【完結】死に芸精霊のデート・ア・ライブ   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。前回で過去編は終了したので、今回からは再び士道さん目線に戻ります。はたして士道さんは志穂さんを救えるのか。



22話 死神少女の涙

 

 

「志穂!」

 

 士道は走る。狂三の助力により志穂の抱えていた過去を知ることのできた士道は志穂に会うために全力疾走する。そして、ほどなくして。士道は志穂を発見した。志穂は、死屍累々なASTの面々の中心で、心底愉快そうに笑い転げていた。

 

 

「あーはぁ♡ 来たッスね、先輩。……うん、うん。良い目をしてるッスね。さっすがヒーロー。覚悟を決めたようで何よりッス。それじゃあ、始めるッスよ」

「始める? 何をだ?」

「先輩ってば、またまたとぼけちゃってぇ。決まってるでしょ。人類に仇なす残酷無比の死神と、精霊ごと人類を救う正義のヒーローが出会ったのなら、その先に待っているのは、世界の命運を賭けた死闘でしょ? さぁ! 不死身の私と、身体再生能力持ちの先輩。生き残るのはどっちかにゃあ? あ、もちろん。先輩が私に会いに来たからには、何か私の不死を無効化する画期的な手段を用意してるッスよね?」

「悪いが、そんな物は用意していない」

「へ?」

「俺に志穂と戦うつもりはない。志穂を、救いに来たんだ」

「……は?」

 

 志穂は芝居がかった口調で、大げさな身振り手振りで、士道との戦闘を望む。だが、対する士道は志穂から敵意を向けられても決して焦らず冷静に、志穂を救う覚悟を簡潔に言葉に表した。志穂は士道の発言に、目をパチクリとさせる。

 

 

「はぁぁ? 私を救う? 冗談でも笑えないッスよ。 私は死神ッスよ? 全人類の生殺を自在に操れる、脅威の権化ッスよ? それを、救う? どんな頭をしてたらそんな考えになるッスか!? 私という人類の天敵が爆誕したんだから、ここは例えばラタトスク機関とASTとDEM社が共通の敵を前に結託して、残機∞の私を概念ごと完全に抹消しにかかる展開とか用意してる所じゃないんスか!? 空気読んでくださいよ、先輩! ヒーローでしょう!? 人類の敵に手を差し伸べるだなんて酔狂な真似はやめるッスよ!」

「俺はヒーローなんて、そんな高尚なものになったつもりはない。俺はちょっと変わった力を持っているだけのただの高校生で、いつだって、助けたいと思ったから精霊を助けてきた。今回も同じだ。志穂が死神だとか、人類にとって脅威だとか、そんなことは関係ない。俺は志穂を助けたい。幸せにしたい。だから助ける。それだけだ」

 

 志穂はまるで悲鳴を上げるように、士道に敵意を持ってもらうべく、まくし立てる。だが、士道は譲らない。あくまで志穂を救う旨を、はっきりと志穂に伝える。

 

 

「……んー。これは想定外。先輩のお人よし具合にも困ったものッスよね。よーし、それじゃあ先輩が私の殺害に本気になってくれるように、私は今から、先輩がこれまで封印してきた精霊全員に死をプレゼントしてあげちゃうッスね!」

「なッ!?」

「先輩には内緒にしてたんですが、私、何気に先輩が封印した元精霊にも殺されたことあるんスよねぇ。プリンセスの鏖殺公(サンダルフォン)に巻き込まれて。ハーミットの氷結傀儡(ザドキエル)で凍死させられて。ベルセルクの起こした突発性暴風雨に飲み込まれて。ディーヴァが意図的に起こした空間震の被害に遭って。だから、常々復讐したいって思ってたッス。私を殺していない元精霊はイフリートぐらいッスけど、まぁここは連帯責任でイフリートにも垓瞳死神(アズラエル)の餌食になってもらうッス。1人だけ仲間外れにしちゃったら、かわいそうですしね」

「志穂……」

「さぁ先輩! 先輩が救ってきた精霊たちを私に殺されたくなければ、さっさと正気に戻って、私を殺す方向に速やかにシフトチェンジすることッス! なぁに簡単なことじゃないッスか! ほらほら、早く。じゃないと、何回だって元精霊を殺しちゃいますぜー? 良い加減、意固地になるのはやめて、優先順位のままに、私と戦いましょうよ! 先輩! せぇぇんぱい!」

