【完結】死に芸精霊のデート・ア・ライブ   作:ふぁもにか

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4話 集会前夜

 

 士道と志穂が霜月家のお墓参りを行い、そこで偶然にも遺族の夢唯と出会い、いくらか言葉を交わした日の夜のこと。 

 

 

「――ダメよ」

 

 五河家のダイニングテーブルの椅子にちょこんと腰かけている琴里は、己に寄せられた提案に対し明確な拒否を示した。今、ダイニングに存在する人物は計4名。フラクシナスの司令官たる五河琴里。琴里の隣の椅子に座る、フラクシナスの解析官たる村雨令音。そして、テーブルを挟んで琴里&令音の向かいの椅子に座る、五河士道&霜月志穂の4名だ。

 

 士道と志穂は明日土曜日に、霜月砂名を名乗る謎の人物が開催する、新人類教団の集会に参加して良いかを琴里に打診した。だが、その結果はすげないもので、琴里にいとも簡単に断られてしまった。

 

 

「やっぱり、ダメッスか?」

「当たり前よ。士道だけが集会に参加するなら良いけれど、志穂はダメよ。危険すぎるわ。志穂は士道と違って、怪我を負っても私の天使で治療できないのよ?」

「怪我って……確かに新人類教団とやらは危なそうな宗教だけど、ただ集会に参加するだけだぞ? うっかり教義に感化されないように気をしっかり持っていれば大丈夫ってわけじゃないのか? 琴里は、集会で俺たちが襲われるかもしれないって思っているのか?」

「ええ、十分にありえるわ。それくらい、新人類教団は相当にヤバいカルト宗教だもの」

 

 志穂がおずおずと琴里の顔色をうかがいつつ問いかけるも、琴里の回答は変わらなかった。その琴里の頑なな態度と警戒心MAXな様子に士道が疑問を呈すると、琴里は士道と志穂に、己の判断を納得してもらうために、己がこれまで収集した情報の開示を始めた。

 

 新人類教団は、今からほんの2か月前の10月8日に、天宮市で発足した新興宗教であること。たった2か月で尋常じゃないペースで規模を拡大しており、信者は既に千人を超えていること。新人類教団の信条が、『不幸にあふれたこの世を世界征服し、選ばれし新人類だけの幸せな世界を作ろう』というものだということ。

 

 

「え、世界征服……?」

「そう、世界征服よ。アニメや漫画のラスボスくらいしかまず企まない、あの世界征服よ。だけど、新人類教団は、教祖の霜月砂名――もとい、識別名:扇動者(アジテーター)は、世界征服を掲げて教団を発足した。本気で世界征服を企んでいるのか、ただインパクトの強いワードを信条に据えているだけなのかはわからないけど……アジテーターが人々の望みを叶えるために、天使を駆使して新人類として作り替えて、そのまま信者に取り込んで、日夜、教団の規模を増大させていることは確かよ」

 

 まさか世界征服だなんて現実味のない言葉を聞くことになると想定していなかった士道が困惑する中、琴里は新人類教団についての情報の開示を一通り終えてから、改めて志穂のエメラルドの瞳を見つめる。

 

 

「……私が志穂を集会に参加させたくない理由が理解できたかしら? 士道だけなら良いわよ。士道がラタトスクのサポートを受けながら、未知の危険な精霊と接触して、戦争(デート)をするのはいつものことだしね。だけど、志穂を集会に参加させるわけにはいかない。もしもアジテーターが本気で世界征服を目論んでいるのなら、同じ精霊の志穂を戦力に加えようと洗脳してくるかもしれないし、あるいは志穂を脅威と判断して、殺しにかかってくるかもしれないもの」

「ッ! 砂名先輩が私を殺すなんて、そんなことしないッスよ!」

「わからないでしょ? そもそも志穂のよく知る霜月砂名が既に亡くなっている以上、教祖をやっているアジテーターは、霜月砂名ではない、同姓同名の別人と考えるべきよ」

「それは、その通りッスけど……でも私、不思議と予感がしてるッス。きっと、この教祖をやっている霜月砂名って人は、私が大好きだったあの砂名先輩なんだって。だって砂名先輩には人を惹きつける魅力があったッス。砂名先輩は話し方が巧みな人で、裏表がない人で、表情豊かな人で、とにかく愉快な人で、行動力の塊みたいな人で、人の心に寄り添うのがとても上手な人で。そんな人だったから、不死身だった頃の私は、何千回も死んで心が壊れかけていた私は、砂名先輩に救われたッス。……だからこそ、思うッス。もしも砂名先輩が本気を出したのなら。本気で世界征服をしようとしたのなら。次々と人をたらし込んで信者にして一勢力を作るくらい、鼻歌交じりにやってのけるって。……私も、士道先輩と一緒に集会に参加したいッス。この目で砂名先輩を見て、本物かどうかをちゃんと確かめたいッス。ダメッスか?」

