どうも、ふぁもにかです。夢唯さんの過去編が終わったことにより、ここから物語はクライマックスへと向けて突き進め始めます。志穂さんの時は、過去編が終わった時点でもはや終盤でしたが、霜月コンクエストは夢唯さんの過去編が終わってからがある意味で本番です。お楽しみに。
天宮市の離れの森の中にある、現在半壊中のラタトスクの施設の一角、屋内プールにて。夢唯が天使:〈
「「「……」」」
シャドウが語る夢唯の軌跡の聞き手となっていた、士道・折紙・四糸乃・琴里・七罪・耶倶矢・夕弦・美九・十香・志穂は、皆そろって言葉を失っていた。
敢えて砂名の姿に変身して世界征服を目指す以上、夢唯に並々ならぬ動機があることは想定できていたことだ。しかし、それでも。夢唯が大好きな家族の死という悲劇を契機に、何を感じ、何を想い、己を消し飛ばし、砂名に成り代わった上で世界を征服しようとしていたのか、その仔細を知った士道たちは、素直に感想1つ安易に吐露する気分にすらなれなかったのだ。
「ふぅ、少しのどが渇きました。みなさん、ここまでご静聴いただきありがとうございます。……それにしても、あくまで幻影のボクのことではないとはいえ、本物の夢唯の過去をぺらぺら話すという行為は、まるで自分の黒歴史を黒歴史と気づかずに自慢げに話しているように感じて、ちょっと恥ずかしいですね」
だが、当のシャドウは平常運転だった。夢唯の沈鬱な過去の雰囲気に呑まれている士道たちをよそに、一通り語りたいことを最後まで語り終えたシャドウは、軽く咳払いをして、ほんのわずかに頬を紅潮させている。何というか、シャドウの様子は少々場違いだった。
「夢唯の過去について色々と聞きたいことはあるけれど、まずは本題を聞くのが先ね」
「そうだな。……シャドウ、君は何を俺たちに頼みたいんだ?」
夢唯の過去を語り聞かせたはずの張本人がのほほんとしていることによりどうにか平常心を取り戻した琴里は、脳裏に渦巻く様々な疑問をシャドウに問い詰めたい衝動をこらえて、本題を持ちかける。士道も琴里に賛同し、改めてシャドウの依頼内容を質問する。
「先ほどは夢唯に世界征服を諦めてもらうための説得方法を思いついてもらうことを期待して、夢唯の過去の話を聞かせる旨の発言をしましたが、それは撤回するのです」
「え?」
「みなさんには――あのクレイジーでサイコなシスコンを殺してほしいのです。みなさんならできるはずでしょう? 夢唯と同等の力を持ち、夢唯の力に抗える、みなさんなら。どうかお願いするのです。夢唯を殺してください。……どうしたのです? みんなそろって、まるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして」
シャドウが秘めていた本当の依頼内容を士道たちに告げた刹那、場が凍った。シャドウが口にした想定の埒外な依頼内容に士道たちが驚愕を隠せない中、シャドウは士道たちに深々と頭を下げてお願いをして、そこで初めて士道たちの様子がおかしいことに気づき、顔を上げて首を傾げた。
「いや、待て! 待つのだ! どうしてお前が、自分の生みの親を殺そうとするのだ!?」
「そう、ですよ。どうして夢唯さんを殺してほしいだなんて、言うんですか? ……私は、理解できません」
「いや、どうしてと言われても困るのです。どうしてみなさんがボクに追加の説明を求めてくるのか、それこそ理解不能なのです。夢唯の過去がそのまま、ボクが夢唯を殺してほしいと願う理由なのです。みなさんもわかったでしょう? 夢唯は生まれながらに異常者なのです。その異常性はお姉ちゃんの熱心なカウンセリングのおかげで薄らいでいましたが、お姉ちゃんが死んだことで異常性はぶり返しました。お姉ちゃんが好きすぎるあまり、お姉ちゃんの死を契機に夢唯は派手にぶっ壊れていきました。お姉ちゃんの死後、お姉ちゃんの部屋で過ごし始めて、毎日毎日霜月家のお墓を磨いて、お姉ちゃんの写真を、動画を鑑賞して、眠りにつくとともにお姉ちゃんの夢を見る。もう、中毒なのですよ。夢唯は、
