【完結】死に芸精霊のデート・ア・ライブ   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回、プロローグの時系列に到着します。5話前半→プロローグ→5話後半という時系列ですね。ところで、本作『霜月コンクエスト』では特にヤバいシーンが3つあると考えておりまして、その1つ目が5〜6話です。なので、くれぐれもお気をつけて。



5話 教祖様オンステージ

 

 12月9日土曜日の午前8時半。新人類教団の集会の開催当日。

 士道と志穂は、天宮市の駅前にある何の変哲もないビルの前へと到着する。士道が昨日殿町から聞き出した、新人類教団の集会が行われるビルだ。

 

 

『士道、志穂。聞こえるかしら?』

「あぁ、聞こえてる」

「聞こえるッス。音質凄いクリアッスね」

 

 士道と志穂がビルの全貌を見上げて固唾を呑んでいると、士道と志穂に琴里の声が届く。琴里は現在、ラタトスク機関が所有する地下施設の一角、臨時指令室の中央の席に座している。琴里と、士道&志穂との会話を可能にしているのは、2人の耳に装着された超高性能のインカムだ。これこそが、士道&志穂と、臨時指令室の琴里&空中艦フラクシナス(※現在故障中)のクルーたちを繋ぐ手段だった。

 

 

「じゃあ、今から潜入してくる」

『ええ、くれぐれも慎重にね。――さぁ、私たちの戦争(デート)を始めましょう』

 

 琴里による精霊:扇動者(アジテーター)との戦争(デート)宣言を契機に、士道と志穂はごく自然な所作を装いつつ、ビルの中へと踏み入る。それから階段を下って、ビルの地下3階へと到着すると、そこには黒髪をたなびかせた小綺麗な女性が待ち構えていた。当の女性はさも当然のように、士道と志穂へと手を差し伸べて、語りかける。

 

 

「おはようございます。集会へのご参加ですね、入信カードをお持ちでしょうか?」

「あぁ、いえ。俺たちは新人類教団に体験入信をしたいと思ってここに来たんです。だから、入信カードは持っていなくて……」

「そうでしたか。砂名様の御心により、新たな同志に巡り合えたこと、心より感謝いたします。それでは、こちらに必要事項を記載してください」

「はい、わかりました」

 

 受付の女性から差し出された紙を受け取ると、士道は志穂の分も含めて、新人類教団に体験入信するための必要書類に文字を埋めていく。なお、士道がこうして必要書類に埋めた内容は、全て嘘だ。名前も住所も年齢も経歴も信条も悩みも嘘。そんな、ラタトスク機関が用意してくれた、新人類教団に万が一にも疑われないようにするための偽の経歴を、士道は志穂の分も一緒に、正確に書き記す。すると、受付の女性は士道が記載した紙をしげしげと眺めた後に、薄っぺらい満面の笑みとともに、付近の扉のドアノブを握って扉を開き、士道と志穂を招き入れた。

 

 

「それでは、こちらへどうぞ。どうか、至高のひと時をお過ごしくださいませ」

「ありがとうございます」

「ありがとうッス」

 

 受付の人の恍惚な言葉を背中に受けつつ、士道と志穂は扉の先へと歩を進める。受付の女性がドアをガチャリと閉ざす音が聞こえる中、新人類教団の集会会場が視界に入った士道と志穂は、驚愕の息を呑んだ。

 

 

「「……え」」

 

 会場は、何もかもが異常だった。会場を照らす紫色の毒々しい光と、周囲を覆う閉塞感を押し付けてくる黒い壁。不気味なほどに直立したまま、会場奥のステージを凝視したまま動かない300人程度の信者たち。確かにこれらも異常な光景だ。しかし、士道と志穂が何より驚いたのは、会場が来禅高校の体育館くらいに広かったことだった。

 

 士道と志穂が入ったビルは、どちらかというと小さめのビルだった。とても地下にこれほど広大な空間を用意できるほどのビルではなかったはずなのだ。

 

 

