オルガ・五河士道「更新止めるんじゃねぇぞ……!」
あけましておめでとうございます(大遅刻)。どうも、今回が2018年にて初更新となる、ふぁもにかです。『†ボンゴレ雲の守護者†雲雀さん(憑依)』の執筆意欲が全然湧かず、このままでは執筆活動すら卒業しかねないと危機感を抱いたため、地道に2話ほどストックを溜めていたデート・ア・ライブ二次創作を投稿しようと思います。多分、15話くらいで完結します。また、精霊たちの出番はあんまり期待できないと思われます。何てことだ。
プロローグ 残機∞の精霊
「う、わあああああああ!?」
五河士道は叫んだ。狼狽に満ち満ちた声を轟かせた。
9月30日土曜日。天宮市。昼下がりのショッピングモール入り口にて。
周囲は騒然としていた。人々のざわめきが士道の鼓膜をがんがんとうがつ。
だが、今の士道に周囲の反応なんぞを気にかける余裕はなかった。
士道の目線は一点に固定されていた。士道の視線の先には、赤。赤。粘性の赤。
まるでペンキでもぶちまけられたかのような赤が地面に派手に飛び散っていた。
そして、そんな赤を埋めるように重量感のある鉄柱が転がっていた。
「志穂! 志穂!」
士道は一人の少女の名前を叫ぶ。
パニック状態のまま鉄柱の元へ駆け寄り、必死に声を上げる。
不意に上から落下してきた鉄柱の下敷きになってしまった少女の名前を何度も叫ぶ。
この世には精霊という、尋常ならざる力を持つ者たちがいる。
精霊は、最強の矛たる天使と、絶対の盾たる霊装をその身に備えている。
そんな、普段はこの世界とは違う隣界に存在する精霊は、この世界に姿を現す時、基本的に己の意思に関わらず空間震を発生させる。ひとたび空間震が発生すれば、一定範囲の空間はまるで何もなかったかのようにくり抜かれてしまう。当然、空間震の現場に人がいれば消滅する。建物があれば消失する。
発生原因不明。発生時期不定期。被害規模不確定の爆発、震動、消失をもたらす空間震。
そのような災害を世界に持ち込む、これまた存在理由不明の迷惑極まりない精霊は、特殊災害指定生命体とも、特殊災害指定生物とも定義された。
世界を確実に侵食する精霊を看過するわけにはいかない。
精霊への対応を迫られた、精霊の存在を知る一部の人々は、精霊への対処法として、武力をもって殲滅する道を選んだ。天使と霊装に裏付けられた精霊の力は強大だ。一般的な兵器ではまるで攻撃が通じない。しかし、人類の技術は進化を続け、顕現装置の誕生により精霊を殺せる可能性に至った。そのため、陸上自衛隊の特殊部隊こと
だが、士道は。ラタトスク機関は。そのような精霊への対処を良しとしなかった。
ラタトスク機関は、精霊との対話によって、精霊を殺さず空間震を解決するため、士道を精霊との交渉役に据えた。士道が選ばれたのは、士道に心を許した精霊とのキスを通じて精霊の力を士道の中に封印する不思議な力を持っていたからだ。精霊に力がなければ、精霊を危険視して殲滅する必要はなくなる。ラタトスク機関にとって、士道はうってつけの存在だったのだ。
ゆえに士道は。精霊の存在を知った半年前の4月から、ラタトスク機関のサポートの元、精霊との
結果、これまでプリンセスこと夜刀神十香、ハーミットこと四糸乃、イフリートこと五河琴里、ベルセルクこと八舞耶俱矢&八舞夕弦、ディーヴァこと誘宵美九の攻略に成功した。
決して簡単な道のりではなかった。己の感情のなすがままに強大な力を振るう精霊を前に、精霊の力の封印を終着点とした士道の活動はいつだって己の命をすり減らすことを強いられていた。もしも士道が何の力も持たないただの一般人だったら、とっくの昔に死んでいた。今、士道が生きているのは、士道の中に取り込んだ精霊イフリートの身体再生能力のおかげである。
そして、今回は霜月志穂という精霊の番だった。士道は志穂と接触し、デートの約束を取り付けた。そして、今日。9月30日。志穂とのデート当日にて。志穂と楽しくデートをして、志穂のことをたくさん知って。逆に、志穂に士道のことをたくさん知ってもらって。最終的に。志穂の精霊の力を奪うことと同義である、キスを認めてもらう。そんな、そろそろ慣れつつあるいつもの流れが士道に待ち受けているはずだった。
