【完結】死に芸精霊のデート・ア・ライブ   作:ふぁもにか

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10話 揺れ動く心

 

 インターネットカフェでのデートは士道の想定よりもはるかに盛り上がり、結果として3時間以上滞在することとなった。それから士道は再び目的地を秘匿した状態で、砂名を伴って電車に乗っていた。目的地は、霜月家のお墓だ。当初士道が目論んだ通り、砂名を、毎日17時に墓参りをしている夢唯に会わせるために、今こうして士道は砂名を伴い電車に乗っている。

 

 

「さてさて、次はどこかなぁ?」

 

 砂名は電車の車窓から夕暮れの街並みを眺めていて、陽気な鼻歌を奏でている。インターネットカフェでの時間は砂名にとって大満足だったようだ。

 

 

「ちなみに、どこだと思う?」

「えー、そうだなぁ。時間が時間だし、きっと夕日に彩られた絶景スポットの類いに連れてってくれるんじゃないかなって推理中だよ? どう? 当てちゃった? 私、名探偵ムーブしちゃった?」

「それは到着してのお楽しみだ」

「ふふ、焦らすねぇ」

 

 砂名は目を細めて穏やかな微笑みを浮かべる。車窓からの夕日も相まって、今の砂名の姿は絵画のごとき美貌を彷彿とさせた。

 

 士道は、砂名とデートを続ける内に、砂名の雰囲気が大きく変わっていると感じていた。残虐で、どこか幼稚だった印象から。理性的で、大人びていて、しかし時折年相応な印象に。一言で表すのなら、砂名から毒が抜けて、性格が丸くなっているように思えた。

 

 もしかしたら、今回の記憶復活デートを通して、砂名は元の性格を取り戻しつつあるのかもしれない。失われてしまった本来の砂名の感性を、取り戻しつつあるのかもしれない。

 

 

「あぁ、楽しいなぁ。すごく楽しい。……記憶を失ってから、楽しいことなんて何もなかったんだけど、そっか、記憶を失ったからこそ得られる楽しみがこんなに身近にあったんだね。気づかなかったよ、灯台下暗しとはよく言ったものだね」

 

 砂名はスッと目をつぶり、今日の士道とのデートを思い返しながら、正直な感想を零す。そのような砂名の姿をしかと見つめて――士道の中で改めて疑問が生まれた。

 

 

「砂名さん。1つ、聞いてもいいか?」

「なーに?」

「どうして世界征服をしようとしたんだ?」

「ん? 私、もう話したよね? 世界に反逆するためだよ? 私という存在を世界から消されないために、世界に私を刻み込むためだよ」

「確かに聞いた。けどさ、いくら記憶を失ったからといって、性格ってそう簡単に変わるものか? 記憶として脳が思い出せなくても、心に染みついた行動原理は、そう極端に変わらないんじゃないか? ……俺は、砂名さんのことをよく知っている。砂名さんは今日みたいに好きな漫画を読んで一喜一憂して、そうした身近な幸せを大切にして人生を楽しむタイプの人だ。そんな人が、いくら記憶をなくしたからって、世界から消されたくないからって、それでも世界征服という突拍子もない手段には走らないんじゃないかって思うんだ」

 

 士道は己の中で浮かび上がった疑問を素直に砂名にぶつけていく。士道が初めて識別名:不死者(イモータル)こと霜月志穂という精霊と出会った時、志穂は3年前から先の記憶をすべて失っていた。しかし志穂は、明るく朗らかな少女のままだった。志穂が明るい性格になったのは、砂名と日々を過ごし、砂名から多大な影響を受けたからだ。その記憶を失ってなお、志穂はどこまでも元気な女の子だった。だからこそ、志穂の前例があるからこそ、砂名が世界征服を始めたことには、何かまだ隠された理由があるのではないかと士道は思い至ったのだ。

 

 

「……それが、士道くんの持論ってこと?」

「あぁ、そうだ」

「いや、凄いね。そこまでわかっちゃうものなんだ。……仕方ない、士道くんの洞察力に敬意を表して、白状するよ」

 

 人気がほとんどなく、ガタンゴトンと断続的に車内が揺れる音が響く中。砂名は車窓から景色を眺めていた体勢から士道へとしっかり向き直り、一拍の逡巡の後、口を開いた。

 

 

「どうやら私は二重人格らしい」

「え?」

 

 砂名の世界征服に隠された理由があると想定していた士道だったが、まさか二重人格という変化球の答えが返ってくるとは思わず、つい目を丸くする。砂名は驚く士道をそのままに、今まで秘匿していた事情を告白し始める。

