【完結】死に芸精霊のデート・ア・ライブ   作:ふぁもにか

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エピローグ① とある夢の後始末

 

 世界征服願望を持つ精霊:霜月夢唯との激闘から、数日が経過した。

 士道の説得により世界征服を、砂名への執着をやめた夢唯は、己の野望のために巻き込んだ多くの人々に対し、彼らを元の生活に戻すための暗躍を始めたようだった。

 

 暗躍する夢唯の姿を士道が直接目撃したわけではなかったが、夢唯が精力的に活動していることは、士道の送る日常の随所から読み取れた。まず周囲の人々の会話から『新人類教団』という言葉をまるで聞かなくなった。次に新人類教団の信者であることを示す、黄色のミサンガを左手に巻く人を見かけなくなった。

 

 中でも、士道目線で夢唯の暗躍っぷりが顕著に表れたのは、12月11日の月曜日に来禅高校に登校した時のことだった。先週の金曜日には凄まじい筋肉の鎧を纏っていた士道の悪友、殿町宏人が元通りの中肉中背の姿に戻っていたのだ。

 

 殿町曰く『路地裏の怪しい商人からもらったモテ薬を興味本位で飲んだ後の記憶がない』とのこと。殿町から筋骨隆々だった時の記憶はきれいさっぱり消えており、夢唯が〈夢追咎人(レミエル)〉の【剥誅夢(アムニージャ)】で殿町の記憶を改竄したであろうことが容易に推測できた。

 

 また、士道のクラスメイトにも夢唯の【剥誅夢(アムニージャ)】による記憶操作が加えられているようで、殿町に対する皆の認識は、『この前の五河も体力測定で平然と世界記録ぶっちぎってて明らかにおかしかったし、次は殿町がおかしくなっただけだろう』といったふわふわとしたものだった。

 

 ディザスター状態だった当時の記憶があやふやな士道は、あの筋肉まみれな殿町と同列に扱われていることに内心複雑だったが、残念ながら、これが夢唯が考えた最も丸く収まる結末なのだろうと、受け入れる以外の選択肢はなかった。

 

 そのような気持ちを抱える士道をよそに、筋肉信仰から脱却した殿町はいつものように、タイミングを見つけてはスマホの中にいる二次元の嫁(マイハニー)に愛を語りかけていた。

 

 殿町を始め、夢唯により新人類教団の信者は1人、また1人と日常に戻っていく。〈夢追咎人(レミエル)〉の【願亡夢(デザイア)】により理想の自分に生まれ変わっていた頃の記憶を、【剥誅夢(アムニージャ)】により違和感がないように改竄された上で、何事もなかったかのように日々の生活に回帰していく。

 

 日が過ぎるごとに、新人類教団は存在感を失っていく。そうして数日経つ頃には、まるで天宮市で新人類教団が尋常でないペースで勢力を拡大していたことがすべて噓であったかのように。一夜の夢であったかのように。とある新興宗教は跡形もなく消失したのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「報告は以上だ。ラタトスクが夢唯の作業を手伝う必要はないだろう」

「楽をできるのは助かるけど……〈夢追咎人(レミエル)〉ってつくづく何でもありね。教団の集会で、不特定多数に『精霊』や『AST』のことを暴露していたから、収束させるのはそう簡単じゃない想定だったんだけどね」

 

 12月15日金曜日の放課後。中学校から下校した琴里はその足でラタトスク機関が所有する地下施設の臨時指令室へと赴き、令音から天宮市の現状の報告を受けていた。夢唯の暗躍により、夢唯の世界征服活動による影響がほぼ完全に消え去っていることを知った琴里は、改めて〈夢追咎人(レミエル)〉の凄まじさを認識し、ゴクリとツバを飲む。

 

 

「お褒めいただきありがとうございます」

 

 と、ここで。琴里と令音のみの臨時指令室に3人目の声が届く。刹那、琴里の眼前に霧が結集し、セーラー服姿の夢唯が姿を現す。

 

