【完結】死に芸精霊のデート・ア・ライブ   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回でストックくんの霊圧が消えちゃいましたので、次回以降の更新は遅めになることでしょう。すみませぬ。



3話 騒ぎを収める精霊

 

 

 士道が新たな精霊:イモータルこと霜月志穂とデートの約束を取り付けた翌日。9月30日土曜日。士道は待ち合わせ場所の公園へと歩を進めていた。

 

 現在時刻は9時25分。待ち合わせ時刻は10時だが、志穂が早めに公園に姿を現し、士道のことを待っている可能性もある。女性をそう長い時間待たせるわけにはいかないため、士道は9時30分に公園に到着するつもりで、今朝家を出発していたのだ。

 

 

「違う! 確かに私は人を轢いてしまったんだ! 本当だ!」

「……ん?」

 

 士道が目的地に向けてテクテク歩いていると、前方から唐突に大声が響く。疑問符を脳裏に浮かべつつ、士道が声の元に近づくと、数人の野次馬に、警察官、そして明らかに冷静を失っており、声を張り上げる中年男性がいた。中年男性の傍らには白色の軽自動車があり、軽自動車のボンネットは大きく凹み、フロントガラスには派手にヒビが入っていた。

 

 

「私はつい居眠り運転をしてしまって、目を開けたら女の子を轢いてしまったんだ! 本当だ! ほら、車もこんなに凹んでいるだろう!」

「確かに車は酷く凹んでますね。しかし、あなたが轢いたという女の子がどこにもいない上に、車や周辺にその女の子の血が付着していないのはおかしいでしょう。きっと、寝ぼけて電柱に車をぶつけただけですよ。人を轢いてなくてよかったじゃないですか」

「そんなわけあるか! 私は確かに見たんだ! 人を轢いてしまったんだッ! あああああ、もう何もかも終わりだぁ……!」

 

 中年男性は車のボンネットの凹みを証拠として自分が人を轢いたと主張するも、警察官は中年男性の主張を信じない上で落ち着かせようとする。が、男性はそんな警察官の態度を不誠実として怒鳴りつけつつ、同時に自分が人を撥ねたことにただただ絶望する。

 

 

「あ、士道先輩。こんちわッス」

 

 つい士道が立ち止まって中年男性たちの様子をうかがっていると、士道の背後から声がかかる。振り向くと、志穂が手を軽くひらひらと振りながら士道の元へと近づいてきた。どうやら志穂もまた、士道と同様に待ち合わせ場所の公園へと向かう途中だったようだ。

 

 

「……どうしたんスか、この騒ぎ?」

「ああいや、俺にもよくわからないんだ」

 

 志穂は周辺に響く喧騒に首を傾げ、士道に問いかける。が、士道とて男性が思いっきり混乱していることしか把握していない。士道はその旨を正直に志穂に返答する。

 

 

「ッ!! き、君は……!」

「ふぇ?」

 

 と、ここで。警察官にまくし立てていた中年男性が志穂に気づいた途端、目をグワンと見開く。そして、ふらふらとした足取りで数歩、志穂へと近寄ったかと思うと、ダダダダと足音を鳴らして志穂との距離を詰めにかかった。対する志穂は中年男性の行動の意図が読めず、コテンと首をかしげるのみだ。

 

 

「ちょッ、おい! 志穂に何する気だよ!?」

「君、邪魔をしないでくれ! ……あぁ、あぁ! この子だ! この子で間違いない! 私はこの子を轢いてしまったんだ! すまない、私の不注意で君の人生をメチャクチャにしてしまった! いくら謝っても許されないだろうが、それでも謝らせてくれ! この通りだ!」

 

 このまま放置していては中年男性が志穂の体をガシッと掴みかかる未来が透けて見えた。そのため、士道はとっさに志穂と中年男性との間に入り、中年男性が志穂に触れないようにする。一方の中年男性は一時は煩わしそうに士道を見やるも、士道ごしに志穂の顔を観察した後、自分が車で轢いてしまった被害者として志穂を認識し、その場で土下座を始めた。

 

 

「すまない、すまない……!」

「え、えぇーと。おじさん? 状況がよくわからないんスけど、私、別に轢かれてないッスよ? ほら、私はこの通り、ピンピンしてるじゃないッスか」

「……あ、そうだ。確かに。なぜ、君は無傷なんだ? 確かに轢いてしまったはずなのに」

「人間、車に轢かれたらタダじゃ済まないッス。だけど、おじさんが轢いちゃったらしい私は元気いっぱいッス。ということはつまり、私を轢いたってのはおじさんの勘違いだったってことじゃないッスか?」

「勘違い? 本当に、そうなのか? 信じていい、のか? そうか、良かった。良かった……」

 

