【完結】死に芸精霊のデート・ア・ライブ   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回はこの作品を高く評価してくれた方々がおそらく1番望んでいたであろう、本編後の志穂さんのお話です。本編では一切姿を見せなかった原作の精霊たちもきちんと登場するので、その辺りはご安心ください。



本編後 志穂の誕生日

 

 

 10月9日月曜日。放課後。五河家のリビングには8名のメンバーが集っていた。その内訳は、五河士道と、彼に攻略され、力を封印された元精霊7名。夜刀神十香、四糸乃、五河琴里、八舞耶俱矢、八舞夕弦、誘宵美九、そして、霜月志穂。

 

 本日、皆が集結したのは、先週士道が封印したばかりの志穂の、誕生会兼精霊マンション入居祝いのためである。どう考えてもワイワイはしゃぐ展開不可避な、個性の強い愉快なメンバー。加えて、士道が志穂を祝うために腕を振るって用意した、豪勢な料理がテーブル上に勢ぞろいし、テーブルの中央にはバースデーケーキが鎮座。

 

 なのに。

 

 

「「「……」」」

 

 今現在、五河家のリビングは沈黙が支配していた。士道も、元精霊たちも困惑のあまり、言葉を失っていた。彼ら7人が見つめる先は1点。リビングの入口付近で深々と土下座をする志穂の姿。

 

 え、なんで今日の主役がいきなり土下座してるの?

 士道たちが皆、似たような問いを脳裏に浮かべる中。

 

 

「こ、この度は……この度は誠に申し訳ありませんでしたぁぁぁぁああああああああッス!!」

 

 志穂が肺いっぱいに空気を吸い込み、全力の謝罪の言葉を轟かせるのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 今にして思えば、今日の志穂の様子はおかしかった。

 今朝、志穂が琴里と同じ中学に通うとみせかけて、来禅高校の1年3組に転入するとのドッキリを士道に仕掛けてきた際、士道は志穂に誕生日を祝う旨を伝えた。その時の志穂は心の底から幸せそうに、ぴょんぴょん飛び跳ねていた。

 

 だが。実際に学校を終えて、五河家を訪れた時の志穂は今朝のはしゃぎっぷりが嘘のように元気がなかった。まるで借りてきた猫のような態度だった。その時は、表向きは明るいムードメーカーキャラの志穂だけど、実は意外と人見知りなのかもしれない、などと士道は考えていた。今の元気いっぱいな志穂になる以前の儚い性格をしていた頃の志穂を知っていたからこその推測である。

 

 ゆえに。士道は少しでも志穂を安心させるべく、志穂を五河家へと笑顔で迎え入れた。そして、クラッカー装備でリビングで志穂の入場を待つ元精霊6名の元へと、士道は志穂を連れていき、志穂を先にリビングへと進ませた。

 

 

「せーの!」

「「「ハッピーバースデー!」」」

「……!」

 

 琴里の掛け声とともに一斉にクラッカーを鳴らす元精霊6名。そんな、満面の笑顔で志穂を祝う6名を志穂はしばし凝視したかと思うと、いきなりその場に膝をつき、深々と頭を下げて謝罪をしたのだ。そして今に至る。

 

 

(え、えぇ……?)

 

 まさかの展開に士道は戸惑いを隠せずにいた。志穂の唐突な謝罪行為の意図が全く読めないからだ。志穂を祝う雰囲気が完全に吹き飛び、気まずい沈黙がリビングを包む中、土下座体勢を維持する志穂の体にカラフルな紙吹雪がいくつかくっついている様子がなんともシュールだ、なんてどうでもいいことを士道は思った。

 

 

「む、むむ? どういうことだ? なぜかの新しい眷属は、いきなり地に伏し懺悔しているのだ? わかるか、夕弦よ」

「疑問。夕弦にもさっぱりです。何か心当たりはありませんか、士道?」

「い、いや。全然わからない。……志穂、まずは顔を上げてくれ」

「……はいッス」

 

 ここで、リビングを取り巻くいたたまれない空気を真っ先に払拭したのは耶俱矢と夕弦だった。耶俱矢は腕を組んで首を傾げ、夕弦は問いを士道に投げかける。志穂の謎の行動の原因がわからない士道はひとまず志穂に土下座をやめさせようと極力優しく声をかけると、志穂はおずおずといった調子で顔を上げた。

