【完結】死に芸精霊のデート・ア・ライブ   作:ふぁもにか

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13話 状況整理

 

 霜月家のお墓のある墓地での一連の出来事の後。士道は琴里に連絡して己の無事を伝えた上で、ラタトスク機関の地下施設へと帰還した。拠点へと帰還した士道を待ち受けていたのは総勢10名。内9名は士道が封印した元精霊:鳶一折紙、四糸乃、五河琴里、七罪、八舞耶倶矢、八舞夕弦、誘宵美九、夜刀神十香、霜月志穂。そして、解析官の村雨令音だ。

 

 新人類教団の集会会場で霜月砂名にさらわれてからというもの、約8時間ほど消息不明だったこともあり。士道の姿を見るや否や、琴里は司令官モードで士道を出迎えつつも安堵に満ちた笑みを浮かべ、十香は喜びを表現するように思わず士道に抱き着き、士道がさらわれた責任を感じていた志穂は涙をボロボロ流して士道の手をそっと握って、などなど。士道の帰りを待っていた面々は、しばし士道を囲み、思い思いの表現方法で、士道の無事を喜んだ。

 

 士道がみんなの反応を一身に受け止め、興奮モードのみんなが落ち着きを取り戻してきた頃。地下施設の一角、仮設のブリーフィングルームへと場所を移した上で士道は、此度の士道が拉致された一件を契機として、士道がこれまで知ったすべてを共有した。

 

 

「「「……」」」

 

 士道が一通り話し終えた時、ブリーフィングルームを沈黙が支配する。ある者は士道の話にどう反応すればよいかわからず周りの様子をうかがい。また、ある者は士道の話を受けて識別名:扇動者(アジテーター)への考察を行い。ある者は頭にいくつものクエスチョンマークを浮かべ。結果として、うかつに言葉を切り出せない状況が構築されつつあった。

 

 

「一旦、シンの話を整理しようか」

「……すみません、令音さん。お願いします。俺も、うまく話せた気がしないので」

「気にすることはないよ。それだけ扇動者(アジテーター)を取り巻く事情はややこしい、ということだからね。みんなも、私の話す内容で気になる点があったら、話を遮ってもらって構わない」

 

 しかし、場の雰囲気など知ったことかと令音が沈黙を破る。令音からのありがたい申し出に士道が頭を下げると、令音は士道に微笑みを返し、この場の皆を一瞥してから、此度の事態を簡潔に整理するべく口火を切った。

 

 

「まず、ここ2か月間で、天使:〈夢追咎人(レミエル)〉の力を使って、新興宗教:新人類教団を拡大させてきた精霊がいた。彼女は自分の名前を『霜月砂名』と名乗っていたが、その正体は砂名の妹の霜月夢唯だった。本人曰く、彼女が行使する天使:〈夢追咎人(レミエル)〉とは、夢幻を司る天使とのこと。そしてこれまで〈夢追咎人(レミエル)〉で行使できる能力として明らかになっているものは計5つ。1つ目は、対象を望んだ姿に変身させる【願亡夢(デザイア)】。2つ目は、実体のある幻影を生み出す、または他者からの認識を誤解させる【迷晰夢(ミスディレクション)】。3つ目は、対象を霧に変化させて瞬間移動する【胡蝶之夢(バタフライ)】。4つ目は、対象の脳に自身の妄想を叩き込む【亜苦夢(ヴィジョン)】。最後は、対象の記憶を改竄する【剥誅夢(アムニージャ)】。この内、夢唯は【願亡夢(デザイア)】で砂名の姿に変身し、【剥誅夢(アムニージャ)】で己の記憶を改竄し、3年前に死んだはずの砂名が3か月前に記憶喪失状態で生き返ったという設定を自分に与えた可能性が高い」

「どうして、夢唯さんはそんなことを……?」

『何をやりたいのかが意味不明だよねー?』

「夢唯はシンを殺す前に、『やり直さないと。全部リセットして、お姉ちゃんをやり直さないと』などと言っていたそうだね? そもそも夢唯は毎日砂名の墓参りをするほどに、砂名に強い想いを抱いていたのだろう? その強い気持ちが夢唯を突き動かしているのかもしれないが、憶測の域を出ないね」

