【完結】死に芸精霊のデート・ア・ライブ   作:ふぁもにか

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世界「よーし、パパ頑張っちゃうぞー♪」
士道「まだ頑張ってすらいなかった、だと……!?」

 どうも、ふぁもにかです。最近、世界に関するサブタイトルを考えるのが何だか楽しいです。だけど、そろそろサブタイトルに世界の2文字をつけるのは終わりになるでしょうね。



12話 自重を忘れた世界

 

 

 天宮動物園から脱走した動物たちの脅威から逃れるために、士道と志穂は命からがら新築オフィスビルに逃げ込むことに成功した。

 

 

「あの、先輩……」

「どうした、志穂?」

「あ、いえ。何でもないッス。ごめんなさい……」

 

 相変わらずキリンがビルの出入り口に陣取り、断続的に蹴りを自動ドアに放つ中。士道はキリンから距離を取るために志穂を連れてビルの奥に進む。その際、志穂が士道の顔色をうかがいながらおずおずと声を掛けてくるも、士道が志穂の方を向くと、今にも消え入りそうな声を残して口を閉ざす。このビルに逃げ込んでからというもの、志穂からは彼女らしい元気さが、テンションの高さがすっかり鳴りを潜めていた。いつになく志穂がシュンとしている。志穂に明るさを取り戻してほしい士道は少々頭を悩ませた後、無駄にキリッとした表情とともに志穂に話しかけた。

 

 

「志穂。実は俺、ドMなんだ」

「…………ふぇ?」

「俺が今、志穂を守っているのは、志穂を封印して幸せにしたいって思いも確かにあるけど、実は志穂に迫る死の脅威を俺が代わりに喰らって、苦痛を楽しみたいからでもあるんだ。志穂を狙う死の呪いが、他の人も巻き込んで殺したことは一度もないって志穂が保証してくれたからな。死なない程度の攻撃を喰らうことを楽しむには、志穂の隣にいることがうってつけってわけだ」

 

 士道の突然の性癖カミングアウトに志穂が文字通り固まる中。士道は両手で己の両肩を抱いて、くねくねと動かしながら、自分がいかに被虐嗜好であるかを語っていく。この時、士道は自分の中に神無月恭平の性格をインストールしたつもりでドMを演じている。ゆえに、士道は決してドMではない。少なくとも士道本人はそう思っている。

 

 

「え、えと、先輩?」

「だからな、志穂。俺が勝手に志穂を守って、勝手に傷ついて、勝手に喜んでるだけだから、志穂が気に病むことなんてないぞ。いつも通りの元気な志穂でいてくれると俺は嬉しい」

 

 ただただ困惑する志穂に、士道は罪悪感を抱かなくていいと主張する。士道は志穂に元気がなくなった理由に目星をつけていた。優しい志穂のことだから、自分のために士道が何度も傷つく様に、自責の念を抱いているのではないかと考えたのだ。だからこそ。士道は虚偽のドM宣言を活用して、これからいくら自分が傷つこうとも気にしないでくれと志穂にお願いをする。

 

 

「ぷ、くくく。な、何スかそれ! あははははッ!」

「志穂?」

「全くもう、先輩の身を案じたのがバカらしく思えちゃうじゃないッスか。……気を遣ってくれて、ありがとうございます。でも、別に先輩はドMじゃないッスよね? だってもしも本当にドMなら、キリンの蹴りとか喰らった時にもっと恍惚な表情になってたでしょうし」

「た、確かに。それもそうか」

 

 結果。志穂はお腹を抱えて笑い出した。そして、幾分か元気を取り戻した志穂は士道にぺこりと頭を下げた後、士道が道化を演じていることを看破している旨をしかと伝えた。志穂を騙すことに失敗した士道だったが、志穂が元気になってくれたことに安堵の息を吐いた。

 

 と、その時。ガラスの破砕音が、士道と志穂の元に盛大に響いた。どうやら自動ドアがついに破砕してしまったらしい。同時に、自動ドアのあった方向から、キリンとは全く別の猛獣の唸り声が響いてきた。いつの間にやら自動ドアの破壊作業にキリン以外の動物も関わっていたようだ。

