【完結】死に芸精霊のデート・ア・ライブ   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。前作の『死に芸精霊のデート・ア・ライブ』における私の心残りの1つとして、十香さんなどの精霊一派を筆頭にデート・ア・ライブの魅力的なキャラをあまり登場させられなかったな、というものがあります。なので本作では精霊たちにはそこそこ喋ってもらいたいと思っています。エアヒロインなんていなかったのです。よかった、これで解決ですね。



1話 霜月志穂はかく語りき

 

 12月7日木曜日の午後8時。天宮市に本格的に冬が到来し、家の中だろうと暖房器具の献身的な働きがなければ、容赦のない冷気が襲いかかってくる時分にて。

 

 五河士道は自宅のキッチンで料理をしていた。明日、学校に通う精霊たちの弁当のための仕込みを夜の内に行っているのだ。その士道の傍らには、エプロンを装着した霜月志穂が士道の指示の下、料理を手伝っている。志穂は料理がそこそこできる。かつて、志穂と交流を深めた霜月砂名から、料理の手ほどきを受けていたからだ。

 

 士道は、十香たち精霊のために弁当を作ることを負担に思ったことはない。どんな弁当を作って、みんなを驚かせてやろうかという、エンターテイナー精神が士道の心にしっかりと根付いているからだ。が、それでも。家事が上手で、士道を意図を組んで効率的に家事を手伝ってくれる志穂は。士道にとって非常にありがたい存在だった。

 

 だが、今日の志穂の様子は明らかにおかしかった。士道が適宜指示を出しても、生返事が返ってくるのみで、士道の指示通りに動いてくれない。それに志穂はなぜか常時、上の空の状態で、食材を包丁で切る時に、うっかり指ごと切ろうとしたことも一度や二度のことではなかった。しばし本調子でない志穂のことを静観していた士道だったが、さすがにこれ以上放置はできない。士道は意を決して、志穂の内面に踏み込むことに決めた。

 

 

「志穂?」

「……」

「おーい、志穂」

「ふひゃッ!?」

 

 士道が志穂の名を呼ぶも、志穂は完全にスルーする。続いて、士道が志穂の耳元で気持ち大きめの声で呼びかけると、志穂はビクッと肩を震わせて、若干赤みを帯びている顔で、慌てて士道を見上げてきた。

 

 

「あ、え、士道先輩。一体どうしたッスか?」

「いや、志穂の様子が変だから、心配でさ。で、どうしたんだ? そんな上の空で」

「え、えと……今日はずっと雨模様だから、自然と気分がどんよりしちゃって。えへへ」

「今日メッチャ晴れてたぞ? 雲一つない晴天だったけど」

「……あ、あう、そのー、何でもないので心配ご無用ッス!」

 

 士道が志穂に問いかけると、対する志穂はどうにかごまかしてこの場を切り抜けようとする。しかし全然士道をごまかせなかった志穂はブンブンとかぶりを振って、強引に士道の問いかけをシャットダウンしにかかった。

 

 

「あの物憂げな様子……男ね。士道以外の男ができたに違いないわ。やるじゃない、志穂」

「ち、ちちちちち違うッスよ!? 私は士道先輩一筋――って、何を言わせるッスか、七罪先輩!?」

「あんたが勝手に自爆しただけでしょ? 私に文句を言うのは筋違いじゃないの?」

「う、うぅぅぅ……七罪先輩のいじわるぅ……」

 

 と、ここで。五河家のリビングのテレビで放映されているクイズ番組を楽しんでいた精霊の内の1人、七罪が志穂の後ろ姿を見つめて確信めいた口調で己の推測を披露する。すると、志穂は狼狽に狼狽を重ねて、七罪が提唱した説を否定しようとして、結果として余計なことまで口走ってしまい、結果として真っ赤に火照った顔でうつむくことしかできなくなった。

 

 

「え、志穂さんにだーりん以外の男ができたって本当ですかぁ!? 誰ですか、それ!?」

呵々(カカ)、志穂に新たな男の気配か。いかなる男か、興味が尽きないな」

「感興。非常に気になりますね。スクープの予感がします」

「……私も、気になります」

『うんうん。志穂ちゃんって意外と逆ハーレム願望を持っちゃうタイプだったのかな?』

 

 七罪が志穂へと投下した爆弾を契機として、テレビで放映されているクイズ番組で純粋に盛り上がっていた他の精霊たち――美九、耶俱矢、夕弦、四糸乃(四糸乃が左手に装着している兎のパペットことよしのん含む)等――がキッチンへと集まってくる。

 

 

「だから違うッスよ! 誤解ッス! これは七罪先輩の罠なんですぅぅぅ!」

 

 精霊たちの熱い視線を一心に注がれた志穂は、どうにか誤解を解くべくギュッと目をつぶって天井に向けて高らかに宣言する。しかし、精霊たちの好奇に満ち満ちた視線が落ち着く様子はまるでない。

 

