【完結】死に芸精霊のデート・ア・ライブ   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回は過去編です。
 士道さんが知った、志穂さんの過去。早速紐解きにかかりましょう。



20話 死にたくなかった女の子

 

 

 かつて、とある所に、一般的な両親の元に生まれた女の子がいました。

 志穂という名の女の子は物心がついた時から病弱でした。ずっと入院していて、ベッドの上にいました。ベッドの上から見える景色が、志穂の日常でした。

 

 両親は志穂に言いました。志穂が良い子にしていたら、必ず病気は治ると。志穂は両親を信じて、良い子であり続けました。病室の外の公園で、サッカーをして遊ぶ子供たちの姿を羨ましく思いながら。志穂は勉強をして、本を読んで。いつか自分も外で遊べる日が来ると信じて、良い子であり続けました。

 

 何年も何年も、志穂は良い子として生きていきました。

 しかし、志穂の病状に快復の兆しはありません。それどころか、1日1日と過ぎていくにつれて、志穂は自分の体が重く、鈍くなっているように感じていました。

 

 お父さんとお母さんの言うことは正しいはずなのに。

 お父さんとお母さんは間違ったことを言わないはずなのに。

 不思議に思い始めたある時、当時13歳の志穂は両親と主治医が志穂の病状について話している所に偶然出くわしました。盗み聞きは悪いことだと両親に教えられていましたが、志穂は思わず物陰に隠れて、大人たちの会話をこっそり聞くことにしました。

 

 余命、1年。志穂はあと、たった1年しか生きられない命だと知ってしまいました。

 あんなに良い子にしていたのに。努力はいつか報われると信じていたのに。

 世界は、志穂に対して非常に残酷でした。志穂に希望なんて与えてくれませんでした。

 

 志穂は今日の分の勉強を放棄し、ぼんやりと外を眺めていました。

 病室の外の公園では、相変わらず子供たちがサッカーを楽しんでいます。

 どうして。私だって遊びたいのに。どうして。私はダメなの。

 どうして。あの子たちは病気じゃないの。どうして。私が苦しまないといけないの。

 どうして。私はもっと生きたいのに、死にたくないのに、生きることが許されないの。

 どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。どうして。

 

 

【――ねえ、君。力が欲しくはない?】

 

 志穂の心が闇に閉ざされようとした時、男とも女ともつかない声が志穂に届きました。

 志穂が窓の外から視線を外すと、まるで全体にノイズがかかっているかのように姿形を捉えることのできない何者かが、いつの間にか志穂の病室に現れていました。

 

 

「あなたは、誰ですか?」

【私が誰かなんて、今は些細なことだよ。それより、答えて? 君は、力が欲しくはない?】

「……別に、いらないです。だって、どうせ私はすぐに、死んじゃいますから。……ごめんなさい。せっかく私のために提案してくれたのに」

【そう? でも、力があったら君はもっと長生きできるのに、もったいない】

「……え? 力があれば、私は死ななくていいんですか!?」

【うん。1年なんてものじゃない。その気になれば、永遠に生き続けることだってできる。力があれば、君の病気もあっという間に治る】

 

 何者かの問いに志穂は、一度は首を横に振りました。しかし、何者かから力をもらえば、余命1年という運命を覆せると知った志穂は、目の色を変えました。何者かは志穂の様子に満足そうに1つうなずくと、志穂に手のひらを差し出しました。その手のひらには、ぼんやりとした輝きを放つ、小さな桃色の宝石のようなものが乗っていました。

 

 

【もしも力が欲しいのなら、これに触れるといい】

「欲しい、です。でも、いいんですか? こんな貴重なもの……」

【いいのさ。これは、私のためでもあるからね】

「で、でも私なんかよりも、もっとこの力を持つのにふさわしい人がいるんじゃないですか?」

【そのふさわしい人が君なのさ。君が一番、この力に適性があるからね。だから、さぁ。遠慮なく、力を手にするといい】

「……はい。ありがとうございます。えっと、モザイクさん」

【え、その呼び方はちょっと……まぁいいか】

 

 桃色の宝石を取ろうとした志穂は最初こそ遠慮したものの、最終的に感謝の言葉とともに桃色の宝石を手に取りました。すると、桃色の宝石が志穂の手の中に溶け込み、直後。志穂は己の存在が丸ごと書き換わっていくかのような錯覚を感じました。

 

 そして。しばらくして。志穂は己の体が随分と軽くなっていることに気づきました。

 鉛のように重かった体。少ししか志穂の望み通りに動いてくれなかった体。そんなものがまるで全部ウソだったかのようです。

 

 