 

 

「志穂よ、いきなりどうしたのだ? らしくないぞ?」

「え。いや、だって……ケジメをつけるなら今しかないかなぁと思ったんスよ」

「ケジメ、ですか……?」

「はいッス。だって私、あの時の死神モードの時に、士道先輩に散々酷いことしたじゃないッスか。その辺りのことをきちんと清算しないことには、士道先輩大好き勢な元精霊コミュニティに仲間面して加入するわけにはいかないんスよ」

 

 リビングで正座し、体を縮こまらせる志穂を前に、十香は朝の志穂と今の志穂とのギャップにクエスチョンマークを浮かべる。一方、土下座の理由を口にした志穂は、四糸乃に話を促される形で、今の己の心境をポツリポツリと告げる。

 

 

「琴里先輩には前に謝ったけど、あの全裸土下座1回じゃ絶対足りないッスし……だから、どうか私に相応の罰を与えてください。それで初めて、私は皆の輪に入る資格を得られるッスから」

「罰って、志穂。お前……」

「え、全裸土下座!? 何ですかそれ!? 志穂ちゃんとの間にいつの間にそんな興味深い展開があったんですかぁ、琴里ちゃん!?」

「そこ、ここぞとばかりに食いつかないでちょうだい」

「あーん、琴里ちゃんのいけずぅ」

 

 正座中の志穂がペコリと頭を下げて己を罰することを要求する。志穂の思いつめた表情に士道がどう声をかければいいか一瞬わからなくなる中、良くも悪くも空気を読まないことに定評のある美九が志穂の『全裸土下座』とのワードに即座に反応し、琴里に詳細の開示を求める。が、当時のことを少なくとも美九にだけは語るつもりのない琴里は美九を軽くあしらい、あしらわれたはずの美九はなぜか嬉しそうに言葉を紡いだ。

 

 

「……ったく、なんで志穂が謝るんだよ。志穂が暴走した原因は俺なんだから、志穂がそこまで思い悩むことなんてないだろ?」

「そんなことないッス! 私が先輩を何度も何度も殺したことには変わりないッスから」

「士道。この分だと、あなたがこれから何を言った所で志穂が余計に気にするだけよ。ここは私たちに任せなさい」

「琴里……。わかった、頼む」

 

 どうすれば志穂に罪悪感を感じさせずに済むのか。答えを導き出せないまま、それでもどうにか志穂を励まそうとする士道だったが、当の志穂は頑として士道の主張を聞き入れない。そんな妙な所で頑固な志穂の考えを変えるため、ここで琴里が動き出す。士道が説得するより、琴里たち元精霊が志穂に言葉を尽くした方がよさそうだとの結論に至った琴里は、士道を一旦退かせ、志穂の目の前へと歩を進める。

 

 

「志穂。あなたはさも自分だけが封印される前に士道に酷いことをしたかのように言っているけど、私たちも大概よ?」

「へ?」

「十香は士道と出会って早々、士道を斬り殺そうとしたし」

「あ、あれは仕方ないだろう!? シドーが敵かどうか見極めるためにシドーの名前を聞いたのに『人に名を尋ねるときはまず自分から名乗れ』などと挑発されたら攻撃したくもなるだろう!?」

「あ、うん。あの時は悪かったな、十香」

「四糸乃の時も、士道は四糸乃が天使で作った、氷の結界に無謀にも突っ込んで死にかけたし」

「あぅ。……あ、あの、士道さん……あの時は、本当にごめんなさい……!」

「いや、あれは俺が勝手にやったことだ。四糸乃が気に病むことじゃないって!」

「美九なんか、私と四糸乃、耶俱矢、夕弦を洗脳して、士道を殺そうとしたし」 

「うふふ、今となっては懐かしい過去ですねぇ。もしも過去に戻れるのなら、あの時の私を引っ叩いてぐるぐる巻きに拘束して、だーりんの魅力を耳元で延々と語って聞かせたい気分です」

「あの時の例外なく男嫌いな美九にそんなことしたら、絶対発狂するだろうな……」

 

 罰を欲する志穂を前向きにさせるために、琴里はこの度、志穂の他にも士道に危害を加えようとした精霊の例を示すこととした。その際、槍玉に挙げられた十香は慌てて早口に言い訳を零し、四糸乃は涙目で士道に深々と頭を下げ、美九は過去は過去とすっぱり割り切っている様子を見せた。