「志穂……」

 

 新人類教団がいかに危険かについて話したことで、琴里は志穂が己の望みを取り下げてくれることを期待したが、琴里の思惑とは裏腹に、志穂は強固な意志のこもった眼差しで琴里の深紅の瞳を見つめ返す。新人類教団の集会に参加したい志穂と、参加させたくない琴里。2人の意見が対立し、膠着状態を生む中。ここで今まで一言も話さず、眠そうな眼で会話の流れを静観していた令音が口を開いた。

 

 

「――琴里。私は、志穂に集会に参加してもらうのも悪くないと思う」

 

 令音が志穂に助け舟を出したことに、琴里・志穂・士道はそれぞれ「令音!?」「令音先輩!?」「令音さん!?」と驚きの声を上げる。3人ともてっきり、令音は、志穂の安全のために志穂を集会に参加させない琴里側の立場だと思い込んでいたからだ。だが、当の令音は士道たちのリアクションを気にすることなく言葉を続ける。

 

 

「まず前提だが、アジテーターはラタトスク機関が一切観測できなかった精霊だ。無意識なのか意図的なのか、霊力を探知させない手段を行使しているのだろう。ラタトスクの技術でアジテーターを探知できない以上、アジテーターと接触する手段は限られている。偶然の出会いを装うか、新人類教団の集会に参加するかだ。ちょうど明日に集会がある以上、接触できる可能性に乏しい前者をわざわざ選ぶ理由はない。必然的に、アジテーターと接触するために、シンに集会に参加してもらうことになる。ここまでは良いかな?」

「ええ、続けてちょうだい」

「わかった。ただ、シンが集会に参加したからといって、アジテーターと接触できるとは限らない。新人類教団は千人超の熱狂的な信者を抱えている以上、集会には相当数の信者が集まるだろう。この集会の場で、集会を取り仕切るアジテーターと接触するのは至難の業だ。信者にとって、アジテーターは、己の望みを叶えてくれた神様に等しい。そのような神様相手に突然、シンが話しかけたら、会話の機会を持とうとしたら、信者はどう思うだろうね。少なくとも快い感情は抱かないだろう。神様を妄信する信者が、それもアジテーターから力を与えられた信者がシンに敵意を抱き、暴走して襲いかかってくる事態を避けるために、シンは信者の目の届かないところでアジテーターと接触しないといけない。そのためには――」

「――なるほど、令音の言いたいことが理解できてきたわ。今回の攻略対象の精霊は、ただいま絶賛規模拡大中の新興宗教の教祖様。そんな大物と接触したいのなら、士道からじゃなくて、教祖様の方からこっそり士道に接触したくなる状況を作る方が得策で、そのためには志穂を利用するのが一番確実だってことよね?」

「そうだね。もしもアジテーターが、志穂が殺してしまったはずの霜月砂名本人なら、過去に交流を深めた志穂の姿を発見すれば、会って話をしたくなるのが道理だろうからね」

 

 静かな声色で紡がれる令音の主張を聞き入れる内、令音が志穂を集会に参加させることに反対しない理由を大方察した琴里が令音に問いかけると、令音はゆっくりとした所作で首肯しつつ、補足の言葉を追加する。ここまで話を聞けば、さすがに士道と志穂も、令音の主張の根幹に思い至ることができた。

 

 

「つまり、志穂をエサにするってことか?」

「言い方が悪くなってしまってすまないが、そういうことになるね。相手は未知の精霊であり、何を考えているかわからない以上、琴里の言う通り、志穂を集会に参加させるのは非常に危ない。加えて、アジテーターがただの同姓同名の別人の場合、志穂を無意味に危険にさらすことになるね。一方、もしもアジテーターが本当に霜月砂名本人であるなら、志穂を砂名に目撃させさえすれば、砂名からシンたちに接触してくることが期待できる。……さて、どうしようか」

 

 士道の質問に令音は肯定の意を示しつつ、志穂に集会に参加してもらうメリットとデメリットを軽くまとめた上で、士道たちに疑問を投げかける。結果、しばしの沈黙が場を包み込む中、口火を切ったのは、志穂だった。

 

 