だが、現実はこうだ。
さぁ。次はショッピングモールで買い物デートだ。なんて方針の元、志穂と手を繋いでショッピングモールの自動ドアへとテクテク歩き始めた矢先。唐突に士道と志穂の真上から鉄柱が落下してきたのだ。鉄柱にいち早く気づいた志穂が士道を突き飛ばした直後、鉄柱は志穂の上に容赦なくのしかかった。周囲一帯に地響きが伝播し、鉄柱の落下地点を起点として赤色が派手に飛び散った。そして、今に至るわけだ。
『士道! 落ち着きなさい! 聞いてるの、士道!?』
「志穂! 志穂! 無事だよな!? 返事をしてくれ、志穂!」
士道が右耳に装着しているインカムから妹の琴里の声が飛ぶ。
だが、動転している士道に琴里の声は届かない。士道は必死に志穂の名前を呼ぶ。
士道は信じられなかった。
封印されていない精霊が、こんなにあっさりと。大怪我を負うなんて。落ちてくる鉄柱に為すすべもなく潰されるなんて。もしかしたら、死んだかもしれないなんて。
そもそも、精霊はこんなことで死ぬような軟弱な存在ではなかったはずだ。
だからこそ。ASTのような精霊殲滅を目論む部隊は、顕現装置を駆使してもなお、中々殺せない精霊を前に攻めあぐねている。そのはずなのに。
志穂が。精霊が。こうもあっけなく、命を落とすなんて。
士道は信じられなかった。何か性質の悪い幻覚でも見せつけられているかのような気分だった。
「ッ!?」
が、ここで。異様な現象が発生した。
散りばめられていたはずの赤色が、志穂の血が、一瞬にして消え去ったのだ。
まるで。鉄柱に志穂が潰された事故など端から存在しなかったかのように。
士道が単に、志穂が隣にいる白昼夢でも見ていたのだと世界が主張しているかのように。
「な、にが、どうなって……」
士道の言葉は続かなかった。
次の瞬間、士道の目の前に一人の少女が姿を現したからだ。
肩口にかかる程度の長さのふんわりとした桃色の髪に、小動物を想起させるようなくりくりとしたエメラルドの瞳をした少女は、士道の表情を見ると「あー、やっぱりそんな反応になるよねぇ」とでも言いたげに苦笑いをする。
その少女は、先ほど鉄柱に潰されたはずの精霊:霜月志穂本人だった。
「志穂! よかった、無事だったんだな!」
士道は心の底から安堵した。志穂は精霊だ。天使や霊装を上手いこと使って、鉄柱に潰される未来を回避したものだと、士道は考えたからだ。
「いえ、無事じゃなかったッスよ。まぁでも、痛みを感じる間もなく一瞬で逝けたんで、今回はラッキーな方だったッス」
「え?」
だが、志穂の発言は士道の考えを真正面から否定するものだった。
困惑する士道を前に、志穂はつらつらと己の事情を述べ始める。
「士道先輩。私は残機∞の精霊なんスよ。いくら殺されても次の瞬間には隣界で復活できるッス。でも、その代わりなのか何なのか、私は精霊なら誰でも使えるはずの天使や霊装を使えないから、こっちの世界に現界するとよく死んじゃうんスよねぇ。今みたいに事故に巻き込まれて死んだり、世界各地の対精霊部隊の人たちに殺されたり。だから、今みたいに私がさっくり死ぬのは日常茶飯事ッス。こんなことで一々驚いてたら私とのデートなんて続けられないッスよ?」
「……」
志穂はにこにこ笑顔とともに言葉を連ねる。死ぬのが日常茶飯事。死ぬのが当たり前。そんなことを平然と話す志穂に、士道は戦慄を隠せず、言葉を失うのみだ。
「もうデートって雰囲気じゃないッスねぇ。……だから言ったんスよ、先輩。私とデートしてもムードぶち壊しで、絶対それっぽい雰囲気にはならないって。私、世界に嫌われてますから」
「志穂……」
志穂はやれやれと両手を広げつつ、自嘲の笑みを零した。笑みこそ浮かべているものの、士道には、志穂が絶望に泣いているように思えてならなかった。
というわけで、プロローグは終了です。人物紹介は次回からとします。