「……」

 

 志穂の漆黒のマント型の天使に付与された無数の人間の目の中に、十香の名が。四糸乃の名が。琴里の名が。耶俱矢の名が。夕弦の名が。美九の名が。刻まれる。血のように赤い文字で、士道がこれまで救ってきた精霊の名前が垓瞳死神(アズラエル)に入力される。それでも士道は志穂に対して敵意を見せなかった。それどころか、志穂を憐れむように、可哀そうなものを見るかのような目つきで、志穂を見据えるのみだった。

 

 

「……何スか? 何なんスか、その目ぇ?」

「志穂。もういい。もういいんだ。これ以上、自分を責めないでくれ」

「先輩? 何を言って……」

「俺は、志穂が今から何をしようと、志穂を殺すつもりはない。砂名さんの代わりに志穂を殺して、志穂を裁くつもりはない」

「ッ!? ど、どうして砂名先輩のことを知って……!」

「だからさ、志穂。狂ったふりをして、暴走したふりをして、死神を演じて殺されようとするのは、もうやめよう。志穂は死神でも人類の敵でもない。ただの優しい女の子だよ」

「――ッ!」

 

 士道の言葉に、志穂は激しく動揺し、目を見開く。士道は志穂の過去を知ったことで、今の志穂の暴走の原因に察しがついていた。志穂の中には確かに、今まで志穂を殺した人間に復讐をしたいとの気持ちも、志穂を散々苦しめてきた世界をメチャクチャにしたいとの気持ちもあるのだろう。だが、志穂の本命は。残酷無比な死神を演じ、ヒーローの士道に殺されることだったのだ。志穂は間違いなく、士道に砂名の姿を重ね合わせている。だからこそ、砂名を殺してしまった罪悪感に苛まれる志穂は、士道に殺されたがっているのだ。それこそが砂名への贖罪だと信じているのだ。

 

 

「……はは、見当外れも大概にしてほしいッス。演技なんてしてないッスよ。これが私の素ですよ。先輩は足元のASTの連中が見えてないんスか? 私が何回この人たちを殺しては復活させてを繰り返したと思ってるッスか? これほどの仕打ちをしておいて、優しいだなんてあり得ないッスよ!」

「いいや、志穂は凄く優しい女の子だよ。もしも俺が志穂の立場なら、今頃は垓瞳死神(アズラエル)で何千人も何万人も殺してる。決して復活なんてさせない。だからこそ。こんなに優しい志穂が救われないなんてウソだ。志穂には、救われる価値がある。幸せに生きる価値がある。志穂は絶対に、救われなければならない、かけがえのない女の子だ。俺が保証する。……なぁ、志穂。志穂は救われていいんだ。砂名さんだって、きっと同じことを望んでる」

「ぃ、いや! 違う、違う違う違う違う違う違う違う違う!」

 

 志穂は震える声で士道の発言を否定しようとするも、士道は志穂の主張を受け入れない。あくまで士道は志穂に優しい言葉を与え続ける。すると、志穂は聞きたくないとばかりに頭を抱えて左右にブンブン振ると、士道に背を向けて逃げ始めた。

 

 

「志穂! 待ってくれ!」

 

 士道は急いで志穂を呼び止めようとする。今の志穂は地上で走って逃げているだけだから追いかけることができるが、志穂が空を飛んで逃げるという発想に至ってしまえば、志穂に逃げ切られてしまうからだ。志穂を救うチャンスを失いかねないからだ。

 

 

「ふぎゅ!?」

 

 だが、志穂の逃走は長くは続かなかった。士道と志穂がデートの待ち合わせに利用していた公園内に志穂が逃げた所で、志穂が何もない所でつまづき、顔面から派手に転んだからだ。志穂はエメラルドの瞳に涙をにじませながら、ゆらりとその場に立ち上がる。

 

 

「志穂、大丈夫か?」

「来ないで、来ないで! <垓瞳死神(アズラエル)>――【入力(インプット)】!」

 

 志穂の怪我を心配して近寄ろうとする士道を志穂は言葉で制する。そして、志穂は垓瞳死神(アズラエル)を発動させ、無数の人間の目の内の1つに、士道の名を刻み込んだ。

 

 