 

 

「――っと、少しゆっくりしすぎたな。志穂、屋上へ行こう。上階に行けば動物も早々追いついてこないからな」

「はいッス」

 

 士道は志穂とともにエレベーターの中に入り、操作盤の最上階のボタンを押す。エレベーターのホームドアが無事閉まったことを確認し、士道は内心で安堵の息を吐いた。もしかしたらエレベーターのホームドアが閉まる前に、自動ドアをぶち破ったライオンやらチーターやらが飛び込んでくるかもと戦々恐々としていたためだ。

 

 どうやらこの新築オフィスビルは20階建てであるため、エレベーターの上昇速度も中々に速い。あっという間に10階、11階、12階と高度を上げていく。さすがに20階のエレベーターフロアで何か志穂に命の危機が発生するとは思えないが、心構えはするべきだろう。士道は20階に到着した時、何が起こってもいいように改めて気を引き締めた。

 

 

「うわッ!?」

「むぃ!?」

 

 と、その時。ガコンと、エレベーターが大きく揺れたと同時に、突如としてエレベーターが上昇を停止した。士道は転びそうになるのを何とか堪えた一方、志穂はバランスを崩した体を立て直せないままに尻餅をついた。

 

 

「うぅ、お尻痛いッス……」

 

 志穂が涙目でお尻をさする様子をよそに、士道がエレベーター上部の階数表示器を見やると、17階と表示されている。どうして急にエレベーターが止まったのか。何だか嫌な予感が士道の頭をよぎった瞬間、士道の感覚が正解だと言わんばかりにエレベーターが急降下を始めた。

 

 

「なぁッ!?」

「えええ!?」

 

 強烈な重力が士道と志穂を襲う中、まさかまさかの事態に士道と志穂はそろって驚愕の声を放つ。なぜならエレベーターは安全を担保するために様々な方面から何重にも対策が為されており、それら全てがそろって機能しないなんてとんでもない事態でもなければ、エレベーターが急降下するなんてまずあり得ないからだ。だからこそ、これは。今のこの状況は。世界が自重を忘れて、志穂を本気で殺しにかかっている証左と言えた。

 

 

「琴里、俺はどうすれば――ッ!?」

 

 士道は現状打破の一手を琴里が持っていないかを尋ねようとするも、ここで耳に装着していた小型インカムがなくなっていることに気づいた。おそらく、キリンに襲われたあのタイミングで不幸にもインカムを落としてしまったのだろう。

 

 

「せ、せせせせ先輩!? どうするッスか、これぇ!?」

「……志穂。自分の体が床につかないようにして、俺の体の上に覆い被さってくれ!」

「へ? え?」

「早く! これが一番生き残れる方法のはずなんだ!」

「りょ、りょーかいッス!」

 

 階数表示器に示された階数の数字がどんどん減少する中。慌てふためく志穂を前に、士道はエレベーターの中央で仰向けになると、志穂に自分の上に乗るよう指示する。士道の指示の意味がわからず頭の上にしきりに疑問符を浮かべる志穂を士道が急かすと、志穂は士道に言われた通りに士道の体の上に覆い被さった。

 

 この時、士道は以前、何かの番組で今のようにエレベーターが急降下した時の対処法について扱っていたことを思い出していた。その時、悪手として紹介されていたのは、エレベーターの着地のタイミングを見計らってジャンプをすることと、その場で棒立ちになっていること。そして、生存率の高い方法として、エレベーターの中心で仰向けになることが紹介されていた。その際、自分の下に何か敷ける物があるとさらに生存率は上がるそうだ。

 