 夢唯と士道たちとの戦闘の後。夢唯はこれまで数回、琴里や令音の前に姿を現していた。その目的は主に2つ。1つ目は、精霊とは何か、ラタトスク機関とは何かといった精霊に関する様々な情報を教わるため。2つ目は、士道に封印された後の夢唯の生活について打ち合わせをするためだ。だが、夢唯はなぜかいつも【胡蝶之夢(バタフライ)】を使っていきなり琴里の近くにワープしてくるため、琴里はその度に内心ドッキリさせられているのだった。

 

 

「……相変わらず神出鬼没ね、夢唯。びっくりするから普通に扉から入ってくれないかしら?」

「びっくりしてる顔じゃないですけどね。とりあえず、琴里さんの頼みはお断りなのです。【胡蝶之夢(バタフライ)】は移動手段として超便利ですし……〈夢追咎人(レミエル)〉を使える機会はもう残り少ないですから、大して意味がないことでも存分に天使を使い倒したい気分なのですよ」

「それって……」

「はい。ボクの稚拙な夢の後始末が、終わりました。さすがに何もかも元通りとはいきませんでしたが、できる限りの対応をしたのです」

 

 夢唯は端的に己の暗躍が完了したことを宣言する。夢唯の両目の隈の酷さから、夢唯がかれこれ1週間、徹夜で後始末をしていただろうことが読み取れた。

 

 

「お疲れさま、夢唯」

「労わなくて結構ですよ。身から出た錆ですので」

「そう。それにしても、こうも何事もなかったかのように収束させるなんて、さすがの手腕ね。結束の儀で深手を負った人への対処とか、どうするつもりなのか疑問だったのだけど」

「トチ狂いモードだったボクも、他者を殺すという最後の一線だけは結果的に超えませんでしたからね。死んでさえいなければ、〈夢追咎人(レミエル)〉でどうとでもなります。【願亡夢(デザイア)】で怪我のない体を与えればどんな怪我も完治できますし。怪我を負った時の記憶も【剥誅夢(アムニージャ)】で改竄できますし」

「聞けば聞くほど〈夢追咎人(レミエル)〉って万能ね」

「ボクとしては、そう大層な天使じゃないって認識なのですけどね」

 

 琴里が純粋な疑問を解消するべく夢唯に問いかけると、夢唯は後始末の方法の一端を明かす。それから。琴里が〈夢追咎人(レミエル)〉の万能性に感心する中、夢唯は話題を切り替えるべく声を上げる。

 

 

「ところで。ついさっき、ボクの今後のことを両親に話してきました。やりたいことができたから来禅高校に転校したい、来禅高校の女子寮(精霊マンション)に入りたいって感じで」

「ご両親は賛成してくれたの?」

「はい。2人とも、もろ手を挙げての大賛成でしたね。亡くなった姉にひたすら執着する娘が、ようやく姉の呪縛から解放されてまともに生き始めた、って顔に書いてあったのです」

「それは……」

「良いのですよ。ボクがお姉ちゃんへの想いを拗らせていたのは事実ですし、両親が嫌な奴なのは今に始まったことじゃないですし。まぁそんなわけで、封印される前に片付けるべき目下の課題は解消しました。あとはボクが士道さんに封印されればOK、という状態です」

「じゃあ、明日にでも士道とデートできるのね?」

「はいです。士道さんさえ良ければ、これからデートしても良いですけど?」

「今日はさすがにやめておきなさい。ただ士道とキスをすれば夢唯を封印できるってわけじゃないんだから。眠気が邪魔して士道への好感度が上がらないんじゃ、デートの意味がないわ」

「好感度……」

 

 やるべき後始末をすべて終えた夢唯はすぐにでも封印されることを望むも、琴里は夢唯の体調を気遣い、明日以降のデート&封印を提案する。夢唯は、琴里から『眠気』というワードを聞いたことで思い出したかのようにうつらうつらと頭を小さく揺らしつつ、言葉を紡ぐ。

