【完結】死に芸精霊のデート・ア・ライブ   作:ふぁもにか

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世界「 ^^ 」

 どうも、ふぁもにかです。今回はかの6話レベルでややこしい内容が待っています。もうね、なんで私はこんなにも志穂さんの設定を難解にしてしまったんだろうね。



17話 志穂に対する考察フェイズ

 

 

 フラクシナスの転送装置の働きにより、士道の視界が一瞬にして切り替わる。夜の天宮百貨店の屋上から、天宮市の上空1万5千メートルで浮遊している空中艦フラクシナスの転送スペースへと。そして、豹変してしまった志穂から、琴里と令音へと、士道の目に映る人物が切り替わる。どうやら琴里と令音は士道の転送先で待ち受けていたらしい。

 

 

「琴里! どうして今、俺をここに転送させたんだ! 今の志穂の様子は知ってるだろ!? 志穂を1人にしたら取り返しのつかないことになっちまう!」

「落ち着きなさい。一旦、士道と志穂を引き離したのには理由が――」

「とにかく、すぐに俺を志穂の所に送ってくれ! 志穂に人殺しなんて絶対にさせない! 俺が、俺が絶対に志穂を止めないと――」

「ふん!」

 

 志穂の豹変という想定外極まりない出来事を目の当たりにして未だ動転したままの士道は思わず、目の前の琴里に詰め寄り声を荒らげる。そんな士道の反応を想定内として、冷静に声を掛ける琴里だったが、士道が一向に平静を取り戻さない様子を受けて、琴里はギュッと拳を握り、士道の鳩尾に強烈なパンチを打ち込んだ。

 

 

「ぐぁばッ!?」

「あら、ぐぁばだって。あなたはいつの間に熱帯地域の植物に生まれ変わったわけ?」

「……琴里、いきなり何すんだよ」

「落ち着きなさいって言っても聞かないから、力づくで落ち着かせただけよ。士道が慌てたままじゃ、志穂は絶対に救えないもの」

「うぐ」

「そう心配せずとも、士道にはまたすぐに志穂に会いに行ってもらうわ。けど、今の士道には志穂に関する情報が足りないでしょ。どうして志穂が豹変したのか、どうすれば志穂を救えるのか。その辺りの手がかりがゼロのままで志穂と会った所で時間の無駄よ。結果が見込めないのは目に見えているわ。……士道。急がば回れ、よ。私たちの方で、志穂についてわかったことがいくつかあるから、まずは私たちから素直に情報をもらった上で、志穂を説得しに行きなさい」

「……そうだな。悪い、琴里。さっきは怒鳴っちまって」

「士道が怒っても迫力ないから平気よ。気にしないで」

 

 琴里からの容赦なしのパンチと正論を受けて、どうにか冷静さを取り戻した士道は琴里に謝る。対する琴里は本心か、士道に罪悪感を引きずってもらわないようにするためか、少々士道への煽りの入った言葉を返した。その後、琴里は士道への情報提供を全て令音に任せたと言わんばかりに士道から離れ、腕を組み、壁に背中を預けた。そんな琴里と交代するように令音が士道へと近づき、問いかける。

 

 

「シン。まず確認するが……志穂はシンとキスをして、志穂の霊力が封印されたことで、記憶を取り戻し、豹変した。これで合っているかな?」

「はい、そうです。志穂も、俺とのキスが記憶復活に欠かせない唯一無二の条件だったと言っていましたから、間違いないと思います。……志穂は、十香の時みたいに反転したんでしょうか?」

 

 士道の脳裏に思い浮かぶのは、つい1週間前の出来事だ。DEM社に囚われた十香を救うため、DEM日本支社に突入した士道は、十香の目の前でエレンに殺されそうになった。その時に、十香が豹変したのだ。いつもの十香とはまるで違う人格へと変貌したのだ。そんなケースを最近目撃していただけに、士道は今回の志穂のケースも同様の事態なのではないかと考えた。が、令音は士道の推測にフルフルと首を左右に振る。

 

 

「いや、志穂は反転していない。志穂の霊力値はマイナスになっていないからね」

「え? ……だったら、どうして志穂はあんなに危険な性格に豹変したんでしょうか? 俺とのキスで志穂の記憶が復活したことで、元の志穂の人格もまた復活して、記憶を失った後の志穂の人格を塗りつぶししてしまった、とか?」

「いや、その可能性はないよ」

「へ、そうなんですか? でも、どうしてそう断言できるんですか?」

「仮に元の志穂の人格が記憶喪失後の志穂の人格に優越したのなら、シンのことを見知らぬ一般人だと捉えるはずだ。記憶喪失前の志穂は、シンのことを知らないはずだからね。それに――これを見てくれ」

 

 志穂が反転していないのなら、記憶復活を機に、志穂の元の残忍な性格が、記憶喪失後の志穂の性格に上書きされたのではないか。そう士道は予想するも、これもまた令音ははっきりと否定する。気になった士道が根拠を求めると、令音は白衣のポケットから端末を取り出し、操作を始めた。すると、琴里が背中を預けている壁の隣の空間が凹み、中からモニターが現れた。さらに令音が端末を操作すると、真っ暗なモニター画面に折れ線グラフが表示された。

