【完結】死に芸精霊のデート・ア・ライブ   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回は士道とイモータルとのファーストコンタクト回となります。原作の傾向からして、精霊とのファーストコンタクトは割と失敗しがちな士道さんですが、はたしてこの作品ではどうなることやら。



2話 テンションの高い精霊

 

 

「いやぁー! 助けてくれてホント助かったッス、先輩! 先輩は私の命の恩人ッス! よ、救世主! カッコいいぜ、ヒーロー! ひゅーひゅー!」

「そ、そうかな。はは……」

 

 9月29日金曜日、放課後にて。帰り道で、なぜかアスファルトの地面に下半身が埋まっていたイモータルを見つけるという、衝撃的な初邂逅を果たした士道。士道は最初こそ困惑していたが、イモータルが助けを求めていたため、イモータルに近づき、イモータルの両脇に手を入れて精一杯持ち上げて引っこ抜く形でイモータルを救出した。

 

 その後、場所を移し。公園にて。お礼として缶ジュースを奢られた士道は今、イモータルに事あるごとに感謝され、持ち上げられていた。イモータルのような美少女に真正面から褒められるという状況を前に、士道は照れ隠しのために缶ジュースを飲む。冷たい紅茶が、イモータルを引っこ抜いて少し疲れた士道の体を癒してくれる。

 

 

『コラ士道。あなたが精霊に攻略されてどうするのよ?』

「いや、それはそうなんだが……」

 

 イモータルを救出し公園に移動する間に、ポケットの中に入れていた小型インカムをちゃっかり装着し、フラクシナスと交信できるようにしていたために、士道の耳に琴里の声が届く。きっと今、琴里は自律カメラごしに士道のことを半眼で見つめていることだろう。士道とて、精霊に攻略されている場合ではないことぐらいわかっている。しかし、士道は今まで、攻略する精霊の機嫌を常にうかがう側だったために、今回のようにイモータルから全力で褒めちぎられると、どうしても照れてしまうのだ。

 

 

「ところで、なんであんな所に埋まってたんだ? 落とし穴でもあったのか?」

「おお、いい線いってるッスね、さすがは先輩。理由は簡単、精霊たる私がこの世界に現界した際、地面をちょこっとだけくり抜く空間震を起こして、そこに私がすっぽりハマっちゃったからッス」

「え」

「全く、私のドジっ子属性の健在っぷりには困ったものッス。でも、現界時に『いしのなかにいる』なことにならなかっただけマシだったッス」

 

 半ば冗談で落とし穴説を提唱しつつ、先ほどイモータルの下半身が埋まっていた理由を尋ねた士道は、イモータルの返答に思わず動揺の声を漏らした。イモータルがさらっと、己が精霊であることを明かし、さらに現界だの空間震だの、精霊に関する用語を繰り出したからだ。イモータルはそんな士道の様子に気づかずに立て続けに言葉を紡いでいく。

 

 

「いやはや、あの時先輩が私を引っこ抜いてくれなかったらと思うと背筋がガクブルするッス。あのままだとASTに見つかってマジで殺される5秒前だったッスから。対精霊部隊の人たちってば私の顔をもうバッチリ覚えてるから、例え私が空間震を起こしてなくとも、霊装を纏ってなくても、私を見つけたら即刻殺しに来るんスよねぇ。今回もそのパターンかと諦めてたらASTの代わりに先輩が颯爽と登場してきて『大丈夫か? 手を貸すぞ』なんてイケボイス投下してきたものだから本当にびっくりだったッス。現代社会にも白馬の王子さまっていたんスねぇ。マジ感謝感激雨あられッス」

「は、白馬の王子さまって、それはさすがに言いすぎじゃないか?」

「そんなことないッス。……なるほど、先輩は自己評価低い系ピーポーなんスね。把握したッス。ところで、缶ジュースごときじゃまだまだ全然恩返しした気分じゃないんで、もっと他にも恩返しをしたいんスけど、先輩は何か希望あるッスか?」

 

 どうやらイモータルの中で士道の存在はかなり美化されているようだ。さすがに白馬の王子さま扱いは恥ずかしい。士道がイモータルの主張を過言ではないかと口にするも、対するイモータルには、士道への印象を修正する気はないらしい。イモータルは缶ジュースを奢る以外の恩返しの案を士道に求めてくる。イモータルのエメラルド色の瞳が『何でも来いッス! ウェルカムッス!』と、きらきら輝いている。

 

 

『士道、選択肢が出たわ』

「……」

 

