【完結】死に芸精霊のデート・ア・ライブ   作:ふぁもにか

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過去:プロット構築中の私「リベンジデートが始まってからは息の詰まるような重いシリアス展開が続くだろうなぁ。読者の皆さんが鬱にならなきゃいいけれど……」
現在:執筆中の私「何か思ったより、リベンジデートがシリアスしてない件。何これ、ただのほのぼのデート? いや、これはこれでいいっちゃいいんだけどさ」

 どうも、ふぁもにかです。志穂さんに迫りくる死のパターンを考えるためにファイナル・デスティネーションというホラー映画を見ようとしたのですが、最後まで見れずに断念してしまいました。おかしいなぁ。8年前くらいに初視聴した時は最後まで普通に視聴できたはずなのに。



9話 世界は力を溜めている

 

 

 10月1日日曜日。士道が志穂を守り抜く縛りのデートの最初の目的地は来禅高校となった。士道は志穂と手を繋ぎ、先導して志穂を学校に案内する。その際、士道は普段から使う通学路に関して、話のネタになりそうなものを適宜話題に上げて、志穂と会話を弾ませる。気分はさながら天宮市をよく知らない観光客を相手にするボランティアガイドである。

 

 

「おお! ここがかの来禅高校! 校舎からグラウンドまで綺麗ッスねぇ」

「来禅高校は数年前に創立されたばっかりだからな」

 

 士道にとってはもうすっかり通いなれた校舎だが、志穂にとっては何もかもが新鮮らしい。目を輝かせながら最新技術の施された来禅高校を色んな方向から凝視する。まるで初めて大都会に進出したお上りさんのような志穂の反応に、士道は微笑ましさから破顔する。

 

 

「ここが俺の通ってる、2年4組の教室だ」

「へぇ、ここがッスか。いやはや、この雰囲気。いいッスねぇ。ところで、先輩の席はどこッスか?」

「窓側の一番後ろの席だよ」

「へへ、そうッスかぁー」

 

 校舎の中に入り、志穂に来客用のスリッパに履き替えてもらった後。士道は志穂を自分の教室へと招き入れた。志穂は体をグルリと回転させて、誰もいない休日の教室の全容を把握した上で、士道の席の場所を知ると、ニシシといたずらを思いついた悪ガキのような笑みを携えながら、突如として士道の椅子に腰かけ、机に頬ずりを始めた。

 

 

「ちょッ、志穂!? 何やってんだ!?」

「ちょっと私の匂いをくっつけてたッス。これで後日、先輩に懸想しているポジションなクラスメイトの女の子が『え、何か士道くんの机から知らない女の子の匂いがするんだけど、どういうことよ?』ってハイライトの消えた瞳とともに先輩に詰め寄る展開待ったなしッスね!」

「おいおい……」

 

 志穂の奇行とも言える行動を前に、士道の頬に一筋の汗が流れゆく。この時、士道の脳裏に浮かんだのは十香と折紙だった。色々と飛び抜けている彼女たちなら士道の机から見知らぬ女性の匂いを感知し、士道に問いただしてきても不思議じゃない。そう、直感が訴えてきたのだ。

 

 

「にしても、志穂って学校にそんなに興味があったんだな」

「そりゃあもちろん興味津々ッスよ。私、狂三先輩と取引してお金をゲットした時はよく小説や漫画を買い集めてましたから。学園モノの作品を見る度に、修学旅行に体育祭に文化祭と、イベントてんこ盛りの特殊な閉鎖空間たる学校に自分が通うことになったらどうなるんだろうって妄想を膨らませたものッス。……ねね、先輩。やっぱり現実の学校でも生徒会や風紀委員会が権力握ってるものなんスか? 教師もその権力を前にひれ伏しちゃってたり?」

「いやいや、それはない」

 

