ふぁもにか(この作品の初期プロットでは、既に殿町さんと恋人状態になっている志穂さんに士道さんがデートを仕掛けて、デレさせる略奪愛展開だったと言っても、信じてくれる人がはたしているのだろうか? まぁ略奪愛なデアラは士道さんと殿町さんとの関係がぶっ壊れ必至なので執筆断念しましたけど。あ、でも誰か略奪愛なデアラ二次創作を書いてくれてもいいんですよ?)
どうも、ふぁもにかです。前回までで本編の半分が終了したため、あと8話くらいで完結するんじゃないかというのが今の私の想定です。閑話休題。何とか12日の内に連載が間に合いましたね。まだ毎日更新伝説の牙城はギリギリ崩れていません。が、7話の感想返信はこれからですので、もうしばらくお待ちくださいませ。
10月1日日曜日。志穂との2度目のデートの日である。待ち合わせ場所や時間は昨日と全く同じで、午前10時に公園で会う手はずとなっている。
先日と同様に、待ち合わせ時間の30分前に公園に到着した士道はふと空を見上げる。昨日は雲一つない快晴だったのだが、今日は厚い雲が空の青を覆い隠している。曇天の空、外でデートするには向いていない天気だ。
「……」
士道はふと昨日の自分を振り返る。昨日の自分は、ただ志穂の死に動揺するばかりで、結局迫りくる死から志穂を守ることはできなかった。昨日だって、守ろうと思えば志穂を守れたはずなのに士道は動けなかった。そんな、昨日のような醜態は許されない。士道は改めて気を引き締める。
『士道、地上に派遣したクルーたちによる交通規制は無事に済んだわ。もしもデート中に車が近づいてきたなら、それは志穂の命を狙う死の呪いだと断定していいから』
「そうか。助かる、琴里」
『私としては、これくらいしか士道の手助けができないことがいっそ歯がゆいんだけどね。後は精々、士道が志穂を守れなさそうな時の最後の手段として士道と志穂をフラクシナスに回収して志穂の死を回避することぐらいしかできないし』
「俺としては、琴里とこうしていつでも会話できるってだけで十分頼もしいよ。琴里はフラクシナスの艦長席でどっしり構えて、俺たちのデートを見届けてくれ」
『……ええ、わかったわ。くれぐれもしくじるんじゃないわよ』
耳に装着した小型インカム越しの琴里の声により、志穂とのデートにおいて車の脅威を極力排する体制が整ったことを知った士道は感謝する。琴里は非常に難易度の高いデートに挑む士道をもっと支援したい様子だが、士道としては琴里が士道を見守ってくれているという事実だけで十分に心強かった。
と、ここで。士道の目の前の何もない空間から、志穂が静粛現界してきた。
昨日、士道が志穂の死を目の当たりにした直後に、何度も見た光景である。
『さあ――私たちの
志穂の姿を自律カメラ越しに把握した琴里が、宣言する。
かくして。世界に嫌われた志穂を守り抜く縛りのデートが始まった。
◇◇◇
公園に直接静粛現界をしてきた志穂は、しばし周囲をキョロキョロと見渡した後。
士道の姿を発見すると、パタパタと走り寄ってくる。
「おはよう、志穂」
「こんちわッス、士道先輩。待たせちゃってすみません」
「気にしなくていいぞ。俺が勝手に待ち合わせ時間より早く来ただけだからな」
「そうッスか。……何というか、どんよりとした縁起の悪い天気ッスね。今さらだけど、天気予報を見てからデートの日を決めればよかったッスね。正直、日を改めるのもアリッスけど、どうしますか?」
「いや、今日デートをしよう。今日、決着をつけたいんだ」
「うぃ、了解ッス。やる気満々ッスね、先輩。……私を守り抜くという昨日の先輩の言葉が大言壮語じゃないのか、この志穂ちゃんアイでしっかり見極めさせてもらうッス。ま、失望しない程度には期待してるんで、ぜひ頑張ってください、先輩」
「おう、任せてくれ」
志穂はカッと目を見開いて、士道を凝視する。志穂の眼差しからは、志穂の発言通り、自分を守りきれるわけがないとの諦念の他にも、わずかながらに期待の感情が読み取れた。志穂は、昨日一切志穂を守れなかった士道に、ほんの少しだけでも期待してくれているのだ。その期待を、士道は裏切るわけにはいかない。ゆえに、志穂の言葉に、士道は力強くうなずいた。
「なぁ、志穂。今の内に2つ聞きたいんだけど、いいか?」
「はい、構わないッスけど」
「じゃあ1つ目だけど、どうして志穂は天使や霊装を使えないんだ?」
「へ?」
「前に志穂、言ってただろ? 自分が残機∞の精霊だからか、精霊なら誰でも使えるはずの天使や霊装を使えないって。でも、それって変じゃないか? 上手く言えないんだが、志穂が残機∞であることと、天使や霊装を使えないことは繋がらないと思うんだ。だから、なんで志穂が天使や霊装を使えないのか、もし原因を知っているなら教えてほしい」
士道は早速、志穂を待っていた間にふと生じた疑問を志穂に問いかける。すると、志穂はしばし逡巡した後。隠すほどのことじゃないかとでも言いたげに軽く息を吐いた。
「……簡単な話ッス。私は記憶喪失なんスよ」
「えッ?」