「……ふぇぇ」

 

 己に士道先輩以外に熱を上げている男性が存在しないことを証明するには、己が普段通りのテンションを保てていない理由を話すしかないだろう。もはや言い逃れができないと察した志穂は、士道の料理の手伝いを一時中断し、リビングのソファーにちょこんと腰を落とした上で、今日の己の様子がおかしい理由を明かし始めた。

 

 

「あ、あの、これは私の来禅高校の友達のA君の話なんスけど……そのA君が、クラスメイトに思いっきりいじめられていたッス。来禅高校の1年3組に転入して、右も左もわからない私に学校のことを色々教えてくれて、勉強も教えてくれて、だから私から見たA君は凄く良い人なんスけど……そのいじめっ子のX君・Y君・Z君的には、何かA君に気に入らないことがあったみたいで、毎日しつこくA君をいじめてたッス」

「な、志穂!? まさか、いじめられてるのか!?」

「誰ですか!? こんなにかわいくて愛らしくていくらでも吸えちゃう志穂さんをいじめる不届き者は! 私が志穂さんに害をなした男に身の丈って奴を思い知らせてやりますよぉ!」

「志穂、下手人が誰か答えてほしい。明日、その人と話をするから」

 

 志穂が口火を切ると、即座に十香が、美九が、折紙がそろって志穂へと詰め寄ってくる。志穂は、同じ精霊仲間たちの突然の態度の豹変に困惑するばかりだ。

 

 

「ちょッ、え、え、どうして私がいじめられてるってことになってるッスか!? あくまで私の友達のA君の話ッスよ!?」

「いや志穂はそう言うけどさぁ。この手の『友達の話なんだけど』って奴は、たいてい本人の話だって相場が決まってるじゃん? だからみんな志穂を心配してるんだよ」

「そ、それは確かにそうッスけど。でも今回はちゃんと友達の話ッス! 最後まで話を聞いてもらえれば、ちゃんと友達の話だってわかってくれるッス!」

「「「……」」」

 

 志穂の主張に七罪が半眼な眼差しとともに志穂に返答すると、志穂は皆に己の話をまずは最後まで聞き届けるよう要請する。この場に、志穂の真剣な望みを敢えて踏み倒すほどに強烈にいじわる極まりない者はいない。結果として、テレビのクイズ番組の陽気な音声のみが五河家に響く中、志穂はおもむろに口を開いた。

 

 

「えと、どこまで話してたかな……あ、そうッス。そのいじめられていたA君が、今日、凄まじく豹変したッス。元々黒かった髪の毛を金色に染めて、オールバックにして、学ランも着崩してて、眼差しも獰猛な肉食獣みたいなギラギラした感じになって。そんなA君を見て、いじめっ子のX君・Y君・Z君は、いつものように『12月にもなってww今さらwww高校デビューwwwwダッサwwwwww』みたいな感じで全力でA君をバカにしたッス。そしたらA君が目にも止まらぬ動きで、X君を殴って黒板まで吹っ飛ばして、Y君を蹴って天井に激突させて、Z君にかかと落としをしてZ君の頭を床に貫通させたッス。まるで、CR-ユニットを纏ったAST(アンチ・スピリット・チーム)(対精霊部隊)の人のような無駄のない洗練とした動きだったッス。……私はこの時、確信したッスね。『あぁ、A君の物語が始まったんだ』って。『いじめっ子という壁を乗り越えたA君は、これから不良漫画の世界に足を踏み入れるんだなぁ。己の信念を貫くために、幾多の敵をなぎ倒し、心を交わした仲間と青春するんだなぁ』って」

「……え、何よそれ。本当にそんなことがあったの?」

「本当ッスよ、琴里先輩。この志穂ちゃんアイがバッチリ見たんで間違いないッス。とにかく、これで私の友達の話だってわかってくれたッスよね? だって私は金髪に染めてないッスし、私の戦闘能力は今日も雑魚敵レベルのまま変わってないッスし」

 

 志穂が語った内容は、確かに志穂本人の話ではなく、志穂の友達のA君(仮称)の話のようだった。それはそうと、志穂の口から語られた話は、そう安々と受け入れられないとんでもない話だった。黒いリボンで赤髪をツインテールに結っている琴里が志穂の話を受けてまず嘘の可能性を見出そうとする気持ちがよくわかるくらい、現実離れした話だった。

 

 ほんの数年前に新設された来禅高校に通う中で、これまでそこまで治安の悪さを感じたことのない士道だったが、もしかすると士道の1学年下の世代は治安が世紀末状態と化しているのかもしれない。士道は、志穂が平穏無事に学校生活を送れているのかが大層不安になってきた。

 

 

「ただ、話はそれで終わりってわけじゃないんだろ?」

 

 そのような志穂への心配の気持ちを胸に抱えつつ、士道は志穂に問いかける。志穂にはまだ隠し事があると察したからだ。

 