「琴里」

『令音に調べさせたけれど、相変わらず霊力反応は検知できないわ。でも、この異様な光景……2人が既にアジテーターの天使:〈夢追咎人(レミエル)〉の影響下に入ったものと考えるべきでしょうね』

「わかった」

 

 士道は琴里の連絡を受けて己の警戒ボルテージをMAXにまで上げつつ、隣で怯える志穂の手を握り、集会開始の時を待つ。そうして、午前9時ジャストを迎えた瞬間。ステージが豪華絢爛な演出で次々と彩られ始め、ステージの中央に1人の女性が姿を現す。

 

 

「視点を変えれば世界は変わる、鬱屈とした世界もバラ色に塗り替えることができる、というのが私の持論の1つでね。さぁ、今日も楽しい世界征服を始めようか。なぁ、選ばれし新人類の諸君?」

 

 凛とした眼差しを携え、漆黒の髪を引き連れて現れた、白を基調とした仰々しい司祭服をまとった長身痩躯のスレンダーな女性は、間違いなく霜月砂名そのものだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「本当に、本当に……生きていてくれてたッスか、砂名先輩……?」

『士道、この人がそうなの?』

「間違いない。志穂が3年前に殺してしまったはずの砂名さんだ。少なくとも、見た目は砂名さんそのものだ。誰かが変装したとか、そんなレベルじゃない」

 

 志穂が呆然自失とした様子で砂名を凝視する中、驚愕こそしているものの決して冷静さまでは失っていない士道は、琴里の問いかけに肯定する。

 

 

『そう――』

「砂名様!」「砂名様!」「砂名様だ!」「ktkr! ktkr!」「耳が、耳がトロトロに溶けちゃいそう、幸せ」「いつ見ても麗しいお姿だ!」「美しい!」「今日もかっこいい……!」「イケメン砂名様がご降臨されましたわ!」「あぁ、砂名様の瞳に吸い込まれてしまいそう」「この神々しさ、さすがは砂名様だ!」「王子様!」「女王様!」「まさに天使! エンジェル!」「神様仏様砂名様!」「ふあああああああああ砂名様あああああああああああ!」「愛してます砂名様!」「大好き!」「素敵!」「はぁ…好き」「こっち向いてー! 砂名様ぁ!」

 

 と、ここで。琴里が士道に何かを話しかけたようだったが、士道には一切聞こえなかった。砂名が登場するまで石像のごとく完全に沈黙していた信者たちが一斉に砂名に歓声を浴びせ始めたからだ。まるで地響きのような信者たちの歓声はいつまでも続くかと思われたが、ステージ上の砂名がパンと手を叩いた瞬間、歓声は一気に止まった。

 

 

「サンキュー、新人類諸君! 私もみんなが大好きだぜ!」

「「「きゃあああああああああああ!」」」

「「「ふぅううううううううううう!」」」

「「「うぉおおおおおおおおおおお!」」」

 

 が、砂名がきらめく笑顔とともに信者たちへと片手で投げキッスをすると、信者たちは喜びのあまり再び沸き上がる。その様子は、怪しい新興宗教の教祖と信者というよりは、大人気アイドルと熱心なファンと表現した方がふさわしいように士道には感じられた。

 

 

「さーてさて。このまま私の諸君への愛をあらゆる言語表現で伝えるというのもとっても素敵なのだが、今回はたわむれ会じゃなくて集会なんでね。時間は有限だ、本題に入ろうか。本日のタイムスケジュールはこの通り! せっかくの休日を丸々1日潰しちゃうのは申し訳ないので、手短に済ませるよ!」

 

 ひとしきり信者の歓声が響き渡った後、砂名は信者たちの視線を誘導するようにステージの奥へと指を差す。すると、何もなかったはずの砂名の背後に唐突に真っ白なスクリーンが表示される。そのスクリーンには、独特なフォントで次のようなタイムスケジュールが綴られていた。

 

――――――

1.挨拶   9:00 ~  9:05

2.生誕の儀 9:05 ~  9:30

3.結束の儀 9:30 ~  9:55

4.総括   9:55 ~ 10:00

――――――

 