「前にラタトスク機関本部で私のデータを見た時、私の初現界は4年前と記されていたッス。でも、私の記憶は3年前からのものしかないんスよ。狂三先輩も……あ、えっと、私の知り合いの精霊も私は4年前から現界してると言ってたし、私の頭から本来あるべき1年分の記憶がなぜかごっそり抜け落ちているのは確定みたいッス。んで、その失った記憶の中に、天使や霊装の使い方があったみたいなんスよ。だから、私は精霊なのに、精霊を象徴する天使も、霊装も使えないってわけッス」
「そうだったのか。……悪い、嫌なことを聞いちまったか?」
「いえ。隠すつもりはなかったんで、気にしなくてOKッスよ」
士道は志穂のタブーに触れてしまったのではないかと心配するが、当の志穂は何ら気にしていないようだった。志穂は記憶喪失と向き合い、乗り越えて今を生きているようだ。
「そんなわけなので、先輩。私の死を回避させるのに、私の天使や霊装に期待するのはダメッスよ?」
「あぁ、わかったよ」
「それで? 聞きたいことその2は何スか?」
「……志穂が今まで死んだ中で、志穂以外の人も巻き込まれて死んだことってあるか?」
士道は志穂に聞きたいことの内の本命を尋ねる。そう、昨日の志穂の死を振り返った時。世界が志穂を、周りの人ごと殺しにかかったケースが存在しないように思えたのだ。鉄柱が志穂に降ってきた時は、志穂は士道を守るために突き飛ばしたのだが、改めてあのシーンを思い返すと、志穂が士道を突き飛ばさずとも、士道はかろうじて鉄柱の下敷きにならなかったように感じたのだ。そんな感覚を踏まえた士道の問いに、志穂は感心したように士道を見上げる。
「へぇ。鋭いッスね、先輩。多分、先輩の考えている通りッスよ。私が死の呪いに襲われて死ぬ時、私以外の人が巻き込まれて死んだことはたったの一度もないッス。でも、死ななかっただけで、巻き込まれた人が怪我を負ったことはあるッス。以前、火山の噴火に巻き込まれた際、私は噴石が頭に直撃して即死したッスけど、他にも現場にいた多くの人が重傷を負ったって復活後にニュースで見たッスよ」
「てことは、世界が志穂を殺すために、天宮市全域に大地震を起こしたり、隕石を落としたり、なんて心配はしなくていいんだな?」
「はいッス。そんな事態は限りなく発生しないッスよ。もし仮に発生したとして、その時の死者は私1人だけに収まるはずッス。世界は私が嫌いなだけで、嫌いじゃない普通の人にまで理不尽な死を与えるようなふざけた存在じゃないッスから」
「なるほどな」
士道の想定内な志穂の返答を受けて、士道はホッと安堵の息を吐く。もしも世界が志穂を殺すためになりふり構わず地震や、火災、津波といった災害を起こしてきた場合、どのようにして志穂を守ればいいのか、アイディアが未だ浮かんでいなかったからだ。一方の志穂はここまで2人の間に取り巻く真面目な雰囲気をそろそろ切り替えるべく、話題転換を図った。
「それで、今日はどんなデートプランなんスか? 今日もまた天宮クインテットみたいな大型施設でエンジョイする感じッスか?」
「いや、今日は趣向を変えて、天宮市自体を緩く歩き回る散歩デートをするつもりだ」
「ほうほう」
そう。士道は本日、志穂との散歩デートを企画していた。天宮クインテットのような大型商業施設に長時間留まってデートをするよりは、適宜場所を移しながらの散歩デートの方が志穂をより守りやすいのではないかと士道なりに考えたからだ。
「せっかくだから、まずは志穂が行ったことのない場所を最初の目的地にしようと思ってたんだけど……どこか行きたい所、あるか?」
「んん? そうッスねー。むむむ……。あ、じゃあ士道先輩の通ってる学校を見てみたいッス。私、学校に通ったことないんで、ちょっとでも学校の雰囲気を知りたいッス」
「そうなると、来禅高校か。ここから近いし、ちょうどいいな」
士道から散歩デートを示され、さらに行き先のアイディアを求められた志穂は少々思考を巡らせた後、士道の学校へ行きたいと主張した。高校なら、強盗の類いが現れそうにない分、志穂を守りやすいだろう。士道は志穂の希望を叶えることにした。
「じゃあ来禅高校に出発――の前に。手、繋ごうぜ。志穂。その方が志穂を守りやすいし……何より、これはデートだからな」
「え、あ、そうッスね! そういえば昨日のデートじゃ手を繋いでなかったッスね。何かもったいないことしちゃった気分ッス」
士道はここで、志穂に向けて手を差し出す。志穂は意外そうに士道の手を見つめた後、士道の意図を理解し、おもむろに士道と手を繋ぐ。志穂の手は、士道が思った以上に小さかった。と、その時。ふと、志穂の体に影が差した。不審に感じた士道が周囲に視線を向けると、公園に生えていた木の内の一本が、なぜか幹から折れ、志穂へと倒れ込もうとしている瞬間を目撃した。
「ッ!?」
「あれ? さらに暗くなったッス? 本格的に雨が降る前兆っぽいッスか?」
「志穂!」
「ふぇ?」
士道はとっさに志穂の手を引っ張り、志穂の体を抱き寄せる。刹那。さっきまで志穂が立っていた場所に、木が豪快に倒れ込んだ。もしも士道の動きが遅れていれば、志穂は木の下敷きになり、まず間違いなく圧死していただろう。そして。もしも事前に志穂と手を繋いでいなければ、きっと士道は志穂を守れなかっただろう。
(手、繋いでてよかった! 本当によかった!)