 ただいま志穂に士道の席を占拠されているため、士道は窓枠に寄りかかって志穂と軽快に会話する。と、ここで。カキーンと、士道の背後から金属バットの打球音が響く。今日は日曜日だが、部活動に青春を注ぐ野球部所属の生徒は今日もグラウンドで熱心に活動しているようだ。

 

 

『士道! 窓の外から野球ボールが来てるわ! 志穂を守って!』

「なッ!?」

 

 刹那。琴里から切羽詰まった声がインカムを経由して士道の耳に届けられる。士道は一瞬驚愕に体を硬直させたものの、すぐに我を取り戻すと、弾かれたように背後の窓へと振り向き、志穂へと迫りくる硬式の野球ボールを両眼でしかと捉えた。野球部が盛大にかっ飛ばしたであろう野球ボールは士道の身長よりはるか上の窓を割り、上から志穂を奇襲する。

 

 

「わわッ!? 敵襲!?」

「志穂! そのまま伏せろ!」

「ッ!」

 

 窓ガラスの破砕音に志穂がビクリと肩を震わせる中、士道は己の思考を存分に加速させる。スピードの速い野球ボールを士道が素手で的確にキャッチできるかはわからない上、野球ボールが破砕した窓ガラスの破片もまた志穂へと降り注ごうとしている。士道は、士道の指示を従って机にベタァと顔を乗せたままの志穂の頭部を守るために、両手を広げて志穂の盾となった。

 

 

「ぐぅッ!」

 

 直後。士道の右胸に野球ボールが衝突し、しばし遅れて士道の両腕や上半身をガラスの破片が的確に切り裂いていく。なるほど、これほどの威力を誇る野球ボールと窓ガラスの破片のコンボが志穂の頭部に炸裂したならば、あまり頑丈でない志穂はここで命を落としていただろう。

 

 

「先輩!? 大丈夫ッスか!? あぁ、こんなに血が……!」

「し、志穂。そう慌てなくても俺は平気だ。志穂はもう知ってるかもしれないけど、俺には自動で傷が治る能力があって――」

 

 士道のうめき声を受けて顔を上げた志穂は、窓ガラスの破片が深々と突き刺さった腕や肩からタラリと血を流す士道に気づくと血相を変えて士道に寄り添う。明らかに動転している志穂を落ち着けるべく、士道が声を掛けるも、士道の声は志穂に届いていないようだ。

 

 

「え、えとえと! はッ、保健室! 先輩、私保健室で包帯とか借りてくるんで、それまでちょっと待っててください! 少しの辛抱ッスから!」

「あ、志穂! 待ってくれ!」

 

 志穂は舞い降りた天啓にポンと手を打つと、士道を置いて1人、教室を後にする。士道は志穂を呼び止めるも、志穂は止まらない。まだ全然校舎を案内していない以上、保健室の場所を知らない志穂は迷子になりかねない。それに、どこで世界が志穂を殺しにかかるかわからないため、志穂を単独行動させたくない士道は、痛みを声高に主張する体に鞭を打って急いで志穂の後を追う。

 

 

「うわっとぉ!?」

「志穂! 掴まれ!」

「せん、ぱい!」

 

 士道が志穂の元に気合いで追いついた時、志穂は階段で足を滑らせて、今にもバランスを崩して転ぶ所だった。士道が精一杯手を伸ばし、志穂に呼びかけると、士道の存在に気づいた志穂がすがるように士道へと手を伸ばす。

 

 

「ぉおおおおおお!!」

 

 士道は何とか志穂の手を掴むと、もう片方の手で階段の手すりを掴み、両手に渾身の力を込めて、志穂を階段の上に引っ張り上げた。

 

 

「はぁ、はぁ……ふぅ。セーフだな」

「くぅ、いつもいつも忘れた頃に階段トラップが私を殺しにかかるッスね。って、それより! 先輩! 大丈夫ッスか!? 私のせいで傷がさらに開いたんじゃないッスか!?」

「心配してくれてありがとう、志穂。でも俺は大丈夫なんだ」

「へ?」

 