十香や四糸乃からシャドウの殺害依頼の意図を問われたシャドウは、心底不思議そうな表情を貼りつけながら、己が夢唯を殺すべきと判断し士道たちに依頼するに至った理由を早口に述べていく。そうしてシャドウは一呼吸を挟んだ後、論拠の提示を再開する。
「で、そんな異常な人間が、
「それは……」
「夢唯はお姉ちゃんのためになると確信すればどんな犠牲だって生み出せてしまう、天災です。ま、所詮、夢唯はモザイクさんから与えられた借り物の力でブイブイいわせてるだけの俗物なので、夢唯の世界征服は成功せずにどこかで頓挫するんでしょうが……このまま放置すれば夢唯は、世界征服のために幾多の屍を築き上げ、間違いなく世界に大ダメージを負わせますよ? その辺、わかってます? 夢唯を止められるだけの力を持つあなたたちのやるべきことは、夢唯に中途半端に同情して刃を下ろすことではなく、世界と夢唯を天秤にかけて、世界を優先して夢唯という危険因子をこの世から排除することなのです。……ボクは何か、間違っていることを言っているですか?」
夢唯が危険な存在であること。夢唯が改心する手段が存在しないこと。これらの根拠を軸に夢唯を殺すよう主張するシャドウに、士道はどうにか反論の言葉を紡ごうとするも、シャドウはそれを遮り、何としてでも士道たちが夢唯殺害へと舵を切るように誘導を試みる。
「シャドウよ。確かに、貴様は間違ったことは言っていないのだろう。しかし我は解せない。どうして主に生み出された幻影の貴様が、そこまで強硬に主を殺そうとする? 従者は主に尽くしてこそであろう?」
「首肯。夢唯に生み出されたシャドウのあなたが、生みの親に明確に殺意を抱くこの現状に、私も疑義を抱いています。あなたが夢唯を殺したいと願う理由は本当に、夢唯が危険な人物だから、という理由だけですか?」
「……当然、他にも理由はあります。聞かないと納得できないというのなら話すです。夢唯に生み出された、夢唯の幻影たるボクには、夢唯の記憶がありますし、夢唯が今何をしているのかという記憶をいつでも参照することができます。……でも、それだけなのです。記憶から夢唯の今までの人生を観測こそできても、その時夢唯が何を思ったのかという感情を感じ取ることができないのです。……ボクはいわば、唐突に霜月夢唯の伝記本を渡されて、『お前は今から、この本を参考にして霜月夢唯に変装して生きろ』と命令されているような気分なのですよ」
どうシャドウに切り込めばいいのかについて上手く解を導き切れない士道の代わりに、耶倶矢と夕弦がシャドウに率直な問いを投げかけると、シャドウは己を始めとした夢唯の幻影の仕様について語り始める。
「つまり、ボクは夢唯の記憶を持っていて、ちょこっとだけ〈
「……それが、あなたが夢唯を殺そうとする理由なのね」
「はいです。今までは士道さんたちのような、夢唯に対抗しうる存在を知らなかったので、ボクは夢唯の命に従い、忠実に夢唯を演じることしかできませんでしたが……あなたたちの存在を知った以上、もう夢唯の唯我独尊なわがままに付き合っちゃいられないのです。……お願いなのです。夢唯が世界をメチャクチャにする前に、夢唯を殺してくれないですか?」
シャドウが夢唯を殺そうとする動機に琴里が納得すると、シャドウは己の気持ちを理解してくれたものと解釈して、早口に言葉を紡ぎ、改めて士道たちに夢唯殺害をお願いする。
「「「……」」」
屋内プールに、沈黙が支配する。士道たちは、どう夢唯に回答すべきかを決めあぐねて、互いに顔を見合わせる。しかし、士道たちは夢唯を殺すべきか否かという選択で迷っているわけではなかった。