 

「生誕の儀に、結束の儀……」

『……嫌な予感しかしないわね』

 

 挨拶や総括といった、特に違和感のないスケジュールの中に織り交ぜられた『生誕の儀』と『結束の儀』。生誕や結束という言葉自体は、ポジティブな場面で使われるイメージだが、こと新興宗教の集会で生誕や結束という言葉を見ると、どうしても不穏なイメージしか抱けない。琴里の呟きからして、琴里も士道と同様の印象を抱いているようだ。

 

 集会場に怯え、砂名を目撃して呆然するといった形で、とにかく精神が不安定になっている志穂がいる手前、努めて気丈にふるまうよう心掛けていた士道の心の中に、侵食するように不安感が広がっていく。

 

 

「ッ!!」「おおおおお……!」「うっそ、マジで!?」「やった、結束の儀だ!」「結束の儀だ! 今日やるのか!」「ひゅー、待ってたぜ!」「あぁぁ、あの輝いている砂名様の姿を今日拝むことができるのね。幸せだわ……」「わっくわっくどっきどっき♪」「今日は最高の一日になるな」

 

 一方、信者たちは『結束の儀』という言葉を見て、さらに興奮を重ねていく。どうやら信者たちにとって、結束の儀とやらは生誕の儀よりも特別なイベントのようだった。

 

 

「ではでは、挨拶はさっきの投げキッスで完了したんで、早速生誕の儀を始めるね。では本日1人目の生誕希望者に登場してもらいましょう。カモーン、仮称睦月さーん?」

「は、はぃぃ」

 

 砂名がくるりくるりと愉快に回転しながら、生誕の儀の開始を宣言し、ステージ裏へと呼びかけると。ステージ裏から1人の人物が顔を出す。その人物は、猫背で小太りな、スーツ姿の男性だった。まさに不摂生な30代男性といった見た目だった。

 

 

「ところであなたは仮称:睦月さん。私は霜月さん。霜月と睦月、何だか親近感を感じますね? 我々はもしかして家族だったりします?」

「そ、そんな。砂名様が家族だなんて恐れ多い……!」

「もー、気にすることないよ? なんたって私は歌って踊って握手もハグもできる、親しみ抜群のアイドル教祖だもの。ま、それはさておき。あなたはどうして新人類になりたいのかな?」

「そ、それは……私が断れない性格なのを知ったうえで、毎日毎日無理難題を押しつけてくる上司がいるんです。その上司、本当に嫌な奴で、私に嫌がらせして鬱憤を晴らしているような奴で、ホントむかつく奴で……でもあの人を調子づかせているのは、あの人のせいばかりじゃなくて、私が情けない性格をしているからだと思うんです。私は、毅然と断れる人間になりたい。理路整然とした主張で上司の無茶振りを回避できるような、そんな強い心を持った新人類になりたいんです」

 

 30代男性に対し、砂名が仰々しい所作とともに男性に問いかけると、男性は意を決して己の悩みを打ち明ける。その男性の悩みを聞き入れた砂名は、男性を安心させるように朗らかな笑顔を浮かべた後に、言葉を続ける。

 

 

「うむ、望みの仔細を理解したよ。それじゃあ、目を瞑ってごらんなさい。そして、なりたい自分を夢見るのです。あなたはどんな自分になりたいかなぁ?」

「私は、私は……」

 

 砂名はいつの間にか己の右手に水晶玉を持ち、優しく撫でる。すると水晶玉は虹色の輝きを放ち、ステージ上の男性をすっぽり包んでいく。それから、しばしの時を経た後。男性を包み込む光が収束し、一層輝きを放ち、光の暴力をそこら中に放っていく。その後しばらくして、光の暴力が収まった時。水晶玉を起点として放出された光が暴れまわった中心地、そこには――猫背で小太りの男性はいなかった。代わりに、スラリとした体躯をして、全てを見通しかねない冷徹な瞳を携えたエリートサラリーマンの姿があった。

 

 