 士道は息を整えると、ホッと安堵のため息を吐く。一方の志穂はキッと階段を睨みつけていたものの、士道の怪我のことを思い出し、士道の怪我を案ずる。対する士道は未だ体に突き刺さったままの窓ガラスの破片を抜きながら、志穂を安心させるために、柔和に微笑む。

 

 

「ぅ、ああ!」

 

 と、ここで。時期を見計らったかのように、士道の傷口に治癒の炎が生じ、舐めるように士道の傷口を這い回る。これまで何度も経験しているが、体を修復する際に体を高熱で焼かれる感覚に未だ慣れていない士道はつい苦悶の声を漏らす。

 

 

「ぅえ!? ちょっと、全然大丈夫じゃなさそうッスけど!?」

「いや、もう大丈夫だ。ほら、もう傷口がしっかり塞がってるだろ」

「あ、ホントだ。よかった、本当に良かったッス……」

「俺はな、封印した精霊の一部の力を使うことができるんだ。この、炎で傷を治す能力もその1つだ。だから、多少の怪我をしたって、即死さえしなければ俺は平気なんだ」

 

 苦しむ士道を前に志穂は再び慌て出す。ここで再び志穂に暴走されてはたまらない。士道は自分の傷口に発生した炎の説明をすることで、志穂の暴走を事前に抑止する。

 

 

「でも、志穂。さっきはどうしたんだ? 何だか血を見るのに慣れてないって印象だったけど」

「……えっと、そうッスね。今にして思えば、どうして私があんなにパニクッたのか、わからないッス。血なんて、自分のを散々流しまくって、とっくの昔に見慣れてるはずなのに」

 

 先ほどの怪我を負った士道の姿を見た志穂の反応を不思議に感じた士道の問いを受けて、志穂は心底不思議そうに首を傾げる。この様子からして、志穂に心当たりはなさそうだ。と、ここで。士道たちのいる校舎の下の階がにわかに騒がしくなり始める。声質から察するに、教員と思しき大人の男性の声と、若々しい学生の声が階下から響いている。

 

 

「悪い、志穂。まだ学校に来てあんまり時間経ってないけど、早くここから離れよう。先生や野球部の人が来たら面倒だ」

 

 階下での会話の内容こそ聞き取れなかったが、きっと野球ボールが校舎の窓を割ったことに関する会話をしているのだろう。そう推測した士道は速やかに来禅高校を後にすることを志穂に提案する。今のタイミングで下手に野球部の人や教員とエンカウントしたら、窓の割れた現場に偶然居合わせていたのではないかと疑われ、足止めを喰らいかねないからだ。

 

 

「りょ、了解ッス。その辺の判断は先輩に任せるッス」

 

 一方の志穂は、先輩を助けるつもりが、先輩の手を煩わせてしまったことへの申し訳なさが影響したのか、士道の提案をすんなり受け入れる。かくして。士道と志穂の散歩デートの最初の目的地である来禅高校を舞台とした、士道と志穂との交流は終焉を迎えるのだった。

 

 




五河士道→好感度の高い精霊とキスをすることで、精霊の霊力を吸収し、封印する不思議な力を持った高校2年生。野球ボール&階段という志穂を死に誘うコンボをどうにか防ぐことができた。今後も今の調子を継続できるかは神のみぞ知ることである。
五河琴里→士道の妹にして、精霊保護を目的とするラタトスク機関の一員にして、5年前にファントムに力を与えられ、精霊化した元人間。士道の視野の範囲外を中心に自律カメラを飛ばしていた所、野球ボールが志穂に急接近していることに気づいた。琴里さんはやはり有能。
霜月志穂→精霊。識別名はイモータル。ここ半年、やたらと天宮市に現界している新たな精霊。なぜか天使や霊装を全然使わず、ほぼ静粛現界で姿を現している。士道が怪我を負ってまで自分を守ってくれているという状況に申し訳なさを感じつつある模様。