 

 

「生前の私がどうだったかは知らないけれど、生き返った私の中にはどうやらもう1人の厨二病にして指示厨な私がいるみたいで、その指示厨が頻繁に叫ぶんだ。【世界を許すな】【世界に復讐しろ】【世界を征服しろ】【砂名を殺した奴を血祭りにあげろ】【砂名から記憶を奪った奴を八つ裂きにしろ】【砂名の存在を世界に刻み込め】【世界から消されない存在になれ】って感じでね。頭の中にデスメタルバンドを飼ってるようなイメージだよ。で、私が指示厨の命令に逆らおうとすると、ますます声の激しさが増していく。一方、その声の言うとおりに動くと声の調子が落ち着きを取り戻す。どうにもわがままなんだよね、もう1人の私は」

「そのうるさい声を聞かなくてよくなるように、嫌々世界征服を始めたのか?」

「無理やりやらされたわけじゃないよ。私の存在を家族がもう必要としていないことを知って、ショックを受けて、そこでタイミング良く頭の中の指示厨の声が世界征服を唆してきたから始めた、というだけ。単なるきっかけに過ぎないよ。……私にも、ちゃんと世界征服への動機はある。嫌々世界征服をやってる程度のモチベーションで、ほんの2か月で新人類教団の信者を千人超も増やしたりなんてできないでしょ? 特定の人を痛めつけて信者を団結させる結束の儀だって、元は内なる私が強く望んだことだけど、その望みを叶えたのは他ならぬ私だしね」

「……」

「今まで、私は基本、内なる私の声に逆らわずに生きてきた。ほとんどすべての記憶を失った私にとって、もう1人の私の声は数少ない心の支えでもあったから。でも、私は今日、内なる声が放つ命令に、明確に逆らった。あのどうあがいても私に拷問される未来しか残されていない絶対的に絶望的な状況で、私への激重な愛を語った士道くんを世界征服に巻き込むのはアリかもしれない。そう考えて、私は内なる声に逆らった。声の方は【そいつを許すな】【復讐しろ】【殺してくれって懇願してきても拷問し続けろ】ってデスボイスで連呼しまくってたけどね」

「そう、だったのか……」

 

 砂名は多少なりとも心に住まうもう1人の自分からの影響を受けつつ活動していた。その事実を知った士道は、改めて己が綱渡りの末、ギリギリの所で砂名から殺される未来を回避していたと悟り、内心で冷や汗を流す。あの時、士道が脳内で三択選択肢を選んだ時、もしも③ではなく、①や②を選んでいたら、どうなっていたか。想像するだけで恐ろしい。

 

 

「けれど、声に逆らってみて正解だった。声に逆らったことで、今日を凄く楽しく過ごせている。楽しかったんだ、本当に。士道くんとデートしている間も色々と内なる声は叫んでいたけれど、なんでだろうね、不思議と全然気にならなかった。――ありがとう。それもこれも、ストーカーの士道くんに出会えたおかげだ」

「俺は砂名さんを殺したのに、それでも感謝してくれるのか?」

「普通の感性を持つ人なら、自分を殺した人に感謝するのはおかしいんだろうね。でも私は今、士道くんにありがとうって言いたかった。多分、士道くんのよく知る生前の私も、いつまでも終わったことを引きずらないタイプだったんじゃないかな?」

「砂名さん……」

「今までは、世界征服こそが私の心の支えだった。でも今日、記憶を失ったからこそできる楽しみ方が、生き方があるって士道くんが教えてくれた。きっと私にはこっちの方が性に合っている」

「もしかして、世界征服をやめるつもりなのか?」

「私個人としては、もうやめたくなっちゃったかな。まだ半日しかデートしてないけど、何か心が満たされちゃってさ。だんだん、世界征服することがバカらしく思えちゃったんだ。……でも、私はこれまで世界征服のために多くの人を巻き込んできた。多くの人を私の信者に引き込んでおいて、いきなり『世界征服おーわり!』って宣言しちゃうのは、みんなを裏切ることになるから、申し訳なくて。だから、これから私がどうするかは、保留とするよ。ま、規模拡大を目指さずほそぼそと教団の活動を続ける辺りが落とし所になるんじゃないかなって想定しているよ」

 

 砂名は士道に真正面から感謝の意を伝えて、それから今後の己の大まかな方針を士道に告げる。士道は砂名の心変わりを心底嬉しく感じると同時に、少しだけ、ほんの少しだけ拍子抜けしていた。確かに士道は砂名の世界征服への意欲を削ぐために、砂名の記憶復活デートを持ちかけた。けれど、砂名がたった半日にも満たないデートで、しかも砂名を夢唯と出会わせるよりも前に、あっさり方針転換してくるだなんて欠片も想定していなかったからだ。