「おめでとう、これであなたも新人類に生まれ変わったね!」

「これが、本当の私……?」

 

 砂名はこれまたいつの間にか自身の隣に姿見を出し、男性に向ける。姿見に映る己の変貌した姿に、男性は呆然とした表情で、半ば無意識に疑問を口にする。

 

 

「そうだよ、睦月さん。私があなたの眠れる力を呼び起こしたことで、あなたは覚醒したのです。ちょっと思考してみればわかるんじゃないかな。見た目だけじゃなく、あなたの頭の良さまでもが凄まじくパワーアップしたってことにさ」

「ッ! 本当だ、凄い。今ならどんな謎さえも解けてしまいそうな気がする」

「ふふふ、凄いでしょ。これこそがあなたの内に眠っていた可能性なのさ。さてさて、睦月さんはたった今、カッコ良い見た目プラス頭脳面の力を授かることができた。これで、あなたにとって目障りな旧人類のクソ上司に知識で、技術力でガンガンマウント取っていけるんじゃあないかな! 睦月さんの津波のようなマウントラッシュを喰らって、クソ上司が無様にメンタルブレイクして顔面崩壊する姿が目に浮かぶようだ! いやぁよかった、これで解決ですね!」

「あぁ、あぁ。そうか、あいつが、あの野郎が俺のせいで苦しむのか、最高だぁ……。砂名様、ありがとうございます! あなた様を信奉して、本当に良かった……!」

「どういたしまして。んふー、素敵な笑顔だよ、睦月さん。メッチャ生き生きとしている、さっきまでの苦悩に満ちたネガティブフェイスとは大違いですね! んまぁとりあえず、この時この瞬間に新たな同士が誕生しました。みんな、盛大な拍手で迎え入れましょう! はーい、パチパチパチィー!」

 

 砂名の語りかけにより己が身に起こった変化に気づいた男性はニヤァと、今まで己の心の内に秘めていた負の感情を吐き出すように凶悪な笑みを浮かべる。砂名は男性の歪んだ笑みをさも当然のように全肯定しつつ、信者に拍手を働きかける。

 

 

「おめでとー!」「おめでとう!」「おめでとうございます!」「やったね睦月さん!」「これでクソ上司をわからせられるなぁ!」「よかったよかった、これにてハッピーエンドだ」「万歳!」「新人類の力、クソ上司に見せつけてやろうぜ!」

 

 刹那、会場に響きわたる大喝采。砂名が天使を行使したことで男性が見た目からして思いっきり変貌するという明らかに異常事態が起こっているのに、周囲の誰もが眼前の光景を異常と認識せず、ただ新人類へと至った男性をたたえている。

 

 その後も、砂名の軽快な語りとともに、次々と新人類への生誕希望者がステージ上に現れ、砂名の天使:〈夢追咎人(レミエル)〉により、力を与えられて、凄まじく変貌する展開が続いた。

 

 ある人は、気に入らない連中をすべてぶちのめして征服する力を欲した。ある人は、恋人を寝取った輩に上手に復讐する力を望んだ。ある人は、親友を再起不能にしたくせに警察に捕まりすらしない害悪犯罪者を殺す力を欲した。砂名は、そうした多種多様な望みを持つ者をステージ上で快く迎え入れては、いともたやすく〈夢追咎人(レミエル)〉で望みを叶えていく。望みが叶った生誕希望者――もとい新人類は、恍惚とした夢心地な表情で砂名にお礼を告げ、信者たちに歓迎されながらステージから去っていく。

 

 

(なんだよ、これ。いくらなんでも異常すぎる……)

 

 士道は眼前に広がる光景が、上手く言語に落とし込めないけれど、とにかく気持ち悪くて仕方がなくて。己の内から何の予兆もなしに湧き上がる言いようもない吐き気をどうにか抑え込む。士道の傍らの志穂も、すっかり青ざめた顔で、ステージを見ることしかできないようだった。

 

 