 というわけで、9話は終了です。サブタイトルからして、まだ世界さんは本気を出していないようです。このまま世界さんが本領発揮せずにサボってくれていれば、士道さんと志穂さんはほのぼのとした平和なデートを存分に楽しめるんですけどねぇ。やれやれだぜ。


 ~おまけ(もしも志穂が攻略済み精霊として原作14巻に登場していたら)~

 ウェストコットが精霊:二亜から奪った魔王『神蝕篇帙(ベルゼバブ)』の力の一端である幻書館(アシュフィリヤ)という、世界中の物語が混ざった異空間を作り出す能力を用いて、士道たちをその異空間に閉じ込めた後。

 異空間で各々物語に沿った役目を負わされつつも、士道たちは皆との合流を目指す。
(例:琴里→マッチ売りの少女、十香→桃太郎、耶俱矢&夕弦→ヘンゼルとグレーテルなど)


 ――そんな中、志穂は。

「にゃああああああああああああい!」

 トラネコの格好になっていた。ネコミミに尻尾をつけた、コスプレ姿の志穂は必死に逃げていた。志穂の課せられた役目。その元となる物語は『100万回生きたねこ』である。ゆえに。

王様「さぁさぁ、早くこのカゴの中に戻ってきてくれ。そうしたらお前の大好きな戦争を見せてやるぞ。大丈夫、この新しいカゴは非常に頑丈に作り直したから、流れ矢に当たって死ぬようなことはもう二度と起こらないぞ」
船乗り「さぁ! 俺たちと一緒に世界中の海を、港を旅しよう! 今度は船から落ちても溺れ死なないように、スパルタな水練を課すから、すぐに泳げるようになるはずさ。やったな!」
サーカスの手品使い「久しぶりだな、にゃんこ! 前は手品に失敗してお前をのこぎりで真っ二つにしちゃって悪かったな! 俺、あれから反省して、のこぎりの代わりに電動のこぎりを買ったんだ! これならもしまた失敗してものこぎりよりは痛みを感じずに死ねるはずだ! だから、な? また俺と一緒にサーカスを盛り上げようぜ!」
泥棒「相棒! 俺と一緒にもっと泥棒やろうぜ! 次のターゲットは犬じゃなくてケルベロスを番犬として飼ってる豪邸なんだが、相棒ならケルベロス相手でも噛み殺されることなく囮の役目をこなせるよなぁ! 期待してるぜぇ!」
老婆「なぁ、お前さん。また私と一緒にお昼寝をしないかい。お前の体温をもっと感じていたいんだよ。……それに、いざという時には非常食にもできるからねぇ」
女の子「猫ちゃん! 前はおんぶ紐で首を絞め殺しちゃってごめんね! 悪気はなかったんだよ? 本当だよ? だから今回も何か事故で猫ちゃんを苦しめちゃうかもしれないけど私と一緒に遊ぼうよ! ねぇ! ……うふふ♡」
白猫「ねぇ。いつになったらあなたは私を熱烈に口説いてくれるのかしら? ねぇねぇねぇ? 私、ずっと待っているのよ? 待ち焦がれているのよ?」

 『100万回生きたねこ』にて、トラネコを飼っていた飼い主たち(※白猫除く)が、トラネコな志穂を確保するべく、編隊を組んでダッシュしているのだ。捕まってしまえばロクな結果にならないのは火を見るよりも明らかだ。志穂は全力で足を動かす。

志穂「ふっざけんなぁああああああああ! こんなの、命がいくつあっても足りないッスよ! 誰かぁぁあああ! ヘルプミィィイイイイイイイイ!!」

 志穂が士道たちと合流できる時は、まだ遠い。   ――END.


 『100万回生きたねこ』は、死に芸にゃんこが主人公だけど読後感がすっきりしている良作童話である。異論は認めません。知らない人はぜひ読んでみるべき。

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