 

 

「はたして、ボクの封印は上手くいくのでしょうか? ボクのお姉ちゃんへの気持ちを好感度100%だと仮定すると、士道さんにはよっぽど頑張ってもらわないと、100%には到達しないことでしょう。ボクも士道さんのことを好きになれるように誠心誠意努力するですが、心は自在にコントロールできるわけではないですし」

「精霊:霜月夢唯との戦争(デート)はここからが本番、ということね」

「そうなるです」

「ま、安心なさい。今までその手の困難を士道は何度も乗り越えて来たわ。例えば、男嫌いの美九に士道を好きになってもらって封印した実績があるわ。極度のシスコンのあなたが相手でも、士道ならきちんと攻略してくれるわよ」

「それは少々楽観的過ぎやしませんか? 来月の来禅高校への転入日までにどうにか封印が間に合うと良いのですが……」

 

 夢唯が不安そうに口にした疑問に、琴里は夢唯を安心させるべく、士道の美九封印の実績を例に出すも、夢唯の不安を払拭しきるには至らなかったようだ。

 

 

「――いや、夢唯の心配は杞憂だよ」

 

 と、その時。琴里と夢唯との会話を静観していた令音が口を挟む。同時に、臨時指令室のディスプレイに1つの折れ線グラフが映し出される。横軸には今日を含めた1週間の日付が一定間隔で刻まれており、縦軸は0%から100%までの数値が刻まれていた。そして当の折れ線グラフは、12月8日の23時半付近を境に、15%から100%に急上昇し、それから今日に至るまでずっと100%付近で細かく上下し続けていた。

 

 

「何ですか、このグラフ?」

「君のシンへの好感度だよ」

「横軸が時間、縦軸が好感度指数でしょうか。ボクの見間違えじゃなければ、ボクが世界征服を諦めたあたりで好感度が100%付近にずっと張り付いているように見えるのですが」

「私にも君と同じように見えるね」

「それってつまり……?」

「君がシンのことを凄く好いているということだね」

「……」

 

 令音が夢唯に折れ線グラフから読み取れる情報をそのまま夢唯に伝えると、夢唯は沈黙を返す。臨時指令室に妙な沈黙が流れる中、夢唯はコホンと小さく咳払いをした後、令音に問う。

 

 

「あの、違う人のデータを出していませんか?」

「いや、間違いなく君のデータだよ」

「何か不調をきたしている機械があるのでは?」

「計器の調子はどれも万全だよ」

「実は好感度の最大値は100%ではなく1万%だとか?」

「100%が最大値だよ。どれほどシンへの愛情が深くても、100%を超えることはない」

「……」

 

 夢唯は段々と早口に令音に問いを投げかける一方、令音は淡々と夢唯の問いを打ち返す。そんなやり取りを数度挟んだ後、再び声を発する者がいなくなり、臨時指令室が静寂に包まれる。ただ1つ、先ほどの沈黙との違いは、夢唯の顔が真っ赤に染まっていることだった。

 

 

「あら、良かったじゃない」

「良くないのですッ! 全然良くないのですッ!!」

 

 夢唯の士道への好感度が既に最大値に到達していることに琴里が素直な感想を発すると、夢唯が頭を抱えて首をブンブン左右に振って叫び始めた。先ほどまで眠たげな様子の夢唯だったが、まさかの衝撃的な事実を突きつけられたことにより、すっかり元気になっていた。

 

 

「嘘でしょう……? 霜月夢唯として士道さんとちゃんとデートしてないのに好感度100%ってどういうことですか!? まさかあの説得1つでコロッと落ちちゃったってことですか!? ありえないのです! これじゃあまるで、ボクがくそチョロい女みたいじゃないですか!?」

