どうも、ふぁもにかです。サブタイトルからどんな展開になるか察せられる人は察せらせるでしょうね、ふふふ。そうです。今回はあの人が登場します。
「ん……」
真っ暗闇の自室のベッドにて。ふと士道は目を覚ます。
目覚まし時計を見ると、午前1時。まだまだ朝には遠い。
「……」
いつもより早めに寝たからか、夜中に目覚めてしまったらしい。
万全の体調で志穂とのデートを始めるためには、再度眠らなければいけない。のだが、今の士道の頭はすっかり覚醒していて、ベッドに潜った所で熟睡できそうになかった。
秋の夜風を浴びつつ夜空でも見上げていれば、その内また眠気がやってくるだろう。
そのような考えの下、士道は窓を開け、ベランダへと歩を進める。と、その時。
「――あら、あら」
「へ?」
特徴的な声が士道の鼓膜を震わせた。まさか今の状況で他人の声を聞くとは全く思ってなかった士道は目を丸くする。そして士道は声の聞こえた方向へと視線を向ける。
そこに、彼女はいた。ベランダの手すりにちょこんと腰掛け、士道に向けて微笑みを浮かべる女性がいた。漆黒の髪に、色違いの双眸に、血と影の色で染められたドレスといった特徴を併せ持つ女性。士道は彼女の正体を知っていた。
「狂三……!?」
「こんな所で会うなんて、奇遇ですわね。ねぇ、士道さん?」
驚愕の声を上げる士道を前に、自らの意思で人を殺す『最悪の精霊』こと狂三は心底おかしそうにくすくすと笑いつつ、士道に語りかける。
「……いや、ここは俺の家なのに奇遇も何もないだろ。それで、何の用だ?」
士道はベランダで待機していたらしい狂三を警戒する。士道の脳裏には、今から1週間前に、士道が狂三の力を借りて、DEM社にさらわれた十香を救出した一件がよぎっていた。あの時、結局狂三は士道に手を貸したことを理由に何かを要求することはなかったが、今ここで士道に対価を求めるために狂三が姿を現したのではないかと、士道は考えたのだ。
「きひひ、そう邪険になさらないでくださいまし。もしかしたらわたくしが何の用もなく、ただ士道さんの顔を見たい、士道さんの声を聞きたい、士道さんにまた頭を撫でてほしいとの一心で士道さんの前に姿を現したかもしれないでしょう? それなのに、そんな風に警戒されるなんて……うぅ。悲しいですわ。哀しいですわ」
「……」
「さて。戯れはここまでにして、本題に入らせてもらいますわね」
士道の問いかけを受けて、狂三はどこか芝居かかった口調とともに、流れてもいない涙を指で拭う仕草をする。狂三が彼女の発言通りの儚げな少女なんかではないことを既に知っている士道が無言かつ半眼で狂三を見つめていると、狂三は演技を切り上げ、改めて士道を見つめ直した。
「わたくしは士道さんのことなら何でも知っていますの。だから明日、士道さんが志穂さんを封印するために、デート中に志穂さんを死なせないように尽力しなければいけないことも当然、知っていますわ」
「……さすがだな、狂三」
「お褒めにあずかり光栄ですわ。そこで、士道さんにはぜひ、わたくしのお願いを聞いていただけないかと思いまして」
「お願い?」
狂三は、明日の志穂とのデートに関して士道に頼み事をするために、士道に接触してきたようだ。士道はここで、志穂が狂三と交流を持っているとの情報を思い出す。どうやら交友関係を持つ志穂について、狂三には思う所があるらしい。士道は、狂三のお願いの中身を促す。
「ええ。志穂さんを封印するのはやめていただけませんか?」
「……え?」
狂三は妖艶な笑みを添えつつ、士道に志穂の封印をしないようにお願いをする。士道は一瞬、狂三が何を言っているのか、理解ができなかった。ゆえに、呆然とした声を漏らす。
「なんでだよ? 志穂を封印しなかったら、これからも志穂は死に続けないといけなくなるんだぞ!? 狂三はそれでいいって言うつもりかよ!?」
「はい、その通りですわ。だって、志穂さんを封印されるとわたくしが困ってしまいますもの。志穂さんの特性を士道さんは知っているでしょう? 何度死んでもすぐによみがえることのできる志穂さんは、わたくしにとって特上のエサですの。取り上げられてしまってはたまりませんわ」
志穂と仲の良いはずの狂三が志穂の救済を望んでいない。志穂が死の呪いに晒され続ける現状の維持を狂三は望んでいる。わけがわからなかった士道だが、ここでとある可能性に至った。
志穂は、何度死んでも復活できる精霊である。そして、狂三は時間を操る『
これらのことが意味するのは、つまり。
「ッ! 狂三。お前、もしかして……志穂を殺したことがあるのか?」
