にしても新シリーズのストパン面白いですね(何週遅れ)
「「やっほー!!」
晴天の中、二人の少女は喜々として浜辺を走り、五メートル程度の落差がある崖から飛び降りる。二つの大小の水柱が穏やかな海面から噴出した。
そして近場ではバルクホルンとハルトマンが泳ぐ。バルクホルンは手本通りのクロールで泳ぐが、対象にハルトマンは何故か犬かきでバルクホルンを追う。
「肌がヒリヒリする……」
「腹減ったなぁ~」
ある場面では北欧出身のエイラと東欧出身のサーニャが浜辺に座り込んで泳いでいる彼女たちを眺めていた。彼女たちの肌は紫外線に弱く、夏場はすぐに赤く焼けてしまう。
そんな彼女たちを見かねた人狼は大きめのパラソルを運び、二人が影には入れるような位置に差した。
「あっ、ありがとうございます」
「…」
「せっかくサーニャがお礼を言ってるんだから素直に喜べヨ」
「エイラ、そんなこと言わないで」
「むむむっ」
サーニャは人狼にお礼を言うも人狼は相変わらずの態度であるため、エイラが悪態づく。しかしサーニャに諭されてしまい悔しそうな表情を浮かべた。
ちなみに人狼は真夏にも関わらず普段と同じ格好である。近づいただけでも暑苦しいのに人狼は少しも顔色を変えないでいる。一応、コートの下は常に半裸の状態だがこの事実を知っているのは極一部しかいない。
「なんでこんなの履くんですかァ!」
悲痛な叫びが聞こえ、人狼たちは声の方向を見る。そこには比較的新兵の宮藤とリーネが教官である坂本とミーナに説明を受けていた。二人は可愛らしい水着とは不つり合いの重々しいユニットを履いて崖に立っていた。
「何度も言わすな!万が一会場に落ちた時のためだ」
「他の人たちもちゃんと訓練したのよ。あとは貴女たちだけ」
「つべこべ言わずさっさと飛び込めッ!」
実際、ブリタニアに基地を構えるため海に不時着する可能性は考えられる。そのためウィッチを生きて回収をするにはこの泳ぎの訓練は必須となる。本来なら泳ぎの訓練は前線に赴く際に履修しているのが普通だが、宮藤とリーネは未熟な技量の状態で着任していた。そのため生存率を上げるためにこの訓練を行う必要があったのだ。
坂本に脅されるように急いで飛び込んだ宮藤とリーネは大きな水柱をあげて海底へと沈む。二人はいち早く海面に浮上しなければならないので必死に腕を動かすも、悲しくもユニットの重量で沈んでいく。
「浮いてこないな」
「えぇ」
「やっぱり飛ぶようにはいかんか」
「そろそろ限界かしら……」
教官組は新兵の宮藤とリーネを案じると海面から必死の形相で二人は顔を出した。なお、ペリーヌはそんな彼女たちを見て呆れた表情を浮かべていた。
時刻が十二時になったタイミングで坂本は皆に休憩を知らせる。
トボトボと重いユニットを両脇に抱えて宮藤とリーネは海から上がる。その二人の姿は哀愁が漂っており、悲壮感が感じられる。
そんな光景を傍目に人狼は煙草を一服しようとしていると、バルクホルンから声をかけられた。振り向いてみると彼女は黒を基調としたビキニを着ており、可愛さとセクシーさを両立していた。グラビア女優顔負けな肉体美を持つ彼女は紅潮しながらたどたどしく人狼に問う。
「ど、どうだ? 似合っているのだろうか?」
「…」
「だ、黙ってないで教えてくれ!」
恥じらう姿は模範的な軍人といったものではなく、ただ何処にでもいる少女であった。流石の人狼でも美的センスは存在したため首を縦に振る。すると彼女は恥じらいと喜びが入り混じった表情を浮かべる。
「そ、そうか!似合っていたか!」
「…」
「べ、別にお前のために用意したものではないからな!そこは勘違いするなよ!」
「…」
「ちなみにこの水着は独りで購入したものであって、ハルトマンやミーナの忠告は得てないからな!うん、そうだ!」
目を泳がしながらたどたどしく振る舞う彼女に、人狼はすぐにそれが嘘であることを見抜いた。だがそれを言及するほど人狼は愚かではない。人狼はただ黙って彼女を見つめた。その視線に気づいた彼女は俯いてからポツリと呟く。
「……そんなに見られていると恥ずかしいぞ、バカ」
そんな時間も束の間、聞きなれたサイレンの音が基地に響き渡る。人狼とバルクホルンは意識を切り替えてすぐさまハンガーへと走る。人狼以外の隊員は水着姿でかつ裸足なので走る速度が遅い。だが、人狼がハンガーまで残り百メートルに接近した段階でシャーリーが滑走路から離陸するのを視認した。
ハンガー内に到着すると意外にも宮藤とリーネが先にユニットを履いて出撃準備を整えていた。人狼はユニットを履くと日頃から用いている武装やインカムを整備兵から受け取ることなく、即座に出撃した。後から二人が人狼を追随するかのように出撃する。
人狼とリーネと宮藤は最高スピードを出してシャーリーに追随しようとするも、シャーリーはネウロイに追いつくため固有魔法を発動した。
彼女の固有魔法は加速。さらにユニットも独自の改造がなされているため突風を巻き起こしてネウロイを追いかける。あまりの突風に巻き込まれた人狼と少女たちは態勢を直し、できるだけ彼女を援護できる位置を取ろうとする。
一方、シャーリーのユニットが危険な状態であることをルッキーニから知った坂本たちは無線で彼女に呼びかけるも電波やインカムの調子が悪いのか彼女は反応しない。また、彼女は日頃とは違う心地の良さを感じ、もう一段速度を飛ばす。魔法力と固有魔法を最大限に活用し、速度は徐々に上がり続ける。
シャーリーがある感覚に既視感を覚えた瞬間、彼女は人類初の偉業である音速を超えた。音速を超えた際に生じるソニックブームが海面や大気を大きく揺るがした。
「うわあああ!?」
「きゃあああああ!?」
「…」
その衝撃は後方で飛んでいた人狼たちにも影響を及ぼすほどに強烈なものであった。
「あ、あたしマッハを超えたの?これが超音速の世界!?すごい、すごいぞ!やった、あたしやったんだッ!」
『聞こえるか大尉!返事しろッ!』
「少佐やりました!あたし音速を超えたんです!」
ようやく繋がった無線に自身が音速を超えたことを喜々として知らせるシャーリー。シャーリーはこの音速を超えた状態を保とうと魔法力や固有魔法を緩める気配はない。しかし、彼女はあることを忘れていた。
『止まれ!