「ごめんなさい、琴里先輩。やっぱり私は、そう簡単には引けないッス。確かに、普通に考えれば、アジテーターが砂名先輩なわけがないッス。私が砂名先輩を殺しちゃったはずだから。だけど、ここ数日、色んな人から砂名先輩の名前を聞いてから、私の中で強い気持ちが沸き上がっているッス。『もしも、もしも本当に先輩が生きているのなら。もう一度先輩に会いたい。先輩の声を聞きたい。先輩の顔を見たい。先輩の温もりを感じたい。先輩に謝りたい』って、そんな気持ちが私の中で渦を巻いていて……こんな状態で集会に行かずにただ待っているだなんて、そんなの難しいッス。ただ、これがわがままなのはわかってるッス。琴里先輩をこれ以上困らせるのは、本望じゃないッス。だから、だから……琴里先輩がもう一度『ダメ』って言ったら、その時は頑張って諦めるッス」

「志穂、あなた……」

 

 志穂は申し訳なさそうに琴里を見つめながら、己が今まで心の内に隠していた想いを零しつつ、琴里の最終判断に委ねる主張に切り替えた。てっきり、令音が志穂側に寄り添う発言を残したことで、志穂が令音の意見に乗っかって琴里を説得するものかと思われたが、当の志穂は令音の話に耳を傾けている内に、己が相当な無茶を琴里に強いていると改めて自覚したために、琴里次第で己の主張を取り下げるという結論に至ったようだった。

 

 ただ、士道の至った結論は、志穂とは真逆だった。士道は知っている。かつて志穂を攻略する際、刻々帝(ザフキエル)を持つ精霊:時崎狂三の十の弾(ユッド)を通して、志穂の過去を追体験した士道は知っている。志穂の砂名への想いがどれほど強いものなのかを、身をもって知っている。ゆえに士道は、志穂の望みを叶えてあげたい衝動に駆られていた。

 

 

「なぁ琴里。要は、志穂が危険な目に遭わないってわかっていれば、集会に連れていってもいいんだよな?」

「それは、そうだけど……」

「俺が志穂を守るよ。アジテーターからも、信者からも、絶対に志穂を守ってみせる。……それじゃあダメか?」

 

 士道が琴里に問いかけると、対する琴里はテーブルに両肘を置いて両手の上に頭を置き、幾分かうなり声を漏らしながら悩み果てた後、何かを振り切るように、ガバッと勢いよく顔を上げた。

 

 

「あーもう、わかったわよ! 明日、集会には士道と志穂の2人で行きなさい! 当然、私たちが全力で2人をサポートするけれど――士道、言ったからには志穂に傷一つつかないようにきちんと守り抜くのよ、良いわね?」

「あぁ! ありがとう、琴里」

「ありがとうございます、琴里先輩!」

「どういたしまして。それじゃ、明日に向けて準備しないとね」

 

 己の気持ちを切り替えた琴里は、集会への志穂の参加を明確に認めた後、士道に圧をかける。そのようなすっかりいつもの調子に戻った琴里を前に、士道と志穂は安堵の息を吐くとともに、琴里に感謝の気持ちを告げる。対する琴里は『忙しくなってきたわね』と言わんばかりの勝気な笑みを携えて、新たなチュッパチャプスの包装を開封して口に含むのだった。

 




五河士道→好感度の高い精霊とキスをすることで、精霊の霊力を吸収し、封印する不思議な力を持った高校2年生。此度、志穂とともに新人類教団へと乗り込みたい意思を琴里に示したことが、士道のこの判断が吉と出るか凶と出るかは神のみぞ知る事象であろう。
霜月志穂→士道に封印された残機1の元精霊。識別名はイモータル。メチャクチャ敬意や好意を持っている相手に対しては、年齢に関係なく『先輩』と呼ぶようにしている。自分がかつて殺してしまったはずの砂名が生きている可能性が生じていることにより、ただいま砂名に会いたくて会いたくて仕方がない感情に支配されているようだ。
五河琴里→士道の妹にして元精霊。識別名はイフリート。ツインテールにする際に白いリボンを使っているか黒いリボンを使っているかで性格が豹変する。あからさまに危険な新興宗教の集会所に士道はともかく志穂は連れて行きたくない一心で反対の論調をまとめ上げていたが、最終的には折れたようだ。
村雨令音→フラクシナスで解析官を担当している、ラタトスク機関所属の女性。琴里が信を置く人物で、比較的常識人側の存在。此度は、冷静に状況を見つめて、志穂が砂名に会うことのメリット・デメリットをまとめて、士道たちに判断を委ねるスタンスを選んでいた。

次回「教祖様オンステージ」
 

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