「はい。というわけで、本日は、計10名の生誕希望者が全員無事に新人類へと生まれ変わりました。はぁ、良いことをした後は気分が良いもんだね。まるで澄みきった山頂の空気を胸いっぱいに吸い込んだかのような気分だ。てことで、これにて本日の生誕の儀は終了だよ、みんなお疲れさま。ではでは続いてはみんなもお待ちかねの――結束の儀の時間であるぞ」

「「「待ってましたぁぁあああああああああッッッ!!」」」

 

 そのような士道と志穂の様子など知る由もない砂名は、生誕の儀を締めくくり、次なる結束の儀の開始を宣言する。刹那、会場が振動するほどの信者たちの歓喜の絶叫が周囲に強烈な音波となって伝播していく。

 

 

「はい。今回の標的は、このお方。なんとASTの方です!」

 

 士道と志穂が思わず耳を塞いでしまうほどの信者たちの絶叫を、砂名は耳元に手を寄せて、うんうんとうなずきながら心地よさそうに聞いた後、己の前方へと両手を差し出す。すると、砂名の前方に、1人の若い女性が姿を現した。その女性は、鋼鉄製の椅子に座っていて、両手両足を手錠で繋がれていて、視界と口を包帯で塞がれていて、身動き一つとれないレベルに椅子にガチガチに拘束されていた。

 

 

「む? むぅ!?」

「「え……?」」

「「「……?」」」

 

 椅子に拘束されている女性が口をふさがれた状態でくぐもった困惑の声を上げ、士道と志穂が想定の埒外な光景にしばし思考停止する。同時に、信者たちもそろって脳裏に疑問符を浮かべていた。砂名の言う、ASTのことを知らなかったからだ。

 

 

「おっとごめんね。説明し忘れてたよ。ASTってのはね、アンチ・スピリット・チームの略称でね。直訳すると対精霊部隊。日本の陸上自衛隊の特殊部隊の名称らしいんだ。んで、このASTの役目は、原因不明のまま突如現れた、強大な力を持つ謎の生命体【精霊】を殺すこと。んでんで、最近知ったんだけど、私ってどうやら精霊と呼ばれているらしいのです」

「「「え?」」」「砂名様が精霊?」「まさか精霊が現実世界にいるとは……」「解釈一致ですわ」「違和感ないね」「素敵」「砂名様が女神様かと思ったら精霊様だった件」

「いやね、私はこの力を世のため人のために役立てようとしている。みんなだって、私がみんなの力を引き出して、旧人類から新人類へと引き上げたことで、思いっきり人生変わったでしょ? でもこの人を始めとした、日本政府が今まで秘密裏にしていたASTの連中は、みんなを新人類へと昇華できる私を、精霊という枠組みに当て込んで、脅威と断定して、有無を言わさず殺そうとしているわけだ。うぅぅ、この善良な一般市民たる私が一体何をしたって言うのやら。ホーント酷いよね、許せないよね?」

「なんてこと……」「許せない」「砂名様を殺そうだなんてなんて不敬な」「これが政府のやり方かよ」「見損なったよ、全く」「やっぱ政府ってクソだわ」「砂名様かわいそう」「泣かないで」「元気出して、砂名様」

 

 砂名は信者たちにASTの概要を説明し、己が精霊であることを実にあっさりと打ち明ける。その後、砂名が己の命がASTに狙われていると主張しつつ、虚空にいつの間にかふんわり浮遊していたハンカチを手に取り、わざとらしく流した涙を拭う素振りをみせると、信者たちは誰もが日本政府やASTへの激しい憎悪を顕わにしていく。

 

 

「ま、そゆわけで。このASTの人は私たち新人類教団の結束を、私たちの悲願たる世界征服を妨害するけしからん輩というわけで。だけど大丈夫、どうしようもない人間にも役目はあるのです。そう、私たちの結束のための贄となってもらう役目がね。ではでは、長らくお待たせしちゃいましたが――これより結束の儀もとい楽しい爪剥ぎショーの開幕でーす!」

「「「やっふぅぅうううううう!!」」」

「いっちまーいめ♪」

「ぃがッ!?」

 