「へっ?ええええええッ!?」
坂本の注意に呆然とするシャーリーだったが、前方に怪しく光る色を認識した彼女は驚嘆の声を高らかにあげた。今までネウロイを追うために速度を上げていたのを愚かにも忘れてしまっていたのだ。眼前にはネウロイの後部が猛スピードで近づいてきている。
この速度と進路では衝突は避けられない。彼女は咄嗟の判断で魔法障壁を展開し、衝撃に備えた。
魔法障壁を展開したため、彼女はネウロイを貫くことができた。偶然にも核を破壊することができたため、ネウロイは白煙を体から噴出させてから派手に爆散した。
その光景の一部始終を人狼たちは確認していた。
「敵撃墜です!」
『シャーリーさんは?』
「えっと……」
シャーリーを捜す人狼たちは一条の飛行機雲が上空を目指して一筆書かれているのを見つけた。
「大丈夫です!シャーリーさんは無事です!」
彼女のもとへ駆けつける人狼たちだったが、先程の負荷と整備不良により彼女のユニットが停止してしまった。さらに衝突した際に唯一着用していた水着は破れ散り、一糸纏わない恰好へとなってしまう。
ユニットが両足から外れて海面へと落下し、それと共にするかのように彼女の体は重力に導かれる。彼女は魔法力と固有魔法の負担や衝突時にかなりの体力を消費してしまったのが原因で気絶してしまった。
「全然無事じゃなーい!」
急いで宮藤は落下するシャーリーを救助しようと魔法力をユニットに流し込もうとした際に、突如人狼に体を持ち上げられた。意味不明な行為に困惑を覚える宮藤だったが、そんなこと知ってか知らずかといった人狼は勢いよく彼女を投げ飛ばした。ついでとばかりにリーネも同様に投げ飛ばした。
当然シャーリーのもと目掛けて投げたため、二人は悲鳴をあげながらも人狼の意図に気づき、なんとか態勢を整えてから魔法力を流し込む。
「うわあああああ!?」
「きゃああああああ!!」
この野蛮な行動のおかげで海面にぶつかる前にシャーリーを救助することに成功した。
そして宮藤は救助した際に偶然にもシャーリーの豊満な胸を揉むように彼女を押さえていた。最初は混乱する宮藤であったが掌に伝わる幸せに顔を綻ばせ、無線越しに心配する坂本の指示を自然と無視していた。
その状況に顔を赤らめたリーネはシャーリーを確保したことを坂本に報告する。なお報告中にも関わらず宮藤はシャーリーの胸を堪能していた。
一方で人狼は海面すれすれでシャーリーのユニットを回収することに成功した。シャーリーのユニットは特注であるため高価だからだ。
「腹減ったぁ~」
なおシャーリーは呑気にも寝言を言って爆睡していた。
後日シャーリーとユニットが破損した元凶であるルッキーニに一週間の清掃を鬼の形相となったミーナに命じられて、この件は終息した。
補足として紅潮させたバルクホルンからシャーリーの裸を見たのかと、言及された人狼は正直に首を横に振って否定した。だがシャーリーが彼女を弄ぼうと嘘をついたために事態は厄介なことになる。不運にもこの騒動に巻き込まれる人狼であった。
超音速
媒質中で移動する物体と媒質の相対速度が、その媒質における音速を超えること、およびその速度を指す。対地速度1225km/h(340.31m/s、15℃・1気圧)をマッハ1。
音速との比であるマッハ数を使えば、マッハ数が1より大きいとも定義できる。 ただし、速度単位としてのマッハは対気速度で気温や気圧によって変化する。
なお水平飛行でかつ公式で音速を超えた人物は、シャーリーの元ネタとなったチャック・イェーガーである。ちなみにまだご存命中。