【完結】死に芸精霊のデート・ア・ライブ   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。そろそろ毎日更新伝説も終わりそうな予感。あと、今回は執筆している自分にもちょっとややこしいなと思えるような(※しかもそこまで重要じゃない)内容が含まれていますので、適度な飛ばし読み推奨です。



6話 二度目のデート前夜

 

 

 明日、10月1日日曜日のデートで志穂を一度も死なせずに守り抜けたら、志穂は士道による封印を受け入れる。しかしデート中に志穂が死んでしまったら、志穂は士道による封印を完全拒絶する。志穂が提示した上記の条件を士道が承諾したのが、2時間前の出来事である。

 

 

「全く、随分と分の悪い戦争(デート)を挑まされたわね」

 

 そして今。9月30日土曜日、午後9時。五河家のリビングにて。ソファーに腰かけた琴里がため息を吐く。今、リビングにいるのは士道、琴里の五河兄妹と、フラクシナスで解析官を担当している令音の3名だ。

 

 

「……そうだな、悪い」

 

 あの時は感情的になっていたため、志穂の提案に速攻で飛びついた士道だったが、心を落ち着けた今は、さすがに軽率すぎたと反省していた。だが、あの時。志穂の提案を受け入れた己の選択が間違っているとの後悔の念は欠片も抱いていなかった。

 

 

「けど、どうしても志穂を今すぐ救いたかったんだ。俺は今まで、十香たちを救おうとして何度も死にかけてきた。琴里がくれた身体再生能力のおかげで死なずに済んだけど……死にかけるのって凄く痛いんだ。苦しいんだ。できることなら、もう二度と経験したくないって思えるぐらいにな」

「士道……」

「志穂は言った。死ぬのが日常茶飯事だって、1万5千回は確実に死んでるって。志穂は俺よりもずっとずっと痛い思いをして。苦しい目に遭って。多分、絶望なんて通り越して、諦めきってる。本当は死にたくないはずなのに、世界に嫌われてるから、死の呪いからは逃れられないから、殺されても仕方ないって考えてる。きっと、そう思わないと心が持たないんだ。そこまで志穂は追い詰められているんだ。……俺は、死ぬことが当たり前になってしまった志穂を、一刻も早く、死から遠ざけてやりたいんだ。死に怯えずに毎日を生きられることこそが当たり前のことなんだって考えになってほしいんだ! だから、明日のデートで俺は志穂を絶対に死なせない。何があっても、志穂を守り抜いてみせる!」

「よく言ったわ。それでこそ士道よ」

「え、琴里?」

 

 士道は拳をギュッと握り、志穂との会話中では言語化できていなかった思いを放出する。そんな士道をソファーから見上げた琴里は自慢のカッコいい兄を誇るように口角を吊り上げるとともに、士道の覚悟を称賛した。一方、琴里に怒られると思っていた士道は、琴里の反応を意外に思い、つい間の抜けた声を上げる。

 

 

「何よ。別に、士道の選択を非難するつもりなんてないわ。あの場ではきっと、志穂の提案に乗るのがベストな選択だったでしょうし。……で、肝心の明日のデートのことだけど、志穂に迫る脅威をなるべく事前に取り除くために、周囲にフラクシナスのクルーを配置するわ。今日の暴走トラックや強盗のような脅威は志穂に迫る前にクルーに対処させるけど、その程度で志穂の言う『死の呪い』を完全に排除できるとはとても思えない。となると、いかに士道が志穂の命を狙う脅威を事前に察知して、とっさの判断で志穂の死を回避できるかが明日の戦争(デート)を制する鍵になるわね。いざとなったら、身代わりになってでも志穂を守らないといけないわよ」

「あぁ、そうなるな」

「……士道。志穂を庇う時は、くれぐれも即死しないように注意してね。私の力は士道が即死した時はもうどうしようもないんだから」

「わかった、気をつける。ありがとな、琴里」

「ふん」

 