 どう返答したものか。士道が思案に入ると同時に、琴里から士道の発言を制するように声がかかる。選択肢。それは士道が精霊を攻略する際にラタトスク機関が提供するサポートシステムの一種である。フラクシナスに搭載されたAIが、精霊の好感度や機嫌メーターなどの数値から、現状で士道が取るべき適切な行動の選択肢をフラクシナス艦橋に待機するクルーたちに三択で提示してくるのだ。その三択の選択肢をクルーが吟味選別し、琴里が士道に指示を下す。これが士道の精霊攻略のオーソドックスなパターンなのだ。

 

 

①『じゃあ今度、俺とのデートに付き合ってくれないか?』イモータルをデートに誘う。

②『気にしなくていい。君の気持ちだけで十分さ』イモータルの恩返しを断る。

③『くくく、ならば君の体で恩を返してもらおうか』早速大人のホテルに直行する。

 

 此度の選択肢は上記の通りである。なお、選択肢は通常、『本命』『対抗』『大穴』で構成されており、今までの精霊攻略においては、たいてい①か②の選択肢が採用されがちであった。

 

 

「総員、選択ッ!」

 

 フラクシナス艦長、琴里の号令の元、フラクシナスのクルーたちが手元のコンソールを通して素早く士道が取るべき選択肢を選ぶ。5度もの結婚を経験した恋愛マスター・<早すぎた倦怠期>川越、夜のお店のフィリピーナに絶大な人気を誇る・<社長>幹本、100人の嫁を持つ男・<次元を超える者>中津川、恋のライバルに次々と不幸をもたらす午前2時の女・<藁人形>椎崎など、実に個性あふれるメンバーが士道の取るべき選択肢を提示する。琴里は手元のディスプレイで集計されたクルーの意見を確認する。結果、今回もまた①か②の選択肢が拮抗しており、③を選んだ者はほんの少数だった。

 

 

「イモータルの士道くんへの好感度は確かに高いですが、③ですぐに2人がゴールインできると考えるのは早計でしょう。ここは着実に好感度を積み上げるべく、次につながる①がベストアンサーだと愚考します」

「イモータルは自分を助けたという事実を盾に、士道さんが何か無茶な要求をするような人なのか様子をうかがっているように見えます。ここはそんな打算なしにイモータルを助けたんだよと主張できる②がいいのではないでしょうか」

「しかし、イモータルは静粛現界が非常に多く、こちらからイモータルの居場所を観測しにくい精霊です。ここでデートの約束なしに別れてしまえば、次いつ接触できるかわかりません。①が安定なのではないかと思います」

「うーむ、安定がベストとは限りませんぞ。現状、イモータルの士道くんへの好感度は高く、機嫌メーターも上々です。ここは冒険して③を選び、勝負を仕掛けるべきでしょう。仮に失敗したとしても、今のイモータルの好感度であれば、十分挽回可能だと私は判断します」

「ふむ」

 

 クルーたちは簡潔かつ口早に、琴里に意見を届けていく。フラクシナスのAIから選択肢が提示された場合、最も避けなければならないのはどの選択肢が良いか長考することである。なぜなら、琴里たちが悩んだ分だけ士道とイモータルとの会話が無言のまま途切れてしまうからだ。ゆえに、琴里はクルーの意見を速やかに脳で処理し、この場で最善と思われる一手を士道に指示した。

 

 

『士道、①よ。イモータルと次につながる機会をここで確保しなさい』

「了解。そうだな……じゃあ今度、俺とのデートに付き合ってくれないか?」

 

 インカム越しに琴里からの指示を受け取った士道は改めてイモータルに向き直り、選択肢そのままの言葉を放つ。内心、選択肢③の『くくく、ならば君の体で恩を返してもらおうか』と言わずに済んで良かったと安堵しつつ。

 

 

「え、デート? そんなのでいいッスか? ……あー、でも。オススメしないッスよ。私とデートしてもムードぶち壊しで、絶対それっぽい雰囲気にはならないッスから。それでもいいならデートの件、OKッス。けど、あまり長い時間は取れないッスよ。精々2時間が限度ッス」

『んー。今のイモータルの言い方、ちょっと気になるわね。士道、少し踏み込める?』

「そう、なのか? せっかくデートするんだから、できれば君と1日中過ごしたいんだけど……ダメか?」

「うぅ、私もできることならそうしたいんスけど、私にも事情があるんで。世の中、知らない方がいいこともあるってことッスよ。特に、先輩みたいな優しい人にはね」

「……そうか。事情があるなら仕方ないな」

『はぐらかされたわね。ま、聞く機会は後にもあるでしょうし、今はこれくらいで引いておきましょ』

 