「……私に、救われる価値だなんて、そんなものあるわけないじゃないッスか。あの人を、砂名先輩を殺した私には、地獄なんて生ぬるい、凄惨な罰こそふさわしいんスよ!」

「志穂……」

「私を殺す気になってください、士道先輩! でないと、私が先輩を殺すッスよ! 幾多もの死を先輩に浴びせて、先輩の心を粉々にぶっ壊してやるッスよ!」

「好きにすればいいさ。でもな、もう一度言うぞ。志穂が何をしたって、俺は志穂を絶対に殺さない。志穂を必ず救ってみせる」

 

 今現在、士道は己の命を志穂に握られている。志穂の一存で、士道の生死が決定づけられる。それを踏まえた上で、士道は志穂へと一歩一歩進み始める。志穂を信じているから。優しい志穂なら、士道を殺しても、必ず復活させてくれると信じているから。

 

 

「【転瞬(ブリンク)】!」

 

 志穂の悲鳴じみた指令を受けて、志穂の垓瞳死神(アズラエル)が発動する。士道の名を眼に刻んだ目が、瞬きを始める。その度に、士道は死を経験させられてショック死し、直後によみがえる。士道は心にダメージを負うも、それでも志穂への歩みを止めない。

 

 

「止まれ、止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれぇぇえええ!」

 

 志穂に一切敵意を抱かない士道が少しずつ近づいてくることに怯えた志穂は、声を枯らして叫ぶ。直後、垓瞳死神(アズラエル)がうごめき、士道を見つめる千の瞳に一斉に士道の名前が刻まれる。

 

 

「ッ!」

「……先輩。これが最後のチャンスッスよ。いくら先輩でも、一度に千回の死を、何度も何度も叩きつけられれば、絶対に壊れるッス。だから、私を救うのは諦めてください。ドMじゃないんだから、こんな危険な私を殺すなんて簡単な決断、さっさとしてくださいよ」

「それは、できない」

 

 士道は垓瞳死神(アズラエル)の千の瞳に一斉に睨まれたことに驚き、一旦は足を止めるも、再び志穂に近づくべく、歩みを再開した。

 

 

「う、ぅあああああああああああああああ!」

「が、ぎ……!」

 

 志穂は絶叫とともに、垓瞳死神(アズラエル)転瞬(ブリンク)させる。刹那。幾重もの死が結集して、何度も何度も士道に襲いかかった。士道はひたすらに死亡と蘇生を繰り返す。その度に、士道は心に深い傷を負い、立ち止まる。だが、またすぐに、士道は精神を立て直し、志穂へと歩み寄ろうとする。士道の両眼に、志穂への敵意や恐れといった負の感情は欠片も生まれない。志穂を救う決意のみを瞳に宿し、士道は歩を進める。

 

 

「どうして、どうして止まらないッスか!? こんなにも先輩に死を与える私が怖くないんスか!? 憎くないんスか!? 消えろって思わないんスか!? どうして、どうしてそんなに苦しんでまで、辛い思いをしてまで、私を助けようって思えるッスか!?」

「志穂みたいな優しい女の子は救われないといけないからだ! 理由なんてそれで十分だ!」

「ふざけないでください! 砂名先輩を殺した私に救う価値なんてないッスよ! あの人はもっと生きるべきだった! あの人はこれから何千何万もの人を救える器を持つ人だった! なのに、私と出会ったばっかりに、あの人は死んでしまった! 私のせいで! 私の、せいでぇ……!」

 

 どんなに強烈な攻撃を行っても、決して止まらない。不屈の心を携え、あくまで志穂を救おうとする。そんな士道の強靭な意思を前に、志穂はついに士道を攻撃できなくなる。垓瞳死神(アズラエル)を行使できなくなった志穂は、涙をぽたぽたと落としながら、その場にくずおれた。

 

 

「志穂。頼む、1人で抱え込まないでくれ。1人じゃ背負えきれないものがあったら、人を頼っていいんだ。俺じゃなくたっていい。誰か、志穂が信用できる人に、弱みを見せてもいいって思える人に、志穂の苦しみを、悲しみを分ければいい。共有してもらえばいい。だから。もう、やめよう。な?」

「…………本当に優しいのは、先輩の方じゃないッスか」

 