 

 

「これは、志穂のシンに対する好感度の推移を示す折れ線グラフだ。縦軸にシンへの好感度、横軸に時間を取っている。そしてここが、シンが志穂とキスをした前後の、好感度の数値だ」

「……え? 変わってない?」

 

 令音に指で示されるままに士道が志穂とキスをした前後の、自分への志穂の好感度の数値を見た士道は驚愕に目を見開いた。そう、変わっていないのだ。キスをした後の志穂はあんなにも豹変して、人類殺戮を目指すなんて宣言していたのにもかかわらず、士道への好感度は相変わらず、完全に封印をできる状態のままで高止まりしていたのだ。

 

 

「もしも記憶を取り戻した志穂の人格が、記憶喪失後の志穂の人格に上書きされたのなら、シンへの好感度は大幅に下がるはずだ。なぜなら、記憶喪失前の志穂にとって、シンはただの一般人だからね。つまり、志穂の記憶が復活したことは、彼女の人格に大した影響を与えていない、ということになる」

「ま、待ってください、令音さん! それじゃあ、まさか……志穂は元々、世界への復讐のために人類の殲滅を望むような性格だったってことですか!? 今まで志穂は本性を隠していたってことですか!?」

 

 志穂は反転していない。記憶を失う前の人格が、記憶を失った後の人格を優越したわけでもない。なら、変貌した志穂がそもそも志穂の本性だったのか。士道は信じられないと言いたげな形相で令音に問いを投げかける。

 

 

「その可能性もなくはない。志穂の中に復讐心があったものの、復讐を実現する手段が何もなかったから諦めていた。だが、記憶を取り戻し、天使を使えるようになったから復讐に走った。このような流れで志穂が本性を顕わにした、というのはあり得る話だね」

「そんな……」

「だが、私はこれを本命とは考えていない」

「え?」

「記憶を取り戻したショックにより、混乱して、暴走しているのではないか。これが今の志穂の状態に対する、私の出した結論だよ」

 

 令音は士道の問いを否定しなかった。天真爛漫で、明朗闊達で。そんな志穂に復讐心を募らせるような裏があったことに士道が衝撃を受ける中。令音は士道に手を差し伸べるかのように、ここで今の志穂の状況について、別の可能性を提示した。

 

 

「暴走、ですか?」

「あぁ。そもそも記憶喪失の患者が記憶を取り戻した時、大なり小なり混乱するものだ。欠けていた記憶が一気に押し寄せる以上、これは無理もないことだ。しかし、患者の混乱はそう長くは続かないのが普通だ。元々欠けていた記憶が埋まり、正常な記憶を取り戻せるわけだからな。……だが、志穂の場合は状況が違う。志穂は不死ゆえに世界から嫌われ、死の呪いに襲われていた。そんな志穂が失っていた記憶を取り戻した時、彼女に押し寄せる記憶の大半は、幾多もの自分が殺される内容だ。志穂が1日に12回死んだとして、単純計算で彼女は1年間に4,380回死んだことになる。それほどの死の経験が、記憶が一気によみがえったとなれば、志穂が混乱の果てに暴走してしまってもおかしくはない」

「あ……!」

 

 士道はハッと息を呑んだ。同時に、士道の脳裏に、小刻みに震え、血涙を流し、肩を強く抱くあの時の志穂の尋常でない姿が思い浮かぶ。志穂のあの様子は、1年分の死を一瞬で思い出し、受け止めてしまったがゆえの反応だったのか。士道は胸が引き裂かれる思いに駆られた。

 

 

「それに、シン。そもそも、どうしてシンとのキスが志穂の記憶復活の鍵となったのか。志穂はどうして記憶を失っていたのか。気にならないかい?」

「た、確かに。気になります」

「その理由にも見当がついている。シンが精霊とキスを行った際、精霊が天使や霊装を顕現させていた場合、光の粒子となって消失する。シンも何度も目撃しただろう?」

「それは、はい……」

 

 士道は頬を赤らめ、歯切れの悪い返事をする。十香たちをキスで封印した際、彼女たちの霊装が消滅し、裸になったことを鮮明に思い出してしまったからだ。

 

 

「それは言い換えると、精霊が天使や霊装を顕現していない状態で、シンとキスを行った場合、精霊の周りに光の粒子は発生しないということだ。光の粒子とともに消滅する天使や霊装を、この世界に顕現させていないわけだからね」

「……え、でも令音さん。志穂を封印した時は、志穂の周りに光が舞っていましたよ?」

「そう。シンが志穂を封印した時、志穂は天使も霊装も顕現させていないはずなのに、彼女の周りには光の粒子が発生していた。……このシーンだね」

 

 令音が端末を操作して、モニターに短い映像を表示させる。士道と志穂がキスを終えた直後の映像だ。確かに、小刻みに震え、血涙を流し、肩を強く抱く志穂の周りには、光の粒子がはっきりと見えている。