 

 

「だけど、私たちは十香たちに士道を傷つけたからって罰を与えたりなんてしていないわ」

「え、そうなんスか?」

「ええ。というか、そもそも精霊は普通の人間じゃ太刀打ちできないくらいの強大な力を持っているんだから、精霊攻略に危険が伴うのは当たり前。士道が怪我をすることなんて、最初から織り込み済なのよ。だからこそ、私は精霊の攻略を戦争(デート)って表現しているわけだし」

「……」

「士道も危険を承知で、それでも精霊を救いたいからって、自ら進んで精霊を攻略してるのよ? だから、そんな物好きの士道を傷つけたことに一々罪悪感を持つ必要なんてないわ。志穂も士道に封印された以上、私たちは士道に心を許した同志なんだから、罰だ何だってこだわってないで、素直に親睦を深めなきゃもったいないわよ。ねぇ、そうは思わない?」

「琴里先輩……」

 

 士道は自分の意思で危険な精霊攻略に乗り出している。だから攻略の過程で士道が傷ついても、それは士道の自業自得でしかない。そのような論調も付け加えて、琴里は志穂を説得にかかるも、対する志穂はまだ琴里の主張に納得しきれていないようだった。

 

 

「で、でも。私は士道先輩だけじゃなくて、ここにいるみんなを垓瞳死神(アズラエル)で殺そうとしたんスよ? それなのに、そう簡単に割り切れるわけないじゃないッスか……」

「クククッ、そんなに我らに罰を与えてもらいたいか? そうかそうか。ならば望み通り、とびっきりの罰を与えてやろう。……己の過ちについて良心の呵責を抱えたまま、我らとともに人間の生を謳歌せよ。それが貴様にぴったりの罰だ。これから精々、精力的に贖罪に励むことだな」

「翻訳。耶俱矢は志穂に一目惚れしたからまずは友達から始めませんかとお願いしています」

「んな!? なななななななに言ってんの、夕弦!? その冗談はさすがに性質が悪くない!?」

「休題。耶俱矢で遊ぶのは一旦やめにするとして。……知らない内に夕弦たちが志穂に殺されかけたとの話は初耳ですが、結果として、夕弦たちは無事です。志穂に傷一つつけられていません。それなら、終わりよければすべてよしでいいのではないですか?」

「……志穂さん。私、志穂さんと仲良くなりたい、です。志穂さんに罰を与えるなんて、そんなの嫌です……」

『別に、志穂ちゃんが人から罰を与えられるのが大好きなドMな女の子だっていうのなら、よしのんもとやかく言わないけどさー。でも、志穂ちゃんってどう見てもその手のタイプじゃないよね。だったら、ここは皆の好意に甘えちゃってもいいんじゃない?』

「志穂ちゃん志穂ちゃん。だーりんを傷つけちゃったことや、私たちを殺そうとした(?)ことに罪悪感があるのなら、私たちに罰してもらうんじゃなくて、そういう黒歴史を帳消しにして、上書きしちゃうくらいの、大きな大きな愛をだーりんや私たちにプレゼントし続けちゃえばいいと思いますよぉ。そうすればだーりんも、志穂ちゃんの攻略は確かに大変だったけどそれでもあの時頑張った甲斐があったって喜んでくれます。だーりんはそういう人ですから。そして、志穂ちゃんが私に構ってくれると、私もすごーくすごぉぉぉく幸せになれますから☆」

「志穂よ。まずはシドーが用意してくれた料理を食べないか? きっと志穂は今、腹ペコなんだ。だからそうやって、細かいことばかり気にしてしまう。悪い方に物を考えてしまう。……私たちの仲に条件だとか資格だとか、そんなものは必要ない。志穂が私たちと一緒に過ごしたいと思ったのなら、その瞬間から、私たちは仲間だ。そうだろう? だから、まずは一緒にシドーの美味しい料理を食べよう。話はそれからだ」

「み、みんな……」

 