 

 令音のおかげで夢唯がどのようにして砂名に変身していたのかを知った四糸乃&四糸乃が右手に装着している兎のパペット:よしのんが、夢唯の動機に疑問を抱くと、令音は現状でありうる動機を1つ提示するも、あくまで今は状況整理が目的であるため、動機に対し深く言及することを避けた。

 

 

「疑義。そもそも砂名の正体が変身した夢唯だとすると、毎日お墓参りをしていたという夢唯は一体何者なのでしょうか?」

「然り、確かに意味不明だな。『砂名=夢唯』説が正しいとすると、同時刻に夢唯が2人いたことにならぬか?」

「夢唯が2人いた、というのは正しい。墓参りをしていた夢唯は、本物の夢唯が【迷晰夢(ミスディレクション)】で作った、幻影の夢唯だったのだろう。実際、夢唯が車に轢かれた時、飛び散っていたはずの血や、夢唯の遺体が消えたとのことだからね」

「つまり、夢唯も狂三と同じように分身を作れるのだな」

 

 と、ここで。双子の精霊こと耶倶矢&夕弦がそれぞれ疑問に抱いていた同質の質問を口に出すと、令音が双子の疑問を解消するべく有力説を提唱する。その説を受けて十分に納得できた十香は、うむと1つうなずく。耶倶矢&夕弦も十香と同様の心境だった。

 

 

「そもそも、どうして砂名の変身が解けたのかしら? 夢唯が記憶を改竄してまで、砂名になりきっていたのに、幻影の夢唯が車で潰されたタイミングで、いきなり本物の夢唯の変身が解けて、記憶も戻った理由がよくわからないのよね」

「その件は、夢唯の目的を紐解くと1つの仮説を用意できる。まず、夢唯の目的は2つある。1つ目は、霜月砂名として生きること。2つ目は、世界征服をすること。だが、本来の砂名が世界征服を望む性格ではない以上、夢唯が砂名を世界征服に誘導する必要がある。……砂名は自分が二重人格なのではないかと疑っていたのだろう? そしてそのもう1つの人格は、主に世界征服や世界への復讐を望んでいた。この人格こそが、夢唯の意思なのではないかな。夢唯は、砂名に変身した上で世界征服を確実に遂行するために、【剥誅夢(アムニージャ)】で己の記憶を改竄した際、砂名が自覚しきれない領域に、世界征服を望む己の意思をわずかながら残していたのだろう。このことを前提にすると、偽物の夢唯が死亡した際、砂名の中にある夢唯の意思は、『自分が死亡した』と誤解したのではないかという説が成り立つんだ。死んだ精霊は、当然ながら天使を行使できない。夢唯は自分が死んだものと勘違いし、天使を行使できなくなったものと思い込み、それで変身が解けてしまった、そう私は考えているよ」

「なるほどね……」

 

 続いて琴里から提供された質問に、令音は現時点の己の推理を披露する。琴里は令音の推理にこれといった矛盾がなく、理解できる範疇だと判断し、腕を組んだ。令音は周囲を見やり、他のメンバーから質問がないことを確認してから言葉を続ける。

 

 

「先に話した通り、夢唯の目的は『霜月砂名として生きること』と『世界征服をすること』だ。そして夢唯は、自分が砂名に変身して世界征服をしようとしていた事実を誰にも知られたくないと考えている。事実、夢唯は墓地で変身を解いてしまった後、砂名への復讐のために犯罪に手を染めた男たちに【剥誅夢(アムニージャ)】を使い、記憶を改竄している。改竄後の彼らが、砂名への復讐心を失っていたことから、おそらく砂名や夢唯に関する一連の情報をすべて消したのだろうね。そして、夢唯は次にシンに【剥誅夢(アムニージャ)】を使おうとしたが、シンの記憶は改竄できなかった。だからこそ、夢唯はシンを本気で殺しにかかった」