「おおお……助かったッス、先輩。にしても、倒木の下敷きパターンッスか。随分前にやられたっきりだったんで、すっかり頭から抜け落ちてたッス」
士道が志穂と手を繋ぐ提案をした少し前の自分を心から称賛する中。士道の体との密着状態から離れた志穂は、志穂目がけて倒れてきた木をしげしげと見つめた後、士道のおかげで命拾いしたことを感謝する。そして、志穂は以前も木に殺された経験があるのに、木がたくさん生い茂る公園で少し油断しすぎていたなと反省した。
「……」
今回は間一髪、志穂を助けることができた。だが、昨日志穂は士道の目の前で10回死んでいる。これから最低でもあと9回、志穂が自力では回避できない死の呪いが迫るのだろう。その時、自分は志穂を守りきれるのか。士道の中で、不安が芽吹いた。
「どこまで私を助け続けられるかはわからないッスけど……この調子でよろしくッス、先輩」
「……あぁ、頑張るよ。はは」
志穂の言葉に、士道は表に出てきそうだった不安を隠すように笑みを返す。
志穂を守り抜く縛りのデートは、まだまだ前途多難のようだった。
五河士道→好感度の高い精霊とキスをすることで、精霊の霊力を吸収し、封印する不思議な力を持った高校2年生。まずは1回、志穂の死の回避に成功したが、まだまだデート完遂には程遠い模様。
五河琴里→士道の妹にして、精霊保護を目的とするラタトスク機関の一員にして、5年前にファントムに力を与えられ、精霊化した元人間。士道ほどではないが、琴里も今日の士道と志穂とのデートに気合いを入れてサポートに臨んでいる模様。
霜月志穂→精霊。識別名はイモータル。ここ半年、やたらと天宮市に現界している新たな精霊。なぜか天使や霊装を全然使わず、ほぼ静粛現界で姿を現している。この手のキャラで記憶喪失とか、絶対にロクでもないことになりそうである(メタ視点)。
というわけで、8話は終了です。ここから先の話の展開は志穂さんに迫る死の内容のアイディアを色々と考えながら構築するので、投稿速度は遅くなるかもしれません。
~おまけ(ギャグキャラ最強説)~
フラクシナスのクルーの内、士道と志穂のデートをサポートするため地上に配置されたメンバーたちは、士道たちの元に車が向かわないように虚偽の交通規制を行い、車を誘導していた。が。
クルーA「大変だ! 1台の車が我々の交通規制を無視して突っ込んできたぞ!?」
クルーB「なに!? マズい、志穂さんを襲いかねないぞ!」
クルーC「A! その車はどこに向かっている!?」
クルーA「えっと、今は――あれ、副司令が車の進行方向に先回りしてる?」
クルーB&C「「えッ?」」
◇◇◇
今現在、飲酒運転中の運転手は、己が世界の手のひらで転がされていることを知らず、フラクシナスの敷いた交通規制を無視して車を暴走させる。志穂を轢くべくアクセルを踏み込んでいる。そんな暴走車の前方に、フラクシナスの副司令こと神無月恭平は仁王立ちで立ちはだかった。
神無月「私は死にませぇん! 司令に××なことや△△なこと! ○○なことや☆☆なことをされるその時まで! 私は永遠に生き続けますぅうううう――はわッ!(断末魔)」
神無月は指揮者のごとく、両手をバッと広げた後。喜び勇んで車へと走っていく。
当然、神無月は車に派手に轢かれ、華麗に宙を舞う。一方、人を轢き飛ばした車はバランスを失い、近くの家の外壁に衝突し、止まった。その様子を、琴里は自律カメラ越しに目撃していた。
琴里「神無月、よくやった。そう言うべきなんだろうけど、素直に褒めがたいわね……」
その後、神無月はフラクシナスに回収され、医療用顕現装置に雑に放り込まれたとか。
なお、神無月は命に別状はなかった。やはり愛すべきギャグキャラは最強である。
神無月恭平→フラクシナスの副司令にして、ドM。有能だけど、変態。CV.子安さん。琴里をご主人様として捉えている。人生に悩みがなさそうな人種である。