 

 

「これは、一体?」

「おそらく。志穂は自分でも無意識の内に、霊装を纏っていたんだ。それも、心にね」

「志穂が、心に霊装を……?」

「霊装は精霊を護る絶対の盾であり、精霊が持つ絶対なる領地にして城であり、精霊を護る神威の膜だ。ならば、霊装は必ずしも体に纏うだけの物にとどまらず、概念の状態で、心にも霊装を装備することができる。……このことを前提にすると色々と謎が解けるんだ。志穂があれだけ多くの死を経験していたにも関わらず心が壊れずに済んでいたのは、霊装が彼女の心を死の恐怖から守っていたから。志穂が記憶を失っていたのは、霊装を心に纏うことで、志穂の心が壊れてしまうような残酷な過去を思い出せないようにシャットアウトしていたから。シンとのキスが記憶復活の条件となったのは、封印により目に見えない心の霊装が強制解除されるから。といった風にね」

「ッ! つまり志穂は、心を守る霊装が解除された状態で、1年分の死の記憶を頭に叩きつけられたから、暴走してしまったってことですか?」

「そう考えるのが自然だ。加えて、志穂が霊装で封印し、シンのキスで解放された残酷な記憶の内容が、志穂を人類殲滅へと突き動かしているのだろうが……志穂の過去に何があったのかは、本人に会って、直接聞き出した方が早いだろうね。志穂のシンへの好感度の高さを考えれば、シンが尋ねれば、彼女が過去を語ってくれることに期待できるからね」

「志穂……」

 

 志穂は心に霊装を纏っていた。この仮定を前提にして展開される令音の説得力のある内容を前に、士道は罪悪感に苛まれる。なぜなら。これが事実ならば、志穂が暴走してしまったのは、士道が志穂を封印しようとキスをして、志穂の心から霊装を剥ぎ取ったからなのだから。

 

 

「なに、辛気臭い顔してるのよ」

「琴里……」

「どうせ自分のせいで志穂を苦しめてしまったとか思ってるんでしょうけど、今回のケースは士道のせいじゃないでしょ。志穂を封印しないと死の呪いから志穂を救えないのに、志穂を封印したら志穂の記憶が一気に復活して暴走するなんて、そんな回避しようのないえげつない罠、どうしようもないもの。……今の士道にできることは、志穂が人間を大量虐殺する前に、志穂を改めて救い直すことよ。わかったら、さっさとシャキッとしなさい」

「……あぁ、そうだな。そう、だよな」

 

 士道の元気のなさから士道の心境を的確に読み取った琴里は士道へとテクテク近づき、チュッパチャプスの棒を突きつけながら、士道を元気づけにかかる。結果、琴里なりの励ましを受けた士道は、罪悪感を抱きつつも、その両眼に再び志穂を救う強い決意を宿した。

 

 

「ん、いい目よ。さて、士道。私たちの知る、志穂に関する情報は以上よ。よって、今からあなたにはもう一度志穂と接触してもらうわ。そこで、まずは志穂が人類殲滅をしないように説得する。これが最低限やるべきことよ。そして、できるなら――」

「――志穂とキスをして、志穂を再封印する、だよな?」

「ええ、そうよ。志穂の士道への好感度が高止まりしたままな以上、志穂の再封印はいつでもできるわ。でも問題は、士道が再びキスをしてくるのを、天使を使って人類殲滅をもくろむ今の志穂がそう易々と受け入れるわけがないって所ね。だから士道には、志穂が世界への復讐よりも士道への愛を優先するように、改めて志穂をデレさせ直して、再封印してもらうことになるわ。……腕の見せ所よ、士道。今度こそ、志穂を完璧に救ってちょうだい」

「あぁ!」

 

 琴里との会話を最後に、士道は再び転送装置へと移動する。そして、天宮百貨店から移動したらしい志穂の近くの場所に向けて、士道の体は地上へと転送されるのだった。

 

 




五河士道→好感度の高い精霊とキスをすることで、精霊の霊力を吸収し、封印する不思議な力を持った高校2年生。士道さんの良い所は、例え失敗して事態が悪化したとしても、決して逃げずに何度でも立ち向かおうとする精神だと思う今日この頃。
五河琴里→士道の妹にして、精霊保護を目的とするラタトスク機関の一員にして、5年前にファントムに力を与えられ、精霊化した元人間。初期だと暴力系ヒロインよろしく士道さんを殴っていたが、巻数が進むにつれて、士道さんへの攻撃は控えている模様。が、今回は例外だった。
村雨令音→フラクシナスで解析官を担当している、ラタトスク機関所属の女性。琴里が信を置く人物で、比較的常識人側の存在。志穂に関する説明回で令音さんがいると、安定感が段違いである。

 というわけで、17話は終了です。次回は『一方その頃……』って感じで志穂さん目線の話を展開させる予定です。垓瞳死神(アズラエル)の本領発揮が見られるかも!?(※なお、垓瞳死神が本領発揮した際は大惨事濃厚)

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