「どうして、夢唯さんはだーりんの記憶を改竄できなかったんでしょう?」

「シンの体には、これまで封印したみんなの霊力が内包されている。夢唯以外の霊力を持つ人には、夢唯の記憶改竄能力は通じないのではないかな? 同様に、シンが封印したとはいえ、君たち元精霊の体にも霊力が残っている以上、君たちにも夢唯の記憶改竄能力は通じないものと想定できるね」

「それは残念。士道が封印に成功した後で、夢唯に協力してもらおうと思っていたのに」

「……折紙、あんたが何を考えていたかは敢えて追求しないことにするわ」

 

 美九がコテンとかわいらしく首を傾げつつ提示した問いに、令音は【剥誅夢(アムニージャ)】が通用した男たちと士道とを比較し、結果生成された最有力の可能性を美九に回答する。すると、折紙が無表情のまま淡々とした声色で小さくため息を吐き、折紙の企みの仔細にすぐに思い至った琴里は、こいつは相変わらずだなといった視線を折紙にぶつけた。

 

 

「毒の影響もあり、夢唯はシンを殺せず、シンの提案を聞き入れて一時退却した。しかし、夢唯は秘密を知るシンの殺害を決して諦めてはいない。シンに遺書の作成や家族や友人への別れのあいさつを勧めてきた以上、数日の猶予はあるだろうが、夢唯は必ずシンを殺すために再び姿を現してくる。その時までに、我々は情報収集をしなければならない。夢唯に目的を諦めてもらうために。シンに夢唯を攻略してもらうために。……これが今の状況になるね」

「あの、質問ッス。夢唯さんが士道先輩を殺したがっているのは、士道先輩が秘密を知っていて、【剥誅夢(アムニージャ)】で記憶を改竄できないからッスよね? だとすると、今こうして夢唯さんの秘密を知った私たちも夢唯さんの殺しの標的になったってことッスか?」

「何らかの方法で今の私たちの会話を盗聴しているのならありえるね」

「ッ!」

「ただし、盗聴している可能性は低く見積もっている。夢唯は秘密を知られることを凄まじく嫌がっていた。もしも盗聴しているのなら、この瞬間にも夢唯は【胡蝶之夢(バタフライ)】で瞬間移動してこの場に姿を現し、私たちをまとめて殺そうとするだろう。よって、この場に夢唯が来ないことが、夢唯が盗聴していないという証明になる」

「そ、そうッスか。良かったッス」

 

 士道の話に基づいた状況整理を終えた令音に志穂がおそるおそるといった様子で質問する。対する令音が志穂を安心させるように優しい口調で回答すると、志穂はホッと胸をなでおろした。

 

 

「――いえ、聞いてますけど?」

 

 刹那。声が響いた。その声は、ブリーフィングルーム内の11人とは異なる、新たな声だった。士道や志穂にとって、聞き覚えのある声だった。

 

 

「夢唯!?」

 

 士道が声の主の名を呼ぶと同時に、ブリーフィングルームの一角に霧が結集し、1人の少女が舞い降りる。艶のある黒髪を腰までたなびかせた、白を基調とした仰々しい司祭服をまとった少女。幼げな見た目とは裏腹に、諦観しきった漆黒の瞳が特徴的なその少女は、先ほどまでの話題の中心にいた精霊:扇動者(アジテーター)こと霜月夢唯だった。

 

 この場に夢唯が登場したということは、夢唯の秘密を含んだ今までの話を盗聴されていたことを意味し、それはすなわち、ブリーフィングルーム内の士道たち全員が夢唯の殺害対象になってしまったことに他ならない。ゆえに十香たち精霊は、封印されている状態でも顕現させられる限定霊装と天使を装備し、夢唯に対し警戒を顕わにする。しかし、様々な天使を向けられている当の夢唯は、士道たちの様子を一瞥した後、ペコリと頭を下げた。

 

 

「あ、その……ごめんなさい、ちょっと驚かせすぎたのです。どうせ姿を現すのならインパクトのある登場にしたくて、だから、そこの眠そうなお姉さんが『ボクが盗聴してない説』を推してきた時に『ここしかないのです!』って思って発言しただけなのです。ボクにみなさんを殺す意思はないのです、安心するですよ」