【力を手にした感想はどうだい?】

「凄い、です! こんなにジャンプしても平気だなんて、夢みたい……!」

【それは良かった。ところで、今の君なら、永遠に生き続けられる方法がわかるよね?】

「あ、そうですね! じゃあ早速、<垓瞳死神(アズラエル)>――【絶対刻印(シール)】!」

 

 病気が治ったことに興奮していた志穂は、何者かに促されるままに、力を手にしたことで使えるようになった天使を召喚しました。病衣に漆黒のマントという、ちぐはぐな格好になった志穂は、早速垓瞳死神(アズラエル)に指示を出しました。すると、垓瞳死神(アズラエル)のマントの至る所に志穂の名前が赤文字で無数に刻まれました。そして、志穂の名前の赤文字は、時間の経過とともに黒色へと変化し、漆黒のマントの色と完全に同化しました。この瞬間、志穂は不死身となりました。そして、絶対刻印(シール)は絶対に解除できない仕様なため、志穂は不死身であり続ける運命を背負うこととなりました。

 

 これで、私はいっぱい生きられる。外で遊んでいる子供たちよりも、いっぱいいっぱい生きられる。もう余命なんて、寿命なんて意識しなくていい。もう死ぬことに怯えなくていい。なんて、素敵なことだろう。志穂の心は希望に満ちあふれていました。病気という枷から解き放たれ、不死身の存在へと昇華した志穂は、これから何をしようと胸をときめかせていました。

 

 

【さて。幸せいっぱいの所、悪いけれど……君には全てを忘れてもらうよ。今の君のままだと、どれだけ世界に嫌われようと、殺されようと、救いを望まず元気に生き続けかねないからね】

「え、モザイクさん……?」

 

 そのため、志穂は何者かが志穂へと手を伸ばしてくることへの反応が遅れました。

 そして、志穂の意識はここでぷつりと寸断されました。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 志穂が次に意識を取り戻した時、志穂はほの暗い空間をふよふよと漂っていました。

 私はなぜここにいるのだろう。疑問に思い、考えて、気づきました。志穂が何も覚えていないことに気づきました。精々、自分の名前が『志穂』だということだけです。

 

 わからない。何も、わからない。どうして、怖い。怖い怖い怖い。

 志穂が怯えていると、唐突に志穂の視界が真っ白に塗り潰され、志穂の両眼に青空が映し出されました。どうして私は空を見上げているのだろう。疑問に思っていると、志穂の体が地面に向けて落下し、地面と衝突した志穂は死にました。直後、志穂は再び、ほの暗い空間へと戻されていました。志穂は死んだはずなのに、体には傷一つ残っていませんでした。

 

 志穂はわけがわかりませんでした。ただ、志穂の記憶に刻まれた墜死の痛みが何度も何度も頭の中で再生され、志穂の心を乱していきます。そして、志穂の混乱が冷めやらない内に志穂の視界が再び白に染まったかと思うと、今度は車に轢き殺され、またほの暗い空間へと返ってきました。

 

 わからない。何もわからない。でも、痛いのはイヤ。どうすればいいの。どうすれば痛いことを経験しないで済むの。わからない、誰か教えてよ。現界の度に世界に殺される影響で、志穂の精神はどんどんすり切れていきます。死んで、戻って。死んで、戻って。そんなサイクルを50回繰り返した所で、志穂はとある出会いを果たしました。

 

 

「あなたはわたくしと同じ、精霊ですのよ。世界を蝕む毒にして、人類の敵」

「……あなたは、私のことを知っているんですか?」

「ええ。あなたのことだけでなく、この世界のことにも詳しい自信がありますわよ」

「お願い、します。教えてください。もう、死にたくないんです」

「ええ、ええ。わかりましたわ。わたくしが懇切丁寧に教えて差し上げます」

 

 漆黒の髪に、色違いの双眸に、血と影の色で染められたドレスを纏った女性:時崎狂三と出会ったことで、志穂は多くの情報を得ることができました。この世界での一般常識や、精霊の立ち位置、そして志穂が残機∞の精霊ゆえに世界から嫌われ死の呪いに襲われているらしいことなど、実に多くのことを、志穂は狂三から教えてもらいました。

 

 

「……ですが、相応の対価はきちんといただきますわよ?」

「ふぇ?」

 

 その対価として、志穂の時間を奪われ殺されたことは中々にトラウマでしたが、狂三のもたらした情報は、志穂の命を差し出してなお余りあるものでした。

 

 その後。志穂は現界した際、天使や霊装を駆使して自分が死なないように尽力しました。しかし、結局志穂は死に続けました。志穂の霊装は空を飛べる程度の機能しかなく、非常に防御力に乏しかったからです。また、志穂は天使の垓瞳死神(アズラエル)を、己の身を隠すためぐらいにしか用いず、決して垓瞳死神(アズラエル)を人に行使しなかったため、志穂は依然として世界に殺され続けました。