 が、ここで。志穂が意を唱えるやいなや、琴里に続く形で、耶俱矢、夕弦、四糸乃、よしのん(※四糸乃が左手に装着している兎のパペット)、美九、十香が次々と自論を持ち出し、様々な方面から志穂が罰を受けない方向へと話を誘導しようとする。結果、志穂の断罪を求める感情を徐々に融解させることに成功したらしく、今まで志穂の心に巣食っていた、皆への後ろめたさが霧散していく感覚を、士道は志穂の様子から的確に感じ取った。

 

 

「ほら、志穂。いつまでも床で正座してないで、立とうぜ。今日の主役は志穂なんだからさ」

「士道先輩……はいッス!」

 

 琴里たちはうまくやってくれた。もう士道が説得のために言葉を重ねる必要はないだろう。あとはほんの一押しをすればいい。士道が志穂に手を差し伸べると、志穂は一瞬だけ士道の手を取ることに躊躇したものの、元気いっぱいな返事とともに士道の手に己の手を掴み、立ち上がった。

 

 

「えっと、その……みんなの気持ちはよくわかったッス。みんながそこまで言ってくれるのなら、私も自分がやらかしたことを頑張って気にしないようにするッス。そんなわけでーーこの度はお騒がせしちゃってすみませんでした! こんな私ですが、これからよろしくお願いしまッス!」

 

 そして。志穂は士道に誘導されてお誕生席に座る前にリビングに集った士道たち7名に視線を配った後、ハキハキとした口調と朗らかな笑みで勢いよく頭を下げる。かくして。志穂の唐突の土下座の影響で一旦中断されていた志穂の誕生会がようやく開催されるのだった。

 




五河士道→好感度の高い精霊とキスをすることで、精霊の霊力を吸収し、封印する不思議な力を持った高校2年生。卓越した料理・メイクスキルは他の追随を許さないレベルに到達している。
夜刀神十香→元精霊。識別名はプリンセス。ハングリーモンスターな大食いキャラ。INTが他の精霊よりぶっちぎりで低いためか、様々な場面で天然っぷりを発揮する。
四糸乃→元精霊。識別名はハーミット。人見知りなタイプ。諸事情から、兎のパペットに『よしのん』という人格を生み出している。
五河琴里→元精霊。識別名はイフリート。ツインテールにする際に白いリボンを使っているか黒いリボンを使っているかで性格が豹変する。ただし二重人格ではなく、マインドリセットの類い。
八舞耶俱矢→元精霊。識別名はベルセルク。普段は厨二病な言動を心がけるも、動揺した際はあっさり素の口調が露わになる。
八舞夕弦→元精霊。識別名はベルセルク。発言する度、最初に二字熟語をくっつけるという、何とも稀有な話し方をする。耶俱矢をいじるのが大好き。
誘宵美九→元精霊。識別名はディーヴァ。男嫌いで女好きなタイプ。ただし士道は例外。その理由は、士道が美九を救ったことに加え、士道がその気になればそこらの女性よりも女性らしい士織に変装できるから(※ふぁもにか的見解)
霜月志穂→元精霊。識別名はイモータル。実は今回の志穂の誕生会にて様子がおかしかった理由の1つとして、志穂が敬愛していた砂名を殺してしまった、3年前の志穂の誕生日のことを意識していたからという裏設定。

 ○ふぁもにかにとっての、原作精霊(7巻まで)の口調再現難易度ランク
『難← 白琴里>十香>四糸乃>よしのん>耶俱矢>美九>>>>夕弦>狂三>>>黒琴里 →楽』

 というわけで、今回の本編後のおまけは終了です。やはり原作精霊たちの口調再現は全体的に凄く難しい印象です。みんな、発言内容に違和感がなければいいのですがねぇ。


 〜おまけ(志穂の第一印象)〜

Q.誕生会で初めて霜月志穂さんと会った皆さんへ。志穂さんの第一印象を教えてください。

四糸乃「え、えと。土下座して謝ってる人……?」
よしのん『うんうん。綺麗な姿勢の土下座だったねー』
耶俱矢「まぁ、うん。土下座よね」
夕弦「首肯。あれは中々に強烈な、プロの土下座でした」
美九「当然、土下座ですねー。はッ、そういえば琴里ちゃんに志穂ちゃんの裸の土下座のことを聞き出すんでした!」

士道「何だか、志穂が高校デビューに失敗した人みたいになってるな」
志穂「……自分のせいとはいえ、凄く複雑な気分ッス( ;∀;)」

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