「信用できない。言葉はいくらでも取り繕うことができる」

「ボクに殺意があるのならわざわざこんな目立つように登場しないで、容赦なく不意打ちで何人かの首を飛ばしますけど? それでも信用できないです?」

「……」

「うーん。自業自得なのはわかっているですが、まるで話を聞いてくれないのは困ったものですね」

 

 夢唯は両手を上げながら敵意がないことをアピールするも、特に折紙は夢唯の発言を一切信用せず、いつでも天使〈絶滅天使(メタトロン)〉の光弾を夢唯に放てる体勢を維持するのみだ。しかしそれでも夢唯は反撃や回避の構えを一切取らず、困り顔を浮かべるのみだ。

 

 士道たちの前に現れた夢唯の様子と、つい数時間前の士道を殺す気満々だった夢唯の様子が繋がらない。と、そこで。士道はあることに思い至った。

 

 

「もしかして、君は幻影の方の夢唯なのか?」

「正解ですよ、士道さん。さっきバンに轢かれて死んだ方の偽物の夢唯です。昨日、士道さんと志穂さんと墓地で会った夢唯でもあるのですよ。ややこしいので、この場ではボクのことをシャドウとでも呼んでください」

「じゃあ、シャドウ。墓地から去った後で、夢唯が君を生み出したってことか?」

「ですです。夢唯は砂名お姉ちゃんに変身した状態で世界征服をすることを望んでいるです。けれどその野望を果たそうとするとなると、何日も自宅を空けて、学校にも通わず、世界征服達成のためにひたすら邁進しなければなりません。けどそうすると、ボクの学友や両親をいたずらに心配させてしまうし、ボクの最終学歴が中卒になってしまうリスクもあるし、お姉ちゃんのお墓も放置されて汚くなってしまうです。なので夢唯はシャドウを、ボクを作って、ボクに日常を送らせるようにしているのです」

 

 士道から問いかけられた夢唯は嬉しそうにわずかに顔を綻ばせながら、己が幻影の夢唯:シャドウだと告白する。そのままシャドウは己が夢唯から生み出されている理由を饒舌に語っていく。

 

 

「それで? その日常を送るはずのあなたがどうして私たちの前に姿を現したのかしら? そもそもどうしてここがわかったの?」

「まずは後者から答えましょう。簡単な話なのです。夢唯が士道さんに【亜苦夢(ヴィジョン)】を使った時、己の霊力を士道さんの中に潜らせることで、士道さんの居場所をいつでも捕捉できるようにしていたのです。要はマーキングです。……まぁ当然ですよね? 士道さんの居場所がわからなければ、夢唯は士道さんを殺しにいけないので。そして、幻影のボクも、ある程度は士道さんの中にある霊力を探知したり、〈夢追咎人(レミエル)〉を使ったりできるので、それでこの地下施設の存在を知り、【胡蝶之夢(バタフライ)】で瞬間移動してきたのですよ。次に、前者の件ですが――」

 

 士道に続けて琴里から投げかけられた問いに、夢唯は一切秘匿せずに種明かしを続けていく。その後、夢唯は漆黒の瞳で全員を改めて見渡してから、士道たちの元に登場した理由を簡潔に告げた。

 

 

「――夢唯の世界征服だなんてバカげた行為を止めるため。そのためにみなさんに協力してほしくて、だからここへ来たのです」

 

 沈黙。ブリーフィングルームを沈黙が支配する。それくらい、シャドウから語られた理由は士道たちにとって想定外だったのだ。何せシャドウが告げた理由は、夢唯の目的を真っ向から否定するもので。夢唯とシャドウが真っ向から対立している状況をカミングアウトしているも同義だったからだ。

 

 

「……あ、あのさ。もしかして。本物の夢唯はシャドウが私たちと会っていること、知らないの?」

「知らないですね。その気になればボクの居場所を把握するくらいはたやすいでしょうが、今の冷静な思考を失っている夢唯にボクの動向を気にする余裕はないでしょう。……要するに、今のボクは言うなれば、創造主に反逆しているロボットのような立ち位置なのです。そういうわけなので、そろそろボクへの警戒を解いてもらえると助かります。士道さんを殺す気満々の夢唯に反逆しているボクはみなさんの敵ではない、そう思ってもらえないですか?」