 志穂は状況が読めないながらも1つ1つ順を追って話すことで、中年男性に冷静さを取り戻させ、中年男性が主張していた、志穂を車で轢いたという出来事が発生していないと認識させることに成功する。結果、中年男性は深々と安堵のため息を吐いた。

 

 

「君たち。彼を落ち着かせてくれてありがとう。助かったよ」

「いえ、俺たちは大したことは何もしてませんよ。お巡りさんも、お仕事頑張ってください」

 

 騒ぎが収束したことを受けて、中年男性の相手をしていた警察官が士道と志穂にお礼を告げてくる。士道は警察官と言葉を交わした後、志穂とともに騒ぎの現場を後にした。

 

 

「いやはや、何だか奇妙な騒ぎだったッスね」

「あぁ。一体、何だったんだろうな」

 

 志穂の感想に、士道もまた己の正直な心境を吐露する。今のは単にあの男性が志穂を轢いたと勘違いした、ただそれだけの出来事だ。なのに。それなのに。士道はなぜか、今の騒ぎに何とも知れない違和感を抱くのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 士道が志穂を連れてやってきたのは、天宮クインテット。去年完成したばかりの新しい複合商業施設である。水族館、ホテル、室内遊園地、映画館、ショッピングモールなどが集結し、まるで1つの小さな街のようになっている天宮クインテットは観光地として人気が高く、連日賑わいをみせている。完成後の今もなお、経営グループが顧客の要望を元に天宮クインテットのクオリティを日々向上させている辺りも、天宮クインテットの人気の秘訣だ。

 

 士道が志穂とのデート場所として天宮クインテットを選んだのはいくつか理由がある。1つ目の理由は、士道がかつて十香、折紙、狂三とトリプルデートを敢行した際に天宮クインテットを訪れており、ある程度天宮クインテットのことを知っているから。2つ目の理由は、これだけ多くの商業施設がそろっていれば、志穂にデートを十分楽しんでもらえそうだから。そして、3つ目の理由は、志穂がここ半年頻繁に天宮市に現界していることからして、志穂には天宮市に留まっていたい何らかの理由があり、天宮市から離れた場所でデートしようとすると志穂の機嫌メーターが下降するかもしれなかったからだ。

 

 

「おおお、大盛況ッスねぇ!」

 

 志穂は目をきらきらと輝かせながら、右へ左へと忙しなく視線を動かす。志穂が既に天宮クインテットを訪れたことがある可能性も士道は想定していたのだが、この様子だと志穂は初めて天宮クインテットにやってきたらしい。

 

 

「ねね、先輩! どこ行くんスか!? 早く行きましょ!」

「そうだな……」

『士道。早速選択肢よ』

 

 志穂は興奮のままに士道の袖を引っ張り、天宮クインテットを今すぐ堪能したい旨を主張する。士道は志穂が一番楽しんでくれそうな施設名を口にしようとして、ちゃっかり装着済みの小型インカムからの琴里の声に遮られる。薄々、ここでフラクシナスのAIから選択肢が示されるだろうなと考えていた士道は、志穂への回答を悩むフリをして琴里からの指示を待ちにかかる。

 

 

①室内遊園地

②ショッピングモール

③映画館

 

「総員、選択しなさい!」

 

 フラクシナス艦橋にて。艦長席に座する琴里の号令の元、フラクシナスのクルーたちが手元のコンソールを操作して迅速に士道と志穂とのデート内容を選択する。今回の結果は、①が僅差で②に勝っており、意外にも③を選んだ者は存在しなかった。

 

 

「ここは①でしょう。天宮クインテットの顔と言っても過言ではない屋内遊園地には、ジェットコースター、お化け屋敷、観覧車などなど、男女の仲を深めるアトラクションに事欠きません。それに、志穂さんに何か苦手なアトラクションがあるなら、それこそ士道くんの男を見せる絶好の機会となります。屋内遊園地が良いのではないでしょうか?」

「まずは②がいいと思いますよ。今日も志穂さんはボーイッシュな格好をしています。ここで士道さんが志穂さんに女の子らしい服装をプレゼントすれば、志穂さんは士道さんをますます白馬の王子さまとして認識を深めてくれることでしょう。室内遊園地はショッピングモールの後でも構わないのではないですか?」

「③は悪手ですね。先日、志穂さんはデートの時間を長くても2時間だと指定しています。選ぶ映画次第ではありますが、映画上映中は2人で会話できないとなると、今回のデートの間、2人はほとんど言葉を交わせないことになってしまいます。それはさすがに良くないでしょう」

「なるほど」

 

 クルーたちの意見を受けてしばし思案していた琴里は、決断とともにカッと目を見開くと、士道に向けて己の選択を伝えた。

 

 