 砂名は偽物の涙を拭ったハンカチを消失させると、次の瞬間にはペンチを手にして、椅子に拘束されたASTの女性に近づき、欠片の躊躇もなしに、右手の親指の爪をペンチではぎ取った。

 

 

「おー、良いねぇ、包帯越しでもよくわかるくらいの素敵な悲鳴だ。あなた、リアクション芸人の才能あるよ。転向してみたら? 砂名ちゃんのオススメだぞ☆」

「う、うぅぅう……!」

「あれ? 何か言ってる? でもわかんないな。わかんないなら仕方ない。言語が通じない相手とコミュニケーションを通じてわかりあうのって難しいものだしね。さーて、ショーは続行だ! あそれ、にーまーいめ♪」

「うぐぅううッ!?」

「あよっと、さーんまーいめ♪」

「ぐぅぅううう!?」

 

 口を包帯で塞がれているがゆえに何も発せないASTの女性を前に、砂名は凶悪な笑みをますます深くしながら、次々と女性の爪をペンチで剥いでいく。ハイテンションな砂名のきゃぴきゃぴした声と、女性のくぐもった絶叫のみが、会場を支配していく。

 

 士道は、もはやわけがわからなかった。目の前に広がる凄惨な光景。これが現実なのか、それともたちの悪い悪夢なのか。虚実の判断さえつかなくなっていた。それくらい眼前の光景がどこまでも残酷だったのだ。

 

 

「そいやっさ、よーんまーいめ♪」

「むぐぉああああ!?!?」

「ごーまいめ♪ これで右手の爪さんコンプリートだね、いぇい!」

「「「ふぅぅううううううううううううう!!」」」

「次は左手の爪さんの出番だぜ! 奮っていこうか!」

 

 そのような士道の現状の心境など知ったことかと、砂名の拷問はどんどん苛烈さを増していく。比例して信者たちのボルテージも高まっていく。

 

 

『――! ――、――――――! ―――――? ――!』

 

 インカム越しに琴里が何事かを士道と志穂に必死に呼びかけているような気がするが、今の士道は琴里の声に耳を傾けることができない。視覚が、聴覚が、残酷極まりないショーを続けるステージ以外に働きかけることを許してくれないのだ。

 

 

「はぁ、はぁ……!」

 

 地上にいるはずなのに、ロクに呼吸ができない。荒く呼吸をしているはずなのに、まるで酸素を肺に送り込んでいる気がしない。のどが異様に乾いていて、今にも倒れそうだ。加えて、前後の感覚も、上下左右の感覚も奪われてしまったかのような、そんな錯覚。士道は、砂名が繰り広げる結束の儀にすっかり呑み込まれてしまっていた。

 

 

 刹那。

 

 

 

「――もうやめてッ!!」

 

 

 志穂が、叫んだ。

 瞬間、会場から音が消えた。

 

 




五河士道→好感度の高い精霊とキスをすることで、精霊の霊力を吸収し、封印する不思議な力を持った高校2年生。此度、新人類教団がどれほど恐ろしいかを身をもって思い知った模様。
霜月志穂→士道に封印された残機1の元精霊。識別名はイモータル。メチャクチャ敬意や好意を持っている相手に対しては、年齢に関係なく『先輩』と呼ぶようにしている。砂名の姿をした人物が結束の儀と称して公開の場で拷問しまくっている光景を目の当たりにして、つい感情のままに叫んでしまった模様。
五河琴里→士道の妹にして元精霊。識別名はイフリート。ツインテールにする際に白いリボンを使っているか黒いリボンを使っているかで性格が豹変する。士道や志穂たちに都度、連絡を入れる以外にも、なるべく2人を守るために実は裏で準備をしていたりする。が、その内容が明かされるのはおそらく次話。
霜月砂名(さな)→かつて、記憶を失いただの志穂だった少女に『霜月』の苗字を与えた女性。享年18歳。そのはずだったが、なぜか新人類教団の教祖をやっている模様。砂名さんが楽しそうでなによりです(白目)

次回「偽証」
 


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