「「「……」」」

 

 皆の疑問を代表して七罪から発せられた問いにシャドウが回答しつつ、士道たちの武装解除を要請してくる。士道たちは互いに顔を見合わせると、元精霊たちは誰からともなく天使を、限定霊装を解除した。シャドウのことを完全に信じたわけではないが、これまでのシャドウとの会話からして、少なくとも今この瞬間に、シャドウが士道たちに刃を向けることはないだろうとの見解で一致したためだ。

 

 

「信じてくれて、ありがとうございます」

「シャドウ。君は俺たちにどう協力してほしいんだ?」

「そうですね。まずは夢唯の過去を聞いてもらいたいと考えています。みなさんが夢唯の過去を知ることで、夢唯の世界征服を諦めてもらうための説得方法を思いついてくれるのでは、と期待していますので」

「だが、シャドウは夢唯とは違うのだろう? お前は夢唯の過去を知っているのか?」

「心配ありません。ボクは夢唯の幻影ですから、夢唯の記憶もちゃんと保持しているです。……ただし、夢唯の過去を話すにあたり1つ、条件があるのです」

 

 士道から協力の詳細を問われたシャドウは、夢唯の過去の静聴を要望する。そして十香からの疑問に回答してから、シャドウは人差し指をピンと立てて、条件を提示し始めた。

 

 

「夢唯の過去を話す相手を限定したいのです。具体的には、夢唯の【剥誅夢(アムニージャ)】が通じないらしい人だけにしか話したくないです。つまり、そこのおねむなお姉さん以外のメンバーにしか話したくないです」

「私が席を外して別室に行けばいい、ということかな?」

「それだけじゃ足りないです。場所を変えたいです。できれば第三者が絶対に介入してこないような、人気のない隔離された施設が望ましいのです。その手の施設に心当たりはありませんか?」

「そこまでする必要があるの?」

「あります。理由は、察してほしいとしか今は言えないですね。……どうでしょうか?」

 

 シャドウから示された条件を受けて令音がブリーフィングルームから退出しようとするも、シャドウは場所の変更も併せて要求する。いまいちシャドウの意図がわからず小首をかしげる琴里に、これまで隠し事をしてこなかったシャドウは初めて言葉を濁し、すがるような眼差しで士道たちを見つめてきた。

 

 

「仕方ないわね。結局、断ったところで情報は増えない。夢唯のことを知ることができるなら、多少の妥協はやむを得ないわね。けれど、隔離された施設ね……」

「それなら、あの場所ならどうだろうか?」

 

 結局、琴里は夢唯の条件を受け入れた上で、シャドウの望みに叶う施設を検討し始める。と、その時。令音が条件に合致するとある場所を候補として挙げるのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 12月9日土曜日の午後8時半。士道、折紙、四糸乃、琴里、七罪、耶倶矢、夕弦、美九、十香、志穂、シャドウの11名は、天宮市の離れの森の中にひっそりと存在する、大規模な施設へと足を運んでいた。

 

 そこは、つい先週。士道がこれまで封印してきた精霊の力がオーバーヒートし、士道が暴走状態(ディザスター)となってしまった際に、精霊たちが士道を一斉に攻略し、キスをし、士道の暴走を鎮めるために使用した施設だった。当時、DEMインダストリー社の妨害や士道の暴れっぷり等の影響ですっかり半壊してしまったその施設は、シャドウが示した『第三者が絶対に介入してこないような、人気のない隔離された施設』という条件にこれ以上なく合致していた。

 

 

「良い場所ですね。ボク自身、無茶振りしてるなって自覚はあったのですが、すぐに最適な場所を用意してくれるあたり、さすがは裏社会で暗躍する『機関』ということでしょうか」

 

 車で士道たちを施設へと送り届けたラタトスク機関所属の職員が施設から離れて、施設に士道と、精霊しかいない状況が確立される中。シャドウは施設の一角、屋内プールをテクテクと歩きながら、改めて士道たちが所属する謎の機関の凄まじさを実感し、苦笑いをする。

 

 

「さて。のんびりしている時間はありませんし……早速、夢唯の過去を聞いてもらいます。つまらない昔話ですが、どうかご静聴ください」

 