「ええ、ええ。それはもう、たくさん。数えるのをやめるくらいには、殺しましたわ。だって、志穂さんは何度殺しても復活しますし、そこらの人間よりも簡単に殺せますもの。時間を補充するために志穂さんを狙わない理由はありませんわ」
「お前……ッ!」
狂三は志穂を殺している。志穂が死んだという、1万5千回の内、狂三が関わったがゆえの死が何回あったかはわからないが、志穂の心がズタボロに壊され、追い詰められている一端を、目の前の狂三が担っている。そう考えただけで、士道は己の頭に血が上るのを感じた。
「あら、あら。そのような憤りの表情を向けられるのは心外ですわ。まるでわたくしが志穂さんをいじめているみたいじゃありませんこと?」
「まるでも何も、事実だろ。実際に志穂は、何度もお前に殺されてる」
「確かにそうですわね。ですが、志穂さんとも合意の上で、わたくしは志穂さんから時間をいただいていますし、志穂さんから時間をいただく度に、主に衣食住の手配をしたり、わたくしたちが集めたとっておきの情報を提供したりと、対価をきちんと支払ってますのよ?」
「……」
「それに、わたくしが殺さずとも、志穂さんは世界に殺されますわ。そして世界は時に、焼死、溺死、煙死、凍死といった苦しい死を敢えて志穂さんに与えますわ。世界に残酷な方法で殺されてしまうくらいなら、わたくしの『
狂三は士道から怒りを向けられるのはお門違いだと主張する。志穂との関係を語りつつ、やれやれと手を広げて、頬を少し膨らませて、狂三は不満を表明する。対する士道は、狂三の発言に耳を傾ける内に突発的な怒りこそ収まったものの、狂三の意見を認める気にはなれなかった。
「確かに、狂三は志穂とWin-Winの関係を結べてるのかもしれない。かろうじて理解はできても、納得は全然できないけどな」
「でしたら――」
「――けど、狂三に何と言われようとも、俺は志穂を救う。志穂には、死とは無縁の、ありふれた日常を送らせるって決めたからな。だから、狂三の頼みは聞けない。お断りだ」
ゆえに、士道は狂三のお願いを断った。狂三の頼みを突っぱねれば、狂三が士道に実力行使に出ることも想定できる。それでも、士道は志穂を救うという己の意思を取り下げるつもりはなかった。ここが、士道にとって決して譲れない一線だったのだ。
「「……」」
しばし、狂三と士道の間から音が消え。2人は互いに視線を交わす。
次第に高まる緊張感に、士道がゴクリと唾を飲んだ時。狂三が口元を緩ませた。
「……ふふふ。士道さんならそう言うと思いましたわ。それでこそ士道さんですわ」
「え、狂三?」
「きひ、お願いというのはウソですわ。ちょっと士道さんをからかっただけですの。わたくしとしても、志穂さんの霊力の封印に断固反対というわけではありませんから」
「そう、なのか? 志穂を封印しようとする俺を邪魔とかしないのか? 例えば、明日の志穂とのデート中に狂三が志穂を殺して、俺が志穂を封印できないようにするとか」
「そんな無粋なことはいたしませんわ。志穂さんにも士道さんという素敵な殿方とのデートを楽しんでいただきたいですもの。ただ1つ、忠告しますわ。……志穂さんとの
「え? どういう意味だ?」
「これ以上は秘密ですわ。士道さんが無事、志穂さんの心を救えることを陰ながら祈っていますわ。それでは、ごきげんよう」
狂三はベランダの手すりの上に立ち、ドレスの裾を軽く持ち上げて頭を下げると、夜の街へと飛び出していった。狂三の背中はあっという間に小さくなり、間もなく見えなくなる。
「何だったんだ、一体……」
狂三がいなくなったベランダからは一気に現実感が薄れ、まるで夢でも見ていたかのようなふわふわとした感覚を士道に抱かせる。同時に、急に眠気が襲ってきたため、士道はベランダから自室に戻り、ベッドに潜って再び就寝するのだった。
五河士道→好感度の高い精霊とキスをすることで、精霊の霊力を吸収し、封印する不思議な力を持った高校2年生。今までに狂三が志穂をたくさん殺しているとの情報を知ったことで、誤差の範囲内ではあるが、狂三への心証が少々悪くなった感。
時崎狂三→精霊。識別名はナイトメア。名前は『くるみ』であり、決して『きょうぞう』ではない(重要)。何度殺しても復活する志穂から時間をもらう代わりに対価を払っていたようだ。
というわけで、7話は終了です。私にとって狂三さんは時間に関する能力者はやっぱり強いな、敵に回すと超怖いな、でも味方になってくれると凄まじく頼もしいなってことを改めて教えてくれた、印象深いお方です。でもって、狂三さんは口調の再現が難しいですなぁ。