 士道の身を心から案じた琴里の言葉を受けて、士道は感謝の気持ちを込めて琴里の頭を撫でる。琴里はぷいと顔を背けるも、まんざらでもなさそうだった。

 

 

「あの、令音さん。1つ聞きたいんですが……」

「何だい、シン?」

「もし俺が志穂とキスをして、志穂の霊力を封印したら、どうなると思いますか? やっぱり、封印した後も志穂は死の呪いに晒され続けるのでしょうか?」

「……ふむ」

 

 と、ここで。士道は令音に疑問に思っていたことを尋ねる。対する令音はスッと目を瞑り、口元に指を当てる。士道の問いへの回答を考えてくれているのだろうが、令音の目の周りには隈が刻まれていることが常であり、普段から酩酊しているかのように頭頂部をゆらゆらと揺らしているため、士道には令音が眠り始めたかのように見えた。

 

 

「令音さん、起きてますか?」

「あぁ、もちろん……これは私の推論だが、志穂を封印すれば、おそらく志穂が死の呪いとやらに襲われることはなくなるだろう」

「ッ!」

「志穂は自分が頻繁に死ぬ理由を『世界に嫌われているから』と表現していたが、志穂が世界に嫌われているそもそもの原因は、志穂が不死者だからだろう。万物には共通して寿命がある。どんな存在もいつか終わりを迎えるのが必定だ。だけど、志穂は例外だ。いくら死んでも復活する。復活できてしまう。世界とやらは、終わりという概念の通じない志穂という例外を認める気がないのだろう。だからこそ、志穂のことを自らが構築したシステムから外れたバグだとみなして、排除しようとしている。なら、志穂の霊力を封印して、志穂を不死身でなくすれば、世界が志穂を嫌う理由はなくなり、今までのように志穂が世界に殺されることはなくなるだろう」

「ほ、本当ですかッ!?」

「……待って、令音。その論理だと、キスを通して志穂の不死の能力を手に入れた士道が、今度は世界に嫌われて死の呪いに晒される可能性が高くなるんじゃないの?」

「あり得る話だね。でも、私はそうは思わない」

 

 令音の話した内容に士道は喜色を顕わにする。明日のデートで志穂を守りきり、志穂を封印できれば、志穂に安全な日常を提供できるという希望が見えてきたからだ。一方、琴里は志穂を封印することで生じるであろう士道へのリスクに対して懸念を抱く。だが、琴里の懸念をあらかじめ想定していたらしい令音はフルフルと首を横に振った。

 

 

「どうしてよ?」

「そもそも精霊の霊力を封印することは、精霊の霊力を全てシンが奪って隔離することを意味しない。シンと精霊との間に目に見えない経路(パス)を繋ぎ、霊力の大部分をシンに預けた状態を維持した上で、シンと精霊とで霊力を循環させる。これがシンが精霊を封印することで発生する現象だ。だからこそ、シンに封印された精霊は精神状態が不安定になると、シンから自分の霊力を得て、限定霊装や天使を顕現させられる。シンもまた、封印した精霊の天使を使うことができる。つまり精霊の封印は、精霊の持つ霊力をシンと2人で共有するための手段ということになる」

「「……」」

「今回、シンが志穂の霊力を封印すれば、志穂の霊力がシンと共有される。その時、志穂は不死身でなくなるが、精神状態が不安定になれば、シンから一時的に不死身の力を取り戻せる。また、シンは志穂の霊力を全て奪うわけではないから、シンもまた完全な不死身にはならない。つまり、志穂とキスをすることで、シンと志穂は不完全な不死身能力を共有する同士となるわけだ。これまで世界とやらは完全に不死身の志穂1人をバグと認識して死の呪いを与え続けてきた。が、志穂を封印すれば、世界が十全の死の呪いを与えるほどの存在とは言えない、不完全な不死身能力を持つシンと志穂とに、死の呪いが分散されることになる」