 イモータルが士道とのデートを了承しつつも意味深な言葉を残したことが気になった士道と琴里。士道は琴里の問いに答えるようにイモータルと2時間以上デートをしたい意思を告げるも、イモータルはなぜ最大2時間しかデートに応じないかの理由の言及を避けた。今、無理に理由を追及してイモータルの好感度を無駄に下げる必要はない。士道と琴里はお互いに似たような思考回路の元、この話題を終わらせることとした。

 

 

「ところで、どうして先輩は今日会ったばかりの私とデートしたいんスか? 私にとっての先輩は白馬の王子さまだけど、先輩にとっての私はただのドジな一市民ッスよね? デートしたいなら、もっと日頃から先輩と交流のある女の子にお願いした方がいいんじゃないッスか?」

「それは……」

『士道、選択肢よ』

 

 話題転換とともにイモータルから放たれた問いに士道が少々答えに迷っていると、ここで琴里から士道の返答に待ったがかかった。再びフラクシナスのAIが士道の行動の選択肢を提示してきたようだ。

 

 

①『俺、友達いなくて、えっと、それで、誰かと一緒に街で遊ぶって奴を、その、経験したくて……』コミュ症っぽく理由を説明する。

②『君を初めて見た瞬間から一目惚れしたからさ!』自信満々に宣言する。

③『君に色々とコスプレ衣装を着させて堪能したいからね、ふひひ』下心満載で攻める。

 

 

「総員、選択ッ!」

 

 琴里の号令の元、再びフラクシナスのクルーたちが各々が考える最善の選択肢をコンソールに入力する。結果、今回は②が優勢となり、①と③はごく少数のクルーしか選択しなかった。というか、③のような大穴な選択肢を毎回選ぶ者が存在すること自体がラタトスク機関の業の深さを如実に表しているといえよう。

 

 

「③です! ③しかあり得ません! どうもイモータルは士道くんのことを男性として意識していません! このままではデートをしても大して好感度は上昇しないでしょう! ここは士道くんがイモータルのコスプレ衣装を鑑賞したがっていることを伝え、イモータルに士道くんの男を意識させるべきです!」

「いや、③は論外でしょう。①も微妙かと。イモータルは士道さんを白馬の王子さまだと表現しています。イモータルからは、今の士道さんは少女漫画に出てくるような頼もしい男性キャラのように見えていることでしょう。そんなカッコいい士道さん像をわざわざ壊すことはないでしょう。②こそが王道にして至高の選択肢だと思います」

「そうね。③って選択肢もアリだとは思うけど、士道の男を意識させる機会ならデート中にいくらでも用意できるでしょ。てことで、士道。②よ。くれぐれもセリフを噛むんじゃないわよ?」

 

 琴里はクルーたちの意見を聞き入れた後、今度は②を採用する。そんな琴里の発言をインカム越しに確認した士道は改めてイモータルを視界に映す。人間離れした美しさを備えた精霊の容姿を十分に意識し、鼓動を高鳴らせるとともに、はきはきと言葉を紡いだ。

 

 

「君を初めて見た瞬間から一目惚れしたからさ!」

「……ふぇ? え、ちょッ、えええええええええ!? マジッスか!? マジで言ってるんスか!? こんなちんちくりんに一目惚れ!? 冗談ッスよね、先輩!?」

「い、いや。冗談でこんなこと言わないって。それに、君はちんちくりんなんかじゃないよ。凄く、かわいい女の子だよ」

「お、おおう。そうッスか……な、何かむずがゆいッスね」

 

 ドンッと効果音が付きそうな勢いで士道が一目惚れ宣言をすると。対するイモータルは目をパチクリとさせ。首をコテンと傾け。その後、狼狽とともに声を上げ。士道に詰め寄った。上目遣いで問いかけてくるイモータルのかわいさを前に、士道は目を逸らしつつも、イモータルを褒めにかかる。結果、イモータルは数歩士道から後ずさると、紅潮する頬を隠すように両手を頬に当てつつ感想を呟いた。

 

 

「で、では。ふつつかものですが、先輩とのデート、付き合わせてもらうッス。よろしくお願いするッス」

「あ、あぁ。よろしく」

「さて、それじゃ待ち合わせ日時はどうするッスか?」

「そうだな。明日の午前10時にこの公園前で集合ってことで、どうだ?」

「了解ッス。デートプランは先輩に任せていいんスよね?」

「あぁ。もちろん」

「えへへ。明日、楽しみにしてるッス!」

 