 ならば。この状況を志穂を死なせずに乗り切るには、士道の体という敷き物の上に志穂を配置することがベストなはずだ。そうすることで、エレベーターが地面に衝突した際の衝撃が士道を経由して志穂に届くため、志穂が死なずに済むかもしれないのだ。代わりに、この方法だと士道の命が危うくなるが、そこは例え世界が本気で志穂を殺す気なのだとしても、世界が今まで志穂殺害の際に他の人まで巻き込んで殺したことがないという例外のない法則を信じるしかなかった。

 

 

「せ、先輩! 本当にこれで大丈夫なんスか!? 本当に!?」

「大丈夫だ! 俺を、信じてくれ!」

 

 志穂の激しい心臓の鼓動が士道に伝わってくる。この鼓動が止まることなどあってはならない。志穂は何が何でも守り抜かなければならない。志穂がギュッと目を強く瞑る中、士道は志穂の体を強く抱いた。そして。呼吸ができなくなるほどの強烈極まりない衝撃が、鼓膜を平然と突き破るレベルの轟音が、士道を容赦なく襲った。

 

 

 ◇◇◇

 

「ぐ、ぁ……!」

 

 士道が次に意識を取り戻した時。最初に感じたのは熱だった。熱い。ひたすらに、飛び上がりたくなるほどに熱い。熱い。熱い。士道はたまらず悲鳴を上げる。そして。士道が目を開けると、士道の傍らにペタンと座り込む志穂の姿があった。その綺麗なエメラルドの瞳からはぽろぽろと涙が零れ落ちている。

 

 

「志、穂?」

「――先輩! よかった、炎が出てくれた……! 先輩の体から全然炎が出てこないから、もしかしたらって……でも、よかった。よかったぁ!」

 

 主に頭や背中、腰を中心に、治癒の炎が士道を焼き始める中。士道が志穂の名を呼ぶと、ハッと士道の方に視線を向けた志穂があふれる涙を拭いながら歓喜の声を上げる。士道は全身を焼く治癒の炎が収まってから、志穂に声を掛けた。

 

 

「……志穂。怪我は、ないのか?」

「先輩のおかげでちょっと体にあざができたくらいで済んだッスよ」

「そうか。……俺は、どれくらい気絶してたんだ?」

「えっと、多分1分くらいッス」

 

 志穂に問いを投げかけながら、士道は体に力を入れてその場に立ち上がる。エレベーターのホームドアが開いていないことからして、今の士道と志穂はエレベーターの中に閉じ込められている状況なのだろう。士道は試しに外部連絡用のインターフォンを押して外部に救助を求めようとするも、反応はまるでなかった。

 

 

「通じないッスね。……もしかして、世界は私を餓死させる気なんスかね? 今までのことを思うと、随分悠長なことをしてくるなって印象ッス」

 

 インターフォンが全然仕事をしてくれない様子を受けて、志穂が世界の狙いについて考察する。一方の士道は、外部と連絡できないことへの動揺はなかった。エレベーターの全ての安全装置が機能せずに急降下した時点で、インターフォンで外に助けを要請できないことは容易に想定できたし、士道にはエレベーターに閉じ込められた窮状を切り抜ける手段があったからだ。

 

 

「来てくれ、鏖殺公(サンダルフォン)

 

 士道が虚空に手を伸ばして十香の天使の顕現を求めると、士道の願いを聞き届けた、金色に輝く一振りの巨大な剣が虚空に浮遊する形で現れた。

 

 

「先輩、それは一体……」

「これも俺が封印した精霊の、十香の力だ。今から脱出口を作るから、志穂は下がっててくれ」

「は、はいッス」

 

 志穂が背後に下がったのを確認した後、士道は鏖殺公を掴み、振りかぶる。そして、志穂を守り抜くという強固な覚悟を胸に宿しつつ、士道が勢いよく鏖殺公を振り抜くと、鏖殺公から放出した光が、エレベーターのホームドアを、その先の障害物を難なく破壊した。

 

 

「おおお……!」

「志穂、ここから出よう。餓死はごめんだからな」

 

 鏖殺公の威力に志穂が興奮の声を漏らす一方、きちんと脱出口が確保されたことを確認した士道は鏖殺公を顕現解除し、志穂にエレベーターからの脱出を促した。

 

