

「ねぇ芳香ちゃん聞いた?カウハバ基地が迷子になった子供のために出動したんだって」

「えー、そんな活動もするんだ。すごいね」

「うん、たった一人のためにね」

「でもそうやって一人一人を助けないと皆を助けるなんて無理だよね」

「そうだね」

「……皆を助ける、そんなの夢物語だ」

 

ちょうど彼女たちの談笑に割り込むように宮藤の意見を単なる理想だと否定した。実際バルクホルンの意見は正しく、ただでさえも日常生活で行うことが難しい行為が過酷な戦場で果たして行えるだろうか。それに軍隊というのはを小を生かすために大を投入することは滅多になく、むしろその逆を頻繁に行うからだ。

 

「えっ、何ですか?」

「すまん、独り言だ」

 

バルクホルンが席に着くと何か思うことがあるのかスプーンを手にしたまま黙り込むと、彼女を挟むようにハルトマンとミーナが座る。

 

「どうしたのトゥルーデ、浮かない顔ね」

「食欲もなさそう」

「そんなことない」

「食事だけはしっかり摂るトゥルーデが手を付けないなんて」

 

ハルトマンに指摘された途端、バルクホルンは顔を顰めた状態で手を動かして無理やり口に頬張る。数度口にした際に食堂で背を向けて調理をする宮藤を見つめた。宮藤もバルクホルンの視線に気付いたのかこちらを振りむくが、その時には彼女は視線を戻して朝食を食べていた。

 

「そういえばハインツはどうしたのだろうか。体を壊してないといいが」

「大丈夫でしょ、あんな大きくて丈夫な大男が体調を崩すとは到底思えないね」

「こらハルトマン、言い方」

「……確かにそうだな。確かにあいつはそう簡単に不調を起こさない男だからな。忘れていた」

 

その後彼女は少しだけ配膳の具を食べただけで満足したのかキッチンに配膳を置いて何処かへ去ってしまった。

宮藤はこの態度に思わず疑問を持つが、思考を遮るようにペリーヌが配膳に添えられた料理に苦言を呈す。

 

「バルクホルン大尉じゃなくてもこんな腐った豆、とてもとても食べられたもんじゃありませんわ」

「納豆は体にいいし、坂本さんも好きだって言っています」

「さ、坂本さんですって!?少佐とお呼びなさいって、私だってさん…付けも……まだ……

とにかくいくら少佐がお好きでもこの臭いは絶対に我慢ができませんわ!」

 

実際に扶桑人でも一部は抵抗がある納豆が外国人に受けるかといったら正直苦手な者が多いだろう。見た目や臭いに感触といったところが独特だからだ。しかもアジア系ならまだ知れず、ヨーロッパ系ならなおさらだろう。

まあまあの騒ぎがありながらも無事に食事は終了した。

 

食事が終わり宮藤とリーネはシーツや洗濯物を干しに中庭へ向かう最中、廊下で大きいサイズの木箱を二つ持ちながらこちらに来る人狼に遭遇した。ちょうどこの廊下には人狼の寝室が存在しており、普段は余程ではない限り自室に籠っている。

宮藤とリーネは二人で協力してネウロイを撃墜した戦い以降人狼の姿を確認してはいなかった。普段はほとんど関わりがないため、故に宮藤は人狼と友好を築こうとした。

 

「あのー、ハインツ大尉」

「よ、芳香ちゃん止めた方が」

「…」

「その木箱、中身は何ですか?」

 

宮藤が人狼のもとに駆け寄り声をかける。人狼は無論、赤い瞳で彼女を捉えると無言を貫いていた。険悪な雰囲気になってしまったらどうしようかと気弱な少女リーネは動揺するのを傍らに、宮藤は積極的に話しかける。

 

「もしかしてその中身ってお菓子とか美味しいものですか?」

「…」

「そういえばハインツ大尉は出身がカールスラントだからバームクーヘンですかね」

「…」

「うちにもバームクーヘンに負けないようなお菓子があって、羊羹っていう小豆を使った美味しくて甘いお菓子があってですね!」

 

彼女と人狼の一方通行な会話は一切合切進展することはなく、人狼はこの場から立ち去ろうと、正面に立ち塞がる彼女を避けようとするも右に避けると彼女も右に、左に避けると彼女も左に移る。彼女は会話ができるまでその場に居座って人狼の動きを妨害するつもりなのだろうか。この無礼ととれる行動にリーネは固唾を呑んで見守っていた。いや見守ることしかできない。

 

「それで私の故郷ではですね」

「…」

 

あまりにしつこく彼女が妨害を続けるので人狼は折れたのか手にした木箱を床に置いて、その一つの箱の蓋を彼女の前で開けて中身を開示する。

中には五個の集束手榴弾や使用するモーゼルの弾倉と銃弾が幾つか、そしてやたらと長いモーゼルの銃身であった。どれも新品であるからに人狼の本国から送られてきた特注品なのだと宮藤は理解した。

 

彼女が見終えたことを認識するとすぐ蓋を閉じて手にする。そして行く先を妨害されまいと人狼の所有する霧化を使用してこの場から消失した。

 

「よ、芳香ちゃん怖くなかったの?」

「正直怖かったけど何故か怖くなかったよ」

「矛盾してない?」

「うーん、なんだろうね。なんて伝えればいいかわからないや」

 

宮藤はそう直感した内容を告げて頭を掻いておどけたように笑っていた。

 

 

時が経ち夕暮れになるとハルトマンが手にした給料を握りしめて愉悦に浸り、ミーナがバルクホルンに給料はどうするのかを問う。

 

「またいつもの通りにしてくれ」

「少しは手元に置かないと」

「衣食住全部出るのにそれ以外必要ない」

 

バルクホルンは給料を受け取ることなく、リーネにいつも通りにするよう伝えた。バルクホルンは給料日になると給料の全てをクリスのために費やす。

四年前の事故以来クリスは目を覚ますことはなく、ブリタニアの病院で昏睡状態に陥っている。医療費をクリスに費やすにしても半分は残るが、過剰に彼女はクリスに費やしていた。おそらくそれは彼女自身が死んでもクリスが病院で療養できるようにだ。

 

「そういや、クリスの医療費を払ってくれる謎の人物にも感謝しなくてはな」

「本当ね。いつも月初めになると病院に妹さん宛にお金や病院の子供のために絵本やおもちゃを提供するからいつか恩返しがしたいわね」

「そうだな」

 

クリスが入院する病院に数か月前から毎月月初めになるとクリスに向けての多額の金と入院する子供に向けておもちゃや絵本を提供する謎の人物が存在した。手口としては、早朝の正面扉に一つの大きな木箱が置かれている。中身のおもちゃや絵本もどれも新品かつ新しく発売された物が多く、患者の子供が要求していた品も入っている場合もある。

 

一時期、院長や看護師はその正体を特定しようと正面扉を見張るが、ふと目を離したうちに置かれたことが何度もあり、最終的には監視をやめてしまった。

いつしかその人物のことを誰かがこう呼び、伝承した。紳士の妖精(シルクハットマン)と。

 




足長おじさん

アメリカで生まれた児童文学、ジーン・ウェブスターが1912年に発表した。
身寄りのない少女に進学のための援助を行なう内容で、現代日本では広く学生への援助者の意味で用いられ、遺児奨学金のための原資拠出を行なう人をあしながさんと呼ばれることが多い。
アメリカをはじめとして数度映画化され、日本では1979年と1990年にテレビアニメ化された。
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