人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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今回はかなり短めです。
本当に申し訳ない(某博士)


乾杯

ネウロイを撃破した人狼と宮藤たちはすぐに基地に帰投した。

基地ではミーナや坂本が出迎え、サーニャと人狼は体に異常がないか検査のため医務室に赴いた。両者とも体に異常がないのを軍医が確認し、無事解放された。その際に軍医から所々焼失していた人狼の軍服の代用として別の軍服を手渡した。医務室には各国の軍服が揃えられており、人狼が常に着ていたタイプの物もあった。

 

「…」

 

道中でコートを羽織り、調理場へと足を進める。部屋で食べる用の缶詰の在庫がなくなってしまったからだ。別に人狼は缶詰の味に重点を置いていないので、スパムやレーションでも構わない。栄養になればそれでいいのだ。

 

人狼が食堂に着き、調理場に視線を向けた。すると人狼の気配に気づいてか、調理場内の暗闇の中に人影が一瞬現れた。

 

「…」

 

人狼は音を立てず静かに調理場へ着くと一気に飛び出した。そして対象に視線を向けて拘束できるように構えた。

 

「うわぁー!悪気はないんだ!つまみが欲しいだけで!」

「…」

 

人狼の眼前にいたのは、左目に眼帯をしてクラッシュキャップを被った男であった。許しを得るため必死の懇願を行う惨めな男を人狼は見知っていた。

 

「……おおっハインツか!久しぶりだな」

「…」

 

カールスラントの戦車隊で随一の実力を誇る山羊隊の隊長を勤めるジェネフがそこにいた。ジェネフと人狼は言わずもがなの戦友であり、アフリカや欧州といった戦地では裸の付き合いをするほど仲が良かった。

ジェネフは立ち上がりことの顛末を話し始めた。

 

「こんなところでまた逢えるとは運命だ。いつか逢おうと思っても連日仕事で行けなかった」

「…」

「まあ偶然この基地に立ち寄る用事ができた」

「…」

「で何でこんな場所に居るかというと此処の整備兵たちと馬が合って飲み会が始まり、おつまみが切れたから此処にきたってわけよ」

「…」

 

昔から変わらないジェネフの態度に人狼は気と顔を緩めた。人狼は棚からウィスキーと二個のウィスキーグラスを取り出して調理台に置いた。

 

「おっ、飲むのかい。どれ久方ぶりの弟分との酒盛りに断る理由はないな」

「…」

「なんだその弟分になった憶えはないといった目は。何年お前と一緒に居ると思ってんだ」

「…」

「ったくそんな不愛想だと恋人できねぇぞ。一応モテるのに勿体ないぜ」

「…」

「あー、俺もたくさんのファンの子からファンレター欲しい!俺のファンはむさ苦しいおっさんばかりだしなぁ!」

 

茶々を入れてくるジェネフを傍目に人狼はウィスキーを注ぐ。人狼が飲む方には溢れる瀬戸際まで注ぐが、ジェネフには少しの量しか注がない。人狼に茶々を入れるジェネフへの仕返しとも思える。

 

「おいおいそりゃあないぜハインツ。謝るからもう少し注いでくれよ」

「…」

「サンキューな!ついでに氷もくれ。俺は冷えてるのが好きなんだ」

「…」

「痛ったッ!?氷投げるな馬鹿!」

 

人狼が先制攻撃と言わんばかりに手に取ったいくつかの氷を散弾銃の如くジェネフに投げつけた。手加減したとはいえそれなりの威力だったらしく、ジェネフは痛がる素振りを見せながらもなんとか氷を入手した。彼はコップの半分ほどに注がれたウィスキーに氷を入れるとチャポンと心地のよい音が聞こえる。

 

「それじゃあ乾杯するか」

「…」

 

人狼とジェネフはお互いのコップを持ち、乾杯をしようとした。すると人狼が食堂に入った方からカツカツと足を鳴らす音が聞こえた。基地のおおよそのエリアが人狼を除いて男子禁制なので、階級が中佐になったジェネフですら罰の対象になりうる。

ジェネフはコップを置いて屈んだ状態で素早く窓辺まで行く。そしてジェネフは窓を開いてパイプにしがみ付いた。

 

「じゃあなハインツ。くれぐれも俺が居たことを漏らすなよ」

 

そう告げるとジェネフはするすると下へパイプを使って降りていった。人狼は地上に降り立ったジェネフを確認すると窓を閉じた。

 

「あらハインツ大尉。珍しいわね深夜の食堂に居るなんて」

「…」

 

人狼は窓を閉じてからジェネフのコップという証拠を隠そうとした時、食堂の入り口からミーナが現れた。おそらくミーナは徹夜で今夜起きた内容を書類にまとめていたのであろう。その眠気覚ましにコーヒーでも飲もうとしたのか、彼女の手には代用コーヒーではない本物のコーヒー豆が入った小袋を持っていた。

パチンとミーナは食堂と調理場の電源を点ける。部屋が明るくなると彼女は人狼に近づいてきた。

 

「まさかハインツ大尉にも眠れない夜があるだなんて意外だわ。にしてもどうしてコップが二個出されているのかしら」

「…」

 

部屋が明るくなったことでミーナに二個のコップが見つかってしまった。彼女は疑問に思いながら人狼に尋ねようとした。しかしその前に人狼は二個のコップを一度に飲み干した。突然の行為に唖然とした様子のミーナを傍目に人狼は逃げるようにその場を後にした。

 

「……何かをバレたくなかったのかしら?別の人が居たとしてもハインツ大尉しか(・・・・・・・・)反応はなかったし。うーん、なかなか読めない人だわ」

 

ミーナは人狼の疑問を浮かべた状態でコーヒーを作ろうとした。しかしその疑問に注意を向けすぎていたのか、人狼が投げた氷の一つを踏んで尻もちをついた。地面に転がっていた氷やコップに入れられていた氷はすでに半分ほど溶けていた。

 

 




代用コーヒー

十九世紀のアメリカで生まれたもので、主にタンポポを用いて作られている。
そしてカフェインを含まず、不眠症患者や子供、妊娠・授乳期の女性でも飲用できる。
コーヒー豆の供給が困難になった第二次世界大戦の交戦国、特にドイツで代用コーヒーとして広く飲まれた歴史を持つ。
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