ある者たちは、夢唯に共感を抱き、それゆえに夢唯を救いたいと強く願った。もしも家族が、双子の片割れがある日唐突に理不尽に殺されたとしたら、方法こそ違えど、己もまた夢唯みたいに間違いなく暴走することだろう。そのような未来が容易に想像できるからこそ、今現在思いっきり暴走してしまっている夢唯を救いたいと望んだ。
ある者たちは、夢唯に憐憫の情を抱き、それゆえに夢唯を救いたいと強く願った。夢唯は今、悲しみと絶望のどん底にいて、這い上がる方法を失い、ずっと沈んでいる。そんな彼女を負の感情で満たされた水底から引っ張り上げて、士道に救われた自分たちと同じように、彼女にも光で満ちたこの世界を体験させてあげたいと望んだ。
ある者たちは、夢唯が危険だと承知の上で、それでも夢唯を救いたいと強く願った。夢唯がいかに危うい性格をしているのかは理解した。しかしそもそも精霊は総じて天災であり、危ないものだ。そんな危ない精霊を相手に、手探り状態で攻略方法を探しながら、これまで何度もデートして、デレさせて、救ってきたのが士道であり。当の士道に救われたのが自分たち精霊なのだ。ゆえに、危ない思想を抱えて邁進する夢唯相手でも構わず、今まで通りに夢唯を救うことを望んだ。
ある者は、もとい志穂は、後悔の果てに夢唯を救いたいと強く願った。己が砂名を殺してしまったことで、人生が狂ってしまった者がいる。夢唯の暴走を引き起こしたのは、他ならぬ志穂だ。ゆえに志穂は、夢唯の暴走を止めることを、夢唯に捧ぐ最初の贖罪とすることを望んだ。
そう。どれほど霜月夢唯が危険人物だろうとも。夢唯の世界征服をやめさせる説得方法がわからなくても。決して夢唯を見捨てない。諦めて夢唯を殺したりなんてしない。必ず夢唯を救ってみせる。これが、士道たちの物言わぬ総意だった。
「…………正気なのです?」
「ごめん、シャドウ」
場は相変わらず無言のまま硬直している。しかしシャドウは士道たちの雰囲気から、士道たちが導出した結論を察し、わずかに目を見開き、信じられないといった声色で問いかける。そんなシャドウに対し、士道は一言、謝罪した。士道たちを頼ってきたシャドウを突き放す結論となったことに、士道は目を伏せて謝る。
「はぁ、そうですか。……失敗なのです。もしかしなくても、いっそ夢唯の事情を話さなかった方がまだ、みなさんが夢唯を殺してくれる可能性ありましたかね、これ。そっか、失敗かぁ。どうしてこうも、この世界はボクの思惑通りに動いてくれないのやら」
シャドウは屋内プールの屋上を見上げて、小さくため息を吐く。シャドウはこの状況ではいくら理論武装をしても、士道たちの心変わりを期待できないと判断したようだ。
「で、何のつもり?」
「……何のつもり、とは?」
と、ここで。琴里が剣呑な視線でシャドウを射抜き、突き放つような鋭い口調で問いかける。夢唯がコテンと首を右に傾ける。素直に琴里の発言の意図を図りかねている様子だ。
「シャドウ。あなたは夢唯の記憶をいつでも参照できるのよね? それなら当然、今日の士道とのデートの記憶もあるわよね? それなら士道の人となりはよくわかっているでしょう? 夢唯の過去を聞かせたことで、『よし、夢唯は危ない奴だから殺そう』だなんて結論を出さない男だってことくらい、あなたはわかっていたはずよ。それなのにどうしてわざわざ私たちに夢唯の過去話を聞かせたの? 士道が、私たちがまず首を縦に振らない夢唯の殺害依頼を、どうして吹っ掛けてきたの?」
「あなたはやたらと疑い深い人のようですね。この世の人間はボク含め、大抵馬鹿ばっかりなのですよ。誰も彼もがあなたみたいに深慮遠謀をめぐらせているわけないじゃないですか。ボクは、みなさんに夢唯を殺してもらうためには、夢唯の過去を共有することが欠かせないと思ったから話したまでです。逆効果だったようですけどね。……でも、そうですね。仮に他に理由があるとするなら、ボクはただ――」