 イモータルがキリッとした表情を浮かべてペコリと頭を下げてきたため、士道もまたイモータルに頭を下げる。その後、士道はイモータルとのデートの日を明日に定める。明日は土曜日。デートにはちょうどいいだろう。デートプランも請け負う旨をイモータルに伝えると、イモータルは照れ顔を最後に、士道と別れようとする。パタパタとした足取りで公園を後にしつつ、時折士道に手を振ってくるイモータル。士道はそんなイモータルの様子を微笑ましく感じながら手を振り返す。と、その時。士道は大切なことに気づいた。

 

 

「あ、そうだ。おーい!」

「ん? 何スか、先輩?」

「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺は五河士道。君は?」

「私は霜月志穂って言うッス!」

「志穂か。良い名前だな」

「話がわかるッスね、士道先輩! 私もこの名前、最高だと思ってるッス!」

 

 士道はイモータルを呼び止めた後、お互いに自己紹介をする。その際、士道はさらっと志穂を名前で呼び、同時に志穂という名前に対する正直な感想を述べる。すると、志穂はにひひと、今までで一番の笑みを浮かべるのだった。

 

 




五河士道→好感度の高い精霊とキスをすることで、精霊の霊力を吸収し、封印する不思議な力を持った高校2年生。これまで6名の精霊を攻略しているためか、やり慣れつつある感。
五河琴里→士道の妹にして、精霊保護を目的とするラタトスク機関の一員にして、5年前にファントムに力を与えられ、精霊化した元人間。今回は割とまともな選択肢を採用している模様。
イモータル→名前は霜月志穂。ここ半年、やたらと天宮市に現界している新たな精霊。なぜか天使や霊装を全然使わず、ほぼ静粛現界で姿を現している。語尾に「ッス」をつけることが多く、またテンションが高めである。

 というわけで、2話は終了です。現状だとかなり順調に志穂を攻略できている士道。はたしてこのまま順風満帆にゴールインまでこぎつけることができるのか。


 ~おまけ(もしも別の選択肢を選んでいたら)~

問い:志穂「ところで、缶ジュースごときじゃまだまだ全然恩返しした気分じゃないんで、もっと他にも恩返しをしたいんスけど、先輩は何か希望あるッスか?」

→②『気にしなくていい。君の気持ちだけで十分さ』イモータルの恩返しを断る。

士道「気にしなくていい。君の気持ちだけで十分さ」
志穂「おおお、おおおおお! 凄い、先輩が凄く輝いて見えるッス! これが白馬の王子さま特有のオーラ……! ふぉおおお!(←興奮中)」
士道「……えっと、大丈夫か? もしもーし?」

 結論。志穂の好感度や機嫌メーターは上がるが、デートの約束はできない。


→③『くくく、ならば君の体で恩を返してもらおうか』早速大人のホテルに直行する。

士道「く、くくく、ならば君の体で恩を返してもらおうか」
志穂「ッ!? え、え!? それって、あれッスか!? 18禁的な意味ッスか!? おおう、現代の白馬の王子さまは肉食系なんスねぇ。勉強になったッス。ところで……えっと、本気ッスか? 冗談ならここらでそう言ってくれると助かるんスけど」

 結論。志穂の好感度に変化なし。機嫌メーターは若干下がる。


問い:志穂「ところで、どうして先輩は今日会ったばかりの私とデートしたいんスか?」

→①『俺、友達いなくて、えっと、それで、誰かと一緒に街で遊ぶって奴を、その、経験したくて……』コミュ症っぽく理由を説明する。

士道「俺、友達いなくて、えっと、それで、誰かと一緒に街で遊ぶって奴を、その、経験したくて……」
志穂「うぇ!? そ、そうなんスか!? 先輩、交友関係広い印象だったんスけど。しっかし、そうか。そうッスか。ふふふ、それなら人間関係構築技術に一日の長のある志穂お姉ちゃんが先輩を導くのが筋ってものッスよねぇ? いやはや、デートの日が楽しみになってきたッス!」

 結論。好感度や機嫌メーターが大幅に上昇。だが、キスで完全に霊力封印できる段階ではない。


→③『君に色々とコスプレ衣装を着させて堪能したいからね、ふひひ』下心満載で攻める。

士道「き、君に色々とコスプレ衣装を着させて堪能したいからね、ふひひ」
志穂「ちょッ、私に何を着せる気ッスか、先輩!? 嫌ッスよ!? 露出度高い奴とかお断りッスよ!? 痴女だとか馬鹿だとか思われるじゃないッスか!? 私が『ピンクは淫乱』って偏見を覆すためにどれだけ努力してるか知らないからって酷いッスよ、先輩! ……はぁ、先輩ってもしかして下半身だけで生きてる人種だったりします? やっぱり白馬の王子さまなんて今の世の中にはいないんスねぇ」

 結論。好感度や機嫌メーターが大幅に下降。だが、ブチ切れたりはしない。

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