 

 

「志穂さん。あなたはどうして垓瞳死神(アズラエル)を使いませんの? 垓瞳死神(アズラエル)を使えば、少しは死ぬ回数を減らせるでしょうに」

「それはわかりますけど、だって……死ぬのって、痛くて辛いですから。それに、私と違って、人間には人と人との繋がりがあるじゃないですか。だから、私が死にたくないだなんて自分勝手な理由で人を殺しちゃったら、その人を大切に思っている人が悲しんじゃうかなって思って、その」

「全く。甘いですわね、志穂さんは」

「……ごめんなさい。えっと、それより狂三さん。どうして私の霊装は、こんなにダメダメなんだと思いますか? 狂三さんの霊装は銃弾なんて余裕で弾き飛ばせるのに」

「そのことについて、1つ仮説を立てましたわ。……志穂さんの霊装はもしかしたら、物理的に志穂さんの命を守ることではなく、度重なる死から志穂さんの心を守ることに特化した霊装なのかもしれません。もしよろしければ、体にではなく、心に霊装を纏うことを試してはいかがですか?」

「ッ! その発想はなかった、です」

 

 ある時。狂三からアドバイスを受けた志穂は心に霊装を纏うことに挑戦し、成功しました。心に纏った霊装は多大に効果を発揮し、志穂が死んだ際に生じる心の傷を極力減らしてくれました。ですが、毎日毎日大量に志穂に押し寄せる死の呪いは、心に纏った霊装の盾があってなお、志穂の心をすり減らしていきました。時には拷問や強姦といった悲惨な出来事の果ての死が志穂を襲ったこともあり、志穂の心は着実に追い込まれていきました。

 

 そして。志穂の記憶が始まってから、9か月後。志穂が通算4千回もの死を経験した後。いつものように現界した志穂は、路地裏で膝を抱えてうずくまっていました。しとしとと降り注ぐ雨が容赦なく志穂の体を濡らし、体力を奪っていく中。志穂はただただ膝を抱えて座っていました。そんな志穂の耳がふと、足音を捉えました。バシャ、バシャと水音を立てている足音は、どうやら志穂目がけて近づいているようでした。

 

 

「や、やめてください。お願い、殺さないで……!」

 

 志穂は足音に怯え、頭を抱えてガクブルと体を震わせます。無理もありません。これまでの経験則から、志穂に近づく者はほぼ全員、故意や過失で志穂を殺しにかかるため、志穂にとって人間は恐るべき脅威でしかなかったのです。

 

 

「え、待って。なに、私ってそんなに人を殺しそうな顔してる? ツリ目なのは自覚してるけど、そんなにガチで怯えられると何かすごーくショックなんだけど」

 

 しかし、今回志穂に近づいてきた者は志穂に死をもたらしませんでした。恐るべき脅威のはずなのに、簡単に殺せるはずの志穂の言葉に、酷く傷ついているようでした。志穂が恐る恐る顔を上げると、そこには長身痩躯のスレンダーな女性が、涙目で志穂を見下ろしていました。

 

 これが志穂と、霜月砂名(さな)という人間との出会いでした。

 

 




霜月志穂→精霊。識別名はイモータル。元々はただの志穂だった。病弱ゆえに死ぬことに酷く怯え、生きることに並々ならぬ思いがあったがために、精霊になった際に早速己を不死身にした。この頃の志穂さんは、ですます口調の儚い女の子だった模様。ちなみに、士道さんにキスをされた志穂さんが思い出した記憶は、ファントムに記憶を消された後からの記憶である。
ファントム→何らかの目的を抱えて、何人もの人間を精霊に変えてきた謎の存在。男とも女ともわからない声に、全身にモザイクがかった姿形をしているのが特徴である。なお、モザイクさんとの呼ばれ方には複雑な思いがあった模様。
時崎狂三→精霊。識別名はナイトメア。名前は『くるみ』であり、決して『きょうぞう』ではない(重要)。志穂さんが何度死んでも復活する精霊だと知り、志穂さんから時間を調達するために接触した。志穂さんのことはそれなりに気に入っている。
霜月砂名→志穂の初現界から9か月後に、志穂が出会った女性。現状、詳細不明。

一般的な読者の方々の反応A「あっ…(察し)」
一般的な読者の方々の反応B「嫌な予感しかしない」

 というわけで、20話は終了です。過去編は1話で軽く纏めようとしたのですが、志穂さんとファントムとの会話が思ったより文字数多くなったので前後編で分けることにしました。

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