琴里の問いにシャドウがほんの少しだけ思案した後に回答しようとした、刹那。ザクッと音が鳴った。それは、シャドウの胸に鋭利な刃物が突き立てられた音だった。シャドウの背後に、シャドウとまるでそっくりな黒髪の少女が、きらびやかな司祭服をまとった精霊:霜月夢唯が立っていて、手に持つ日本刀でシャドウの心臓を貫いた音だった。
「――よけいなことをいうな」
「が、ふッ――」
士道たちが眼前のショッキングな光景に目を見開くことしかできない中。夢唯がシャドウの体から日本刀を抜き取りつつシャドウに吐き捨てる。赤い鮮烈な液体がシャドウの胸から噴出する中、シャドウは力なく床に倒れ、しかし血の滴る日本刀を握りしめる夢唯を視界に捉え、あざ笑う。
「はは。思ったより、来るのが早かったですね。その焦りようからして、よほどボクの行動は都合が悪かったのですね。良い気味なのです。……それにしても幻影を解除すればボクを消滅させられるのにわざわざ不意打ちで胸を得物で貫いて殺すだなんて、趣味が悪いのです。さすがは、夢唯。醜さ一等賞――」
「うるさいのですよ!」
シャドウの胸の傷は傍目から見ても致命傷だった。それでもシャドウは夢唯を見上げて侮蔑する。対する夢唯は、シャドウが突きつけてくる発言を受けて、怒りの為すがままに日本刀でシャドウの首を斬り落とした。シャドウの首はしばし宙で回転し、赤い道筋を遺しながら床を転がっていく。その後、シャドウの首が、胴体が、床を染めていた血がすべて霧となって消失する。
「【
続けて夢唯は士道たちに手のひらを差し出して天使〈
「はぁぁぁ。やっぱり通じないですよね。そんな気はしていたです。薄々感じてはいましたが、ボクの〈
「夢唯!」
「ふぅ。さっきぶりですね、士道さん。宣言通り、あなたを殺しにはるばる参上したのです。ちゃんと知己に遺言は残したですか? まぁ残していなくても今から殺すですが。恨むなら迅速に遺言を残さなかったノロマな自分自身を恨むのです」
夢唯は深々とため息を吐き、苛立ちを隠さず髪をぐしゃぐしゃ掻きむしるも、士道から名を呼ばれるやいなや、苛立ちの感情を心の奥にあっさりと封印してケロッとした表情で語りかけてくる。
士道は、夢唯の感情が読めなかった。シャドウを殺した時や士道たちの記憶を改竄しようとした時は目に見えて激昂していたのに、士道に言葉を返す夢唯はどこまでも冷静で。どこに本当の夢唯が存在するのかをまるで推測できなかった。
「しっかしまぁ……」
一方の夢唯は、屋内プールの構造を軽く一瞥して把握し。
それから士道と、元精霊たちに視線を移す。
――そして。
「最悪なのです。ボクの幻影が勝手なことをしたせいで、士道さんだけじゃなくて、この場の全員を殺さないといけなくなったじゃないですか……!」
明確な殺意を漆黒の瞳に宿し、激情に身を任せて。
日本刀を士道たちに突きつけて叫ぶのだった。
五河士道→好感度の高い精霊とキスをすることで、精霊の霊力を吸収し、封印する不思議な力を持った高校2年生。夢唯の過去を知り、ますます夢唯を救いたい心境に至った士道は、精霊たちと目線で認識を共有した後、夢唯の殺害依頼を明確に断ることとした。
五河琴里→士道の妹にして元精霊。識別名はイフリート。ツインテールにする際に白いリボンを使っているか黒いリボンを使っているかで性格が豹変する。シャドウが持ちかけてきた夢唯の殺害依頼には裏があると読んでいるようだが、琴里の読みは果たして当たっているのか。
霜月
シャドウ→精霊:
というわけで、次回は戦闘です。戦闘描写の都合上、地の文が多めになってしまうので、適宜飛ばしながら読んでやってください。
次回「夢追咎人の猛攻」