 志穂の話を要約すると『志穂の友達のA君がいきなり覚醒していじめっ子3人衆に復讐した』ということになる。だが、A君がいじめっ子に復讐を果たしたという出来事は、志穂にとってそこまで悪い出来事ではないはずだ。いじめっ子を完膚なきまでに倒したA君が今後、いじめっ子3人に苦しめられる未来がほぼ消え去ったのだから。A君の友達の志穂目線では、A君の暴力沙汰は多少なりとも清々するイベントだったはずだ。実際、志穂は変貌したA君の姿を見て、これからのA君が不良漫画な展開のひしめく道を歩み、充実した人生を送る未来を夢想していたのだから。なのに、今日の志穂は上の空だった。そこから士道は志穂がまだ隠し事をしている説に至ったのだ。

 

 

「……さすがは士道先輩、お見通しッスか。その通り、このA君の話には続きがあるッス。私が今、あれこれ悩んでいるのはその続きの件が原因ッス。ただ、今はまだ言えないッス。あれはもしかしたら聞き間違えかもなので。いや、どう考えても聞き間違いッスよ」

「志穂……」

「そんな心配そうな顔しないでほしいッス。明日、もう一度A君に質問するッス。それで確信が持てた時はちゃんと士道先輩に相談するッスよ。先輩がどれだけ頼もしいかは身をもって知ってるッスから、どうか安心してください」

 

 志穂は士道を困らせまいとニヘラと柔和に笑いかける。士道としては、士道に封印されたことでようやく死の呪いから解放され、まともに学生生活を始めることができた志穂には、悩みなんてない、幸せいっぱいな学校生活を送ってもらうことを何より切望している。

 

 しかし、志穂自身が望まない領域に無理やり踏み込んで、無理に志穂の悩みを聞き出そうとするのは、過干渉だろう。志穂からいざという時は士道に相談するという言質を得たことを以て、今日はもう志穂の悩みに踏み込まないようにするべきだろう。

 

 

「……そっか、わかったよ。じゃ、料理の続きを始めるか」

「はいッス!」

 

 ゆえに、士道は志穂を伴ってキッチンへと戻り、精霊たちの明日の弁当作りのための仕込み作業を再開するのだった。

 

 




五河士道→好感度の高い精霊とキスをすることで、精霊の霊力を吸収し、封印する不思議な力を持った高校2年生。志穂が士道に封印されるまで全然学校に通っていないことを知っている立場として、志穂が楽しい学校生活を送れているかはかなり気にしているようだ。
夜刀神十香→元精霊。識別名はプリンセス。戦闘中は非常に頼もしいが、普段はハングリーモンスターな大食いキャラ。後輩気質な志穂がいじめられている疑惑が脳裏をよぎった時、真っ先に志穂を心配する姿勢を見せた。
四糸乃→元精霊。識別名はハーミット。人見知りなタイプ。諸事情から、兎のパペットに『よしのん』という人格を生み出している。10月1日に封印されたためにまだそこまで交流を深め切れていない志穂に興味津々な模様。
五河琴里→士道の妹にして元精霊。識別名はイフリート。ツインテールにする際に白いリボンを使っているか黒いリボンを使っているかで性格が豹変する。ただし二重人格ではなく、マインドリセットの類い。志穂から繰り出したA君のぶっとんだ話を目下一番疑っている。
八舞耶俱矢→元精霊。識別名はベルセルク。普段は厨二病な言動を心がけるも、動揺した際はあっさり素の口調が露わになる。しかし今回は厨二なムーブを貫徹できた。
八舞夕弦→元精霊。識別名はベルセルク。発言する度、最初に二字熟語をくっつけるという、何とも稀有な話し方をする。耶俱矢をいじるのが大好き。志穂をいじるのも結構好き。
誘宵美九→元精霊。識別名はディーヴァ。男嫌いで女好きなタイプ。ただし士道は例外。当然、志穂のことも好みドストライクなので、時々志穂を抱きしめてシホニウムを摂取している。当の志穂は過剰な美九のスキンシップを特に嫌がっていない。
七罪→元精霊。識別名はウィッチ。筋金入りのネガティブ思考で物事を捉える性格をしている。普段は皆(特に美九)からいじられがちなためか、後輩気質の志穂の前ではお姉ちゃん面をしていじろうとすることが多い。
鳶一折紙→元精霊。識別名はエンジェル。士道に封印されるまでは両親を殺した精霊に復讐することを原動力に生きてきた。普段、感情をあまり表情には出さない。実はASTに所属していた時から志穂とは交流があったため、志穂への好感度は意外と高い。
霜月志穂→士道に封印された残機1の元精霊。識別名はイモータル。メチャクチャ敬意や好意を持っている相手に対しては、年齢に関係なく『先輩』と呼ぶようにしている。1年3組のクラスメイトにして友達のA君が覚醒していじめっ子をぶちのめしたこととは別の理由で何か思い悩んでいるらしい。

次回「ディザスター再来」
 

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