『士道、①よ。せっかく志穂がワクワクしてくれてるんだし、志穂の期待に全力で応えてあげましょ。志穂が時間を忘れるくらい屋内遊園地を楽しんでくれれば、上手いこと2時間以上志穂とのデートを続けられるかもしれないしね』

「せっかくだ、屋内遊園地に行こう。ここの遊園地は屋内にあるといっても、普通の遊園地と同じくらい大規模だからな。面白さは保証するぞ」

「マジッスか!? いいッスねぇ、最高じゃないッスか! ……あ、いえ。待った。私、実は所持金がちょい心もとないんスけど、えっと、先輩を頼っても大丈夫ッスか? もしダメそうなら他のあんまりお金のかからない所にチェンジしてもいいッスよ?」

 

 琴里の指示の下、士道は屋内遊園地を目的地に定める。すると、志穂はぴょんぴょんとその場で跳ねながら体全体で喜びを表現するも、ここで遊園地はお金がかかることに思い至った志穂は申し訳なさそうに士道に尋ねてくる。どうやら志穂はあまりお金を持っていないようだ。

 

 

「気にするな。志穂に一目惚れしてデートに誘ったのは俺だからな。お金の準備も万端だ。だから、今日は遠慮なく『先輩』の俺を頼ってくれ」

 

 士道はトンと自分の胸を拳で叩きつつ、今日のデート代は全部自分が負担する旨を志穂に伝える。もとより士道に、基本的に金銭を稼ぐ手段のない精霊にデート代を払わせるつもりはなかった。それに士道は志穂とのデート代として、ラタトスク機関からお金を事前にもらっているため、何も問題ないのだ。

 

 

「え、えっと。いいんスか? じゃあ、先輩の太っ腹に存分に甘えさせてもらうッスね!」

「おう、そうしてくれ」

 

 士道と志穂は上記の会話を最後に、屋内遊園地の入退場ゲートへと歩を進めていく。

 

 

『よしよし、今の所は順調そのものね。さあ――私たちの戦争(デート)を始めましょう』

 

 かくして。インカム越しの琴里のいつもの宣言を機に、天宮クインテットを舞台とした、士道と志穂とのデートが始まるのだった。

 

 




五河士道→好感度の高い精霊とキスをすることで、精霊の霊力を吸収し、封印する不思議な力を持った高校2年生。志穂に白馬の王子さまとの印象を持たれているため、なるべく頼れる男を演出しようと、志穂の前で振舞っている模様。
五河琴里→士道の妹にして、精霊保護を目的とするラタトスク機関の一員にして、5年前にファントムに力を与えられ、精霊化した元人間。正直、もうインカム越しの声だけの出番になるのではないかと、ふぁもにかは懸念中である。
霜月志穂→精霊。識別名はイモータル。ここ半年、やたらと天宮市に現界している新たな精霊。なぜか天使や霊装を全然使わず、ほぼ静粛現界で姿を現している。精霊は基本的に無一文であることが多いが、志穂は少ないとはいえお金を持っているようだ。

 というわけで、3話は終了です。予定では今回でプロローグの時系列まで到着する予定でしたが、まだプロローグの展開は先のようですね。この様子だと、15話完結予定のこの作品も、いつものように20話完結、30話完結という風にズレていくのでしょうね、きっと。やれやれ、これだからふぁもにか印の見切り発車系の作品は信用なりませんね。


 ~おまけ(もしも別の選択肢を選んでいたら)~

問い:志穂「ねね、先輩! どこ行くんスか!? 早く行きましょ!」

→②ショッピングモール

士道「そうだな……まずはショッピングモールに行こう。せっかく人気の観光スポットに来たんだ。俺たちももっとオシャレな格好にしようぜ」
志穂「おお、いいッスね! 私が先輩をさらにイケメンへとコーディネートしてみせるッスよ! ふっふっふっ!」
士道「へぇ、楽しみだな。じゃあ俺も志穂を可憐なお姫さまに生まれ変わらせてやるよ」
志穂「え、えええ!? お姫さま!? 私が!? いやいやいや、似合わないッスよ!」
士道「心配しなくても大丈夫だ。俺はメイク術にも長けてるからさ」
志穂「むしろなんで男の士道先輩がメイク上手なんスかね!?」

 結論。志穂の好感度や機嫌メーターは中々に上がる。


→③映画館

士道「そうだな……まずは映画館に行こうか。ここの映画館は最新技術がこれでもかって投入されてて迫力満点だからな」
志穂「えー、映画館ッスか? 映画なんてここじゃなくてもどこでも見れるじゃないッスか。せっかくこんな凄そうな所に来たのに最初に選ぶのが映画館ってのは、ちょっと……先輩のセンスを疑っちゃうッスよ」

 結論。志穂の好感度や機嫌メーターが下がり、結局は映画館以外の行き先となる。

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