 士道は志穂の目の前で膝をつき、優しく志穂を抱きしめる。志穂の耳元で、志穂の心に染み渡らせるように、一言一言。言葉を紡ぐ。すると、志穂はしばらく口を閉ざし、泣きやんだ後に、天使の顕現を解除し、消え入りそうな声を漏らした。

 

 

「私があんなにも先輩を傷つけて、先輩が容赦なく私を殺せるようにって頑張ったのに、それでも私に手を差し伸べ続けるなんて。……ばか。せんぱいの、ばか」

「そうかもな。でも、志穂を救えるのなら、バカで結構だ」

 

 志穂は士道の腕の中で士道を見上げてくる。

 士道が労わるように志穂の頭を撫でると、志穂はくすぐったそうに目を細めた。

 

 

「……ねぇ、先輩。私は、本当に救われていいんスか?」

「あぁ、当然だ」

「でも、私は砂名先輩を殺したッスよ?」

「それは志穂が今後背負っていかないといけないものだけど、そのことが、志穂が救われちゃいけない理由にはならないよ。それに、砂名さんだって、志穂が幸せに生きることを望んでるはずだ。志穂だって、そう思うだろ?」

「……私なんかが、先輩を頼っていいんスか? 私は死神ッスよ? 私が頼ったせいで、先輩は近い将来、死んじゃうかもしれないッスよ?」

「まだ言うか。志穂は死神なんかじゃないって。それに、俺が滅多なことじゃ死なないのは志穂も知ってるだろ? 心配しなくていい、大丈夫だ」

「…………それでも、心配ッス。だって、砂名先輩も、全然死にそうじゃなかったのに、いきなり死んじゃいましたし。だから、士道先輩。私の力を、垓瞳死神(アズラエル)を受け取ってください。そうすれば、先輩はもっともっと死ににくくなるッスから」

「え、それって――」

「――さっきは先輩からしてもらったッスから、次は私の番です」

 

 士道が志穂の意図を察するよりも早く、志穂は顔を上げ、士道の唇にそっと口づけをした。士道の体の中に再度、何やら温かいものが流れ込んでくる感覚が生じる。この感覚は、士道が志穂を再封印することに成功した証左である。それと同時に、志穂の纏っていた黒を基調とした袴の霊装が光の粒子となって霧散し、一糸まとわぬ志穂の姿が顕わになった。

 

 

「し、志穂!?」

「う、秋の夜に裸はさすがに寒いッスね。先輩、もっと私を抱きしめてもらっていいッスか? 先輩の温もりを、温かさを、もっと感じていたいんです」

「あ、あぁ。それはいいけど……」

「服なら後で着ますから。少しだけ、少しだけでいいッスから。このままでいさせてください」

「志穂……」

「ぅう、え…く……うぅ、ひっ……」

 

 士道によりギュッと抱きついてもらおうとする志穂に、士道は自分の着る服を志穂に着せようとするも、今はほんの少しでも士道と離れたくない志穂は士道の胸に顔を埋め、静かに泣き始める。志穂の涙が、亡き砂名を悼むためのものだと気づいた士道は、わずかでも志穂の悲しみが和らぐようにと、志穂の背中を優しくさするのだった。

 

 




五河士道→好感度の高い精霊とキスをすることで、精霊の霊力を吸収し、封印する不思議な力を持った高校2年生。何度志穂から精神に直接死を叩きつけられようと、挫けることなく、心をしっかり保ちながら、見事に志穂を救ってみせた。感想でも書かれていましたが、士道さんってばマジ、メンタル超合金。
霜月志穂→精霊。識別名はイモータル。士道とのキスを契機に、失っていた記憶を取り戻した模様。砂名と似た生き様で突き進む士道に、砂名の姿を重ね合わせていたがために、士道に自分を殺してもらいたいと思い、天使を使って暴れていた。

日本不審者情報センター「天宮市にて、男性が夜の公園で少女を裸にして抱きつく事案が発生。少女は男性に怯え、涙を流していた模様」
士道「ちょッ!?」

ふぁもにか「【朗報】志穂さん、士道さんに攻略されたことにより、七罪さん作の『僕だけの動物園』に入園することが確定した模様」
志穂「アイエエエ!?」

 というわけで、22話は終了です。ようやく志穂さんの救済が為されました。これにてこの作品のクライマックスが終了したので、最終回も近いですね。

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