「……えっと。つまりどういうことですか、令音さん?」

 

 琴里は令音の解説に適宜うなずきながら耳を傾ける。士道も最初こそ令音の話を真剣に聞いていたのだが、段々と理解が追いつかなくなったため、令音に要約を求めた。

 

 

「おそらく、志穂を封印することで、シンも志穂も十全の死の呪いに襲われることはなくなる。だが、その代わりに分散され効果の薄まった死の呪いに襲われることになる。……言い換えれば、シンと志穂は少しばかり不幸体質にはなるだろうね」

「不幸体質、ですか。例えば?」

「そうだね。頻繁にタンスの角に足の小指をぶつけるようになったり、何もない所で足を引っかけて転ぶようになったり……まぁこんな所かな」

「えぇ……」

「なるほどね。士道が十全の死の呪いに襲われるわけじゃないなら、志穂を封印しても何も問題ないわね。それに不幸体質といってもラッキースケベみたいなパターンもあることだし、士道にとってそう悪いことばかりじゃないわよね」

 

 令音が口にした不幸体質という不穏な言葉の具体例を士道が尋ねると、令音は日常生活における地味に嫌な不幸の事例を挙げる。士道が反応に困る中、士道が志穂から死の呪いを完全に引き継ぐ心配をしなくていいとわかった琴里は、新しいチュッパチャプスの包装を剥がしてチュッパチャプスを口に含みながら、士道に付加されるであろう不幸体質を楽観的に捉えることとした。

 

 

「とにかく、シン。志穂の封印は彼女を死の脅威から救える手段になるよ。だから、キスをした後のことを心配しなくていい。シンはあくまで明日のデートで志穂を守り抜くことに集中してくれ」

「はい、わかりました。ありがとうございます、令音さん」

「ん、どういたしまして」

「さて、士道。私たちは明日のデートで配置するクルーの人選辺りについてもう少し話し合うから、士道は早めに寝て、英気を養っておきなさい。間違いなく明日は壮絶な1日になるからね」

「あぁ、わかった。おやすみ、琴里。令音さん」

 

 志穂の封印に関する疑問を払拭することのできた士道は令音にペコリと頭を下げる。その後、琴里の提案に素直に従うことにした士道はリビングを後にする。まだ普段の士道が寝る時間ではないが、今日は何かと衝撃的な1日だったため、寝つけないなんてことにはならないだろう。

 

 

「……」

 

 明日は、勝負の日だ。志穂を救えるかどうかは、士道にかかっている。

 士道は改めて志穂を救う覚悟を胸に抱き、ベッドで眠りにつくのだった。

 

 




五河士道→好感度の高い精霊とキスをすることで、精霊の霊力を吸収し、封印する不思議な力を持った高校2年生。ただいま、熱い士道さんモードが今も継続している模様。
五河琴里→士道の妹にして、精霊保護を目的とするラタトスク機関の一員にして、5年前にファントムに力を与えられ、精霊化した元人間。原作初期の頃こそ息を吸うように士道を罵倒していたが、巻数が増えるにつれてただのツンデレになっている感。
村雨令音→フラクシナスで解析官を担当している、ラタトスク機関所属の女性。琴里が信を置く人物で、比較的常識人側の存在。とはいえ、令音が常識人というよりは、フラクシナスのクルーがそろって変人と言った方が正確である。なお、令音は士道のことを『シン』との愛称で呼んでいる。

琴里「さて、明日の士道と志穂のデートの際に、周囲に誰を配置するかだけど……」
琴里(神無月は問答無用で決定として、後は誰にしようかしら?)
令音(神無月は一番の適任者だろうね。後は誰を推薦するべきかな?)

 というわけで、6話は終了です。令音さんの出番を用意できて個人的に満足です。何だかんだ頼りになる上、母性を感じる令音さんカワイイヤッター!

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