 シャドウは士道たちへと振り返り、スッと目を閉じて。己の中から夢唯の記憶を掘り起こしながら、夢唯の過去を語り始める。夢唯の目的に必ずや繋がるであろう、夢唯の人生の軌跡。どこかでゴクリと緊張のツバを呑む音が聞こえた。

 

 

「タイトルは――『嫌い尽くしの女の子の話』」

 

 




五河士道→好感度の高い精霊とキスをすることで、精霊の霊力を吸収し、封印する不思議な力を持った高校2年生。夢唯を救うため、夢唯の幻影たるシャドウの口から紡がれる、夢唯の過去を一言一句たりとも聞き逃すものかという心境でいる。
夜刀神十香→元精霊。識別名はプリンセス。戦闘中は非常に頼もしいが、普段はハングリーモンスターな大食いキャラ。本作品では存在感が低いが、士道たちが高度な話をしている時に、しっかりついていこうとする姿はまさしくヒロイン。
四糸乃→元精霊。識別名はハーミット。人見知りなタイプ。諸事情から、兎のパペットに『よしのん』という人格を生み出している。夢唯のことをまだ掴みきれていない様子。
五河琴里→士道の妹にして元精霊。識別名はイフリート。ツインテールにする際に白いリボンを使っているか黒いリボンを使っているかで性格が豹変する。司令官の立場から、容易にシャドウの発言を信じないよう振る舞っている。
八舞耶俱矢→元精霊。識別名はベルセルク。普段は厨二病な言動を心がけるも、動揺した際はあっさり素の口調が露わになる。この手の皆で協議する場では、皆の認識を揃えるために敢えて、質問するといった立ち回りをすることもある。
八舞夕弦→元精霊。識別名はベルセルク。発言する度、最初に二字熟語をくっつけるという、何とも稀有な話し方をする。この手の協議の場では、逐次耶俱矢の心境を読み取って、耶俱矢の意に沿う発言を心がけている。
誘宵美九→元精霊。識別名はディーヴァ。男嫌いで女好きなタイプ。ただし士道(だーりん)は例外。夢唯がだーりんを殺害対象にしていることはあまり気にしていない。だって何だかんだ、だーりんは夢唯のことを救うものだと確信しているから。
七罪→元精霊。識別名はウィッチ。筋金入りのネガティブ思考で物事を捉える性格をしている。この手の大人数で今後の方針を話し合う場ではあまり積極的に発言を残さない。
鳶一折紙→元精霊。識別名はエンジェル。士道に封印されるまでは両親を殺した精霊に復讐することを原動力に生きてきた。普段、感情をあまり表情には出さない。折紙が夢唯に頼もうとしていた内容は、『1日間だけ、折紙と婚約済みという設定で士道の記憶を改竄してもらおう』というもの。
霜月志穂→士道に封印された残機1の元精霊。識別名はイモータル。メチャクチャ敬意や好意を持っている相手に対しては、年齢に関係なく『先輩』と呼ぶようにしている。砂名の遺族が士道を殺そうとしていることにただいま心を痛めている最中。
村雨令音→フラクシナスで解析官を担当している、ラタトスク機関所属の女性。琴里が信を置く人物で、比較的常識人側の存在。夢唯の情報をまとめる役をしかと全うしてくれた。
シャドウ→精霊:扇動者(アジテーター)こと霜月夢唯が生み出した、幻影の夢唯。自称『シャドウ』。夢唯の世界征服を防ぐために士道たちに接触したとの主張だが、その真意やいかに。

霜月夢唯「どうしてあの時、士道さんの記憶を改竄できなかったです? 謎なのです」
星宮六喰「むくの〈封解王(ミカエル)〉なら記憶を閉ざすくらい余裕じゃぞ?」
誘宵美九「私の〈破軍歌姫(ガブリエル)〉でもみなさんを洗脳できますよぉ?」
本条二亜「みんなを洗脳する方法なんて〈囁告篇帙(ラジエル)〉先生に聞けば一発だよ?」
霜月夢唯「なん、ですと……!?」


次回「嫌い尽くしの女の子」


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