 

 ◇◇◇

 

 エレベーターから脱出を果たし、ビルの1階に戻ることとなった士道と志穂は、慎重に周囲の気配を探っていた。なぜならつい先ほど、動物が自動ドアを破壊し終え、ビルの中に侵入したはずだからである。しかし、少なくとも士道には付近に動物の気配は感じられなかった。

 

 

「志穂、どうだ?」

「んー、それっぽい気配はしないッスねぇ。1階にはいなさそうッス。……それより先輩。ちょっと携帯でニュースを見てみたらどうッスか? 動物の集団脱走事件の続報があるかもですし」

「あ、その手があったか」

 

 志穂の提案を受けて、士道は携帯を取り出し、ニュースサイトを開く。すると、『天宮動物園の動物集団脱走事件、逃げ出した動物が全て捕獲される』との見出しが掲示されていた。その見出しに添えられた写真には、天宮動物園の職員らしき人物が麻酔銃で無力化させたらしいゴリラを園内に運搬する姿が写されていた。

 

 

「早いな、おい!?」

「おおう。動物園の職員さん、超優秀ッスね。あ、いや、本当に優秀ならそもそもこんな大規模の動物集団脱走事件なんて発生しないはずッスけど」

 

 顕現装置でも使ったのではないかと疑いたくなるほどの動物園側の迅速な対応に士道と志穂はそれぞれ驚愕した。その後、天宮市から動物の脅威が消え去ったと知った士道は、ビルから外に出ることに決めた。何せ、いくら新築ビルとはいえ、エレベーターが急降下をしでかすようなビルである。長居すれば、さらなる死の呪いが志穂に迫るのではないかと士道は推測したのだ。

 

 

「志穂」

「言わずともわかるッスよ、先輩。私もこれ以上このビルにはいたくないし、賛成ッス。このままこのビルに留まってたら死の呪いが大挙して押し寄せてきそうなんで」

「お、そっか。以心伝心だな、俺たち」

「うぃ、相性バッチリッスね」

 

 そのような士道の考えをしかと読んでいた志穂は、士道の方針に同意する。そして、士道と志穂はお互いを見つめ合い、ともに笑い合う。あまりに濃厚すぎる半日を経て、士道と志穂の心の距離は随分と縮まっているようだった。

 

 

「ッ!?」

 

 と、その時。士道は気づいた。志穂の頭上の天井が今にも崩れ落ちようとしていることに。ビルの一部が崩落しようとしている。このままでは志穂が崩落に飲み込まれてしまう。倒壊した上階部分に志穂が潰されてしまう。

 

 

「志穂ッ!」

 

 士道の体は反射的に動いた。まず志穂の手をグンと強く引っ張り、士道の背後の方へと志穂の体を無理やり走らせる。そうして、志穂をビルの崩落範囲から逃がした所で、士道もまたビルの一部崩落を回避しようとして――間に合わず、士道は崩落に巻き込まれるのだった。

 

 




五河士道→好感度の高い精霊とキスをすることで、精霊の霊力を吸収し、封印する不思議な力を持った高校2年生。士道さんって基本的にMだけど、琴里さんに対してはたまにS要素が入る印象です。つまり、士道さんは義妹ルートをご所望……?
霜月志穂→精霊。識別名はイモータル。ここ半年、やたらと天宮市に現界している新たな精霊。なぜか天使や霊装を全然使わず、ほぼ静粛現界で姿を現している。そろそろSAN値ピンチになっている疑惑。士道さん、一生懸命なのはわかるけど、できれば自分も怪我しない方法で志穂さんを守ってあげてください。

自動ドア「ぐああああああああッ!!(断末魔)」
士道&志穂「「せ、せんぱーい! (`;ω;´) 」」

 というわけで、12話は終了です。エレベーターの事故もビルの一部崩落も日本の新築オフィスビルじゃまず発生しないことからして、まぁあれです。世界に嫌われるのって、怖いですね。

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