「それだけ士道の説得が夢唯の心に響いたってことでしょ? チョロいというより、感受性豊かで情熱的ってことなんじゃないの?」

「人の短所をあたかも長所かのように言い換えるのがお上手ですね、琴里さん! さすがに10代で司令官にまで上りつめた人は違うですね、巧みな話術なのです!」

「話術って、そんなつもりはないんだけど……」

 

 士道への好感度指数を通して己の新たな一面を知り愕然とする夢唯。琴里は取り乱している夢唯が情緒不安定になりまた何か暴走してしまうのではないかと内心で懸念し、それゆえ夢唯が士道に抱く好感度の高さは何もおかしなことではないことを伝える。しかし夢唯は琴里のフォローを一切受け入れようとしない。

 

 

「好感度の問題は既に解決している。今すぐにでもシンとキスをすれば、それで夢唯の封印は確実に成功するよ。シンを呼んでこようか?」

「ダメです!」

 

 一方、令音は夢唯が士道への好感度の数値を受け入れた様子を見やり、士道を臨時会議室に呼ぼうと部屋を後にしようとしたが、夢唯は【胡蝶之夢(バタフライ)】で令音の前にワープし、両手を広げて令音の歩みを妨害した。

 

 

「絶対ダメなのです! 嫌ですよ!? ロクに交流していない男相手に好感度MAXだと知られるとかありえないのです! こんなの、その辺で発情してさかって男漁りしてる尻軽ビッチ変態女と何が違うのですかッ!?」

「メチャクチャなこと言ってるわね」

「とにかく! こんな恥ずかしいこと、絶対に士道さんにバレるわけにはいかないのです! 士道さんとちゃんとデートをして、順当に好感度を重ねて封印に成功した感を装わないとダメなのです! ボクの沽券に関わるのです! 2人とも、この件は墓場まで持っていくとここで約束するのです! 良いですね!?」

「わかったわよ、言わないから安心しなさい」

 

 夢唯はグルグルと混乱しきった漆黒の瞳で琴里と令音に黙秘を迫る。今の夢唯に士道たちへの殺意はないとはいえ、夢唯は今もまだ封印されていない危険な精霊であることに変わりはない。琴里はひとまず夢唯に落ち着いてもらうべく、夢唯の要求を受け入れた。

 

 かくして、翌日の土曜日に、士道が夢唯を封印するための茶番なデートが開催されるのだった。

 

 




五河琴里→士道の妹にして元精霊。識別名はイフリート。ツインテールにする際に白いリボンを使っているか黒いリボンを使っているかで性格が豹変する。夢唯の世界征服の後始末をラタトスク機関も手伝わないといけないのではと想定していたが、夢唯の〈夢追咎人(レミエル)〉が予想以上に万能だったおかげで心配が杞憂に終わり、己の仕事が減ったため、内心で安堵している。
村雨令音→フラクシナスで解析官を担当している、ラタトスク機関所属の女性。琴里が信を置く人物で、比較的常識人側の存在。シンへの好感度の高さを隠した上でシンとデートを行おうとする夢唯の姿が、かつての琴里と重なり、それゆえ微笑ましく思っている。
霜月夢唯(むい)→霜月砂名の妹。千葉の高校に通う1年生。実は砂名に変身した上で記憶を改竄していた精霊:扇動者(アジテーター)だった。色々あったとはいえ、それでも自身の士道への好感度がほぼ最大値だったことは酷く衝撃的だったようだ。


~おまけ(臨時会議室の会話をちょこっと追加)~

令音「シンへの好感度の高さを隠してデート、か。どこかの誰かを思い出すね」
琴里「……へぇそうなの。一体誰のことかしらね?」
令音「ふふ、誰だろうね。『ラ・ピュセル』の限定ミルクシュークリーム10個があまりに美味しいものだから、つい忘れてしまったよ」
琴里「ちゃんとおごったんだから、そろそろつっつくのやめてくれない?」
令音「善処するよ」
夢唯「?」


次回「義妹と実妹」


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