 

 

「士道くんを世界征服に誘っておいて、手のひら返ししちゃってごめんね?」

「いや。俺はあくまで砂名さんの力になりたいだけで、世界征服を手伝いたいわけじゃないからな。砂名さんが世界征服よりもやりたいことを見つけたっていうのなら、俺は砂名さんの新たな生き方をサポートするまでさ」

「……士道くんってホントにストーカー? 人間できすぎてません?」

 

 砂名から謝られた士道が改めて己の真意を砂名に伝えると、砂名はおどけたような笑みを浮かべる。が、刹那。砂名が突如顔をしかめたかと思うと、「ぐッ!?」とくぐもったうめき声を上げて、電車の床に倒れ込んだ。

 

 

「砂名さん!?」

「ごめん、驚かせちゃったね。いきなり内なる声が【――ふざけるなッ!!!】って激昂してきてさ。あまりの不意打ちの絶叫につい脳みそを揺さぶられちゃったよ」

「……それって大丈夫なのか、砂名さん? あまりにも声が酷いようなら今日の記憶復活デートはここまでにするってのも――」

「――それはダメ。私は度を越えた焦らしプレイは嫌いなんだ。ここまで来たのにお預けだなんて、お断りだね。私は大丈夫だから、気にしないで」

 

 士道が慌てて砂名の体を起こして電車の席に座らせると、砂名は荒い呼吸を繰り返しながら、砂名に発生した変調の原因を明らかにする。砂名の体調が明らかに悪化していることを受けて、士道がおずおずとデートの中断を提案するも、砂名は食い気味に士道の提案を却下した。砂名は、ダラダラと汗を流しながらも、士道を安心させるべく笑いかけ、デートの続行を強く望む。

 

 

「それより、目的地まであとどれくらいで着くの?」

「そ、そうだな。あと10分くらいだ」

「そっか。……楽しみだなぁ。次はどんな私が見つかるんだろう?」

 

 このままデートを続行するべきか。今の明らかに体調が悪化している砂名を、妹の夢唯と会わせるべきなのか。士道が思い悩む中、砂名はにこやかに笑みを浮かべて、軽く息を吐くのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「おー、これはちょいと意外かも。ここが目的地?」

「あぁ」

 

 電車を降りた後、千葉の田舎町をしばし歩き、士道は砂名を目的地たる墓地へと連れていくことができた。己の想定が外れた砂名はデートスポットしては明らかにふさわしくない墓地をきょろきょろと見渡し、その後士道の意図をうかがうように視線を向けてくる。

 

 

「もしかして今から有名な心霊スポットで肝試しをするとか、そーゆーノリだったり?」

「はは、さすがに困惑するよな。けど、もう少しだけ俺を信じてついてきてくれ」

「今さら士道くんを疑ったりしないって。りょーかい」

 

 士道と砂名は階段を数段上がり、墓地の中を歩み続ける。幾多もの墓が立ち並ぶ中、士道は霜月家の墓へと砂名を導いていく。士道はさりげなくスマホを見る。時刻は17時03分。夢唯がちょうど墓参りをしている時間だ。これならば士道が狙ったとおり、砂名と夢唯をエンカウントさせることができるだろう。砂名と夢唯を水入らずで会話させる機会を用意できるだろう。

 

 

 ――そんな、士道のもくろみは。

 

 

「あ、あなたたちは誰なのです! やめて、離してください!」

「このガキ! 抵抗すんじゃねぇ!」

「おい、早く手錠使え!」

 

 霜月家の墓の前で。霜月夢唯が複数の男性に押さえつけられ、無理やり後ろ手に手錠をかけられている光景を目撃したことで、士道のもくろみは完全に瓦解した。

 

 




五河士道→好感度の高い精霊とキスをすることで、精霊の霊力を吸収し、封印する不思議な力を持った高校2年生。此度、砂名と一緒にデートするうちに砂名の違和感に気づき、砂名の二重人格の話を引き出すことに成功した。
霜月砂名(さな)→かつて、記憶を失いただの志穂だった少女に『霜月』の苗字を与えた女性。享年18歳。砂名の言う『内なる声』から過干渉を受けたせいで今は体調があまりよろしくないようだ。
霜月夢唯(むい)→霜月砂名の妹。千葉の高校に通う1年生。砂名の死後、毎日お墓参りしている。今日も日課の墓参りをしていたところ、なぜか複数の男性に襲われた。

次回「望みの代償」
 

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